第28話 「特務執行官クロード──完全なる支配」
◆戦場に立つ“国家”
クロードが一歩、踏み出した。
それだけで――
世界が変わった。
風が、止まる。
魔力の流れが、消える。
『……主……』
エリュシオンの声が、
かすかに揺らぐ。
『周囲の魔力が……
“上書き”されています』
(上書き……?)
クロードは静かに言った。
「ここは、もうあなたの世界ではありません」
指を鳴らす。
その瞬間、
監視塔の周囲に透明な壁が展開された。
「――《王権干渉領域》」
リゼが顔色を変える。
「……嘘……
それ……
国家級権限魔術……!」
クロードは淡々と続ける。
「王国法・第七十二条。
“国家存亡に関わる案件において、
特務執行官は周辺領域を
一時的に王国領として再定義できる”」
「つまり――」
彼は、俺を見る。
「この場において、
私の命令は“法律”です」
◆勇者を超える力
俺は剣を抜いた。
世界樹の加護が、
いつもより重い。
(……効きが、悪い……)
クロードは一切構えない。
ただ、言った。
「跪きなさい」
――ドン。
圧力が、来た。
膝が、
勝手に沈みかける。
「っ……!!」
エルフィリアが叫ぶ。
「やめて!!
クロード!!」
クロードは彼女を見ない。
「精霊姫。
あなたは“対象外”です」
「王国は、
あなたを傷つけません」
視線が、俺に戻る。
「――彼を除いては」
俺は歯を食いしばり、
立ち上がろうとする。
『主……
この領域では……
世界樹の加護すら
減衰しています』
(……クソ……
正面からじゃ……勝てない)
◆完全なる制圧
クロードが、手を上げた。
「拘束」
見えない鎖が、
四肢に絡みつく。
「ぐっ……!!」
地面に叩きつけられ、
肺から空気が抜けた。
(……動け……!)
だが、
身体が言うことを聞かない。
クロードは、
無感情に言い放つ。
「あなたは、
優秀すぎました」
「力も、思想も、
国家にとって不都合だ」
「だから――
排除します」
剣を、
拾い上げる。
(……ここで……終わるのか……?)
◆エルフィリアの悲鳴
「やめてぇぇぇ!!」
エルフィリアが、
俺の前に飛び出した。
「それ以上やったら……
わたし……!!」
クロードの手が、止まる。
初めて――
彼の表情に、揺らぎが走った。
「……エルフィリア様……
それは……」
彼女は、
胸元の紋章を強く握る。
涙を浮かべ、
しかし、逃げなかった。
「わたしは……
選びます」
「王国の“保護”じゃない」
一歩、前へ。
「リオと、生きる未来を」
その瞬間――
世界樹の紋章が、
強く、強く輝いた。
◆覚悟の代償
『……主……』
エリュシオンの声が、震える。
『エルフィリアが……
心核を、解放しようとしています』
(心核!?
そんなことしたら……!!)
クロードが、
初めて焦った声を出した。
「やめろ!!
それは……
戻れなくなる!!」
エルフィリアは、
静かに微笑んだ。
「……いいの」
「だって……
守りたい人がいるから」
光が、
領域を満たす。
王権干渉領域に、
ヒビが入った。
クロードが、後退する。
「……まさか……
そこまで……」
俺は、
震える身体を叱咤し、
叫んだ。
「エルフィリア!!
やめろ!!
俺は……
俺はまだ……!!」
彼女は、
振り返らずに言った。
「リオ……
次は……
あなたが……選んで」
光が、
爆ぜた。
◆引き分けという名の敗北
次の瞬間。
監視塔の周囲は、
更地になっていた。
クロードは、
距離を取って立っている。
息が、乱れている。
「……今日は、退きます」
「だが――
これは、終わりではない」
彼は、静かに告げた。
「王国は、
あなたを“危険因子”として
正式に認定しました」
視線が、俺に刺さる。
「次は――
全力で潰します」
クロードの姿が、
闇に溶けた。
◆残されたもの
地面に崩れ落ちる俺。
「……くそ……
負けた……」
エルフィリアが、
倒れ込むように俺のそばに来た。
意識は、ある。
だが――
胸元の紋章が、
以前より“静か”だ。
『主……
エルフィリアは……
もう、以前の精霊姫ではありません』
(……それでも……)
俺は、彼女の手を握る。
「……絶対……
取り戻す……」
彼女は、
かすかに笑った。
「……うん……」
空は、
どこまでも青かった。
だが、
戦いは――
次の段階に入った。




