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【三章/開幕】アーカイヴ・レコーダー ◆-反逆の記録-◇  作者: しゃいんますかっと
第一章 監視者《オブザーバー》編

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6話 『演算された安寧』


ーー透明な液体に満たされた生体ポッド。

弾丸によって割れたガラスの隙間から、溶液が流れ出す。

その中で、白い髪を揺らしながら眠る少女の姿があった。


「……っ、あの時の……!」


先ほど見た、あまりに整いすぎた“偽物”の少女。

だがこちらは違う。かすかに揺れるまぶた、震える指先。

そこには確かに“生”の揺らぎが宿っていた。


監視者の声が、塔の奥から響く。

「見つけたか。

これこそが記憶の管理者<アーカイヴレコーダー>……

 人が求める“正しさ”を記録し続けるための器だ。」


少女の口からは声が漏れなかった。

けれどポッド越しに見えた表情は、かすかに震えているように思えた。

偽物には決してなかった、人間らしい揺らぎ。


Kは銃を握る手に力を込めた。

「……てめぇ、彼女を利用して……!」


塔全体が低く唸りを上げ、鎌のような腕が再び振り下ろされる。


それに対抗するように反逆者は再び銃を構える。

今度は“敵を壊すため”ではない。

囚われの少女を、救うために。



記憶の管理者<アーカイヴ・レコーダー>

世界の記憶の集合体

世界を見届け、記録せしもの

人々が積み重ねた願いも、罪も、正しさも――すべてを抱いて綴る存在。


少女の姿をしたその存在は、監視者に捕らわれ、その力を無理やり演算に利用されていた。

まるで彼女の意志が、ただの道具にされているかのように。


Kの胸に、鋭い怒りが込み上げる。


――自由を縛ることは、何よりも許せない。


それは記憶を持たないはずの彼の中で、唯一確かに燃えている原点だった。

正しさとは与えられるものじゃない。

強制される枠の中にあるものでもない。


「俺はお前の正義に反逆する。」


Kはゆっくりと視界を収束させた。

周囲のノイズは未だ渦を巻き、粉塵が太陽光をむさぼるように揺れている。だが、それらは今や計画の一部でしかない。耳鳴りのように続く金属の軋み、ガラスの小さな閃光、地面に落ちる石の短い余韻——すべてが彼の狙いを隠すための幕だ。


塔の胴体が裂け、内部のポッドと配線の断面が露出した今、暴力的な輪郭の中に一つだけ「顔」があることに気づく。幾重にも重なった複合センサーの群れ。赤い光学レンズが円環状に並び、その中心に黒い小窓が一つ——そこが恐らく監視者の「脳」にあたる部分だ。


「次はやつの脳天をぶち抜く」


Kは低く呟く。声は砂塵にすぐに吸われてしまうが、それで良い。宣言は自分に向けた誓いだ。敵の読みを引き出すために作った土煙、閃光、音の多重奏。

右手の重さは常に同じではない。汗ばんだグリップ、指先の震え、呼吸が作る小さな揺らぎ。だがその震えすら、変数の1つ。銃口の先で反射する光を微かに追い、狙点を選ぶ。監視者の「脳」に当たる黒い小窓に、彼は狙いを合わせた。


奴は読みをする。だが、読みは確率だ。

確率は状況を整えればこちら側へと傾けられる。


彼は思考の中で最後のチェックを行った。風向き、粉塵の濃度、残弾数、反射角度。すべてが最適化されている。失敗は許されないが、後戻りもない。


小指でトリガーガードを確かめ、親指でスライドを軽く引いて薬莢のセットを確認する。指先に伝わる金属の感触が、理性を落ちつかせる。鼓動は静かだ。息を吸い、ゆっくりと吐く。時間が極端に遅くなるように思えた。


ーー止まった時間は動き出し、同時に指が動く。

銃声が乾いた裂け目を作る。閃光が吐き出され、音が空気を裂く。反射の軌跡が幾度も跳ね、光の刃が塔の表面をなぞる。


だが、その瞬間、地面の下がごうんと唸り、瓦礫が微かに振動した。Kの肩越しに、金属の板が床から鋭く押し上げられるのが見えた。想定していなかった角度から、鎌のような形状が一気に伸び


「……ッ!」


足元に鋭い痛みが駆け抜けた。


鎖の刃が足を裂いたのだ。熱い血が飛沫を描き、膝が力を失う。


距離を取ったはずなのに。

安全圏にいたはずなのに。

どうして奴の刃が届いた……!?


