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【二章/最終遊戯 開幕】アーカイヴ・レコーダー ◆-反逆の記録-◇  作者: しゃいんますかっと
第二章 享楽者<ヘドニスター>編

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30話 『さよなら相棒』


人形劇は幕を降ろす。

舞台役者たちは、観客に向かって、完璧な物語を演じきった。


歓声。拍手。

だが、その裏で――“イレギュラー”は、いつだって存在する。


照明の切り替え。台詞の順番。役者の一歩。

ほんのわずかな遅延や齟齬が、舞台上に“違和感”という影を落とす。


そしてそれは、今回の作戦でも、例外ではなかった。


«反逆者»


彼らの存在が、物語を狂わせ、アドリブを生み出したのた。



ーー紫の霧が、ゆらりと揺れる。

その中心で、彼は盤上に指を伸ばした。


象牙の駒を摘み上げ、ゆっくりと――チェスの盤に落とす。

乾いた音が、静寂の空間に響く。


「これだから、“誤算”は面白い。」


微笑の奥で、面影が歪む。


「まさか、“眼”まで壊されるとは思わなかったよ。」


長い爪が盤をなぞり、

最後に――キングの駒を軽く弾いた。


コトン。


白い王が倒れる。


「けれど、勝者は絶対だ。」


彼は囁くように笑い、

盤上の駒を見下ろした。


「盤上で使えるのはいつだって――


用意された駒だけなのだから。」


霧が再び濃くなり、視界を覆う。

その奥でゆっくりと、享楽者の輪郭が掻き消えていった。



ーー ノード・ビショップ。


かつて、逆奪者が発明と装備開発のために利用していた研究施設。

現在は封鎖され、人間の近寄らない場所となっている。


本来、研究の主軸はすでに〈ノード・キング〉へと移されており、

ビショップ群は「旧世代の施設」として長らく背景に溶け込んだままだった。


だが――盤上に誤算を残した彼らは、

組織内に潜む〈裏切り者〉へ対抗すべく、

新たな装備を求めて、その施設の一つへと足を踏み入れていた。



第七研究区画


封鎖されたノード・ビショップの中、今もここだけが稼働していた。

理由はひとつ。

この施設の管轄権が、セラに与えられているからだ。


封鎖認証を通過すると、厚い防護扉が静かに開く。

埃が光を帯び、冷たい空気が頬を撫でた。


中は思いのほか整っていた。

並ぶ装置は旧式ながらも動作音を保ち、

実験台には彼女が以前まで使用していたデータログが残されている。


「……適当にくつろいでいて」

セラは静かに呟き、手袋越しに端末をなぞる。

画面が淡く灯り、青白い照明が室内を満たしていく。


ここは、彼女が“個人的な研究”の場として利用している場所。

機器は古いが、整備は行き届いており、問題なく稼働する。


「ここが……ノード・ビショップ……?」

リオンが辺りを見回す。

長い間人が入っていないはずの空間は、まるで昨日まで稼働していたかのように整然としていた。


「設備は旧式だけど、基礎構造は今でも通用する。

――私にとっては、一番落ち着く場所。」


セラは歩みを進め、中央の実験台の電源を入れる。

古いモニターがノイズを走らせ、やがて画面に文が浮かび上がってくる。


「ノード・ビショップは封鎖されてるんじゃなかったのかよ。」


カナンが周囲を見渡しながら、半ば呆れたように口を開いた。


セラは端末を操作し、淡々と答える。

「表向きはね。」


古びた研究施設は、どこか懐かしい鼓動のような振動を放っていた。


「だからこそ、情報を抜かれずに装備を開発できる。」

セラの声は落ち着いているが、その奥には確かな意志があった。



「……なるほどな

つまり、ここは“監視の届かない場所”ってわけか。」

カナンがぼそりと呟くと、

セラは短く頷き、手元のデータを転送する。


「そう。

裏切り者がどこに潜んでいようと――

ここにだけは、手が届かない。」



「これは、私が深層部で回収した――

極限まで濃度の高い《エクスタシア》。」


セラは実験台の中央に、掌ほどの金属製コンテナを置いた。

表面には複数の警告マークが刻まれ、

内側から、低く唸るような振動音が微かに響いている。


カナンとリオンが思わず身を引く。

セラが制御弁をゆっくり開くと、

ガラス越しに漂い出したのは、濃密な黒煙だった。


それは霧というより、“影”だった。

カナンたちが見た紫の瘴気とはまるで異なり、

煙の輪郭が脈動するたびに、光が吸い込まれていく。


「……黒い……?

