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【二章/最終遊戯 開幕】アーカイヴ・レコーダー ◆-反逆の記録-◇  作者: しゃいんますかっと
第二章 享楽者<ヘドニスター>編

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74話 『沈黙の暴風雨』


ーー最終局面。


二つの盤上に、次第に夜明けが近づく。



そのうちの一つ、ノード・キング前の前線では

未だ落とされない爆撃を待つ、逆奪者たちの姿があった。


焼け焦げた地面に、散乱する肉塊。


ーーキンッ……。


赫迅刀サーマル・エッジの鏡面に、黒の骸が映り込みーー


ーーザシュッ……!!!


その首が一つ。


ーージュッ……!


また一つ、切り落とされた。


「ーー無線が、通じない……。」


ーー迫り来るデブリの群れを見据え、リオンは静かに刃を構えた。


「一体……何が起きているんだ……?!」


ウォーレンスから前線を任された彼は、逆奪者スティーラーたちに指示を送り、戦場の均衡を保っていた。


告げられていたはずの爆撃は、何故か後方地点に落とされ、状況の伝達も行われていない。


そんな中、リオンは防衛の陣を組み直し、兵士たちと共に、デブリを駆逐し続けていた。


ーーザンッ……!! ーーザンッ……!!!


焼けた肉の匂いが鼻を突く。


ーードッ……!


崩れ落ちた肉片が、血を撒く。


本当は、今すぐもう一つの戦場へ駆けつけたかった。


それでもーー


『前線を任せる。』


ウォーレンスから託された戦場を、放棄する訳にはいかなかった。


「ーーカナン、ウォーレンス……。」



(どうか……無事で居てくれ……。)




***


もう一つの盤上、司令塔ノード・ナイト跡地。



ーースズ……ッ。


灰となった地面に足を引きずらせ、肩を支え合う二人の少女。


イヴとルシェ。


彼女たちは、今にも崩れそうな身体を必死に動かし、その先で息絶えようとしているウォーレンスを救おうとーー歩みを進めていた。


「ーーお願い……死なないで……!」


イヴが、震えながらも手を伸ばす。


彼女の左目は閉じており、右目もほとんど開いていない。


記憶アーカイヴ管理者レコーダーとしての能力行使にも、限界が近づいていた。


そんなイヴを支えるルシェ。


彼女の肩も、細かく震えていた。


焼けただれた皮膚が擦れるたび、呼吸が詰まる。


肉体からの警告は、痛みを超えて"悲鳴"へと変わっていた。


それでも彼女たちは、足を止めない。


守る力など持たない。

戦う術もない。


けれど、少女たちは抗う。


目の前で散りゆくーー"命"を救うために……。


(命を、守る……!)


(命を、繋ぐ……!)


イヴとルシェ二人の信念が混ざり合い、お互いを支え合った。



そんな彼女たちの背後でーー



ーーゴォォォォォォン……!!!



"轟音"が、響き渡った。



それはーー



剣撃の音でも、刺突の音でもない。



ーー何かが……"爆発"した音だった。





「ーーッ……!!」



イヴとルシェの背中へと、熱を乗せた風が吹き付ける。


爆心地は、彼女たちの後方……


ーー"彼ら"が在した地点だった。




「……カナンッ!!!」

「……セラ様ッ!!!」



ーードォォォン!!!!




反射的に背後を振り返り、叫んだ彼女たちの声をかき消すように


ーー次々と"それ"は投下された。


けれどーー


イヴとルシェの視界に……


"爆弾"は、存在しなかった。


二人の視界には

ーー"有り得ない存在"が……立っていた。



いやーー



……"落ちてきていた"。



影の塊。

肉の色をした、形の崩れた固まり。


人の形をしていた“名残”のようなもの。


命を失った


ーー人間の死骸。


「ーーデブ……リ……?」


受け入れられない現実を目に、ルシェの言葉が零れる。


信じたくはなかった。

理解したくはなかった。


けれど、瞳に広がった"終焉"は


ーー嘘ではない。


彼女たちの視界に映ったのは、享楽者ヘドニスターへ斬りかかった、セラとカナンの元に堕ち……そして"爆ぜる"。



ーー"虚空からの爆撃"だった。




***



攻勢に転じた、セラとカナン。


盤上を覆すために、彼らは刃を掲げた。


二人の反逆因子の連携により、享楽者ヘドニスターは生命の危機へと晒される。


命ある物が本能的に拒絶する"死"

彼岸への奈落が、彼女に迫っていた。


だからこそーー


楽園エデンの支配者は……全てを使ってきた。



ーーミシッ……!!


