第29話 「失われた光、残された決意」
◆静寂の朝
朝日が昇る。
崩れた監視塔の跡地には、
風の音だけが残っていた。
俺は、焚き火の前で目を覚ます。
「……ここは……」
身体は重い。
だが、致命傷はない。
「リオ……」
かすれた声。
振り向くと、
エルフィリアが毛布に包まれて座っていた。
顔色は悪くない。
だが――
(……違和感がある)
『主……
冷静に聞いてください』
エリュシオンの声が、
いつもより低い。
『エルフィリアは――
世界樹の心核の“出力制限”を自らかけました』
「……制限?」
『はい。
本来、彼女は“世界樹そのもの”と同調する存在』
『ですが昨夜、
自ら“完全同調”の回路を断ちました』
胸が、嫌な音を立てた。
「……それって……」
『もう――
以前のような奇跡は起きません』
◆代償の正体
エルフィリアは、
小さく微笑んだ。
「……やっぱり……
分かるよね……」
彼女は、胸元の紋章に触れる。
以前のような、
眩しい輝きはない。
穏やかで、
静かな光。
「……もう……
“世界を癒す姫”じゃない」
「……ただの……
精霊の女の子」
俺は、言葉を失った。
(……俺を守るために……
そこまで……)
「……後悔、してる?」
問いかけると、
彼女は、はっきり首を振った。
「ううん」
そして、
まっすぐ俺を見る。
「だって……
わたしが選んだ」
「誰かに決められるより……
ずっと、いい」
胸が、締めつけられる。
◆力だけでは、勝てない
リゼが、崩れた石に腰掛けて言った。
「……正直言うね」
「クロードには、
正面からは勝てない」
「勇者より厄介。
あれは“個人”じゃない」
「国家システムそのもの」
俺は、頷いた。
(……実感した)
剣を強くしても、
魔力を増やしても、
“法律”には勝てない。
『主』
エリュシオンが、
一つの映像を投影する。
古い文書。
「……これは?」
『旧精霊王国と王国が交わした
未公開条約です』
「未公開……?」
『はい。
王国が“精霊を保護対象”とした根拠』
『同時に――
王国が精霊王国に負う、
重大な義務が記されています』
リゼが、目を見開く。
「……まさか……」
◆王国が隠している“弱点”
エリュシオンが続ける。
『この条約には、
破棄条件が存在します』
『もし王国が――
精霊の意思を無視し、
世界樹の均衡を損なった場合』
『王国は、
“精霊の庇護”を失う』
空気が、
変わった。
「……庇護、って……」
リゼが、息を呑む。
「……農地……
天候……
魔力循環……」
「……全部……
精霊依存……」
エルフィリアが、
静かに言った。
「……王国は……
“守ってる側”じゃない」
「……守られてる側」
俺は、
ゆっくり立ち上がった。
(……見えた)
剣じゃない。
力でもない。
王国が最も恐れるもの。
◆新たな戦い方
「……やることは、一つだな」
リゼが、ニヤッと笑う。
「王国の“正義”を
正面から壊す?」
首を振る。
「違う」
「王国が正義でいられなくする」
エルフィリアが、
少し驚いた顔で見る。
「……それって……」
「王国が条約を破った事実を、
世界に示す」
「法と法で殴る」
エリュシオンが、
静かに告げた。
『主。
その道は……
時間がかかります』
『しかし――
最も確実です』
俺は、
エルフィリアの手を取った。
「もう、
君を犠牲にしない」
「次は――
俺が選ぶ番だ」
彼女は、
少し照れたように笑った。
「……うん」
◆次なる舞台
リゼが、外套を翻す。
「じゃあ行こうか」
「証拠集めの旅」
「精霊の地、
旧条約都市、
世界樹の外縁……」
「王国が“見なかったことにした場所”を、
一つずつ」
俺は、剣を背負い直す。
「戦争じゃない」
「裁判だ」
朝日が、
三人を照らす。
敗北の先に、
初めて見えた――
勝利への道。




