片方のイヤホン
二人向かい合って
お疲れのサラリーマンに囲まれた
電車の中
最近の「いつも通り」を
ただ噛み締めている
退屈そうに
ケータイを見てる君の前で
沈黙に耐えかねて僕は
古いイヤホンを使って
音楽を聞き出した
君は少し
驚いたように目を上げて
僕のあご辺りを見たけど
その目はすぐに
光をなくし
同じ場所に戻っていった
僕は僕で
そんな仕草を
とりあえず見つめ始めて
誰かの歌が
右から左に抜けていくのを感じてる
君が好きな歌の中に
僕が見つからないから
いつも
たまらなく不安になるんだ
君はここでいいのかな
それともまだ諦めてないのかな
ふと頭に残った
別れのメロディ
二人でいるのに
一人みたいになったら
危ないんだって
だとすると
僕らは今
ケータイをしまって君は
意を決して
どこか不安げに
僕を見上げた
ねだられて僕は
右のイヤホンを
君に渡すんだけど
それはちょうど君の好きな曲だったらしく
こうやって二人でいればいい
と君が笑った
こうやって同じ曲を口ずさんでいけばいいって
君には言えなかったこと
どうしても言えなかったこと
実は僕の古いイヤホンは……
それを君は
冷たい優しさ
なんて言うだろうけど
僕は黙って
君の笑顔を見ていた
左の耳の静寂が
僕に何かを伝えているのを
僕は
聞こえない振りをする
―
一緒に感じてるはずのものを、実は相手は感じられていなかったとしたら。
それほど悲しいことは、そうそうないんじゃないでしょうか。