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【二章/最終遊戯 開幕】アーカイヴ・レコーダー ◆-反逆の記録-◇  作者: しゃいんますかっと
第二章 享楽者<ヘドニスター>編

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31話 『理応変換機構《レベリアン》』


――理応変換機構«レベリアン»

反逆の徒という意味を、イヴから名付けられたその銃剣は、新しい相棒でありながら、もう二度と――あの頃の銃ではない。


反射する弾丸を撃ち出す機構はそのまま、モード変更によって、刃を展開できるようになっていた。


発展型グリップ安全機構――

リアサイト付近の解放スイッチと

トリガーの軽い保持。

両条件が満たされないかぎり、剣状態への変形回路は作動しない。


展開された刃は、黒く輝きながらも光を吸い込む。

まるで世界そのものを“拒絶”するように、

周囲の像を歪めて映していた。



ーーやがてカナンの中で戸惑いも収まり


手の中にある"元相棒"を見つめて気づく。


刃が展開できるようになったはずなのに――

不思議と、重さは変わっていなかった。


どこを見ても、余計な機構や構造も無い。

なのに確かに、銃口から刃が“生えた”感触だけは残っている。


(……おかしいな。

変わってるのに、何も変わってねぇ。)


こいつ、どんな仕組みをしてるんだ。


指先で軽くグリップをなぞる。

触れるたび、心臓の鼓動みたいな微振動が伝わってくる。


(感触は変わらない……。)


ふっと息を吐き、銃剣を軽く持ち直す。

“新しい相棒”――けれど、その重みも形も、

なぜか、あの頃と同じだった。


少しの寂しさと、妙な安心。

どこか、昔の“相棒”が、まだ中に居るような気がした。



セラが問いかける。

「どう? カナン。」


彼は理応変換機構レベリアンを見つめながら、小さく息を吐いた。


「正直、驚いた。

分解されて返されるかと思ってたけど……まさか、ここまで魔改造されるとはな。」


イヴが笑う。

「“改造”じゃなくて“進化”だよ。」


「そういうのは本人に確認してからやれ!

勝手にするもんじゃねぇよ!」



確認作業と称して行われた改造手術は、無事に終わり、名前を与えられた愛用武器は手元へと帰ってきたのだった。




ーーノード・ビショップ


第七研究区画 裏手


そこは風の通り抜ける、薄暗い実験場のような場所だった。

地面には焦げ跡がいくつも残っており、かつて何度も試験が行われていたことが分かる。


カナンは一人、新たなる武器を手に試し斬りをしていた。



軽く一歩踏み込み、横薙ぎに振る。

風が裂ける音が響き、目の前の訓練柱が音もなく切断された。


切断面には、焼け焦げたような光の残滓。


斬撃が通過したのは一瞬――にもかかわらず、

空気そのものが震えるような余韻を残していた。


「……やべぇな、これ。」


彼は息を吐き、刃先を見つめる。


黒い刃面は夜気を裂き、淡い残光を帯びていた。


「重さは変わらねぇのに、振った感覚だけ別物だ……。

どんな構造してやがるんだ……。」



「ー説明しようか?」


背後から突然声がして、カナンは思わず叫ぶ。

「うおっ……!!」


ひょこっと顔を出したセラが、無表情でこちらを見ていた。


その後ろでは、自分と同じく新装備を受け取ったリオンと、

少し煤にまみれたイヴが顔を出している。


「いや……遠慮しておく……。」

どうせ言われても理解できない。

そう分かっていたので、カナンは断った。


「そう……」

セラはほんの一瞬、悲しそうな顔をしたように見えた。


カナンは刃を見つめ直しながら、

(……なんか、悪いことした気分だな)

と心の中で呟いた。


「あー……リオンの装備も出来たのか?」

間の悪い雰囲気を脱するために、無理やり会話をズラす。


「まだ、動作チェック段階だけど、全体的な軽量化が本人の希望だったから、それに合わせた。」


セラはリオンたちへ振り返り、足を運んだ。


その後に続き、リオンの元へ目をやると、いつも身につけていたはずの鎧は無く、腰周りを中心にして、ベルトのような物を巻いている。



やがて、リオンの腰に巻かれた金属製のベルトが、低く駆動音を鳴らした。

次の瞬間――


ガシャン、と小気味いい音を立てて装備が展開する。


腰から伸びたスライドアームが可動し、

黒銀の金属片が流れるように全身へ広がった。

装甲が組み上がり、光沢のある防具が身体を包み込む。


金属の擦れる音が静まり、展開が完了すると同時に、鎧はぴたりと身体に密着する。


「……おぉ……!? すごい……!」

リオンが驚きの声を漏らす。


セラは頷きながら、端末の画面を確認する。


「展開状態、起動速度、異常なし


展開式装甲フレーム«E.A.F. - Expandable Armor Frame»


