第10話「虚魔の森と、リオの“第二覚醒”」
灰色の霧に包まれた精霊王国エルダリア。
一歩踏み込むと、
空気そのものが重く、冷たい。
生命を吸われるような気配が漂っている。
「……ここ、本当にエルダリアなの?」
エルフィリアの声は震えていた。
エリュシオンが静かに応じる。
『主と姫が覚えている“緑豊かな精霊国”は……
もうありません』
(……マジか)
村からここまでの道も荒れていたが──
ここは“別世界”だ。
木々は枯れ、地面の草は灰になり、
魔力の流れは完全に死んでいる。
エルフィリアが涙を浮かべる。
「……こんなの……ひどい……
どうして、誰が……」
『姫。原因は“虚魔”。
そして、虚魔紋章を刻みし存在……』
エリュシオンがそこで声を濁した。
『……おそらく、“内部からの裏切り”です』
「え……?」
エルフィリアの顔が蒼白になる。
「内部……?
精霊族の誰かが……?」
『詳細はまだ不明ですが……
外部に虚魔紋章を広められるほどの権限を持つ者──
限られています』
(精霊王、王妃、近衛団長、宰相……その辺りか)
エルフィリアは首を振った。
「ちがう! そんなはずない!
皆……皆、優しくて……!」
「エルフィリア……落ち着け」
必死に涙をこらえるエルフィリアの肩を抱いた時──
ゴオォォォッ……!!
濃い霧の奥から、何か巨大な影が現れた。
◆“虚魔”の出現
「こ、これ……魔物なの……?」
「……いや、違う」
それは明らかに、
“自然界に存在しないもの”だった。
黒い液体のような躯体。
獣の形をしているが、骨格がありえない方向に歪んでいる。
目はなく、ただ穴が空いているような顔。
そして──
身体の中心に、あの光る紋章。
虚魔紋章。
エリュシオンが低く告げる。
『主。あれこそが虚魔。
魔力・命・精神──
すべてを喰らう存在です』
「……あいつが、エルダリアを……?」
『はい。放置すれば国ごと消滅します』
エルフィリアが青ざめ、俺に抱きつく。
「リオ……あれ……
わたしの国を壊したの……!」
(逃げる選択肢は、もうない……!)
「エリュシオン、行くぞ!」
『承知! 主、注意してください!』
虚魔が咆哮を上げた。
グォォォォォ!!
空気が震え、地面に亀裂が走る。
霧が巻き上がり、
虚魔は一気に突進してきた──!
◆リオ、虚魔と初対戦
俺は剣を掲げ、魔力を集中させる。
(さっきの騎士団相手より……
何倍も重くて、喰い込んでくる……!)
虚魔は近づくだけで魔力を吸うらしい。
エリュシオンが叫ぶ。
『主、魔力を吸われています!』
(まずいぞ……これは!)
虚魔の爪が迫る。
避けきれない──!
(やばっ……!)
その瞬間。
「いやぁぁぁぁぁ!!」
エルフィリアの叫び。
彼女の叫びが“風”を呼び、
俺の身体が強制的に横へ押し出された。
ザシュッ!!!
虚魔の爪が大地を引き裂く。
危なかった……本当に。
だがこのままでは勝てない。
虚魔は、近づくだけで命を吸ってくる。
「エリュシオン! 対策は!?」
『正攻法では無理です。
虚魔は“魔女の呪術”によって生み出された存在。
本来なら封印級の強敵です』
(そんなの聞いてねぇぇ!!)
『ですが──
主には“第二の鍵”があります』
「第二の……鍵?」
『今こそ解放する時。
世界樹の加護の“本質”は……
浄化!!』
エリュシオンが強烈に輝いた。
眩しい光が走り──
俺の腕に刻まれた紋章が、緑に燃え上がる。
「……なんだ……これ……!」
『主! 叫んでください!
“解放!”と!』
「分かったぁぁぁ!!
──解放!!」
瞬間。
俺の全身から、
世界樹の“浄化の風”が爆発的に解き放たれた。
◆“世界樹の浄風”発動
虚魔が光に触れた瞬間──
ジュゥゥゥゥッ……!!
黒い身体が蒸発し始める。
「ギャ……ッ!!」
虚魔の中から、
苦しむような、助けを求めるような声が漏れる。
(うわ……これ、もしかして……)
『主、止めてはいけません。
虚魔に喰われた“精霊族の魂”も混ざっていますが……
もう戻らない』
(……クソッ!)
俺は剣を握る手に力を込めた。
光がさらに強まり、
虚魔は完全に霧となって消えた。
……
風が止む。
森に、静けさが戻った。
エルフィリアが震える声で言った。
「……リオ……
あなた……“浄化の力”まで……」
エリュシオンが誇らしげに言う。
『主は、精霊族を救う資格を持つ者。
世界樹に選ばれし“宿命の担い手”です』
(おい……それもっと早く教えとけよ……)
『言っても信じなかったでしょう?』
(否定できねぇ……!)
エルフィリアが俺の胸に飛び込む。
「リオ……ありがとう……!
わたしの国の“悪夢”を……少しでも消してくれて……!」
「いや、これはまだ“始まり”だよ。
虚魔は一体じゃない。もっと奥に……本体がいる」
「……うん。
行こう、一緒に……!」
エルフィリアの瞳は涙を浮かべながらも、
力強かった。
俺はそんな彼女の手を握る。
『主……虚魔の消滅により、
王国の魔力体系が乱れました。
近いうちに王国側も動きますよ』
(つまり……王国との衝突は避けられない、ってことか)
『はい。
勇者パーティも動くでしょう』
嫌な予感が、背筋を走る。
姫の手を握ったまま、
俺は虚魔が待ち受ける“国の中心”へと向かった。
これは、精霊王国奪還へ向けた
本当の戦いの始まりだった。
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