第26話 「語られる真実──精霊姫の声明」
◆静かな準備
旧精霊監視塔の最上階。
古い通信魔導陣が、
淡い緑光を帯びて起動していた。
「……本当に、これでいいの?」
エルフィリアは、
少しだけ不安そうに呟く。
俺は隣に立ち、頷いた。
「大丈夫だ。
嘘は言わない。
事実だけだ」
リゼが腕を組み、淡々と言う。
「この魔導陣、
“王都の公共掲示板”と
“各地の精霊祭壇”に同時接続してる」
「つまり――
消せない。
誤魔化せない」
エリュシオンが静かに補足する。
『世界樹の波長で認証されています。
偽りは、そもそも通りません』
エルフィリアは、
胸元の紋章に手を当て、深呼吸した。
「……わたしが話します」
「精霊王国の王女としてではなく――」
一歩、前へ。
「ひとりの精霊として」
魔導陣が、強く輝いた。
◆精霊姫の声
王都。
市場の中央掲示板。
突如、
空中に光の像が浮かび上がった。
「……え?」
「誰だ……?」
ざわめきの中、
澄んだ声が響く。
『聞こえますか……
王国の皆さん』
現れたのは、
銀髪の少女。
「……精霊姫……?」
誰かが、息を呑む。
『わたしは、
エルフィリア・エルダリア』
『精霊王国の王女であり――
世界樹の意思を継ぐ者です』
王都が、静まり返った。
◆否定できない事実
『まず、伝えます』
エルフィリアは、
まっすぐ前を見つめて言った。
『わたしは――
連れ去られていません』
ざわ、と空気が揺れる。
『自らの意思で、
リオと共にいます』
『彼は、
わたしを救い、
守り、
選択を委ねてくれました』
映像が切り替わる。
森で倒れていた自分。
紋章の傷。
治癒の光。
『そして……』
声が、少しだけ震えた。
『勇者カインは、
精霊の森で
禁じられた聖域を展開しました』
聖域の光。
枯れかける木々。
苦しむ精霊たち。
王都が、どよめく。
『あの力は、
精霊にとって“毒”です』
『わたしは――
命の危機を感じました』
沈黙。
否定できない映像。
否定できない本人の証言。
◆民衆の変化
「……嘘じゃ、なさそうだな……」
「姫様が……
あんな顔で話す理由が……」
「勇者様……
あれ、本当に正義だったのか……?」
人々の声は、
少しずつ変わっていく。
疑念。
動揺。
そして――理解。
◆勇者の孤立
王都・訓練場。
魔導通信を見つめ、
カインは唇を噛みしめていた。
「……違う……
あれは……
浄化だった……」
だが、
周囲の騎士たちの視線が、
明らかに変わっている。
「……カイン様……
本当に……?」
「……森が、
あんなふうになるなんて……」
誰も、
擁護の言葉を口にしない。
カインは、初めて理解した。
(……俺……
ひとりだ……?)
拳が、震えた。
◆声明の締め
再び、エルフィリアの声。
『最後に……』
『わたしは、
誰かを糾弾するために
話したのではありません』
『ただ――』
穏やかな、しかし強い声。
『選ぶ権利は、
誰にでもある』
『力や正義の名のもとに、
それを奪うことは――
許されません』
光が、ゆっくりと消える。
◆静かな勝利
監視塔。
通信が終わり、
静寂が戻った。
リゼが口笛を吹く。
「……完璧。
王国、
今すぐ動けないね」
「否定すれば、
“姫の言葉を否定した”ことになる」
俺は、エルフィリアを見る。
「よくやった」
彼女は、少し照れたように笑った。
「……怖かったけど……
でも……
逃げなかった」
胸元の紋章が、
穏やかに輝く。
エリュシオンが告げる。
『主。
王国の“正義”は、
今――揺らいでいます』
『次に動くのは……
必ず、向こうです』
俺は、遠く王都の方角を見た。
「来るなら来い」
「今度は――
隠させない」




