第27話 「反撃の布告──王国、最後の切り札」
◆沈黙のあとに来るもの
精霊姫の声明から、三日。
王都は――
不気味なほど静かだった。
否定もない。
謝罪もない。
説明もない。
ただ、
重い空気だけが街を覆っている。
「……嵐の前の静けさ、だな」
旧精霊監視塔の展望台で、
俺は王都の方角を見つめていた。
リゼが苦い顔で言う。
「王国はね。
言葉で勝てない時、
“法”と“武力”を持ち出す」
エルフィリアが静かに尋ねる。
「……来るの?」
リゼは即答した。
「来るよ。
しかも――
公式に」
その瞬間だった。
エリュシオンの声が割り込む。
『主。
王都より、
国家通達魔導文を検知』
(来たか……)
◆王国の布告
空中に、
巨大な魔導文字が展開される。
王国章。
国王の認証印。
そして――
冷たい文言。
【王国布告】
精霊姫エルフィリア・エルダリアは
王国と精霊王国の同盟に基づき、
保護対象とする。
現在、姫を連れ歩く者
リオ・アルセインを
国家反逆罪および誘拐容疑で指名手配する。
抵抗した場合、
武力制圧を許可する。
沈黙。
そして――
リゼが吐き捨てるように言った。
「……出た。
“保護”という名の拉致」
エルフィリアの手が、震えた。
「……わたしの……
意思は……?」
俺は、はっきり答えた。
「無視された」
(最初から、そのつもりだったんだ)
◆勇者の“降格”
だが、布告はそれだけでは終わらなかった。
続けて、
別の文書が表示される。
【追加通達】
勇者カインは
先の独断行動により、
前線指揮権を一時停止する。
以後の対処は、
特務執行官が行う。
「……っ!!」
遠く王都で、
何かが壊れる音がした気がした。
リゼが目を細める。
「勇者を切った……
でも――
切り札は、別にある」
◆現れる“特務執行官”
その夜。
監視塔の周囲に、
違和感が走った。
風が止み、
虫の声が消える。
『主……
周囲の魔力反応が……
消えています』
(消えてる?)
次の瞬間。
拍手の音が、
闇の中から響いた。
「――お見事」
森の影から、
一人の男が姿を現す。
黒い外套。
整った顔立ち。
無表情な瞳。
「精霊姫の声明……
実に、見事だった」
エルフィリアが、息を呑む。
「……クロード……」
男は、ゆっくりと頭を下げた。
「お久しぶりです。
エルフィリア様」
リオへ視線を向ける。
「そして――
はじめまして、リオ・アルセイン」
「王国特務執行官
クロード・ルミナスです」
リゼが低く呟いた。
「……最悪の肩書きだ」
◆歪んだ正義の顔
クロードは、穏やかに微笑む。
「王国は混乱しています。
民衆は迷い、
勇者は信頼を失った」
「だからこそ――
秩序が必要だ」
エルフィリアが叫ぶ。
「秩序のために……
人の心を踏みにじるの!?」
クロードは、少しだけ眉を下げた。
「……心は、
秩序の前では贅沢です」
俺は、剣に手をかけた。
「つまり――
話し合う気は、ない」
クロードは頷いた。
「ありません」
一歩、前へ。
「私は、
王国の決定を執行するだけ」
その瞬間。
空気が、凍りついた。
◆選択の時
エリュシオンが、静かに告げる。
『主。
この男……
勇者より、危険です』
リゼが歯噛みする。
「……クロードはね……
勝てる戦いしかしない」
クロードは、淡々と言った。
「選択肢は二つ」
「精霊姫を引き渡すか」
視線が、
エルフィリアに向く。
「――王国と、全面戦争をするか」
沈黙。
俺は、
一瞬も迷わなかった。
「……答えは一つだ」
エルフィリアの手を、強く握る。
「誰にも渡さない」
クロードの口元が、
わずかに歪んだ。
「……そうですか」
「では――
敵と認定します」
闇が、彼の足元から広がる。
次の瞬間――
世界が、戦場に変わった。