膝をついた瞬間、地面に手をついた。銃を握る手は震えていない。

けれど、足はもう今まで通りの動きを再現できない。


監視者の眼が赤々と瞬き、嘲るように光を放つ。

狙いは正面突破ではなく、動きを奪い、確実に仕留めるための演算だった。


「あいつ……動けないフリをしていやがったのか……!」


塔が低く唸りを上げた。

黒曜の装甲に罅が走り、硬質な音を響かせながら展開していく。

その巨体は、“歩くための脚”を生み出していた。

地を突き破り現れた脚は石柱のように太く、踏みしめるたび大地を震わせる。


そして塔の中心――そこには少女を閉じ込めた生体ポッドが剥き出しに晒されていた。

ひび割れたガラスの向こうで、少女は今も目を閉じたまま。

その周囲を覆っていた外殻が左右に裂け、やがて巨大な“鎌”へと形を変えていく。

振り上げられた刃は、まるで死神の鎌を彷彿とさせる。


少女を捕えたまま人を殺める形へと変貌したその姿は、救うべき存在を人質にして振るわれる残酷な宣告受けたかのように思えた。


鈍重な塔だと“誤認”させていたのは、全て罠。

歪な牢獄は、いまや歩く処刑道具へと変わった。


「人間とは愚かなものだ。

目に映るものをいつしか真実と勘違いし、やがて疑うことすら辞めてしまう。」


「いつだってそうだった。

己の目に映る安寧を“真実”と呼び、見たくないものからは顔を背ける。

やがて訪れる破滅すら、誰かのせいにして眠りにつく。

それが人の選ぶ安寧だ。」


赤いカメラアイがひときわ強く光を放ち、鎌が唸りを上げる。

「そして今日もまた、愚かな人間が、自ら死を招き入れた。」


鎌の刃が大地を薙ぎ払う。

岩盤が裂け、地面は深々と抉られた。


Kは動かない足を引きずり、必死に身を捩って回避する。

その背後で瓦礫が砕け、舞い上がった破片と砂塵が視界を覆い隠した。


割れた足場は蜘蛛の巣のように亀裂を広げ、わずかな重みでさえ崩れ落ちそうに軋んでいる。

踏み出した瞬間に足場が砕け、落下する岩塊が暗闇へと飲み込まれていった。


「……っ!」

足場を選ぶ余裕などない。

崩れ去る地面に飲み込まれる前にKは飛び移った。


しかしそれは、監視者にとって予測される"最もらしい線"だった。


「終わりだ、反逆者。」

監視者は勝利を疑わぬ声で宣告した。


……!!!!