ベルト状に収納された装甲を、内蔵モーターで展開させる構造。

数秒で着脱できるから、前のように部位ごとに外す必要もない。」


「……おぉ。」

カナンが思わず感嘆の声を漏らす。


「軽量合金と理応繊維を組み合わせた防具。

物理衝撃を拡散しつつ、攻撃を受けた部位を集中して補強する。

重さは従来の三分の一、強度は二倍」


セラはまた、専用的な言葉で話し始めた。


とりあえず、"軽くて硬い"ということは伝わった。


リオンは軽く腕を振り、動作を確かめる。

装甲はまるで“自分の筋肉”のように滑らかに動いた。


「……すごい。まるで何も着ていないみたいだ。」



「そして剣と盾……。」

セラの言葉に合わせるように、イヴがそれを持ってくる。


彼女が両手で慎重に運んできたのは、

黒銀の盾と、リオン専用に調整された両刃の長剣。

どちらも光沢を帯び、鎧と同素材で統一されていた。


「時限展開型 理障壁«リバース・フェイズ»

攻撃の瞬間だけ理層を反転させ、外部衝撃を弾く。

連続使用はできないけれど、反応速度は十分。」


リオンは盾を左手で握り、構えてみる。


盾が短い光の粒を放ち、衝撃を受け止めるように振動する。


「完璧だ……!

お願いした通りの設計になってる……!」


感動するリオンを他所に、セラは淡々と説明を終え、次の武器へ視線を移した。


「そして――これが新設計の剣。」



リオンが受け取った刃は、光沢の下にほのかな熱を孕んでいるように見えた。


「熱拡散構造を用いた赫迅刀«サーマル・エッジ»。

刃の内部に流体伝導層を組み込み、摩擦熱を即座に分散させる。

その際に発生する温度勾配が、分子結合を緩めて“切断効率”を上げる仕組み。」


リオンはその刃を静かに構える。

金属音が鳴るより早く、空気が焦げるような匂いが広がった。


「……熱を、刃そのものに通してるのか。」


「正確には、“熱を伝えないことで熱を使う”構造ね。」

セラが軽く訂正する。


「対象との摩擦を、熱エネルギーとして逃さず“均一化”する。

結果、斬撃の瞬間だけ刃のエッジが分子レベルで滑るようになる。」


「…………??」

よく分からなかった。


「つまり、力を入れずに切れるって事だね。」

イヴが簡略に説明してくれた。


「……なるほど」


リオンは片手で握りしめた剣を軽く振る。

空気を裂く音が一瞬、低く唸ったかと思うと――

訓練用の金属柱が、まるで溶かされたように断ち切られた。


「……すごい。」

彼は息を呑む。


セラは控えめに頷きながら言った。

赫迅刀サーマル・エッジは出力制限もしてある。


通常温度では触れても火傷はしないけれど、最大出力時は……


扱いを誤れば、自分の鎧ごと焼き切ることになるから注意して。」


「……りょ、了解。」

リオンが苦笑いを浮かべ、剣を鞘に戻す。

その仕草には、緊張と感謝が入り混じっていた。



リオンの装備説明が一通り終わったあと、

カナンはしばらくその姿を見つめていた。


光沢を帯びた装甲

淡く揺れる理障壁

そして静かに熱を宿す剣。

どれもが、“生きているような精密さ”を放っていた。


「よくこんな物作れたな……」

カナンは呆れとも感嘆ともつかない声を漏らし、リオンの装備を眺めた。


セラは端末を閉じながら、淡々と答える。

「設備は古くても、装備に必要なのは“技術”と“素材”。

 


その点で言うなら――あなたの刃は、リオンの物とは比べ物にならないほど高級な素材を使ってる。」


「……は?」

カナンは思わず手元の理応変換機構レベリアンを見下ろした。

黒く鈍く光る刃。その表面は、光を吸い込むように沈んでいる。


「これ、そんなに貴重な素材なのか?」


セラは短く息を吐き、視線を刃へと向けた。


「――享楽のエクスタシアの結晶体。」


「…………!!」

カナンの肩がびくりと揺れる。


「さっき見せた、金属コンテナの霧。

それをすべて濃縮して、個体化させたもの。」


「全部!?

