第12話「黒き王都と、第三の力《世界樹感応》」
精霊王国エルダリア──
その中心部へ向かうほど、虚魔の霧は濃くなり、
息を吸うだけで胸が締め付けられるようだった。
「リオ……苦しくない……?」
「平気。世界樹の加護のおかげかな」
本当は少し息苦しい。
でもエルフィリアを不安にさせたくなかった。
エリュシオンが告げる。
『主、この霧は“魔力の死”。
普通の人間なら三分と持ちません。
……あなたは例外ですが』
(ありがたいけど、もっと早く言え)
やがて、視界が開けた。
「──ここが……精霊王国の王都……?」
エルフィリアが声を失う。
そこに広がっていたのは、
かつての美しい精霊宮殿ではなかった。
黒く、巨大に、脈打つ“塊”。
城壁も塔もすべて、黒い樹脂のような物質に覆われ、
まるで“巨大な心臓”がうねっているように見える。
精霊宮殿は──
虚魔に飲み込まれ、
“黒い宮殿”へと変貌していた。
(……これが、エルダリアの現在……)
エルフィリアは震えながら呟く。
「こんなの……いやだ……
全部……全部飲み込まれてる……」
俺はそっと彼女の手を握る。
「行こう。絶対に戻す。
これ以上失わせないために」
エルフィリアは涙をこぼしながら頷いた。
宮殿の入り口に近づいたその時──
ガコン……!
黒い樹脂に覆われた扉が“勝手に開いた”。
(……招かれているのか?)
『主、警戒を。
この反応……“虚魔の核”が近い』
エリュシオンの声は低く、重い。
宮殿内部は、光が一切なく真っ暗。
だが、不思議と道筋だけがぼんやり浮かび上がっていた。
「リオ……行こう」
エルフィリアは恐怖を押し殺し、前を見据えていた。
◆宮殿の奥──“眠る王”
やがて、巨大な扉が現れた。
その前で、エルフィリアがピタリと止まる。
「……この扉の向こう……
お父さまがいる……」
(精霊王……!)
俺はごくりと唾を飲む。
エリュシオンが静かに告げる。
『主。この扉の奥……
“核”が存在します。
そして──』
一拍置いて。
『そこには、精霊王様と王妃様が
“虚魔に囚われた状態”でいます』
「……ッ!!」
エルフィリアの瞳が大きく揺れた。
震える手で扉に触れようとした瞬間。
ザア……ッ!!
黒い霧が扉を守るように流れ出した。
「ひ……!」
俺は反射的に彼女を抱き寄せた。
霧は俺の腕に触れた瞬間、
ジュッと音を立てて蒸発する。
『主、あなた以外は触れれば即死です』
(怖すぎるわ!!)
エルフィリアは小さく呟いた。
「……お父さま……そんな……!」
◆第二の虚魔出現
すると──
闇が揺れた。
重い音を立てて、
宮殿の床から“何か”がせり上がる。
「──ッ!!」
あれは……
森で倒した虚魔より、
明らかに格が上だった。
背は三倍、
形もより獣に近く、
黒い触手のようなものが背中から伸びている。
『“第二階位虚魔”です。
森で倒したものとは比になりません』
「くるっ……!!」
虚魔は咆哮し、
黒い霧の弾丸を無数に放ってきた。
「うわっ!!」
俺はエルフィリアを庇うようにして身を伏せた。
(まずい……速度が速すぎる!!
普通に避けられない!!)
エリュシオンが叫ぶ。
『主! 第三の力を開放する時です!!』
「第三の力!? そんなのあったのかよ!!」
『言ってませんでしたか?』
(言えよぉぉぉ!!)
◆第三の力──【世界樹感応】
エリュシオンが強く輝き、
俺の胸元の紋章が脈打ち始めた。
エルフィリアの瞳が揺れる。
「リオ……何が……?」
『主よ。
“世界樹の加護”が本来持つ力のひとつ──
世界樹感応を開放します』
視界が一度真っ白に染まり──
次の瞬間、
全てが“スローモーション”になった。
虚魔の攻撃が、
空中で停止しているかのように見える。
(何だこれ……)
敵の動き、
魔力の流れ、
霧の粒子一つ一つまで──
全てが“視える”。
『主。
これは“世界そのものの脈動”を読み取る力。
相手の行動、魔力式、弱点──
すべてが手に取るようにわかります』
(チートじゃん!!)
虚魔の体の奥で、
小さな光る点が震えて見える。
「あれが……弱点……?」
『そうです。そこを斬れば勝てます』
俺は剣を握りしめ、地面を蹴った。
◆圧倒的な一撃
虚魔は黒い霧を撒き散らし、
触手を伸ばし、
咆哮を上げた。
だが──
もう遅い。
(全て見える……!)
俺は回転する触手の隙間をすり抜ける。
霧の弾丸が迫るが、
軌道が“読める”。
衝撃波を避け、
一気に虚魔の懐へ。
「これで……終わりだぁぁぁ!!」
剣を振り下ろす。
光が閃き──
虚魔の核が露出し、砕け散る。
ギィィィィィィィ……ッ!!
虚魔は絶叫を上げながら、
黒霧となって消滅した。
……
宮殿内に、静寂が落ちる。
エルフィリアが震える声で言った。
「リオ……すごい……
こんな強い虚魔を、一撃で……!」
俺自身も、
今の自分を理解しきれていなかった。
『主。
あなたは今──
“精霊王にも届き得る”力を得ました』
(……マジで?)
エリュシオンは静かに続けた。
『これからが、本当の戦いです』
俺たちが進んだ先──
重く黒い扉の向こうで。
「………………」
微かに、
波打つ“鼓動”のような音が聞こえた。
精霊王の気配。
虚魔の核の気配。
そして──
もう一つの、得体の知れない気配。
それは“悪意”の色をしていた。
(……来る……!
ここからが、本当の地獄だ)
俺は剣を構え、
エルフィリアの手を強く握った。
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