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【三章/開幕】アーカイヴ・レコーダー ◆-反逆の記録-◇  作者: しゃいんますかっと
第二章 享楽者《ヘドニスター》編

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80話 『終焉』


ーー"咲かない華"に、価値など無い。


芽吹かぬまま地に伏し、名もなく朽ちていく草花を……

人は誰一人、振り返らないだろう。


なぜならそれはーー


ーー彼らが己を主張し、色彩を映すことができないからだ。


花弁を知らぬ"未熟な個体"は、どれほどひかりを浴びようと、どれほど雨に打たれようと……


"色彩"という輝きを、理解できない。



そして……蕾として生きる未成熟な命と同様に



ーー"枯れない華"にも、価値などない。



鮮やかに咲き乱れ、彩りを放つ名華に……

全ての人間は"魅了"されることだろう。



けれどそれはーー


ーー彼らが"結末"を背負い、散りゆく運命を歩むことで、初めて生まれる"賞賛の証"なのだ。



命を削らぬ不変の彩りでは、生命の価値も、最期の痛みも知りえない。


枯れない花は、虚飾に塗れ……

ーー"普遍"として景色に馴染み薄れて消える。


永遠を纏った"無垢な個体"は、どれほど鮮やかに花開こうと、どれほど朝露に照らされようと


"穢れ"という暗闇を理解できない。




始まりがあるからこそ、世界に初めて……

ーー終わりが生まれる。



そして……終わりがあると知るからこそ……





ーー人は"今"を噛み締め、生きていくのだ。




***




「ーー認めよう……。」



土砂に塗れ、地面を赤黒い液体で染める

ーー享楽者ヘドニスター



彼女は、ようやく理解した。



逆奪者たちの抗うための信念。



ーー反逆の根源たる、"命の核心"を……。




地面に背中を預けたまま、異形の少女は言葉を零す。



「私は、未熟だった。」



暗闇を照らし始めた黎明を見つめーー



「私は……


ーー彼らに……負けた。」



盤上の支配者は悲しげに、端的な言葉で……



ーー己が"勝者"ではないことを認めた。




けれどその言葉は決してーー


死を受け入れ、全てを諦め……

ーー"崩壊の末路"を許したわけではない。



むしろその意思は……楽園の支配者を、更なる高みへと登らせるための……


ーー"反逆の精神"として、開花していた。




ーーズッ……!





切り刻まれ、抜き裂けられた両腕。

風穴を空けた胴体。

露出され、突き出した骨。


肉を覆うはずの筋繊維は、繋ぎ止める役目を放棄し、赤く染った糸と化していた。



少女であった"依代"に、人の名残も、生命の鼓動も存在しない。



彼女の肉体はーーとうに壊れていた。



それでもーー



ーーズッ……!



……"終焉"は、立ち上がる。



異形の残骸が、体液を滴らせながら、ゆらりと体を起こしていく。



ーーダラッ……。



無機質な二の足に、赤黒い体液が流れ伝う。


弾き飛ばされた心臓の穴から、臓物がこぼれ落ちる。



その姿はもはや、"生きている"とは到底呼べない。


ただのーー"醜き肉の塊"だった。



"終焉の原罪"


