表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【三章/開幕】アーカイヴ・レコーダー ◆-反逆の記録-◇  作者: しゃいんますかっと
第二章 享楽者《ヘドニスター》編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/86

50話 『箱庭の工房』


広い客室の中、重さの異なる金属音が響きわたった。

展開された箱庭が、脈動しながら周囲に光を放ち続けている。

その中心で、セラは黙々と作業を行っていた。


部屋には微かに鉄の匂いが漂う。

床の一角では工具や部品が浮遊し、彼女の指先に合わせて、操られるかのように繊細に動いていた。


「……まるで魔法みたいだ。」

装備が修復されていく光景を、リオンたちは邪魔をしないよう、遠くから眺めていた。


「理層制御を使った携帯工房……。

噂では聞いていましたが、実物は初めて見ますね。」

ルシェが興味深そうに箱庭を見つめながら呟いた。


「ルシェでも、初めて見るのか。」

カナンが横目で問いかける。


「ええ。」

ルシェは小さく頷いた。


「〈ノード・ルーク〉は戦闘拠点ではありませんから。

そもそも……セラ様がこちらに来られること自体が珍しいのですよ。」


「なるほどな……。」

カナンは納得したように腕を組み、

光に包まれた箱庭を改めて見つめた。


浮遊する部品が組み上がる様は、まるで生命が構築されていくのようだった。


セラだけでなく、ルシェの解析支援にも何度も窮地を救ってもらった。


改めて思う――技術者ってのは、本当にすごい。


カナンの中に尊敬と、新たな疑問が浮かんだ。


「そういえば……ルシェは、どうして解析者になろうと思ったんだ?」


気がつけば、隣にいた彼女に――その問いを投げていた。


ルシェは一瞬だけ瞬きをして、わずかに首を傾げる。

「……わたくし、ですか?」


「あー……いや、別に。

答えたくないなら、無理には聞きはしない。

少し気になっただけだ。」


彼女の態度を察したのか、カナンはバツが悪そうに頬をかきながら目を逸らす。


ルシェは、少しだけ目を閉じてふっと微笑んだ。


「いえ。

貴方に、少しでも認めていただけた気がして……。

それが、嬉しかっただけでございます。」



ーー数秒の静かな余白のあと、

ルシェはゆっくりと語り始めた。



「私はもともと、解析者でも……貴族の令嬢でもございません。


ただ、兄様の隣に立つために。

あの方にふさわしい"存在"になるために、

様々な分野の知識を――身につけてきただけでございます。」


彼女の言葉には、兄への深い敬愛と――積み重ねた努力の重みが滲んでいた。


カナンは少しの沈黙を置き、ぽつりと口を開く。

「……ルドとは、双子なんだよな?

なのにーーなんであんな、主従みたいな関係なんだ……?」


最初から抱いていた違和感が、胸の奥で形になる。

もし彼女がルドの“妹”であるなら――

本来もっと、気楽であってもいいはずだと。



ルシェは言葉を一度、胸の奥で貯めた。

やがて、静かに息を吐く。


「双子……。


そう、ですね。

……"記録上"は、そう書かれております。」


「記録上……?」


カナンが眉をひそめる。


「私は、生まれた時から逆奪者スティーラーであり、生まれた時からルド様に守っていただく存在でした。


ですので――自分が何者で、誰から生まれた人間なのか、本当の事は知りえはしないのです。」


淡い灯りがルシェの横顔を照らす。


その外見は、ルドを鏡に映したかのように精巧に整っていた。

そう――まるで“意図的に似せられた人形”のように……。


だが彼女は、その影を払拭するように、柔らかく言葉を重ねた。


「ーーけれど、そんなことは関係ございません。


たとえ血の繋がりが無くとも、お兄様は私の恩人でありーー

"私が生きる理由"そのものです……!


……だから私は――あの方の隣で生きるために、“使える駒”であり続けなければなりません。」



その言葉は、祈りのように静かで。

けれど同時に、涙にも似た決意が滲んでいた。


短い沈黙が落ちる。

空気がわずかに張り詰め、誰も言葉を継げなかった。


「……失礼しました。

少し、感情的になりすぎましたね。」


ルシェはわずかに微笑んでから、静かに身を翻した。

その内を見せぬように、感情を隠しながら。


「夕食のご用意をさせていただきます。

お時間になりましたら、お呼びいたしますので――どうぞお部屋でお待ちください。」


彼女は丁寧な一礼ののち、部屋を後にする。

無駄のない優雅な作法にはーー

痛ましいほどの誇りが滲んでいた気がした。



***


セラの作業が終わり、客室には再び静寂が戻っていた。


だが――漂う香りは、どこか焦げ臭い。


「……なぁ、気のせいか?

