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歴史改変? そんなのスルー! あいつらにカレー南蛮食わせるまでは帰らない!

「本日もご乗車ありがとうございます。……って、あれ?

なんか空の色がおかしい?

第3部、まさかの『戦時中』にバグりました。

悠長にうどん食ってる場合じゃない! 米だ! 乾パンだ! チョコだ!

歴史改変? 無視無視無視!あいつらを救わなきゃ俺たちの『実家』が消えちまう!

50年後の未来で待っていた『最高の答え合わせ』まで、

時速40キロ、フルスロットルで突っ込みます。

最後まで、二人のドライブにお付き合いください!」

【第10回: 時空のレスキュー隊、物資満載で突入! ―命をつなぐ米と乾パン―】


「……リョウがいなきゃ霧が出ない? そんなバカな。俺の運転が甘いだけだろ」

タカは一人、オンボロ中古車のキーを回した。

昨日のリョウの失敗を鼻で笑い、「俺なら一人でカレー南蛮にありつける」と息巻いて。


いつものカーブ。三速。左へフルハンドル。

「……こいッ!」


キィィィィィィィン!


耳をつんざくような高音が響き、フロントガラスが乳白色の霧に包まれる。

「ほら見ろ! 出たじゃねえか!」

タカは勝ち誇った顔で、白銀の幕の向こう側へとアクセルを踏み込んだ。


だが―――。


霧の向こうに見えたのは、いつもの茅葺き屋根の茶屋ではなかった。

「……え?」


道は舗装どころか、深い泥濘ぬかるみに変わっている。

行き交うのは、もんぺ姿の女性や、ゲートルを巻いた疲れ切った表情の男たち。

空には見たこともない巨大なプロペラ機が、腹に響く重低音を鳴らして低空を這っていた。


「おい、なんだこれ……おばあちゃんの店は?」

茶屋があったはずの場所には、焼けた跡のような黒い土が広がっている。

そこにあるのは、古びた防空壕の入り口だけだった。


「……まずい。ここ、戦時中かよ!?」

慌ててバックギアに入れるが、タイヤが泥に取られて虚しく空転する。

「スパイだ!」「変な車だ!」という怒号が飛び交い、竹槍を持った人々が集まってくる。

「リョウ! 助けろ!」

思わず隣の助手席に手を伸ばすが、そこには冷たい空気があるだけだった。

タカは冷や汗を流しながら、祈るような心地でアクセルを底まで踏み抜いた。


ガタガタガタッ!


