第31話 「証拠争奪戦──封鎖都市の追走」
◆封鎖の音
旧条約都市アーカイアに、
重い金属音が響き渡った。
――ガン、ガン、ガン。
「……門が……閉じられた……」
ユリウスが青ざめる。
遠くで角笛。
甲冑の擦れる音。
「包囲完了、だな」
リゼが舌打ちした。
「特務部隊……
しかも統制が綺麗すぎる」
『主』
エリュシオンが告げる。
『この動き……
クロードの指示です』
(……やっぱりな)
◆王国特務部隊
広場に現れたのは、
五名の黒装束。
全員が無言。
魔力の揺らぎすら、最小限。
「……化け物揃いね」
リゼが低く呟く。
隊長格の男が、一歩前へ出る。
「――証拠を引き渡せ」
「抵抗は、推奨しない」
俺は、水晶をしまいながら答えた。
「断る」
即答。
男は眉一つ動かさない。
「なら――
都市ごと消去する」
エルフィリアの目が、鋭くなる。
「……また……
同じことを……」
◆逃走開始
「ユリウス!」
俺は叫ぶ。
「この都市、
まだ“生きてる”場所はどこだ!?」
老人は一瞬迷い、
しかし叫び返した。
「……中央議堂の地下……
精霊と人が共に使った……
共鳴回廊……!!」
「行くぞ!」
瓦礫を蹴り、走る。
背後で、
特務部隊が動いた。
魔術詠唱。
だが――
「……っ?」
足元の精霊紋が、
淡く光る。
エルフィリアが、静かに言った。
「……ここは……
わたしたちの場所」
彼女の声に応じるように、
床が動いた。
壁が、閉じる。
追跡部隊の進路が、
強制的に分断される。
リゼが、目を丸くする。
「……あんた……
まだ、こんなこと……」
エルフィリアは、微笑んだ。
「全部は、できない……
でも……
“道を示す”くらいなら……」
◆共鳴回廊
地下深く。
そこは、
精霊と人が対話するための場所。
『……主』
エリュシオンの声が、
いつもより柔らかい。
『この回廊……
世界樹と直接つながっています』
「つまり?」
『“記録”を、
世界に残せる』
空気が、変わった。
リゼが、ニヤリと笑う。
「……なるほど」
「逃げるんじゃない」
「先に、公開する」
◆クロードの読み違い
その頃。
王都・特務執行室。
クロードは、
報告水晶を見つめていた。
「……逃走経路、
アーカイア中央……?」
一瞬だけ、
表情が変わる。
「……共鳴回廊……?」
指が、止まった。
「……まさか……」
彼は、初めて立ち上がった。
「……通信遮断を――」
だが。
『――遅い』
水晶に、
別の映像が重なった。
◆世界への公開
共鳴回廊の中央。
俺は、水晶記録を台座に置く。
エルフィリアが、
そっと手を重ねる。
「……いま……」
世界樹の波長が、
都市全体に広がる。
王都。
地方都市。
精霊の森。
辺境の村。
同時に――
映像が映し出された。
王国高官の命令書。
条約破棄の署名。
精霊排除の記録。
そして――
アーカイア崩壊の映像。
『精霊の意思は無視せよ』
その言葉が、
世界に響く。
◆追う側が、止まる
特務部隊が、立ち止まった。
通信が、次々と入る。
「……映像が……」
「……全域に……」
「……撤退命令……?」
隊長が、歯を噛みしめる。
「……作戦中止……
引き上げる……」
彼らは、
追う理由を失った。
◆勝利の形
静寂。
共鳴回廊に、
風が通り抜ける。
ユリウスが、
涙を流しながら言った。
「……ようやく……
……消されなかった……」
リゼが、肩を叩く。
「第一ラウンド、
完全勝利だよ」
俺は、深く息を吐いた。
「……いや」
エルフィリアの手を、握る。
「やっと、
スタートラインだ」
彼女は、力強く頷いた。
「……うん」
遠くで、
王都の鐘が鳴った。
それは――
王国の正義が、揺れ始めた音。




