第15話「虚魔王第二形態──精霊王の歌、覚醒」
黒い宮殿全体が、
“巨大な心臓”のように脈打ち始めた。
虚魔王が黒霧の中から歩み出る。
その姿は──
もはや“人の形”ではなかった。
漆黒の翼。
三つの瞳。
体の中心に“虚魔紋章の核”。
背中にひしめく触手は、
生き物のように蠢いている。
圧倒的な魔力が吹き荒れ、
宮殿の床が軋む。
エルフィリアが息を呑む。
「……こんなの……
勝てるわけ、ない……!」
『主! 姫を下がらせてください!
この霧の濃度、致死レベルです!!』
(分かった!)
俺はエルフィリアの肩を押し、後方へ下げる。
「エルフィリア、絶対にここから動くな!」
「で、でも……リオ一人じゃ……!」
「俺が勝つ。それだけだ!」
彼女は唇を噛み、強く頷いた。
──その瞬間。
虚魔王が消えた。
(……どこだ!?)
たった一瞬の間。
次の瞬間──
「後ろだ」
背後から声がした。
「っ──!!」
振り返る間もなく、
虚魔王の腕が俺の腹部を貫こうとしていた。
『主!! 斜め上へ跳躍!!』
(うおおおおおおっ!!)
紙一重。
マジで紙一重で逃げた。
虚魔王は、つまらなそうに指を鳴らした。
「反応は悪くない。
だが──“力”が足りぬ。」
そして腕を振った。
黒い刃が空を裂き、
俺の身体を吹き飛ばす。
「ぐっ……!!」
壁に叩きつけられた。
肺から空気が抜ける。
(……やばい。
第一形態とは比べ物にならねぇ……!!)
『主、冷静に!
第二形態は“核が二つ”あります!』
(核が二つ!?
そんなボスゲームでもやらねぇよ!!)
虚魔王はゆっくりと歩み寄る。
「お前の力──美しいが、まだ未完成だ。
世界樹の子よ。
その力をすべていただこう」
(やばい、本気で魔力吸われる……!)
『主! 落ち着いてください!!
今は耐えるしか……』
でも、耐えられない。
虚魔王の魔力圧は、
身体の奥まで侵食してくる。
視界が揺らぐ。
(負ける……?)
その瞬間だった。
──風が吹いた。
優しく、だが確実に俺の前へ流れ込む風。
そして、その風の中心で──
エルフィリアが立っていた。
◆エルフィリアの血が暴走する
「リオに……
触らないでぇぇぇぇぇ!!」
叫びと同時に、
エルフィリアの胸元の虚魔紋章が強烈に発光した。
青白い風ではない。
蒼紫の風。
精霊族の王家しか持たない“王の風”。
(……エルフィリア!?)
だが、その風の中で
彼女の表情は苦しそうだった。
「くっ……あぁっ……!」
『主! 姫の中の“虚魔紋章”が暴走しています!!
感情が極限まで高まったことで、紋章が……!!』
(どうにか止めないと……!!)
だが俺が動こうとした瞬間──
エルフィリアが歌い始めた。
(……歌?)
それは言葉ではない。
高い周波数の、純粋な声。
精霊族が持つ
“魂の言語”。
虚魔王が目を細める。
「……ほう。
禁じられし──精霊王の歌か。」
『主!! やばいです!!
あれは本来、王家が“命を削って”使う禁術!!
このままでは姫が……!!』
(そんなの、許せるわけねぇ!!)
だが、歌は止まらなかった。
王の歌は
“浄化”と“破壊”の両方を持つ。
蒼紫の風が虚魔王にぶつかり──
ゴォォォォォ!!
虚魔王は後退した。
「この歌……
まさか精霊王の娘が使えるとはな……」
だが虚魔王は笑う。
「しかし──
その歌は“姫自身の魂”を削っている。」
歌うたびに、
エルフィリアの膝が震え、
血が口元からこぼれる。
「エルフィリアぁぁぁ!!」
俺は駆け寄ろうとする。
だが虚魔王が邪魔をする。
「させると思うか?」
黒い壁が立ちはだかる。
(くそっ……!)
エリュシオンが叫ぶ。
『主!!
今こそ“世界樹感応”を完全開放してください!!
姫を救うために!!』
「やり方は!?」
『“願え”。
それだけで十分です!!!』
(……願う?)
俺は叫んだ。
「エルフィリアを……守らせてくれぇぇぇ!!」
胸の紋章が爆発的に輝く。
視界が緑の光に包まれ──
脳の奥で“何か”が弾ける。
エリュシオンが叫んだ。
『主──“世界樹感応・完全解放”!!』
◆リオ、ついに壁を破る
世界の“音”が静まり返った。
虚魔王の動きも、
黒い霧も、
全てが止まったように見える。
(見える……全部……!)
“虚魔王の核”の位置が
鮮明に二つ浮かび上がる。
(そこだ……!)
俺は跳んだ。
黒い壁を、
緑の光で貫きながら。
「うおおおおおおおっ!!」
蒼紫の風の中で、
エルフィリアが振り返る。
涙を浮かべた瞳が俺を捉える。
「……リオ……!」
俺は叫んだ。
「もう歌わなくていい!
俺が守るから!!」
虚魔王が吠える。
「来るか、世界樹の子!!」
俺と虚魔王の衝突は、
空間そのものを揺らした。
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