第4話「精霊姫、離れない。そして村が危機になる」
エルフィリア――精霊族の第三王女を助けてからというもの。
とりあえず、安全な場所まで案内しようと提案したのだが。
「……いやなの」
「え、なにが?」
「離れるの、いや」
「えっ……いやって……えっ?」
少女は、まるで子猫のように俺の服の裾をつまんでくる。
引っ張らないで、破ける。
「だって……あなた、あったかい。
世界樹の匂いがするから、安心するの」
「世界樹の匂いって何!?」
「落ち着く……ずっとこうしてたい……」
「え、気持ちは嬉しいけど、距離! 距離感って知ってる!? 精霊族にもあるでしょそういう文化!!」
「あるけど、あなたには適用しない」
「なんで!?」
「だって……助けてくれたから」
(ぐっ……それ言われると弱い……!)
結局、そのままエルフィリアと一緒に森を歩くことになった。
というか。
「ねえ、なんで手を繋ぐの?」
「転ばないように」
「いや君の方が森に慣れてるでしょ!? 逆でしょ!?」
「……わたしが繋ぎたいの」
「理由の圧が強い!!」
こんな感じで、ずっと手を離さない。
(これが……精霊族の距離感……?)
いや、たぶん違う。絶対違う。
◆◇
そんなこんなで森を抜け、近くの村――
“ルシェ村”が見えてきた。
「よし、あの村で事情を聞いて、君の家族のことも……」
と言いかけた瞬間。
ゴゴゴゴゴッ……!
地面が揺れた。
「な、なんだ!?」
揺れはすぐに止まったが、嫌な魔力の風が吹く。
村の方向から、黒い煙が上がっていた。
(嫌な予感しかしない!)
エルフィリアが急に俺の腕を握った。
その瞳は、不安で揺れていた。
「……魔物。
たくさん、来る……!」
「え!? なんで分かるの!?」
「わたし、精霊だから」
(すごく納得できるようで納得できない!)
◆◇
村へ駆け込むと――
巨大な黒狼が数匹、村人たちを追い回していた。
「ま、魔物だぁぁ!!」
「ぎゃあああ!!」
叫び声と混乱。
(やばい、本当に襲われてる……!)
でも、俺には……
剣が、腰で震えて知らせてくる。
『主、行きましょう。あなたならできます』
「…………! やるしかないよな!」
エルフィリアが俺の背中を押す。
「いって。あなたなら、守れる」
「任せろ!」
気づけば、俺は村の中央へ飛び込んでいた。
ダークウルフの一匹が、こちらを振り向く。
(デカッ!? え、こんなの無理じゃない!?)
『主、剣を構えて。あとは私が制御します』
「制御って……えっ?」
『あ、制御しないと死にますので』
「命に関わることをサラッと言うな!?」
勢いで剣を振り下ろす。
すると――
バッッ!!
風がうねり、剣先から緑色の光が奔った。
(うわっ!?)
光の刃がダークウルフを正面から吹き飛ばす。
「そ、そんな……ただの一振りで……!」
「若いのが魔王軍か!? いえ、違う? 誰!?」
村人たちがざわつく。
俺自身もビビっていた。
(え、今の俺がやったの!?)
『今のは世界樹の“風加護”です。
あなたの一振りは、普通の剣の十倍です』
(十倍!?)
そんな説明を聞く暇もなく、まだ魔物が残っていた。
一匹がこちらへ跳びかかってくる。
「うおっ!」
反射的に剣を横に払うと――
風の衝撃波がぶわっと広がり、魔物たちをまとめて吹き飛ばした。
「す、すげえ……」
「何者だ……あの少年……」
村人たちの視線が痛い。
◆◇
戦いが落ち着いた頃、村長らしき老人が震えながら近づいてきた。
「お、おぬし……! 命の恩人じゃ……!」
「い、いえ、そんな……!」
「助けてくださって、本当に……ありがとう……!」
村人たちが次々と頭を下げる。
その中心で――
エルフィリアが、嬉しそうに俺の袖をつまんだ。
「ね? 言ったでしょ。あなた、守れるって」
「う……まあ、結果的にはな……」
「もっと誇っていいよ。
……だってあなたは、世界樹に選ばれたんだから」
(くっ……なんだその破壊力のある言葉……!)
◆◇
だが、この村を救ったことが――
後々、俺の運命を大きく変える“第一歩”になるとは、この時まだ知らなかった。
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