第21話 「王国軍包囲──勇者追撃戦」
夜空に冷たい風が吹く。
精霊王都エルダリアの外縁、
崩れかけた森の斜面を、俺たちは全力で駆けていた。
「リオ……後ろ……!」
振り返ると──
闇の向こうに、無数の松明の光。
王国軍。
数は……多い。
軽く見積もっても百は下らない。
(完全に包囲網張ってきやがったな……)
エリュシオンが警告を飛ばす。
『主、正面に騎士団主力。
右手に魔術部隊、左に斥候。
このまま直進すれば挟撃されます』
「回避ルートは?」
『北東、断崖沿い。
危険ですが……唯一“網が薄い”』
「行くぞ!」
俺はエルフィリアの手を引き、進路を切り替えた。
◆追撃する勇者
その頃、王国軍先頭。
「逃がすな!!
姫と“黒髪の少年”を確保しろ!!」
怒号を上げるのは、
勇者カイン。
顔は歪み、目は血走っている。
「……くそっ……
なんで……
なんであいつが……姫の隣に……!!」
アイナが叫ぶ。
「カイン様!
追い込みすぎです!
この地形、危険すぎます!!」
「黙れ!!
俺が勇者だ!!
俺が正しい!!」
グラッドは嫌な予感を覚えていた。
(……これ……
“姫の救出”じゃねぇ……
ただの意地だ……)
◆断崖の逃走
断崖沿いの獣道は、
人一人がやっと通れるほど狭い。
下を見れば、真っ暗な谷。
エルフィリアの足が震える。
「だ、大丈夫……?」
「俺がいる。
落ちない」
ぎゅっと手を握ると、
彼女は小さく頷いた。
だが──
「いたぞ!!
あそこだ!!」
松明の光が近づく。
魔術師が詠唱を始めた。
「炎よ──」
(撃ってくる!!)
「伏せろ!!」
次の瞬間、
炎弾が岩肌を抉り、爆ぜた。
衝撃で足場が崩れる。
「っ!!」
俺は即座にエルフィリアを抱き寄せ、
世界樹の加護を展開。
緑の光が衝撃を相殺する。
『主、時間を稼ぐ必要があります!』
(分かってる!!)
俺は片手で地面に剣を突き立て、
地脈に魔力を流し込んだ。
「……起きろ!」
地面から蔦が伸び、
簡易の障壁を形成する。
王国軍の進軍が一瞬止まった。
「なっ……!
地形操作だと!?」
その隙に、俺たちは斜面を滑り降りた。
◆夜の森、静寂へ
追撃の気配が薄れたのは、
森を三つ越えた頃だった。
俺は息を整え、
ようやく足を止める。
「……ここまで来れば……
少しは大丈夫だな」
エルフィリアは座り込み、
小さく息を吐いた。
「……はぁ……
生きてる……」
思わず笑いがこぼれる。
「だな」
火を起こすと、
夜の森が静かに揺れた。
◆野営──二人きりの時間
焚き火の前。
エルフィリアは膝を抱え、
炎を見つめていた。
「……ねぇ、リオ」
「ん?」
「さっき……
みんなが……
わたしを取り合うみたいに戦ってて……
怖かった」
声が震えている。
俺はゆっくり答えた。
「……でもな。
選ぶのは、いつだってお前だ」
彼女は驚いたように顔を上げる。
「誰かに守られる存在じゃない。
エルフィリアは、エルフィリアだ」
少し間があって──
彼女は、泣き笑いの顔で言った。
「……ありがとう……
その言葉……
ずっと、欲しかった……」
焚き火がパチ、と弾ける。
距離が、自然と近づいた。
エルフィリアは、そっと俺の肩に寄りかかる。
「……リオ……
これから……
どうなるの……?」
俺は夜空を見上げた。
「王国は敵に回った。
クロードも、カインも……
まだ終わってない」
そして、はっきりと言う。
「でも──
正義が歪んでるなら、
俺たちが正す」
エルフィリアは、小さく微笑んだ。
「……うん。
わたし……
リオと一緒なら……
怖くない」
その言葉に、
胸の奥が熱くなる。
静かな夜。
だが、遠くで再び角笛が鳴った。
追撃は──
まだ、終わっていない。




