第19話 「迷宮の中心──歪んだ愛と勇者の乱入」
虚霧迷宮の中を走る。
通路はねじ曲がり、
壁には黒い“呪花”が咲き乱れ、
近づくだけで魔力を吸おうと蠢いていた。
エリュシオンの声が焦りを含む。
『主、迷宮の中心が近いです。
クロードの“本体”がそこにいるはず』
(……エルフィリアを泣かせたヤツ。
絶対許さない)
俺は手を強く握り、エルフィリアを引いた。
「怖くても、離れるな!」
「……うん!」
その時だった。
ズズッ……
地面が突然蠢き、
黒い手のような影が伸びてきた。
「うわっ!」
『主、足下!!』
俺はエルフィリアを抱き上げて跳び、
手の影を避けた。
直後、影は地面に吸い込まれ、
“クロードの声”が響く。
「エルフィリア……
君は僕のものなのに……
どうして、その男に触れさせるの……?」
エルフィリアが震える。
俺は激怒した。
「おい、クロード。
お前の“もの”じゃない。
エルフィリアは……
お前の所有物じゃない!!」
数秒の沈黙。
そして──
「……あは……あはは……」
狂気じみた笑い声が、
迷宮全体に響いた。
◆迷宮の中心──“歪んだ騎士”の姿
開けた中央広間に出る。
そこには──
かつて“精霊姫の側近”だった男の成れの果てがいた。
全身に黒い呪符が貼られ、
髪は白く、
瞳は紅く濁り、
背中から無数の呪霧が漏れ出している。
クロード・ルミナス。
もはや“人”と呼んでいいのか分からないほどに、
姿形は歪んでいた。
しかし──
エルフィリアが彼を見る眼差しは、
悲しみ一色だった。
「クロード……
どうしてこんな姿に……」
クロードは一瞬だけ涙を流した。
だがその涙は、
すぐに黒い霧に変わって蒸発した。
「……エルフィリアを……
守りたかった……守りたかっただけなんだ……
だけど……君は……僕より……その男を……!」
俺のほうを見た瞬間、
クロードの表情が歪みきった。
「リオォォォォォォ!!!」
黒い槍が四方に生まれる。
(来た!!)
エリュシオンが叫ぶ。
『主、防御を!!』
俺は世界樹の加護を展開。
緑の光が反射して槍を弾いた。
クロードが吠える。
「その加護も……その力も……全部僕のはずだった!!
お前さえいなければ……!!」
(……これ、本当に嫉妬で狂ってるやつだ)
エルフィリアは涙を落としながら叫ぶ。
「クロード……!
お願い、もうやめて!!
わたしは、あなたを助けたいだけ!!」
クロードの動きが一瞬止まる。
その刹那。
「……じゃあ……僕を見てよ。
ずっと……ずっと……僕だけを……!!」
黒い触手がエルフィリアへ向かう。
「なっ──エルフィリア!!」
『主、使ってください!!』
エリュシオンの声が響き、
俺の右手に光が宿る。
世界樹の加護“治癒”の光。
「行かせねぇよ!!」
俺は触手を掴み、
逆に光を流し込んだ。
黒い触手が悲鳴を上げ、砕け散る。
クロードは錯乱して叫ぶ。
「やめろォォ!!
エルフィリアは……僕の……僕だけの……!!」
「違う!!」
エルフィリアが叫ぶ。
涙を流し、震えながら。
「わたしは“もの”じゃない!!
誰のでもない!!
わたしは……わたしは……
リオと……一緒に生きたいの!!」
広間が静まり返る。
クロードは目を見開き、
崩れ落ちた。
「……エル……フィ……リア……?」
その瞬間。
迷宮全体が激しく揺れた。
◆勇者乱入──三つ巴の地獄
轟音とともに壁が砕ける。
「見つけたぞ──リオォォ!!」
勇者カインが突っ込んできた。
(来たぁぁぁぁ!!!
今一番来てほしくないやつ!!!)
アイナ、グラッド、ラミアも続く。
エルフィリアが叫ぶ。
「勇者……? どうしてここに……!」
カインはリオを指差して吠える。
「リオ!!!
お前が……姫を連れ去り……
虚魔王まで倒したって噂は本当だったんだな!!
お前だけが目立つ世界なんて……許せないッ!!」
(嫉妬が二人に増えたんだけど!?
なんだこの地獄!?)
クロードが呻きながら立ち上がる。
「やめろ……
エルフィリアは……僕の……」
カインが剣を向ける。
「なんだてめぇは!?
姫に触れるな、“化け物”!」
(状況最悪だろこれ!!)
エリュシオンが警告する。
『主、このままでは“エルフィリアの心”が壊れます!
あなたが止めなければ!!!』
見ると、
エルフィリアは胸元を押さえ、
呼吸が乱れ、
涙が止まらず震えていた。
「どうして……
クロードまで……リオまで……勇者まで……
どうして……みんな戦うの……
どうしてわたしのせいで……!」
(まずい!!
このままだと──!)
『主!!
エルフィリアの精神が“虚無属性”に傾きます!!
世界樹の加護すら暴走します!!』
(やばい!!!)
俺は叫んだ。
「エルフィリア!!
大丈夫だ!!
俺が、絶対に守る!!
誰にも、お前を奪わせない!!」
エルフィリアの目が震え、
俺の名前を呼ぶ。
「り……リオ……」
広間の空気が光に包まれる。
だが。
その光の中で──
カインとクロードが同時に叫んだ。
「姫を離せぇぇぇ!!」
「エルフィリアは僕のだァァ!!」
(……地獄の三つ巴開幕だな……)
広間が爆音と光で満たされ、
激突の幕が上がった。
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