享楽者ヘドニスター


彼女が朽ち果ての先へと命を繋ぎ、生き残ることができた"理由"。



その答えは、たった一つ……。




彼岸を目前に……




ーー"敗北"を学んだからだった……。





盤上の支配者から崩れ去り、命の価値を知った異形は初めて……


ーー"本当の勝利"を知る。



「これが……異端者イレギュラーが運んだ

"反逆の意思"……!!!」



彼女の肉体に残された最後の身体部位。



ーー"頭部"。



死言操作を宿す、その頭蓋の中へと……



"精神は移植"されていた。



ウォーレンスの放った終焉撃ロスト・オブ・ネメシス



それは……心臓を粉砕し、人体を確実な死へと導くための最期の攻撃だった。


打ち抜かれた拳は、確かに胴体を貫き、依代であったミネの肉体を崩壊へと誘った。



だがーー



あくまでその攻撃は……人の体を殺すための一撃。




人間の死因など……異形の生命には関係ない。




ウォーレンスによる起死回生の一撃を食らう瞬間。


享楽者ヘドニスターは、死言操作くち粒子操作ひだりうでを捨てることで……



ーー命を繋いだ。



解き放たれた終焉を目前に、盤上の支配者は……



自らをーー異端者イレギュラーとして昇華させたのだった……。



「これが……命の価値……!」



そしてーー


間接的な"死"を体験し、命の尊さを学んだ異形は、虚空の両眼を大きく見開き……



ーー不敵な笑みで……笑った。





***




享楽者ヘドニスターに残された力は二つ。


異端者イレギュラーへと昇華し、頭部へと移植を完了させた精神操作。



その理層能力とーー



ーーカラン……。



ウォーレンスに左腕を抜き裂かれる寸前、蔦槍から抜き出し、自らの元へ転がした……



ーー逆位相転移装置オルタ・テレポーター





移植と転移。


彼女が意図的に残した二つの能力。


その力から導かれる結末は

ただ一つ。


享楽者ヘドニスターの狙いはーー


仮想空間から呼び寄せた死骸デブリへの精神移行による……



ーー"肉体の完全復活"。



「ウォーレンス……君の体は諦めることにしよう……。


この学びと、等価交換だ。」


盤上の支配者は負けを知り、本当の勝利を理解した。








そして終焉は……


更なる高みを……目指して歩む。



「この敗北を糧として……


ーー"次"こそ私は、"かみ"となる……!」



失望と歓喜を織り交ぜた"享楽"を奏でながら

彼女は新たなる楽園エデンを創り始める。



ーー"本物の楽園"を生み出そうとしていた。




ーーザリ……ッ。




けれどーー



"彼ら"はそれを……許さない。




「ーーッ……!」



戦場に満ちた粉塵から、低く言葉が反射する。



「ーー敗北を認めたなら……

とっとと地獄へ堕ちろ……紛い物。」



土煙を掻き分け、影よりいでし反逆者。


『カナン』


「元より死ぬ気が無いのなら……


俺が結末を刻んでやるよ。」



闘志を継いだ、原初の異端者イレギュラーは、未だに反逆の歩みを止めていなかった。



そしてーー



「ーーもう……貴方に勝ち目も、逃げ場も無い……。」



彼の隣で、刃に希望を煌めかせた逆奪者。



「全て、返してもらう……!」


『セラ』



「私の姉も……


ーーあなたが奪った、全ての明日を!!!」



全てを授かった最高技術者クラフトマスターもまた……逆奪の歩みを、止めていなかった。




……。




ーー落骸雨ネクロデミスによって戦場から弾きだされた、二人の反逆因子。



死言操作の消失と共に……



ーー彼らは"盤上"へと、帰還した。






ーーカチ……ッ!



「お前が進む先に……"次"なんて存在しない……!」


銃口を向けた反逆者カナン





ーーキン……ッ!



「あなたが創る"楽園"に……未来は存在しない……!」


刀身を向けた逆奪者セラ



二人の異端者イレギュラーは共鳴し合い……



ーー言葉を重ねる。




享楽者ヘドニスター……!」









「お(あなた)の命を……」











「ーー"逆奪"する……!!!」





***





東の空が薄く、かすかな光の欠片だけを世界へと降ろし続けていた。



霞がかった境界を奏でる黎明の元……




ーー反逆と享楽は、最後の遊戯を開始する。




「……やっぱりーー」


切れ落ちた表情筋を歪めながら



「ーー最後に立ち塞がるのは、君だったか……」



享楽者ヘドニスターは、盤上の異端者イレギュラー……


ーーカナンを見つめた。



「ーー"反逆者"……。」




彼が指し示す、理応変換機構レベリアンの銃口が、己の頭部へと突きつけられる。


引き金を引かれた瞬間、残る頭蓋は弾け飛ぶ。



それでもーー


享楽者ヘドニスターは笑っていた。


明らかに命を側であるはずである彼女は、

その現状を見据えつつも、嘲るように薄ら笑いを浮かべていた。



「でも残念……。



もうーー


……何もかもが、"手遅れ"さ。」



余裕の嘲り。


その正体が、カナンたちの前に浮かび上がり、明かされる。



享楽者ヘドニスターの頭から伸びた数本の管。


その細い枝が……


ーー"赤い腕輪"を持っていた。



「これから命を奪われるのは……



ーー君たちの方だ……。」





人の形を保っていた最後の肉体構造。


自身の頭部を解きながら、楽園の支配者は……



ーー逆位相転移装置オルタ・テレポーターを起動する。




ーーキィィィン……!!!