火花が散るような衝撃と共に、世界が歪む。

気づけばそこは、いつもの深夜のガソリンスタンドの前だった。


――――――


翌朝。大学の駐車場。

タカは青白い顔をして、リョウの到着を待っていた。

「俺は二度と一人では行かない」

「お、十回目だな。どうした、そんな青い顔して」


「……お前がいないと、座標が狂うんだよ。危うく空襲に巻き込まれるところだった」

タカはリョウの肩をガシッと掴み、真剣な眼差しで訴えた。

「いいか、二人が揃ってないと、あの蕎麦屋には辿り着けない。俺ら二人で一セットみたいだ」

リョウは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに苦笑しながら言った。

「……なんだよ、そのセットって。じゃあ、今日は二人で行くか。おばあちゃん、心配してるだろうしな」


二人は再び、あのオンボロ車のドアを同時に閉めた。



【第11回: タイムカプセルの答え合わせ。 ―お守りになったビタミン剤―】


「よし、タカ。今日は二人だ。座標は狂わないはずだぞ」

「おう!あのカレー南蛮の匂いを思い出せ。集中しろよ」

二人は祈るような気持ちで、いつもの時空の分岐点へと突っ込んだ。


キィィィィィン! という鼓膜を刺すような耳鳴り。視界を覆い尽くす真っ白な霧。


「……きたか!?」

霧が晴れる。しかし、そこに広がっていたのは、いつもの茅葺き屋根の平和な風景ではなかった。


「……おい、リョウ。これ、また昨日と同じだぞ」

地面はひび割れた泥だらけ。道行く人はもんぺ姿で俯いている。

空には不気味な重低音を響かせる軍用機が這い、茶屋があるはずの場所には、荒れ果てた空き地と『防空壕』の看板が立っていた。


「なんでだよ! 二人揃ってるだろ!?」

「おい! あそこを見てみろ!」


タカが指差した先。空き地の隅で、泥だらけになりながら穴を掘っている小さな影があった。

「……正一!? 正一じゃないか!」

坊主頭にボロボロのランニングシャツ。

それは間違いなくあの正一だった。だが、その瞳からは生気が失われている。


「……お兄ちゃんたち、だれ? ここ、危ないよ。B29が来るよ」

「正一、おばあちゃんは!? カレー南蛮は!?」

リョウが必死に尋ねるが、正一は虚ろな顔で首を振るだけだ。

「カレー……? なにそれ。おばあちゃんは、ずっと寝てるよ。お腹が空いたって」


二人は戦慄した。

ここは「おばあちゃんの店」ができる前の、一番過酷な時代。

自分たちが持ってきた「お土産」が、この世界では存在すらしない奇跡になるほどの絶望の淵だ。


「リョウ、持ってるもん全部出せ!」

タカは後部座席から、おばあちゃんに渡すはずだった『あんパン』と『栄養ドリンク』、そして正一への『チョコレート』をひっ掴んだ。

「これ、食え! おばあちゃんにも飲ませてやれ!」

「……え? いいの? これ、お菓子?」

正一が震える手でチョコを口にする。

その瞬間、死んでいたような彼の瞳に、パッと希望の光が宿った。


――――――


「……おい、リョウ! 警報だ! 戻るぞ!」

遠くからウゥゥゥゥンという、地を這うような不吉なサイレンが響き渡る。

二人は泣きそうな顔で見つめる正一を置いて、無理やりバックギアを叩き込んだ。


「……リョウ、絶対戻るぞ! 今度はあいつらを助けに、もっといっぱい……!」

ガガガガガガッ!!

凄まじい衝撃と共に、二人は現代のコンビニ駐車場へと放り出された。


――――――


夜の車内。二人は一言も喋れなかった。

静寂の中、タカが震える声で呟いた。

「……もう二度とお前とは出かけない」

「……ああ、わかってる。十一回目だな」

「……明日、米、持てるだけ持ってくぞ。あと乾パンと、栄養価高いやつ全部」


リョウは無言でハンドルを握りしめた。

「……ああ。歴史が変わろうが知るか。あいつらに、あのカレー南蛮を食わせてやるまでは、俺たちは止まるわけにはいかない」


二人の目はもはや「ドライブ」を楽しむ大学生のものではなかった。

彼らは「レスキュー隊」の顔をして、深夜営業のディスカウントショップへと車を走らせた。



【第12回: タイムカプセルの答え合わせ。 ―お守りになったビタミン剤―】


「いいかリョウ、米は5キロを4袋。あとレトルトの牛丼、サバ缶、それに……このマルチビタミンだ。栄養が圧倒的に足りてないからこのくらい持っていかなきゃ」

「わかってる。俺はカセットコンロとガスボンベを持った。おばあちゃんに、温かいもんを食わせてやるんだ」


オンボロ車の後部座席は、天井まで物資で埋まり、サスペンションが悲鳴を上げている。

二人は決死の表情でハンドルを握り、「あの泥濘ぬかるみの道」へと突っ込んだ。


キィィィィィィィン!


霧を抜けると、そこは案の定、灰色の空と泥にまみれた戦時中の風景。

二人は迷わず、防空壕の看板があるあの空き地へと車を走らせた。


――――――


「正一! 来たぞ!正一!!」

タカが叫ぶと、土まみれの正一がおどおどしながら顔を出した。

「……あ、昨日のお兄ちゃんたち? 嘘じゃなかったんだ……」

「これ、おばあちゃんに! あと正一も食え!」


リョウとタカは、バケツリレーのようにお米や缶詰を運び出した。

防空壕で横になっていたおばあちゃんは、カセットコンロの青い火と、レトルト味噌汁の香りに吸い寄せられるように起き上がった。

「……あらまあ、極楽の匂いだねぇ……」

震える手でお椀を持つおばあちゃん。

温かい汁を一口飲むと、その枯れ果てていたはずの目に大粒の涙が溢れた。


「正一。これ、お前の分だ。牛丼だぞ、肉だ!」

タカが温めた牛丼を渡すと、正一は夢中でかき込んだ。

「……おいしい。お兄ちゃん、これ、夢じゃないよね?」

「夢じゃないよ。しっかり食って、生き延びろ。いいか、お前は将来、最高に旨いカレー南蛮を作るんだからな!」


その時、遠くで再び不吉なサイレンが鳴り響いた。

二人は正一とおばあちゃんを壕の奥へと押し込み、空になった車に飛び乗る。


「……おばあちゃん、また来るからな! ちゃんと食えよ!」

ガガガガガガッ!!