部屋が粉塵まみれに見えるんだが。」


カナンが眉をひそめて周囲を見渡す。

床には細かな金属片と白い煙のようなものがうっすらと残っており、光に反射してきらめいていた。


セラは無言でゴーグルを外し、淡々と答える。

「問題無い。ルシェが片付けてくれる。」


「お前はやらないのかよ……。」

カナンが頭をかき、リオンは苦笑を漏らす。


焦げた匂いの残る空間に、どこか懐かしい笑いが混じった。


修繕された装備を運ぶイヴは、慣れない重量にふらつきながら、なんとかリオンのもとへと歩いていた。

リオンは試着の最中で、肩の留め具を調整していたが、転びそうになったイヴを心配して支えに入る。


どう見ても手伝いというより妨害に近い。


そんな試着と手伝い?を行う二人の後ろで、セラは工具を片付けながら、静かにカナンへと視線を向けた。


「ところでカナン、さっきはルシェと何を話してたの?」

セラは淡々と問いながら、吸引装置のような器具を展開する。

床に散った金属片や粉塵が、次々と吸い込まれていった。


ルシェに任せると言いつつも、結局こうして最後まで自分で後処理をしているあたりが、セラらしい。



「あー、大した話じゃない。

ルシェが何で解析者になったのか、って聞いてただけだ。」


セラは片手で装置を操作しながら、ほんの一瞬だけ手を止めた。

「……答えは聞いたの?」


「まぁ、一応な。」

カナンは肩をすくめて苦笑する。


「なんつーか、あいつの“生き方”が分かった気がしたよ。

……まだ子供なのに、ずいぶんな重荷を背負ってるもんだな。」


作業の音だけが、しばし部屋に残った。

金属片が小さく転がる音がして、セラはその手を止める。


静かに首を傾げ、淡々とした声で返した。


「ルシェは、私たちよりも年上よ?」


彼女の言葉に、カナンは目を瞬かせた。

「……は?」


彼の中で“兄を慕う礼儀正しい女の子”という像が音を立てて崩れた。



ーー〈ノード・ルーク〉の管理人。

ルドとルシェ。

通称『双子の軍師』。


彼らは逆奪者スティーラーの中枢を支える存在であり、

物資補給と戦況を司り、

戦場という名の盤面に駒を築き上げる――戦略の要だった。


けれど、その“真実”を知る者は――ごく僅かだった。


「理由は単純……」

セラは淡々と告げ、言葉を区切った。


「――正しい“記録”が、残っていないからよ。」


カナンは眉を寄せ、黙って続きを促す。


「彼らは〈逆奪〉の始祖。

つまり――逆奪者スティーラーという組織が生まれた、その瞬間から居た人間なの。」


その言葉の意味を理解するまでに、少しだけ時間がかかった。

鉄くずが落ちた絨毯の上で、カナンはただ、セラの横顔を見つめていた。



「……てことは、ルシェが言ってた“記録上”ってのは――」

カナンは小さく息を呑み、言葉を続けた。


「後から作られた“情報”ってことか。」


セラは静かに頷く。


「“双子”――

ルドとルシェの関係はそう記録されているけれど、本当に血の繋がりがあるのかは、本人でさえ分からない。


ただ確かなのは……彼らが"生きるため"に逆奪者となったということだけ。」


会話を終えたセラは、吸引器の電源を止めて箱庭を畳み始める。


薄れゆく光と、静まっていく金属音が――

いま語られたばかりの“真実”を、部屋の中に木霊させていった。


彼らが選んだのは、崇高な理想でも、華やかな血統でもない。

ただ「生き延びる」という、あまりにも人間的な理由。

ルドとルシェの強さの源が――ようやく理解できた気がした。


「……生きるため、か。」



カナンは拳を握りしめ、

自分が“まだ生きている”という事実を噛みしめた。


生き残った者の定め。

死者の想いを背負うという現実。


そのすべてを胸に抱き、

彼は今一度――静かに決意する。


「そうだよな……。

まずは、生きなきゃならねぇよな。」


今は亡き友を背に、彼は信念を言葉に宿す。


「人は……生きるために、生まれたんだから。」





***




楽園エデン ノード・???



所詮、人とは駒に過ぎない。

盤上を動かす“意思”は、いつだってその先にいる――支配者プレイヤーが握っている。


光の消えた空間。


机の上に置かれたチェス盤から、

キングの駒が――カラン、と音を立てて倒れた。


床には、無数の駒が散らばっている。

黒と白が入り混じり、どちらが勝者だったのかも判然としない。


絨毯を踏む軽やかな足音が、ゆっくりとその傍を通り過ぎた。


「……文字通り、"遊び"は終わりだ。」


声が、闇の奥で笑う。

冷たい指先が、盤上の駒をひとつ拾い上げ、静かに立たせた。


「――さあ、始めようか。

  エンド・ゲームを……。」


金属が擦れるような音が、再び世界を揺らす。


沈黙していた盤上に、新たな“手”は打たれた。


《 アーカイヴ・レコーダー 》 ◆ - 反逆の記録 - ◇


 第二章 享楽者ヘドニスター

    - 最終遊戯エンド・ゲーム -



次回より、『享楽者編-最終章』 連載開始。

ーー見届けよ……楽園最後の反逆を

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