世界を赤く染める光。






虚無から生えてくる死骸。






絶望が手を伸ばす……。





デブリへと、享楽者ヘドニスターが肉体を移植した瞬間。





ーー楽園は、終焉を迎える。







それにも関わらず、反逆者カナンは……


ーー阻止しなかった。





否……


彼が阻止する必要は……なかった。







ーーヒュゥン……。










享楽者ヘドニスターが移植管を伸ばしかけたその時……




ーースッ……。




転移された依代デブリが……


ーー音もなく"消え失せた"。




「ーーッ……!!」





それらは崩れ落ちたわけでも、切り刻まれたわけでもない。





「何ッ……が……ッ!!!」



ただ存在を移すように、忽然と姿を眩ませた。



「ーー何が……起きている……!?」



景色を理解出来ず、その場で静止した享楽者ヘドニスター


そんな異形を鋭く睨み、カナンは非情な言葉を落とす。


「"敗北を学んだ"なんて、ふざけた譫言うわごとをほざいてたみたいだが……」



感情を押し殺すように噛み締めながら……



「人間は、命一つで理解できるほど……


ーー"簡単"な存在じゃねぇんだよ……!」



カナンは享楽者ヘドニスターへと、学びを授けた。



「それは、"彼ら"を利用したーー


……お前自身も、分かっているだろ……!」



反逆者の、心を抉るような問いかけ。


己の深層を呼び起こすその一言を伝い……


ーー享楽者ヘドニスターは、"答え"を見出した。



「まさか……!」



享楽に酔いしれた彼女は、気付かなかった。



自らが利用した逆奪者……


"人間"が築き上げた知識を……。


盤上に用意されていた、"最後の逆奪"を。





享楽者ヘドニスターはようやく……


ーー"その存在"を……認識した。



カナンとセラの奥に立つ


ノード・ルークの管理人。



『ルシェ』



自身と"同じ赤い光"に照らされた少女は


一つの装置へと手を伸ばしていた。


それこそが、転移された死骸デブリを消し去った"最期の城"。



ーー理層逆位相転換装置オルタ・レンズ




「ーーッ……!」



小さき背中が繋いだ、最後の可能性。

セラによって作られた、"理層干渉兵装"だった。


理層逆位相転換装置オルタ・レンズ……!」


ノード・ラインから、その装置が盤上へ落とされたことは、享楽者ヘドニスターも気づいていた。


けれど、彼女はそれを危険視しなかった。



その理由はただ一つ。




それが、"驚異"として成り立たないことを知っていたからだ。



ーー理層逆位相転換装置オルタ・レンズを起動させ、逆位相空間を"掌握"するためには、二つの条件が必要となる。


"座標の指定"と"同調維持"。


つまり、アンカーの設置と最高技術者クラフトマスター並みの技術力が必要なのだ。



享楽者ヘドニスター逆奪者スティーラーの王として、理層逆位相転換装置オルタ・レンズの掌握条件を把握していた。


だからこそ、彼女は見落とした。




人間の可能性は……成長し続けるという事を……!




逆位相空間を無効化するための二つの条件。


それらは姿と形を変え……


ーー既に盤上へと、揃っていた。





明け方の空へと浮かぶ三機の運搬装置。


三角形を描き、享楽者ヘドニスターを囲うように浮かんだノード・ライン。


逆奪者たちを運ぶと共に来航した方舟は、

それ自体が座標位置を設定するためのアンカーだった。



「アンカー、異常なし。

座標軸のズレも、許容範囲内でございます。」


そして、もう一つの条件。

同調維持を行うための最高技術者。


"彼女たち"は最初から、盤上に立っていた。



端末を弾く、小さき管理人……ルシェ。


彼女の隣でウォーレンスを膝に寝かせ、


記憶の力を与え続ける管理者……イヴ。


記憶アーカイヴ管理者レコーダーによって、一時的に演算能力を上昇させたルシェ。


彼女こそが、同調を維持するための技術者だった。



ーー最高技術者ルシェと、アンカーを詰んだ三機のノード・ライン。


"結末エンドロール"は既に……


世界へとーー"記憶"されていた。



「同調継続ーー


新たな逆位相転移を確認。


……位相転換を開始します。」



ルシェは端末を操作しながら、いつものように"報告"を行う。


だがその報告に、"返答"はない。



零れる涙は、視界を塞ぐ。


だから彼女は涙をこらえ、ただ一言

小さな声で呟きながら、操作を続けた。



「ーーお兄様……。


どうか私を、見ていて下さいね……。」




***



ーーシュン……ッ!


ーーシュン……ッ!! シュン……ッ!



