第9話「騎士団の敗走と、崩れ始める“勇者”」
森の奥へと姿を消したリオとエルフィリア。
その後に残されたのは──
膝をつき、青ざめた騎士団だった。
副官は震える声で呟く。
「……な、なんという力……
あれが……精霊王の娘……」
別の騎士が、悔しげに剣を土に突き刺す。
「殿下だけではない! あの黒髪の少年……
剣を一振りしただけで我々をまとめて吹き飛ばした……!」
静寂が流れる。
副官は唇を噛み、言う。
「……撤退だ。これ以上追えん。
今の我々では……姫にも、あの少年にも勝てない」
誰も反論しなかった。
◆王城・作戦室
「――敗走、だと?」
ライオネル団長の声が低く響く。
副官は深々と頭を下げた。
「はっ……!
姫は“精霊王の血”を覚醒させておりました。
そして……あの少年。
彼もまた、普通では……ありません」
ライオネルの表情は険しい。
「精霊姫はともかく……その少年は何者だ?」
沈黙。
そして、副官の口から信じがたい報告が続く。
「剣を一振りしただけで数名の騎士が吹き飛びました。
まるで……伝承に語られる“世界樹の加護”のような──」
「世界樹……だと?」
重苦しい空気が室内を満たす。
国王側近が震える声で言う。
「王よ……これは“選ばれし者”が現れた可能性があります」
国王は立ち上がった。
「直ちに警戒レベルを最大に引き上げろ。
そして──勇者カインにも知らせよ」
これが、王国全体を巻き込む
“最初の揺らぎ”だった。
◆勇者パーティの異変
カイン、アイナ、ラミア、グラッドが依然として王都の訓練場にいた。
そこへ、騎士団からの報告が届く。
「精霊姫が、世界樹の森で保護された……?
ああいや、それはいい。問題は……」
読み上げたアイナが震える。
「“その姫を守っていた『黒髪の少年』が、
騎士団数名をまとめて吹き飛ばした”って……」
グラッドが不安そうに尋ねる。
「なぁ……その黒髪って……」
ラミアもごくりと唾を飲む。
「……リオの可能性……あるよね?」
カインは、苛立ったように剣を床に叩きつけた。
「違う!!
あいつは無能だ!!
勇者パーティの足を引っ張るだけのクズだ!!」
声は怒鳴り声だった。
だがその目は、わずかに揺れている。
(……あいつが、そんな……訳ない……
ない……はずだ……)
アイナが冷静に告げる。
「でもカイン様。
“無能扱いの青年がとんでもない力を覚醒した”なんて話、
なろう世界じゃ珍しくないですよ?」
「現実で例えるな!!」
焦燥、苛立ち、不安、嫉妬。
全部が混ざった声。
グラッドはぼそっと呟いた。
「……カイン様。
もしリオが強くなってたとして……
それは“あんたらが追放した後”だろ?」
「…………!」
「追放が間違ってた、ってこと……
ありえるんじゃねぇの……?」
カインの顔が引きつった。
拳が震えている。
「俺が……間違うわけない……!
勇者の俺が!!」
だが、この日を境に、
勇者パーティの歯車は狂い始めていく。
◆精霊王国の国境
一方、リオとエルフィリアは──
深い森を抜け、精霊王国の境界部に到達していた。
そこに広がっていたのは──
「……これが……エルダリア……?」
エルフィリアは言葉を失った。
国境の森は、
灰色の霧に覆われ、木々は枯れ、
まるで“生命を吸い取られたような”風景が広がっていた。
風が吹くたび、枯れ枝が崩れ落ちる。
魔力の流れすら“死んでいる”。
『主……虚魔紋章の影響です。
エルダリア全域が……食われつつあるのです』
「食われ……?」
『魔力を喰い尽くす“虚魔”。
本来は封印されていた存在ですが……
誰かが封印を破ったとしか思えません』
エルフィリアは震える声で呟く。
「……お父さま……お母さま……
どうして……こんな……!」
リオはエルフィリアの肩にそっと手を置いた。
「大丈夫。
必ず、取り返す。
精霊王国も……君の家族も……」
エルフィリアは唇を噛み──
それでも小さく頷いた。
「……リオが……一緒なら……
わたし……怖くないよ……」
灰色の霧が渦巻く荒れた森の奥へ、
二人は一歩、足を踏み入れた。
これは、もう後戻りできない旅だ。
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