あれって……めちゃくちゃ貴重なもんじゃねぇのか!?」


セラは表情を変えずに答える。


「霧の発生装置を破壊した以上、あの濃度のエクスタシアを再び採取するのは――もう不可能。」


ほんの一瞬、彼女の声に“揺らぎ”が混じった。


「我ながら……感情任せに使ってしまったと思う。」


カナンは思わず眉を上げた。

その口ぶりはいつも通り淡々としている。

けれど、どこか遠くを見るような視線が、その言葉の重さを物語っていた。


(……感情が出てるようには、見えなかったけどな。)


「そんな大切なもん、使って良かったのかよ。」


セラはゆっくりとカナンの方を向く。

その瞳に、一瞬だけ柔らかい光が宿った。


「良いか悪いかは――もうどうでもいい。

イヴと出した結論だから。」



短く区切り、静かに続けた。


「ただ、あなたに思うところがあるなら――

"レベリアン《それ》"を、使いこなせるようになるといい。


それがきっと彼女に取っての望みだから。」


「イヴに取っての……か。」


二人は揃ってイヴを見つめる。


少し離れた場所で彼女は、リオンの剣を構えていた。

どうやら持ち上げた際に、

刃先が床に触れて焦げ跡を作ってしまったらしい。


リオンが慌てて止めに入り、

二人は小声で何か言い合っている。


セラは一瞥だけ向け、何も言わずに再び端末へ目を戻した。

カナンは小さく息を吐き、苦笑を零す。


わずかに焦げた床から立ち上る煙が、

周辺の空気に、不思議な温もりを混ぜていた。




ーー翌朝


ノード・ビショップの外縁を、淡い光が照らしていた。

地下にこもっていた冷気も、わずかに和らいでいる。


カナンは寝台の上で目を覚ます。

わずかに油と金属の匂いが混じった空気――

けれど、それ以上に、どこか“穏やかな匂い”が漂っていた。


「……林檎の匂い……?」


半ば寝ぼけながら周囲を見回す。

隣の寝台では、イヴがすやすやと寝息を立てていた。

毛布の端を掴んだまま、口元にはかすかな笑み。

――完全に熟睡中だ。


カナンは肩をすくめて立ち上がり、音のする方へと歩いていく。


廊下を抜けると、

古びた食堂跡のような空間で、セラが調理台の前に立っていた。


袖を軽くまくり、無言で鍋をかき回している。

その隣では、リオンが不器用に皿を並べていた。


「おーカナン、おはよう。」

リオンがこちらに気づいて、手に持った皿を軽く上げて見せた。


「おぅ、おはよう。

お前たちは相変わらず、起きるの早いな。」


「セラさんが、もう朝食を作り始めてたんだ。

放っておけなくてね。」


「……手伝いは頼んでない。」

セラは淡々と返しながら、鍋の中をゆっくりかき混ぜている。


「だろうな」

カナンは苦笑した。



「ところでそれは、何作ってるんだ?」


「――アップルポタージュ。

リンゴをすりおろして、穀物エキスと一緒に煮込んだ物。」


彼女は淡々と言いながら、鍋の底を静かにかき混ぜる。

温かい湯気が立ち上り、淡い甘酸っぱい香りが部屋を包み込んだ。


「お姉ちゃんのお気に入り。」


「へーミネさん、リンゴ好きなんだ。」

リオンが微笑みながら問いかける。



「……分からない。」

セラは少し間を置き、かすかに首を横に振った。


「五年前までは、果実すらほとんど口にしなかった。」


木杓子の音が、静かな研究室に小さく響く。


「でもある日から、リンゴが好物になったみたいで、最近はおつかいも頼まれる。


正直めんどくさい。」


カナンはその言葉に、ふっと肩をすくめて笑う。

「まぁ、人の好みなんて変わるもんだろ。」


そんな話をしている間に、セラは火を止めた。

どうやら煮込み終わったみたいだ。


「……イヴを起こしてくる」

カナンはそう言って、盛り付けを行い始めた二人を背に、キッチンを後にした。




ーー記憶の管理者<アーカイヴ・レコーダー>

かつてそう名乗った少女。

彼女は今、暖かい布団に包まって、幸せそうな顔をしている。


初めてみた彼女は、理を超えた存在に思えた。


けれど、今こうして目の前で眠る少女は、何の変哲もない普通の女の子だ。


"イヴ"として生きて欲しいと願ったのは自分だ

けれど、だんだんと人間らしくなる彼女を見て、何かを喪失していないかと、心配になってしまう自分もいたーー


