第13話「虚魔王と裏切りの真実」
黒い宮殿の最奥へ進むほど、
空気は重さを増し、
まるで“見えない手”に胸を押し潰されているようだった。
「リオ……胸が……苦しい……」
エルフィリアが小さく呻く。
『姫の魔力が“虚魔の腐蝕域”に反応しています。
急ぎましょう、主』
(分かってる……!)
俺たちは進む。
闇の奥へ、さらに奥へ。
そして──
巨大な扉の前で、足が止まった。
この扉だけは、黒い樹脂に覆われていない。
白い、静かな、
かつての“精霊宮殿”のままの姿を残していた。
エルフィリアは震える指で扉に触れた。
「……お父さま……お母さま……」
その声は、泣き出しそうだった。
……
ギィィィ……ッ
ゆっくりと扉が開く。
◆精霊王と王妃
そこは──
玉座の間だった。
かつて精霊族の象徴であった美しい白銀の広間は、
黒い蔦に覆われ、
ぐしゃりと潰れたように歪んでいる。
そして。
玉座の下、
黒い蔦に絡め取られた二つの影。
「………………」
エルフィリアは息を呑んだ。
「お、お父さま……?
お母さま……?」
二人は動かない。
だが、生きている。
ただ──
“魂を閉じ込められている”ように見えた。
エリュシオンが低く言う。
『……これが“虚魔拘束”。
肉体は生きたまま、精神を喰われている状態です』
「そんな……!」
エルフィリアが駆け寄ろうとする。
だが──
ズズッ……
黒い蔦が蛇のように動き、
彼女を威嚇するように立ち上がった。
「──っ!!」
俺は反射的に彼女の前に立ち、剣を構える。
『主……来ます!』
◆虚魔王の登場
“それ”は、天井から溢れるように現れた。
空気が揺れ、
黒い液体が天から逆流するように落ちてくる。
そして形を成したのは──
人型の影。
黒いマント。
白く光る二つの“虚の瞳”。
背中から伸びる黒い触手。
「……やっと来たか。
精霊王家の、最後の娘よ」
その声は、深い闇そのものだった。
エルフィリアの身体が、見るだけで震える。
「……だれ……?」
影がゆっくりと頭を下げる。
「我が名は──
“虚魔王カテドラル”」
それは、虚魔の“頂点”だった。
『主……最悪の存在です。
虚魔の中でも最高位──
“大災厄級”。
精霊王国を滅ぼした元凶です』
(……こいつが……!)
虚魔王は静かに手を広げた。
「リオ=○○……
世界樹に選ばれし子よ。
よくぞ私の宮殿まで足を運んだ」
(名前調べられてる……!?)
エルフィリアは声を震わせながら叫ぶ。
「なんで……!
なんであなたは……精霊族を……
お父さまを……お母さまを……!」
虚魔王は緩やかに首を傾げた。
「理由など単純だ。
“我が解放を望んだ者”がいた」
「……ッ!?
だれ……!?
だれが、あなたなんかを……!」
虚魔王の口元が、ゆっくりと歪む。
「──“裏切り者”がいたのだよ。
精霊王家のごく近くにな」
「……っ……!」
エルフィリアの顔が真っ青になる。
「お、お父さま……じゃない……
お母さまでも……ない……
じゃあ……だれ……?」
虚魔王は笑った。
「私が誰に呼ばれたのか……
聞きたいか?」
エルフィリアは口を噤む。
知りたい。
でも、知りたくない。
その葛藤が目に映っている。
虚魔王は手を伸ばし、
黒い霧をくゆらせながら言った。
「“お前の側に、ずっといた者”だよ。
ずっと……そばで、お前を見つめていた者」
(……嫌な言い方だ)
エリュシオンが警告する。
『主、挑発です。
動揺させるための言葉。
しかし、嘘ではありません』
エルフィリアは震える声で呟いた。
「まさか……そんな……
わたしの……近く……?」
虚魔王は楽しそうに続ける。
「名を聞きたければ……
力で私に勝て。
さすれば、真実を語ってやろう」
◆エルフィリアの心が折れかける
「ねぇリオ……
わたし……怖い……」
その声は、小さな子どものようだった。
「誰が裏切ったのか……
知りたい……でも……知りたくない……
そんなの……耐えられないよ……」
俺は彼女の肩をしっかりと抱いた。
「大丈夫だ。
どんな真実でも、俺が隣にいる」
エルフィリアの瞳が揺れ、
小さな涙が頬を伝う。
「……リオ……
あなたが……いないと……
わたし……立っていられない……」
『主。姫は“虚魔の共感汚染”を受けています。
心が折れる前に、支え続けてください』
(分かってる……!)
俺は一歩、虚魔王へと進み出た。
「──お前を倒して、
全部終わらせる」
虚魔王は静かに笑う。
「おもしろい。
ならば、見せてみろ。
世界樹の子の力とやらを」
黒い霧と圧倒的な殺気が、
宮殿の空気を揺らす。
リオと虚魔王の距離は、
もはや数歩。
この戦いが、
精霊王国の命運を決める。
(……負けられない!)
俺は剣を構えた。
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