セラの突撃する瞬間……


ーー享楽者ヘドニスターの触腕から……

見せつけるように、"赤い腕輪"が浮き出した。




「ーーなッ……!!!」


カナンの驚愕と同時に……ブレスレットは光を放つ。


ーーチリ……ッ……!


赤いバングルが妖しく輝き、紋様が血潮のように走る。



そして、見えない空気を裂くようにして……


ーー虚空から、"デブリ"が現れた。


「……ッ!!!」

盤上の反逆者イレギュラーの元へーー


空間をすり抜けるように、

別の世界からーー"転移"するかのように。


骸たちが、落ちてきた。


何の変哲もない、"ただの死体デブリ"。


強化個体ですらない、単なる肉塊。


それ故に……"彼女"にとっては……


ーー"使い捨ての駒"だった。



「ーー爆ぜろ……。」



享楽者ヘドニスターの発せられた

ーー無慈悲なる一言。



その……"死言操作"によってーー



ーーゴォォォォォォン……!!!



デブリは、"新たな武器"と化す。



「ーーカナン……!!!」


靡く爆風に目を細めながら、セラは叫んだ


ーー唐突に落とされた不意打ちの爆弾。


今までの刺突とは違い、攻撃速度は速くないものの、その範囲は桁違いだった。


「ーーッ……!!」

爆発に巻き込まれたであろう反逆者の元へ、彼女は足を伸ばす。


ーーだが


その行く手を阻むようにデブリが投下され、爆ぜる。


ーードォォォン!!!!


「ーーッ……!!」


セラは反射的に身を下げ刃を振るう。


ーーヒィン……ッ!


その一太刀によって、溶けきるように死骸デブリは分散した。


けれどーー


理現する生命構造メリオッドでも、爆発の衝撃全てを"分断"はできない。


デブリの細胞を破壊し、爆発を阻止することは出来ど

ーー爆発し始めた個体の、細胞全てを切り伏せる事など不可能だった。


「対処はできる……。

ーーでもこれじゃ、近づけない……!」


そんなセラの焦りに答えるようにーー


ーーザザザッ……!!!


煙幕の中から人影が後退し、彼女の横で立ち止まった。


「ケホッ……ッ……くそ、あいつ……


ーーまだ、隠し球を持ってやがった……!」


服の一部が焼け落ち、顔を煤まみれにしながらも……

ーーカナンは、間一髪で、爆風から逃れていた。


彼が、唐突な爆撃に反応出来たのは

ーー享楽者ヘドニスターが見せつけた"腕輪"。


その赤いブレスレットの正体を知っていたからだ。


ーードッ……! ドッ……! ドッ……!


目の前へと次々と現れるデブリを前に、カナンは、答えを確認した。


「セラーーやっぱりあれは……。」


言葉足らずな問いかけが、安堵の余韻に浸るセラへと投げかけられる。


未だ戦場を見据えるカナンの眼差しに引き戻され、彼女も平常心を取り戻す。


「ーースゥ……。」


自分を落ち着かせるように深呼吸をした後

ーーセラは続きを求めず……静かに肯定した。


「間違いない……。」


享楽者ヘドニスターが隠し持っていた

赤の腕輪。


「デブリを呼び出しているのはーー」


それは、自分たちが救い出した少女。


逆位相転移装置オルタ・テレポーターの力……。」


"シエル"の持っていた……


ーー"仮想空間の鍵"だった。

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