第30話 「消された記録──旧条約都市アーカイア」
◆忘れられた都市
乾いた風が吹く。
石畳の割れた街道の先に、
灰色の都市が姿を現した。
「……ここが……アーカイア……」
かつて――
王国と精霊王国が条約を結んだ都市。
今は、地図からも半ば消されている。
リゼが鼻で笑う。
「公式には
“資源枯渇による自然消滅都市”」
「実際は――
王国による完全封鎖」
門は、固く閉ざされている。
王国章が刻まれ、
立入禁止の封印魔術が張られていた。
『主』
エリュシオンが告げる。
『この封印……
精霊式を流用しています』
「……奪った技術で、
精霊を締め出してる、か」
胸の奥が冷たくなる。
◆内部潜入
「正面突破は無理ね」
リゼが、地下水路を指差す。
「旧都市は、
精霊と人が共存してた」
「……つまり」
「裏口が多い」
崩れかけた排水路を進み、
暗い地下へ。
湿った空気。
微かな魔力の残滓。
エルフィリアが、立ち止まった。
「……ここ……」
床に、
消えかけた精霊紋。
「……わたしの一族の……」
声が、震える。
(……本当に……
全部、消そうとしたんだな……)
◆消された壁画
地下広場。
そこには、
巨大な壁画があった。
だが――
削り取られている。
『解析中……』
エリュシオンの声。
『痕跡から復元可能』
淡い光が走り、
壁画が浮かび上がる。
そこに描かれていたのは――
世界樹の前で、
王と精霊王が誓約を交わす姿。
条約文の一節が、
鮮明に読めた。
「王国は、
精霊の自由意思を侵害せず、
世界樹の均衡を損なわぬことを誓う」
リゼが、低く呟く。
「……真逆のこと、
やってるじゃない……」
さらに下段。
「もしこの誓約が破られた時、
精霊は庇護を撤回し、
王国はその恩恵を失う」
エルフィリアが、
静かに目を閉じた。
「……やっぱり……」
◆生き残り
「誰だ……」
突然、
背後から声。
振り向くと、
白髪の老人が立っていた。
王国の服ではない。
精霊式の装飾。
「……まだ……
来る者がいたとは……」
エルフィリアが、
一歩前に出る。
「……あなたは……?」
老人は、
彼女を見て目を見開いた。
「……その紋章……
まさか……」
膝をつく。
「精霊王家の御方……」
名を名乗った。
「私は、
アーカイア最後の記録官
ユリウス」
彼は、
震える手で奥を指した。
「……見せねばならぬものがある……」
◆隠された記録庫
封印された小部屋。
中には、
水晶記録装置が並んでいた。
だが多くは、
破壊されている。
ユリウスが語る。
「王国は……
条約を破った……」
「精霊を
“管理対象”に変え……
反発した者を、
都市ごと……」
言葉が、
続かなかった。
エルフィリアが、
そっと手を置く。
「……ありがとう……
守ってくれて……」
ユリウスは、
涙を流した。
「……ようやく……
意味が……あった……」
◆第一の証拠
唯一無傷の水晶。
中には――
王国高官の署名付き命令書。
「精霊の意思は無視せよ。
条約は、
すでに“時効”である」
リゼが、息を呑む。
「……これ……
致命傷だよ」
俺は、静かに頷いた。
「一つ目、取ったな」
◆迫る影
だが、その時。
『主!!』
エリュシオンが警告。
『王国の追跡部隊……
この都市に入ります!!』
ユリウスが、震える声で言う。
「……来た……
また……消しに……」
俺は、剣を握った。
「……逃げるぞ」
リゼが笑う。
「いいね……
証拠持って、
追われる展開」
エルフィリアは、
胸元の紋章を握る。
「……もう……
隠れない」
瓦礫の向こうで、
甲冑の音が響いた。
旧条約都市アーカイアでの戦いは――
まだ、終わらない。




