第32話 「崩れゆく王都──正義の再定義」
◆世界が目を覚ました朝
王都の朝。
鐘の音が、
いつもより長く、重く鳴り響いていた。
市場は開いている。
店も並んでいる。
だが――
誰も、いつも通りではなかった。
「……昨日の映像……見たか?」
「王国が……
精霊を……?」
「嘘だろ……
あれ……
本物の署名だったぞ……」
声は低い。
だが、確実に広がっている。
“勇者の噂”ではない。
“精霊姫の証言”でもない。
王国自身の言葉。
王国自身の命令。
それが、
世界に晒された。
◆王城、分裂
王城・評議室。
空気は、凍りついていた。
「……否定は……?」
誰かが言いかけ、
すぐに口を閉じた。
「否定すれば、
“捏造だ”と言わねばならない」
「だが、
精霊式の認証が入っている」
魔術顧問が、
低く告げる。
「……偽造不可能です」
重臣たちの間に、
明確な分断が生まれる。
「勇者の行動は、
過剰だったが……
国家のためだった」
「違う!!
条約違反は……
国家存亡の問題だ!!」
「精霊の庇護を失えば、
我々は――」
国王は、
一言も発しない。
ただ、
深く目を閉じていた。
◆勇者の居場所
王都・訓練場。
カインは、
一人で剣を振っていた。
――ガンッ。
剣が、地面に刺さる。
「……くそ……」
誰も、見ていない。
誰も、称えない。
そこへ、
アイナが近づく。
「……カイン様」
彼は、振り向かない。
「……俺は……
間違ってたのか……?」
答えは、
すぐには出なかった。
「……少なくとも……
“正しかった”とは……
もう、言えません……」
カインの手が、
震えた。
「……じゃあ……
俺は……何だったんだ……?」
その問いに、
誰も答えられなかった。
◆クロードの静かな笑み
王都地下。
特務執行官室。
クロードは、
水晶映像を見つめていた。
アーカイアの映像。
条約文。
命令書。
「……なるほど」
静かな声。
「……やはり……
“正義”は……
人を縛るには、脆い」
部下が、恐る恐る尋ねる。
「……閣下……
次は……?」
クロードは、
初めて“楽しそう”に笑った。
「次は――
選ばせます」
「王国が、
“正義を守る国家”であり続けるか」
「それとも――」
指先で、水晶をなぞる。
「秩序を守る国家になるか」
彼は、立ち上がった。
「……舞台は整いました」
◆監視塔跡地──前進
一方。
旧条約都市を離れた俺たちは、
森の外れで足を止めていた。
『主』
エリュシオンが告げる。
『各地で、
精霊の反応が変化しています』
「変化?」
『庇護の“弱体化”です』
『まだ、完全撤回ではありませんが……
王国は、
確実に影響を受け始めています』
リゼが、静かに言う。
「……これが……
効いてる証拠」
エルフィリアは、
空を見上げていた。
「……世界が……
選び始めてる……」
俺は、
彼女の隣に立つ。
「……ここから先は、
もう後戻りできない」
彼女は、
小さく笑った。
「……うん……
でも……
ひとりじゃない」
◆再定義される“正義”
遠く、
王都の塔が見える。
揺らぎ始めた、
王国という巨大な存在。
それを見つめながら、
俺は思う。
(正義は、
与えられるものじゃない)
(……選ばれるものだ)
そして――
選ばせるための戦いが、
今、始まった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
この物語はここで一区切りですが、物語を書く手はまだ止まっていません。
ほかの世界の話もありますので、よければ覗いてみてください。




