第5話「精霊姫の秘密と、“滅びの紋章”」
村の長老の家で、エルフィリアはベッドに座っていた。
村人たちが用意してくれた温かい毛布にくるまれ、
蒸気の立つハーブ茶を両手で包んでいる。
精霊姫である彼女を見れば、村中の人がざわつくのも当然だった。
「わ、若いの……本当に精霊族を連れてきおったのか……」
「こ、これ大事件じゃないか……!」
「精霊族の王女って噂、本当なのか……?」
(うわ、村中に広まってる……)
俺は横で、頭を抱えていた。
一方、エルフィリアはというと――
「……リオの隣が落ち着く」
と、当然のように俺の袖をつまんでいる。
(頼むから距離感……!)
そんな中、村長が恐る恐る尋ねた。
「エルフィリア様……
ひとつ、お伺いしてよろしいでしょうか」
彼女はこくんと頷いた。
「どうして……森の奥で倒れておられたのですか?
あれほどの力を持つ精霊族が……」
村長の言葉に、部屋の空気が一気に張り詰める。
エルフィリアは視線を落とし、胸元をそっと押さえた。
(あの“紋章の傷”のことだ……)
俺が助けたときには、肩のあたりに
光を帯びた奇妙な紋章が刻まれていた。
あれは普通の傷ではなかった。
和やかだった空気が、静かに変わる。
やがて――
エルフィリアはゆっくりと口を開いた。
◆◇
「……精霊族の国“エルダリア”は、
今、“滅びの呪い”に侵されているの」
「滅びの……呪い?」
俺は思わず声を漏らした。
エルフィリアは肩の部分の布を少しずらし、
俺と村長に“紋章の傷”を見せた。
淡く青い光が脈打つ刻印。
「これは“虚魔紋章”。
精霊族だけが反応する、古い……呪い」
「呪い……!」
「これが刻まれた者は、魔力が乱れて――
精神を奪われ、最後は“虚”になる」
(そんな……!)
「精霊族は魔力で命を保っている。
だから魔力を乱されると、生きていけない……」
その声は震えていた。
村長が息をのむ。
「では……エルダリアの皆が……?」
「……たくさんの仲間が倒れた。
お父さま(精霊王)も……お母さまも……
皆、倒れて、動かなくなった」
俺は息を呑んだ。
精霊王や王妃でさえ……?
「わたしは逃げたの。
国を覆っていた黒い霧から。
でも逃げる途中で……
呪いの魔力が限界になって、森で倒れた」
(なるほど……だから傷が光っていたんだ)
エルフィリアは俺を見上げる。
「でも……あなたが助けてくれた。
あなたの“世界樹の加護”が、
紋章の魔力を薄くしてくれたの」
(じゃあ、俺が治癒したのって……)
「リオがいなかったら……わたしはもう……」
そこまで言って、彼女は声を詰まらせた。
俺は反射的にエルフィリアの肩に手を置いた。
「大丈夫。もう倒れさせない」
彼女の細い肩が、小さく震えた。
「……信じても、いい?」
「もちろん」
「……ありがと」
村長は静かに頷いた。
「なるほど……紋章の傷とは、
古代の呪術“虚魔の刻印”……
村に残る古文書で読んだことがあります」
(古文書……?)
「それは通常、治癒も浄化も効かぬ絶望の刻印。
だが……世界樹の加護ならば……
本当に浄化できるかもしれませんな」
「浄化……?」
村長は俺の手を見つめた。
「リオ殿。
その力で、精霊姫様を……
そして精霊族を救っていただけませんか」
急に責任重大なお願いをされて、心臓が変な音を立てる。
(お、俺が……!?)
◆◇
だがその瞬間、エリュシオンの声が響いた。
『主、それはあなたの運命の道です。
あの呪いは“世界樹の敵”が生んだもの。
あなたが選ばれた理由と無関係ではありません』
(……選ばれた理由……?)
『いずれ分かります。
ですが、精霊族を救えるのは、
“世界樹の加護を宿す者”だけです』
部屋の中に、沈黙が落ちた。
そして――
エルフィリアが俺の手をぎゅっと握る。
「お願い……リオ。
わたしの国を……家族を、助けて……」
その瞳に宿る涙と決意。
逃げられるわけがなかった。
「……分かった。
俺にできることなら、全部やるよ」
「……っ!!」
エルフィリアが胸に飛び込んできた。
「ありがとう……リオ……!」
(近い近い近い! 今はいいけど!!)
◆◇
こうして、精霊族救済という大きな目的が生まれた。
だがその裏では――
王国本土では、こういう通達が走っていた。
【緊急命令】
“精霊王国の第三王女エルフィリア・エルダリア”行方不明につき、全騎士団に緊急捜索を命ずる。
目撃情報があり次第、速やかに王城へ報告せよ。
そして、勇者パーティの耳にも、その話は届くことになる。
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