爆風のような衝撃。


気づけば二人は、いつもの静かな夜の国道に放り出されていた。


―――数日後。

二人はいつもの手順で、祈るように「平和な昭和の茶屋」を目指した。


霧が晴れる。そこには……いつもの、あの懐かしい茅葺き屋根の茶屋が佇んでいた。


「……おばあちゃん、生きてるか!?」

二人が店に飛び込むと、そこにはシャキシャキと立ち働く、いつもの元気なおばあちゃんがいた。


驚く二人に、おばあちゃんはニヤリと笑い、奥から古びた一つの箱を持ってきた。

中には、ボロボロになった『現代の米袋』と、『ビタミン剤の空き瓶』が大切にしまわれていた。

「これね、私が一番苦しかった時に、天から降ってきた『お守り』なんだよ。これがあったから、私と正一は生き延びて、この店が出せたんだ」


二人は顔を見合わせ、その場に膝から崩れ落ちた。

自分たちの手渡した「未来の物資」が、この店を、この未来を作っていたのだ。


おばあちゃんが感謝を込めて運んできたのは、いつもよりさらに出汁の効いた、黄金色のカレー南蛮だった。


夜の大学の駐車場―――。

タカが空っぽになった財布を眺めて、ボソリと呟いた。

「……リョウ。もう二度とお前とは出かけない」

「十二回目。……で、次は?」

「……決まってんだろ。おばあちゃんの店、リニューアルしたらしいぜ。……今度は、現代の『電動かき氷機』持ってって、デザートでも振る舞ってやろうぜ」


二人は笑いながら、もはや歴史の守護神のような顔をして、オンボロ車のドアを閉めた。



―――――― 


【最終話: 合格祝いのケーキを持って、またあの霧の中へ】


「終わんねえ……リョウ、マジで終わんねえぞ、この卒論」

「一文字も進まない。……なあ、おばあちゃんの店に行って、タイムスリップして時間稼ぎしてこないか?」


大学の図書館、深夜。

パソコンに向かうタカとリョウ。提出期限まであと24時間。

参考文献すら揃っていない、文字通りの絶望的な状況だ。

そこへ、廊下からカツカツと規則正しい杖の音が近づいてきた。

「……君たち。さっきから手が止まっているようだが?」

振り返ると、そこには三つ揃えのスーツを隙なく着こなした、白髪の老紳士が立っていた。

この大学の重鎮中の重鎮・佐藤名誉教授だ。


「あ、先生……すみません、ちょっと煮詰まってて」

タカが縮こまりながら謝る。

名誉教授は眼鏡の奥の鋭い瞳で、二人のパソコン画面をじっと見つめた。

「……ふむ。『1950年代における峠の茶屋の経済圏について』か。面白いテーマだが、考察が甘いな」


名誉教授は、おもむろにタカの横に腰を下ろした。

そして、スラスラと当時の時代背景や複雑な数式を書き込み始めた。

その教え方は驚くほど分かりやすく、それでいて……どこか魂に響くほど懐かしい。


「……あれ? 先生、この教え方……」

「ん? 何か言ったかね」

名誉教授はニヤリと笑うと、胸ポケットから一本の「宝物」を取り出した。


それは昭和の時代には存在しなかったはずの、プラスチックが少し色あせた、でも大切に手入れされた現代の多色ボールペン。

「……あっ…」

「このペン、昔『未来から来た神様』にもらったんだよ。これのおかげで勉強が好きになって、今の私がある。……君たちも、似たような服を着た知り合いに心当たりはないかね?」


二人は息を呑んだ。

名誉教授は、いたずらっぽくウインクして立ち上がる。

「さあ、あと少しだ。これが書き終わったら、一緒にカレー南蛮でも食べに行こう。……私が世界で一番旨いと思っている店を、君たちに教えてあげよう」


教授が去った後、二人は顔を見合いながらどちらからともなく言った。

「ちょ…え…先生の名前って…佐藤…なんだっけか?」

「…正一」


「……リョウ。もう二度と、お前とは出かけない」

「十二回目……。で、次は?」

「……決まってんだろ。卒論出したら、あの店に『合格祝い』しに行くぞ! おばあちゃんに、正一が立派になったって報告しなきゃ!」


二人は猛烈な勢いでキーボードを叩き始めた。

隣には、正一先生が置いていった『静岡の特選茶』が二本、誇らしげに並んでいた。


数日後。無事に卒論を提出し、単位をもぎ取ったタカとリョウ。

二人はいつものオンボロ中古車に飛び乗り、助手席には「特上のお祝いケーキ」を積み込んだ。


「……リョウ。これ、正一先生(小2)に食べさせたら、また歴史変わっちゃうかな?」

「いいんだよ。あいつ、あんなに勉強頑張ったんだから。……よし、いくぞ!」


霧の向こうで待っているのは、ツヤツヤの手でうどんを打つおばあちゃんと、未来の博士号保持者・正一くん。


「……リョウ。もう二度と、お前とは出かけないぞ」

「はいはい、十三回目。……で、次は?」

「急ごうぜ。おばあちゃんに『正一が名誉教授になったぞ!』って自慢しに行こう!」

二人は笑いながら、カセットデッキから流れる昭和のメロディに合わせて。

またあの、最高に愛おしい不思議な霧の中へと突っ込んでいった。


―― 完 ――

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