1.5話 雨ちゃん救出作戦 雨森 凪視点
雨森 凪視点
今日は列車に乗ったときから人が多いとは感じていたが、こんなに多くなるとは思わなかった。普段はあまり人がいないから私は、6号車に乗るのだが……今日は違うようだ。人混みが苦手いうわけではないが、好きではない。私は雨の日だけ電車に乗る。JK×雨は最悪の組み合わせだ。濡れるし、髪が湿気でハネるし、ジメジメしいて気持ち悪いし、私の可愛さ(?)が損なわれてしまう。だからといって雨が嫌いというわけではないし、雨森という名前も気に入っている。雨森という名前は唯一無二であり、言葉の響きがいい。それに出席番号が早いのだ。
車掌さんのまもなく駅への到着を知らせる放送が聞こえてくる。
「次は蔵鍋、蔵鍋です。降り口は右側、3番乗り場へと到着をいたします。白楽線へは乗り換えです」
私の学校の最寄り駅に到着する。私はこの駅で降りなければならないのだが、簡単には降りられそうにない。列車はだんだん速度を落としていき、やがてホームへ停車する。列車のドアが開き、私は駅に降りようとする。しかしドアまでは人が多く通れない。この駅で降りなければ学校に遅刻してしまう。列車の発車の時間が刻一刻と迫り、焦りを感じる。列車から降りたいのに降りられない。私は少し泣きそうであった。前を向けば、何故か決意を決めた顔で私の前に立っている男子高校生がいる。この制服は確か3駅先にある高校の制服である。私になにか用があるのだろうか?疑問に思っていると急に、腕を掴まれた。驚きはしたが不思議と嫌な気分はしなかった。それは彼だからであろうか?わからない。さっきの表情といい、この大胆な行動といい私は告白されるのだろうか?そんなことを考えつつ、彼は私と一緒に満員の列車から人混みをかき分け、降りていく。私たちが列車から降りると、すぐにドアが閉まり、発車していった。彼がいないと私は列車から降りることはできなかった。少し彼のことを好印象に感じる。が……私の腕は掴まれたままである。
「あのぉ……腕が……」
と言うと彼は焦って、掴んでいた手を離す。こんなに大胆なのに意外と初心なところがあるんだと思う。
「雨ちゃんごめんなさい、嫌だったよね?」
と彼は言う。別に、彼に腕を掴まれたのは嫌でない。そのことを彼に伝える。
「全然嫌じゃないです、むしろ嬉しかったというか……」
最後に本音が出てしまった。ボソボソっと喋ったので彼には聞こえてないだろうが、すこし恥ずかしい。そんなとき、疑問が思い浮かんできた。さっき彼は私のことを"雨ちゃん"と呼んだ。なぜ私の名前を知っているのだろうか?誰かに私のことを紹介されたのだろうか?それとも知り合いなのだろうか?気になったので彼に聞いてみる。
「ていうかなんで私の名前知ってるんですか?」
すると彼は少し慌てたように言う。
「名前知らないんですけど、雨ちゃんっていう名前なんですか?」
どうやら彼は私の知り合いでもなく、名前も知らなかったらしい。どうやらストーカーとかでもない様子だ。
「そうなんですね!あなたは私のことを知っている不審者なのかと思いました!」
冗談交じりで気さくに彼に話しかける。てっきり彼に告白されるのかと思っていたが、別にそんなことはなさそうである。優しい人間のようだ。
「私の名前は雨森 凪って言うんだ~」
「あまもりなぎさ……」
私の名前を教えると、彼は私の名前を繰り返し言う。彼に名前を言われて少しドキッとしてしまう。なぜだろうか?」
「いい名前でしょ?」
そう微笑みながら彼に問いかける。彼の名前はなんだろうか、気になる。
「君の名前教えてよ?」
と彼に尋ねる。
「僕の名前は山田市郎」
失礼だとは思うがいたって普通の名前だと思ってしまった。決して悪い意味ではないのだが。
「やまだいちろう……なんというか普通の名前だね」
そう言うと彼は少し落ち込んだ表情をした気がした。気のせいだったかもしれない。
「そろそろ列車来ちゃうから行くね」
どうやら彼は降りられなくて困っていた私を助けるためだけに、一緒に降りてくれたみたい。少し期待していた告白なんてされなかったが。そんな恩人には、お礼をしなくてはいけないだろう。
「わかった!またね~!」
そう言い私は、階段を上がり改札へと向かう。今、彼はどんな表情をしているのだろうか。私とまた会えると期待しているだろうか?それとも嫌そうな顔をしているだろうか?別にどちらの表情をしていたって構わない。だって、私が勝手に会いたいだけで、お礼をしたいだけだ。そんなことを考えつつ、私は学校へと向かう。