現実世界に転送された死骸デブリたちが、転移の瞬間に、ルシェによって、仮想世界へと返還される。



享楽者ヘドニスターが、逆位相空間の周波を変更し、同調を絶とうとしても……


ーー逆位相転移装置オルタ・テレポーターが、仮想世界の同調情報をルシェに伝え、彼女はすぐさま位相を合わせ直す。


己が描いた盤上が、"小さき背中"によって崩される。


その現実を前に、享楽者ヘドニスターは再び、笑顔を失った。



「また……


"あいつ"の意思か……!!」




裂かれたはずの両手を握るような感覚とともに、その心に亡者への怒りが沸いてくる。



そしてーー


「ーールドォォォッ……!!!!」



怒りはやがて行動となり、頭部の管をルシェへと向かって伸ばした。



「命を散らした亡霊が!!!

ーーいつまでも私の邪魔をするなぁぁぁッ……!!!」





金切り声のような叫びと共に放たれた、渾身の一撃。






だがそれはーー






ーーガンッ……!!!







ルシェへと届かず……カナンたちの目の前で止められた。



一人の"騎士"が掲げた、全てを守る盾によって……。






ーーググググッ……!



「ーーさせない……!」



枝と"盾"が押し合う鈍い音を出し合い、鍔迫り合う。


攻撃の間に踏み込み、仲間守った青年。



『リオン』



「託されたんだ……希望を……!



任されたんだ……未来を……!」



仲間の想いを背負った彼は、理障壁リバース・フェイズを起動させ……



「だからーー必ず!


……僕が明日を守ってみせる!!!」



ーーガギン……ッ!!!



渾身の一撃を弾き返した。


享楽者ヘドニスターは跳ね返された衝撃に後退した瞬間。





ーーズンッ…………!!!!





最後の反逆が開始する。



砂を巻き上げ、一切の怯みを見せずに先頭を駆けるリオン。



盾を背負った彼の後ろから、カナンとセラが続くように走り始めた。



砂塵を舞いあげ、盤上を走り抜ける。




そんなリオン後ろから、カナンは己が信じる"相棒"へ信頼を綴る。


「お前らーー任せたぞ……。」


低く強い覚悟を含んだ反逆者の声。


その言葉を合図として、セラが二人を超え、異形の元へと駆け抜ける。



そしてカナンは、リオンの背後に隠れ……



ーーバンッ……!!!



享楽者ヘドニスターから死角とした弾丸が、盾の後ろから"右へ"と一直線に発射された。



体勢を立て直した楽園の支配者は、頭蓋から大量の管を生やし、命を奪いにかかる三人の反逆因子イレギュラーへと、針のような槍を飛ばした。



ーーギギギギギギギギッ……!!!



享楽者ヘドニスターの攻撃。


頭蓋から発射された無数の針は連射される機関銃のようにセラの行く手を拒み、リオンを盾ごと押し返した。



肉体を消費した迎撃。



傍から見れば、死に損ないの抗いに見えるその行動。




だがそれはーー


盤上の支配者が選び抜いた、生き残るための最適解だった。




襲い来る三人の中で、一番の脅威と判断を下したセラ。


彼女を優先的に狙い、行く手を阻む。


そしてリオンと、その盾の後ろに隠れたカナン。

彼らを盾ごと押しのけ、進行を防ぐ。



これで残るイレギュラーは一つ。


リオンの背後から、無造作に放たれた一発の弾丸。


反逆者を警戒し、重点的に対策を行っていた享楽者ヘドニスターは……


この盤面でカナンが行う、次の一手を正確に読み切っていた。


虚空へと放たれた銃弾。


それを、こちらが読み切れる認識外から反射させる遠隔射撃……。


「だから言っただろう……。」


盤上の支配者は、彼の思考を学習し、カナンが歩む結末を導き出した。


「君ではーー私に勝てないよ。」



反逆因子イレギュラーたちを押し返しながら、異形はゆっくりと後退する。


飛んでくるであろう弾丸に注意しながら、ゆっくりと……確実に、後ろへ下がる。



彼女の目的はただ一つ……。


ーー理層逆位相転換装置オルタ・レンズの領域外へと"脱出"することだった。



享楽者ヘドニスターにはもう……


彼らと"遊ぶ"意思は存在しない。



命を学び、反逆を学び


"人"を学んだ彼女は



威厳も、貫禄も捨て、ただ生きるために抗う。



朽ち果てた身体に残っていたのは、"命"への執着だけだった。


「ありがとう、カナン。


最後まで君は、私が学んだ通りの"反逆者"だったよ……。」


肉体を削りながら管を乱射し、享楽者ヘドニスター


彼女は再び、盤上を支配した。







ーー支配した……はずだった。




ーーザッ……!!!





