第18話「クロードの罠──迫る勇者パーティ、脱出の刻」
虚魔王が消え、
精霊王と王妃が眠りについた玉座の間。
黒い霧は薄まりつつあったが、
エルダリア全体にはまだ“虚魔の毒”が満ちている。
エリュシオンが警告する。
『主、長居は危険です。
この王都は今も“呪詛の残滓”に満ちています』
俺も肌がひりつくのを感じていた。
「エルフィリア、行こう。
ここは……もう危ない」
「うん……」
彼女は涙で濡れた頬を拭い、
決意の色を宿した瞳で立ち上がった。
──その時。
ズズッ……
玉座の間の奥、
暗がりの通路から“黒い花弁”のような霧が舞い散る。
エリュシオンの声が鋭くなる。
『主……これは“呪詛式”です!
誰かが設置した罠……!』
(誰って……一人しかいないだろ)
エルフィリアの表情が強張る。
「クロード……!」
◆仕組まれた罠──“虚霧迷宮”
霧が一気に広がり、
玉座の間全体を覆っていく。
通路の奥から、
囁き声が響く。
「……エルフィリア……逃げるの……?」
声は男の声。
だが、壊れたような響き。
エルフィリアが震える。
「クロード……返事して!
どうしてわたしを裏切ったの……!?」
しかし返ってきたのは、
答えではなく呪いの呟き。
「君を……守るために決まっているだろう……
でも……もう遅いよ……」
その瞬間、霧が形を変えた。
広い玉座の間が歪み、
床が黒く融け、
壁がねじれ、
通路がいくつも枝分かれしていく。
『主!!
“虚霧迷宮”です!
クロードが精霊宮殿を“迷宮化”しています!
このままだと永遠に閉じ込められます!!』
(完全にゲームのダンジョンギミックじゃねぇか!!)
エルフィリアは泣きそうな声で叫ぶ。
「クロード!!
お願い……姿を見せて……
何があったのか……ちゃんと話したい……!」
沈黙。
そして、
ゆっくりと、狂気を孕んだ声が返ってくる。
「君は……僕を“選ばなかった”。
幼い頃から、ずっと……そばにいたのに……
ずっと……ずっと……君だけを見ていたのに……」
(……こいつ……)
エリュシオンが低く言う。
『主。
精神侵食を受けています。
虚魔王に“力を与えられた”影響でしょう』
エルフィリアの顔が絶望に染まる。
「クロード……そんなの……違う……!」
だがクロードの声は続けた。
「エルフィリア……
君は“世界樹の子”なんかじゃなくて……
“僕が守る姫”でいてくれればよかった……」
言葉と同時に、
虚霧迷宮はさらに複雑化し始めた。
◆迫る追手──勇者パーティの足音
そのころ、
エルダリア国境付近。
勇者カインが地面を斬り裂きながら進んでいた。
「“黒髪の少年”……
絶対に見つけ出す!!」
アイナが言う。
「魔力痕跡が濃いわ……
虚魔王と戦った場所……すぐそこよ」
ラミアも震える。
「リオ……いるの……?」
グラッドが呟いた。
「あいつ……なんか……
とんでもない存在になってそうだよな……」
カインが怒りで剣を握る。
(リオ……
お前が“勇者”より目立つなんて……
許せない……!)
彼らの進行方向は間違いなく“王都”。
そして迷宮の罠がある場所へと向かっていた。
◆迷宮化する王都──脱出戦開始
俺たちは虚霧の中へ足を踏み入れた。
道は三つに分かれている。
左は黒い霧が濃い。
右は風が吹いている。
中央は静かで不気味だ。
エリュシオンが分析する。
『主、左は“死”。
右は“罠”。
中央が唯一の“生還ルート”です』
(そういうのは早く言え!!)
エルフィリアの手を握り、
中央の通路へ駆け込んだ。
だが、その瞬間──
ガシャンッ!!
黒い霧が背後で壁となり、道を塞いだ。
クロードの声が再び響く。
「エルフィリア……
君を逃がすつもりは……ないよ」
エルフィリアが歯を食いしばる。
「クロード……
どうして……どうしてこんなことを……!」
「全部……君のためなのに……」
エリュシオンが低く告げる。
『主。
クロードは精霊姫を“所有物”として見ています。
救うには……覚悟が必要です』
(……マジかよ)
エルフィリアは涙をこらえきれず言った。
「お願い、リオ……
クロードを……助けたい……」
俺は彼女の手を強く握った。
「助けるさ。
ただし──まずは止める。
絶対に、エルフィリアを傷つけさせない」
彼女は小さく頷いた。
その時だった。
前方の霧が裂け──
“黒い槍”が高速で飛んできた。
「危ない!!」
俺はエルフィリアを抱き寄せ、
槍をギリギリで回避した。
壁に突き刺さった槍が黒い花の形に変わり、
低く囁く。
「帰っておいで……エルフィリア……
僕だけの……姫君……」
エルフィリアは震えながらも、
俺の背に隠れた。
「違う……
わたしは……リオと一緒に行く……!」
その言葉に、
霧の中のクロードの気配が大きく揺れた。
怒りとも、狂喜ともつかない歪んだ気配が。
(……クロード……
完全に壊れかけてる)
エリュシオンが緊急警告を出す。
『主!!
“迷宮の中心”で巨大な魔力反応!!
クロードが呪術式を発動します!!』
(まずい……!
ここで立ち止まったら完全に閉じ込められる!!)
「エルフィリア、行くぞ!!」
俺たちは霧の迷宮へと走り抜けた。
その背後に──
勇者パーティの気配が急速に迫っていた。
大きな交錯は、もう目前だ。
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