【婚約破棄】TS取り巻き令嬢は平和に帰りたい~悪役令嬢のガバガバ冤罪劇を論理破綻させて助けたら、なぜか王子の代わりに婚約者に指名された件~
「エリザベス・フォン・ヴァレンティア! 悪逆非道なお前との婚約を、本日この場を持って破棄する!」
煌びやかな夜会会場に、王子の声が響き渡った。
ざわめきに包まれる会場の中、「私」は金髪縦ロールがトレードマークの悪役令嬢エリザベス様の斜め後ろで、静かに深いため息をついた。
(……うわぁ、始まっちゃったよ。乙女ゲ―お約束の断罪イベント)
見た目は地味な取り巻きの少女。
だが、中身は17歳の男子高校生である。前世で散々女みたいだと言われてきたがまさか本当に女になるとは思わなかった。
ドヤ顔をしている馬鹿王子と、その傍らで嘘泣きをしているヒロインを俺は冷ややかに見つめる。
(ポーズがいちいちキザなんだよなぁ、あの王子。後ヒロイン、泣き真似がいい加減すぎるぞ。ゲームの時はそれなりに可愛いと思ったがこうしてみるとただのイタイ女だな)
周囲の貴族子女達が流されている中、俺は一切動揺していなかった。
なぜなら――今日のこの断罪イベント、あまりにもガバガバすぎるからだ。
「理由をお聞かせくださいまし」
糾弾されたエリザベスが尋ねる。
「エリザベス、貴様がアリアに対して行ってきた所業の数々は調べがついている」
王子がこちらを見る。エリザベスの取り巻きの3人組。私はその一人だった。
「そんな、私はただ……」
「皆までいうな。お前は取り巻きに命じて散々アリアに嫌がらせをしてきたな」
「私はそんなことを命じた覚えはありません!」
「ふん、事ここに至り、まだシラを切るか」
「レオンハルト様。エリザベス様はきっと私の身を案じてご忠告なさって下さっただけなんです!」
と言うアリア。こいつうまいなぁ……
「おぉ、アリア、自分を陥れた人間まで庇うとはお前は聖女か?」
エリザベスはアリアに先にこう言われては弁解の余地がない。
「エリザベスはお前のドレスまで破いたのだぞ?」
「それは……」
こいつほんと鳴きまね以外はうまいな。
「聞いての通りだ。エリザベス、貴様はここにいるアリアのドレスを破き夜会に参加できなくしようとした。貴族として恥ずべき行為だ」
「……何か証拠がおありなのでしょうか?」
エリザベス様、それは悪手です。
「証拠か? いいだろう」
王子はそう言って懐から鋏を取り出す。
あの鋏……
「現場から発見されたものだ。お前が取り巻きに命じてドレスを切らせたのだろう? 証言もとれている」
「はい、私たちがエリザベス様に命じられてドレスを切りました」
エリザベスの取り巻きのクロエが言う。
「それ見たことか! エリザベスお前の悪逆非道もここに極まったな!」
「そんな! 私はそんなことを命じた覚えはありませんわ! 信じてくださいまし!」
「そんな戯言信じられるか!」
声を上げる王子。なんともお粗末なことこの上ない。
だが中世?の裁判なんてこんなものだろう。
「少し宜しいですか?」
見るに見かねて声をかける。
「なんだ取り巻き?」
「私はエリザベス様にそのような命令は受けていません。お二人は本当にそのような命令をエリザベス様にうけたのですか?」
「はい。しっかりとこの耳で聞き命令を受けました」
クロエが言う。
「私もです」
追随するもう一人の取り巻きベリンダ。
「そうですか。ではあの鋏はどこでご用意されたものなのですか?」
「先日、校内の売店で購入しました」
「それは確実ですか」
「はい、間違いありません」
「そうですか。皆さんもお聞きになりましたね」
「ふん。質問は終わったか? なら引っ込んでいろ」
「いいえ、まだです。レオンハルト王子、その鋏をよく見せてください」
「ふん。いいだろう」
「これに付けられたリボンにA・S という刺繍が入ってますね」
「それがどうかしたか?」
「私、最近同じようなものを目にしました。アリアさんが魔術の実習で使ってる杖。あれにも同じ刺繍が入ったリボンが結ばれていますね」
自分の私物を使ってなおかつ現場に落とすとは阿保なのかこいつは?