「ーーッ……!」



全ての反逆因子イレギュラーを抑えたはずの異形の元へ……



その足音は響き寄る。



セラが追いついたわけでも、ノード・ラインから新たな逆奪者が降りてきたわけでもない。



けれど確かにーー


姿を見せぬ異端者イレギュラーが……


こちらへ迫り来る。



砂塵が跳ね上がり、何かが高速で横切ったかのように、細かい砂が流れた。



そしてーー


螺旋の粉塵を描きながら、彼は目の前へと姿を現す。


「俺も確かに言ったよな……。」


陽炎によって姿を眩ませた反逆者。


『カナン』


盤上を覆す反逆者イレギュラーの手には


「死ぬ気がねぇなら……


ーー結末エンドロールを刻んでやると……!」


ーー赫迅刀サーマル・エッジが握られていた。


「ーーッ……!!!」



享楽者ヘドニスターが身を引く間もなく……


ーー記憶の契約者は、姿を現すと同時に踏み込み、刃を振るった。




「ーー幻影残虚……ッ!!!」



ーーガギンッ……!!!



無機質な足を切り裂き、熱を帯びた刀身が止まる。



冷えた空気を揺らがせながら、背後で重心を崩す異形の肉塊へ向け、カナンは小さく吐き捨てた。



「俺も、ようやく学んでやったよ……。


お前が俺をーー"学習"するって教訓をな……」




「ーー……ッ!!!」





カナンは、楽園の支配者と同じく……

ーー自らの負けを受け入れた。


『自分では、勝てない。


自分だけの力では……やつに勝てない。』


その事実を受け入れた上で、彼は……


仲間リオンの記憶を、模倣したのだ。


イヴの力を借りたカナン。


彼は、騎士へと"相棒"を授け。


彼から"武器と技"を受け継いだ。


そして自ら、結末エンドロールを刻みつけた。




反逆者を学習しすぎた存在ヘドニスター


彼女はーー反逆者以外の学びきれていなかった。


その結果……


彼を動かす、"彼以外"の記憶を予測出来なかったのだ。


けれど、カナンが再現した動きは、あくまでリオンが過去に行った斬撃である。


その斬撃は、享楽者ヘドニスターの命を逆奪するための"一振"とはならない。



だからこそーー


反逆者は信じ、委ねた。



終焉チェックメイトを……





ーー"逆奪者"に……。






ーーザンッ……!!





支えを失い宙に浮いた異形の肉体。



その身体を……



ーー逆奪者セラの刃が切り裂いた。



居合切りのような一太刀。



刹那の刻に振るわれたその斬撃は、享楽者ヘドニスターの胴体と頭部へと、少しずつ"線"を浮かばせていく。



ーービシィッ……!!!



「わた、しは……


ーーわ た し は……!!」


分割されていく景色を前に、楽園の支配者は泣き叫ぶ。


けれど、切り裂かれた口ではもう……


ーー何も話せない。



ーーピ、シ……ビ……ッ!!!



そんな、変わり果てた"姉"の後ろで……


血のにじむ刃を振りかぶったセラは、背を向けたまま……憎しみを零した。




「ーー享楽者ヘドニスター

あなたのしてきた逆奪を……

私は決して許さない。」


深い怒りのこもった言葉。


けれど、続く言葉に……


ーー憎悪は感じられなかった。



「ーーそして、あなたが姉として奪った時間も

私……決して忘れない……。」


少女は唇噛み締め、"姉"の元へ振り返った。


「一生……忘れてやらない……!」


震える少女から放たれた……

ーー滲み出すような言葉。


それは、とても不器用な……彼女なりの"愛憎"だった。





享楽者ヘドニスターに刻まれたその愛憎は


彼女の意識が消える寸前……


ーー最後の"学び"として、記憶に残った。




「あぁ、そうか……。」



不器用な"愛と死"を経験したアダムは……



「私は……


ーー"人"に……慣れすぎたのだな……。」


己の敗因と共に初めて……


ーー最初で最後の……"感情"を理解した。




ーービシャ……ッ!!!




ーー赤黒い花弁が地へと舞う。




その鮮血に混ぜるように……



セラは初めて……涙を零した。




「さよなら……



ーーお姉ちゃん……。」



夜空を照らした星は消え、登りゆく朝日が

盤上を照らす。



そこにはもう……



"王"の姿は無かった……。

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