第22話 「歪んだ正義の刃──勇者カイン、完全暴走」
夜明け前の森。
焚き火の残り火が、静かに赤く燻っていた。
エルフィリアは眠っている。
小さく丸まり、俺の外套を掴んだまま。
(……少しは休めたか)
その時だった。
――――ズン。
胸の奥が、嫌な予感に震えた。
エリュシオンの声が、低く響く。
『主……来ます。
しかも……“勇者本人”です』
(本人って……)
次の瞬間。
森の奥が、光で裂けた。
◆禁じ手──勇者の聖域展開
「逃げ場はないぞ、リオォォ!!」
轟く怒声。
木々を薙ぎ倒しながら現れたのは、
勇者カイン。
その全身を包むのは、
異様に膨れ上がった“聖属性魔力”。
明らかに――過剰だ。
アイナが後方で叫ぶ。
「カイン様、やめて!!
それは王都許可が必要な――!」
だが、もう遅い。
カインは剣を地面に突き立てた。
「《聖域展開》!!」
――ドンッ!!
光の衝撃波が広がり、
半径数百メートルの森が一瞬で**“白く染まった”**。
空気が変わる。
重い。
圧がある。
『主……
これは“簡易聖域”。
勇者専用の禁じ手です』
(禁じ手を、森のど真ん中で!?)
エルフィリアが目を覚ました。
「……っ!?
なに……この……息が……」
彼女は苦しそうに胸を押さえる。
『姫は精霊属性。
この聖域は……
精霊にとって“毒”です!!』
(……やりやがったな)
◆「正義」の名の暴力
カインは光の中心に立ち、叫ぶ。
「聞け、リオ!!
この聖域は“勇者の正義”だ!!
ここでは俺が絶対!!
お前の力も、姫の加護も、全部封じられる!!」
実際――
世界樹の感応が、鈍っている。
(……確かに、効いてる……!)
カインは、歪んだ笑みを浮かべた。
「さぁ姫!
その男から離れろ!!
俺が……
俺だけが、お前を守れる!!」
エルフィリアが震える声で答える。
「……やめて……
カイン……
あなたの“正義”……
苦しい……」
だが、カインは聞かない。
「苦しい?
それは“浄化”だ!!
闇に触れた証拠だ!!」
(……完全に狂ってる)
後方で、グラッドが叫ぶ。
「カイン!!
それ以上やったら……
森の精霊が全部死ぬぞ!!」
「知るか!!」
その一言で、
すべてが終わった。
◆リオの決断
エルフィリアが、膝をついた。
「……リオ……
息が……」
その瞬間。
何かが、
プツンと切れた。
(……ああ)
俺は、ゆっくり立ち上がった。
怒りでも、焦りでもない。
冷たい決意。
「エリュシオン」
『……はい、主』
「もういい。
王国は――
敵だ」
その言葉に、
エリュシオンは一瞬、沈黙し。
『……了解しました。
“対王国戦闘モード”へ移行します』
(最初からそれで良かったな)
俺は一歩、前へ出る。
「カイン」
勇者は勝ち誇った顔で笑う。
「ようやく戦う気になったか!!
遅いんだよ、リオ!!」
俺は、静かに言った。
「お前は“正義”を名乗った。
だから――」
剣を、構える。
「俺は“守る側”として、お前を止める」
聖域の中で、
世界樹の紋章が――微かに輝いた。
エルフィリアが、弱々しくも叫ぶ。
「……リオ……
わたし……
あなたを……信じてる……」
その言葉が、
力になった。
聖域の圧力を、
一瞬だけ――押し返す。
カインの目が見開かれた。
「な……
聖域の中で……動ける……だと!?」
「勘違いするな」
俺は、踏み込む。
「これは“勇者と悪の戦い”じゃない」
剣が、光を裂く。
「歪んだ正義を、止めるだけだ」
二人の刃が、激突した。