そんな彼女の頬をつまんで起こした所

小動物のような拳で何発か殴られた。




ーーイヴと食堂へと向かい、四人で朝食をとる。



「ノード・クイーンへの行き方はイヴに伝えてある。」

朝食の中、セラは突然、三人に向かって告げた。


「セラは来ないの?」

イヴが少し悲しそうに呟く。


「私は元々、訓練には参加する気は無い。

それに、ルドからも依頼が来ているから忙しい。」


「また……“裏切り者”関連、か……?」

カナンの言葉に、セラは短く頷いた。


「断言はされていない。

けれど、頼まれた装置を見るにきっと……。」

セラは最後まで言いきらなかった。


金属のスプーンが皿の中で小さく鳴る。

それを誤魔化すように、リオンが口を開いた。


「……何かあれば、また頼ってくれ。」


「そうだな、装備の礼もあるし……」

カナンもその言葉に同調する。


セラはわずかに目を細め、

「……ありがとう。」

と小さく呟いた。


その声音は、冷たさよりも柔らかく、

ほんの一瞬だけ、人間らしい温度を帯びていた。


外では、朝の光が研究施設の壁を照らし始めている。

今日という日が、また新しい“動き”を告げるように。



ーー昼前。


陽光が高く昇り、外壁を白く照らしていた。

研究棟の影にはまだわずかな冷気が残り、

吹き抜ける風が砂と埃を舞い上げていく。


カナンたちは支度を終え、

セラの見送りを受けながら、施設の裏手に立っていた。


「ルートは、イヴが記憶済み。

明日の十時までには、余裕を持って着ける。」


「気をつけて。」

セラは短く返す。


その視線の奥には、どこか“送り出す者”の静かな強さがあった。


「次会う時は、いきなり刃は当てないでくれよ。」

カナンは苦笑しながら、別れを告げる。


「色々してもらってありがとう、セラ」

リオンは軽くお礼をした。


「セラ……」

イヴが、セラを見つめてニコッと笑う。


「"また"、会おうね」

小さく振った手と、その言葉を最後に反逆者たちは、セラへと別れを告げた。



彼女はその言葉に、小さく頷くだけで答える。


三人は背を向け歩き出す。

陽炎の揺れる荒野の中

風が砂を運び、足跡をすぐに覆い隠していく。


その背を、セラはしばらくの間、黙って見送っていた。

やがて、光に目を細め、静かに呟く。


「……また、会いましょう。」


彼女の言葉は、風に溶けて消えた。


リオンの新たな装備、三つの設定公開です!


◆展開式装甲フレームは正式名称

《E.A.F. - Expandable Armor Frame》と呼ばれる軽量装甲です。


・E.A.F. は「装甲を纏う」というよりも、人間の身体と融合する拡張骨格のような仕組みです。


軽量合金と理応繊維を組み合わせた防具。


重さは従来の三分の一、強度は二倍。


物理衝撃を拡散しつつ、攻撃を受けた部位を集中して補強する。


・展開構造:ベルト内部のスライドアームが可動し、装甲パーツを自動展開。

数秒で全身を覆う。


・理応繊維:装甲内部に埋め込まれた擬似神経。

装着者の思考パルス(脳波)と同期し、反応速度を向上。

肉体に合わせて装備者の行動を支援し、戦闘を補助する。


理障壁(リバース・フェイズ)


E.A.F. と同素材で造られた防御装備。

内部に理層発振核を内蔵し、衝撃を受ける瞬間に“理層を反転”させることで、

あらゆる攻撃を弾き返す。

ただし出力時間は極めて短く、連続使用には数秒の冷却が必要。


外装は黒銀の光沢を帯び、縁には理層干渉回路を刻んだ細工が施されている。

展開時には盾面に淡い光粒が走り、反射防壁が一瞬だけ形成される。


赫迅刀(サーマル・エッジ)



リオン専用の長剣。

刃の内部に流体伝導層を備え、摩擦熱を瞬時に拡散・均一化させることで、

対象の分子結合を滑らかに断ち切る。

出力を高めると刀身中央の導熱線が赤金に発光し、

最大時には刃全体が淡く赤熱する。


軽量ながら高い切断性能を誇り、

E.A.F.から供給される理層エネルギーによって威力が安定する。

力を入れずとも、**「熱そのものが斬る」**という異質な切断感を持つ。

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