「馬鹿な! アリアが自分でドレスを引き裂いたとでも言いたいのか!?」
「アリアさん、どうなのですか?」
「私そんなことしません! この鋏はそう、盗まれたんです!」
「そうなのですね。つまり犯行に使われた鋏は盗まれたアリアさんの鋏で間違いないのですね」
「確かに私の鋏です」
「そうだ。エリザベスがアリアに濡れ衣を着せようとしてこのような真似を……」
「おかしくありませんか?」
「何がだ?」
「さっきクロエさんたちは鋏は売店で購入したとおっしゃっていました」
「ですが実際に犯行に使われた鋏はアリアさんの私物です」
「そ、それは……」
王子が口ごもる。
「あ、やっぱり私たちがアリアさんの鋏を盗んだんです!!」
あせったクロエが迂闊なことをしゃべりだす。
「さっきクロエさんは私が確認したときも確実に売店でご購入なされたとおっしゃいました。あれは嘘だったのですか?」
「そ、それは……」
「ひょっとして誰かに脅されていたのではないのですか?」
「そ、そんなことありません!」
激しく動揺するクロエ。いよいよもって嘘がきつくなってきたな。
「王子。どうか賢明なるご判断を」
「う……ううむ」
王子がクロエ達の方を見る。
「わ、私知りません。誰にも脅されてなんていません!」
「しかしお前たちは鋏を買ってきたといったな……」
「い、いえそれは……」
もはやしどろもどろのクロエだが……
「もういや!アリアさんが言ったんじゃない!私たちがやったことにすれば全部うまくいくって!!」
騒ぎ出すベリンダ。
「ちょっ」
動揺するアリア。
「どういうことだアリア?」
「知りません。私はただ鋏を盗まれてドレスを切られただけなんです!」
「嘘つき!アンタが私たちを脅してきたんじゃない!」
「ちょっベリンダ!」
いよいよもって暴走するベリンダ。
夜会はもはや阿鼻叫喚である。
「エリザベス様、帰りましょう」
俺はエリザベスを連れ出した。
「え、えぇ……」
「まてエリザベス!話はまだ終わってない!」
「レオンハルト様は何やらお忙しいご様子。また後日お会いしましょう」
そう言い残して去るエリザベス。
俺達は事前に俺が呼んでおいた馬車に乗り込んだ。
「ありがとう。ノエルさん。先ほどは助かりましたわ」
「いいえ。大したことはしておりません」
実際さっきのはあいつらの自爆に近い。
「私、貴女のこと見直しましたわ」
とおっしゃるエリザベス様。顔が赤い気がするのは気のせいか?
「今まで貴女がこんなにできる方だとは思っておりませんでしたわ」
なにやら距離が近い。
「……恐縮です」
そんなやり取りをしてる内にヴァレンティア公爵家に着いた。
ヴァレンティア邸に着いて応接室に通された。お茶がおいしい。
「……ふぅ。ようやく落ち着いてきましたわ」
自宅に着いて緊張が解かれてきたようだ。
「まったく何なんですの? クロエさんもベリンダさんもお友達だと思っていましたのに……それにしてもレオンハルト王子には呆れましたわ。あんなに簡単に騙されるなんて。全く殿方のいい加減さには辟易しましたわ」
「まぁ、彼女達にもいろいろ事情があるのでしょう。脅されていたみたいでしたし」
馬鹿王子のフォローはしてやらない。
「貴方は大丈夫でしたの?」
「まぁ、なんとか」
正直俺にも何かと言っては来ていたものの全てスルーした。ゲームにはそんなシーンなかったが、断罪イベント自体はゲームで何度も見せられていたしな。いい加減うんざりしていた。正直エリザベスが不憫すぎて。本来は現場から発見されるのはヴァレンティア家の紋章入りの鋏だったが、どうやらあまり関わってこないエリザベスにしびれを切らしたヒロイン様がやらかしたようだ。あいつは転生者で間違いない。
しばらくすると屋敷の主らしい中年の男が現われた。
「お父様、ただいま戻りましたわ。こちらお友達のノエルさんですの」
「お初にお目にかかります。ノエル・バートンです」
「おぉ、エリザベス! エリザベスが友達を連れてくるとはめずらしい。それでどうしたのだ?今夜は夜会ではなかったのか?」
エリザベスの父親グレゴール・フォン・ヴァレンティア公爵だ。
「それなんですがお父様……」
エリザベスが事情を説明する。
「何だと!? あの馬鹿王子。ついにやりおったか! 私のかわいいエリザベスを振るとは言語道断!!そんな奴とはこちらから婚約解消だ!!」
「それで、ノエルさんが助けて下さりましたの」
「そうか。いい友達をもったのだな」
優しい顔をするグレゴール。
「それでお父様。私お願いがありますの」
「おう。なんだ。何でも言ってみなさい」
「私ノエルさんと婚約したいと思いますわ!」
ちょっ。思わずお茶を吹きかける俺。
「がはははは。いいとも! 馬鹿王子なんて捨てて真に信用できる人と結婚しなさい!」
「ちょっと待ってください。我が家は子爵家ですよ?身分差がありすぎます」
この世界同性婚は普通にみとめられている。だが身分の差はそれでも大きい。
「そんなの気にしませんわ! それともノエルさんは私のことがお嫌いですの?」
不安そうな顔をするエリザベス。そんな顔をされたら断りづらい。正直男と結婚するよりはずっといいが……
「やはりエリザベス様は身分の高い殿方と結婚成された方が幸せになられるのでは?」
「男なんて感情的で支離滅裂で信用できませんわ!ですからノエルさん私の生涯の伴侶は貴女しかおりませんの!」
なんでそうなるのか。情緒どうなってんだ?まぁ、何度も見せられてきた彼女のバッドエンドを回避するにはそれもいいかもしれないが……
「よろしくお願いします」
俺はそう返答していた。
「はい!」
エリザベスは満面の笑顔だった。
こうして俺は悪役令嬢エリザベスの生涯の伴侶として共に歩むことになるのだった。
果たしてうっかり婚約してしまって俺の人生はどうなってしまうのか……
それにしても、ああ……早く家に帰りたい……