鋭い破裂音が空気を裂き、巨体がわずかに震えた。

地面が揺れ、沈み込む。


赤い眼が明滅する。

その攻撃によってーー




ーー監視者〈オブザーバー〉が、膝をついた。


巨体が揺らぐ。演算の完全性が乱れたのか、一瞬の沈黙が生じる。

それは“あり得ない”はずの光景だった。


「ったく……覚悟決めるのが遅ぇんだよ!」


砂煙の向こうから鋭い声が飛んだ。

盾を構えて駆け出す青年の姿。

反逆者を背負った若き騎士は、崩れかけた足場を蹴って渡る。


振り下ろされた鎌の一撃が迫る。

重々しい音と共に、銀の盾がそれを受け止めた。

火花が散り、金属が軋む。


「命の恩人にぐらい感謝した方が、寿命は伸びると思うぞ!」

リオンは汗を浮かべながらも、不敵に笑った。


Kの目が見開かれる。

心臓を突き刺すような絶望の最中に、差し込まれた希望の影。


バランスを崩した状態で放たれた攻撃を、リオンはいとも容易く押し返した。


その姿を見て、Kは鼻で笑いながら言う。

「恩人ね――最後まで行ったら感謝ぐらいしてやるよ!」


リオンは口元を緩め、視線を逸らさぬまま短く答える。

「なら、その時まで生き延びろよ」



再会の挨拶が終わり2人は見上げる。

監視者の赤い眼が一斉に瞬き、不気味な駆動音を響かせる。

「……二人がかりだろうが無駄だ。

異物が入り込んだとて情報を書き換えるのみ

貴様らの行動は全て演算の中に収束する運命だ。」


重く響く声に、空気が圧し潰されるような緊張が走った。


だがKは一歩前に出て、銃口をゆっくりと持ち上げる。

その口元には皮肉げな笑みが浮かんでいた。


「……お前さっき言ってたよな。

愚かな人間は“目に映るものを、いつしか真実と勘違いして、疑うことすらやめてしまう”って」


監視者の赤い眼が、不快げに明滅する。


「愚かなのはどちらか……今から教えてやるよ」



ーー監視者は静かな怒りを宿したまま、塔全体を軋ませる。

赤い眼が血の涙を流すかのごとく燃え光り、空気を裂くように複数の鎖の刃が伸び放たれた。


「リオン!!!」

咄嗟に叫ぶK。


「任せろ! 後ろへ回れ!」

リオンは即座に盾を掲げ、迫る鎖を正面から受け止める。

鋼と鋼がぶつかり合う轟音が響き、火花が散った。


盾を押し返すリオンの筋肉が軋み、地面が抉れる。

「ぐっ……! こいつ……重ぇ……!」


Kはリオンの影に身を滑り込ませ、銃を構える。

「もう少し!耐えろリオン!」


鎖の嵐と盾の激突音の中、二人の呼吸は短く、しかし確かに噛み合っていた。


詠唱の様に機械の声は鳴り響く

「正義を乱す者……掟を歪める者……」

鎖が幾重にも絡み合い、天を突く黒鉄の檻と化す。


「汝らは“規律”を拒んだ。よってここに断ずる――」

一拍の静寂。


「その存在、記録より抹消すべし。」


鎖の刃が一斉に逆巻き、まるで二人を閉じ込める墓標のように迫ってきた。



「K!」

リオンの叫びがこだまする。


反逆者は応えず、静かに銃口を掲げた。

狙いは塔の中心――監視者の主制御核。

その軌道は単純、まっすぐすぎて予測は容易。


監視者は口無き仮面の奥で嗤った。

(愚かだな。汝の弾丸は、すでに演算の内だ。)


しかし、引き金は引かれない。

銃口は静かに火を噴かず――ただ構えたまま。


次の瞬間。


遥か上空、闇に消えたはずの軌跡が閃光を描いた。

リオン乱入時に放たれた弾丸が、幾度もの反射を経て上空から軌道を変え――

監視者の頭上へと、誰も予測しえない角度で舞い戻った。


重々しい破裂音とともに、弾丸は核を穿つ。

装甲を突き破り、監視者の巨体を内部から揺さぶった。

塔のような胴体が軋み、鎖が力なく垂れ下がる。


反射する弾丸を初めて見たリオンは目を見開き、ただ呟いた。

「……変則射撃……!?」



Kは銃を下ろし、冷ややかに告げる。

「運命の外から真実を撃ち抜く。

――これが、反逆者の答えだ。」


監視者に唯一予測されなかった弾丸

それを巧みに操り、彼は運命すら欺いた。


ーー仮面が歪む。

「……ありえない……! 私の視界に……存在しない……だと……」


その言葉は絶望の呻きだった。

未来を演算し、全てを監督してきたはずの存在が――

今、たった一発の弾丸によって崩されている。


塔の巨体が揺れ、鎌のような腕が地面に突き立ち、火花を散らした。

制御を失った鎖が暴れるも、それはもはや脅威ではない。


やがて、監視者の核から赤い光が途切れ、重々しい崩落音が響いた。

偽りの正義を謳った塔は、砂塵となって瓦解していく。


――その中心で。


塔の崩壊と共に、少女を収めていたポッドが大きな音を立てて砕け散った。

ガラスの破片と共に、白い衣を纏った小さな身体が宙に投げ出される。


「――ッ!」


Kは反射的に駆け出した。

だが足には深く走る痛み。先程鎖に切られた傷は、まだ血を滴らせ、筋肉を軋ませている。


それでも彼は迷わなかった。

崩れ落ちる瓦礫を跳び越え、落下してくる少女へと手を伸ばす。


衝撃と共にその身体を胸で受け止めた瞬間――

「……っぐ……!」

裂けるような痛みが足を貫いた。


少女の身体を受け止めたKは、片膝を付いて荒い息を吐く。

足の痛みはひどく、視界も霞みかけていた。だが腕に抱えた重みだけが確かに現実を繋ぎ止めていた。


白い衣は瓦礫の埃にまみれてもなお、淡い光を帯びているように見える。

彼女はまだ眠ったまま。細い呼吸が胸元でかすかに上下しているのを確かめ、Kは安堵の息を漏らした。


「……無事だな。」


「K!」

瓦礫の向こう側からリオンが走り寄ってくる。


崩壊していく塔の残骸を背に、Kは重い身体を引きずりながら立ち上がった。

足から血が滴り、砂に赤い染みを作る。それでも彼は少女をしっかりと抱きかかえ、歩き出す。


残骸を跡にするその背には、反逆者としての孤独も、痛みに軋む肉体も宿っていた。

だが同時に――正しさを守り抜いた反逆の意志は彼の信念を、より一層強固なものへと変えていた。


最後まで読んでくださりありがとうございます。

世界の確信に触れる回となりました。

敵であるアルゴリズム、その駒である支配者達

そしてついに記憶の管理者、イヴが満を持して参戦。

を打ち消す程のリオンの過去

第一章もクライマックスへと向かいます。

更新を楽しみにお待ちください!

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