これがエクスタシア……?」

リオンが小さく呟く。


セラは頷きながら、瞳を細める。

「可視領域の光を反射しない。

素材として、これ以上に価値のある物はない。」


「この霧を――濃縮させて、結晶化する。」


彼女は淡々とした声で説明を続けるが、

その目の奥には、研究者としての熱が確かに灯っていた。


「エクスタシアは、高密度の理素子と分子不定形質が混ざった擬似生命体。

通常の状態では“存在と非存在”の狭間にある。

けれど、極限まで圧縮すれば――

粒子同士の干渉が飽和し、“固定化”が起きる。」



「……???」


リオンとカナンは、一つも理解できなかった。


沈黙の中、霧を照らすホログラムの光だけが、

まるで別世界の理を描くように明滅している。


「つまり、理の結合そのものを”凍結”させる現象。

を“理結晶体の作成を行うという事だね。」


その疑問に答えるように、話し始めたのはなんとイヴだった。


セラがわずかに目を見開く。

「……理結晶体を知っているの?」


イヴは淡く笑って、頷いた。

「うん、“記憶の干渉層”と似ている。

情報を止めることで、波の動きを封じるんだよね。

でも、それを物質で応用して固定化を試すなんて……すごい。」


「理論上は出来るだけ。」

セラは小さく息を吐く。

「問題は、それを制御できる“器”が存在しないこと。」


「……???」


カナンとリオンは、相変わらず一つも理解できていなかった。

二人の頭上には、見えない“はてなマーク”がいくつも浮かんでいる。



何やら会話はヒートアップし始めたようで、

カナンとリオンは会話に混ざるのをやめ、部屋の隅へと腰掛けた。


セラとイヴの前では、専門用語と理論式が飛び交い、

ホログラム上に幾何学模様のような構造式が次々と展開されていく。


「……カナンは今の話理解できたかい?」

「理解できないってことだけな……。」

「だよね……。」


リオンが頭を抱え、カナンが深くため息をつく。

それでも二人の視線の先――

セラとイヴの表情は、不思議と穏やかで、どこか楽しそうだった。


まるで、互いの“理解”だけで世界を動かしているように。



「カナン、カナン!」


唐突に名前を呼ばれた。

久々の平穏に、どうやら気が抜けていたらしい。


顔を上げると、セラとイヴがこちらを見つめていた。

イヴはいつものように無邪気な笑みを浮かべ、

セラはどこか思案するように顎へ指を添えている。


「何か用か。」

「起こして悪いのだけれど」セラが淡々と口を開く。

「――少し、手を貸して。」


「……また何か実験か?」

「似たような物。」


即答だった。


「カナンの銃って、不思議だよねって話!」


イヴが勢いよく身を乗り出し、瞳をきらきらさせながら言った。

まるで子供が新しいおもちゃを見つけた時のようなテンションだった。


「……急にどうした。何度も見てきただろ。」

カナンは眉をひそめながらも、銃を軽く持ち上げて見せる。


「何が“ふしぎ”なんだよ。」


「だって、どう見ても普通の銃じゃないよね?」

イヴが首を傾げると、隣のセラが静かに頷いた。


「反射弾の挙動、そもそも、弾丸のみを反射する壁を生成するという事から異常。

あれは――“理”を介してる。」



「またそれかよ、理理理ってお前らすぐ難しい話に……」

カナンがぼやくが、イヴは聞いていない。


「反射ってどうやってるの?」


カナンは一瞬、言葉に詰まり、銃身を見下ろす。

「なんか、こう、感覚で……だよ。」


「…………。」


セラとイヴが同時に黙り込む。

室内の空気が一拍、静止した。


――如何なることか、二人を黙らせることに成功した、ようだ。


隣でリオンは笑いを堪えている。


まともな返答が出来てないのは、自分でも理解しているが、答えようが無いのだ。

原理なんて、分からないのだから。



そんなことを知らない彼女たちは、更に質問を続けてきた。


「発射時のエネルギー伝達はどうしてるの?」

「反射角の補正は、自己演算? それとも外部入力?」


矢継ぎ早に投げられる専門用語の嵐に、

カナンは完全に置いてけぼりだった。


「えっと……なんか、こう……バチンって、撃って、反射して……みたいな?」


「…………。」


またも沈黙。

セラが僅かに眉を動かし、小さく呟いた。


「……使えない。」


その一言に、カナンのこめかみがぴくりと動く。

なんとか口に出さなかったが、内心は完全にブチ切れていた。


その後も質問は止まらない。

理論式だの、干渉波だの、共鳴座標だの――

聞き慣れない単語の連続に、

カナンの返答はだんだんと雑になっていく。


「まぁ……うん、そうだな、多分。」

「知らねぇけど、そんな感じだろ。」

「理論とかより、気合いだろ気合い。」


やがて、質疑応答は止み、イヴが一つの提案をする。


「分からないなら――調べてみようよ。」

イヴがにこりと笑い、手を伸ばした。

「ちょっと借りるね。」


「あぁーいいぞー。」

カナンは気の抜けた返事をして、愛銃を渡した。



一瞬遅れてハッとする。


「……待っ」


目線の先では、彼女たちが既に銃を抱え、

別室へと歩き去っていく。


急いで追いかけた先に見えたのは、数々の工具と分解器具。

壁にはノコギリ、ドリル、謎の液体の入ったチューブ。

まるで「直す」より「解体する」が目的のような、開発室と書かれた部屋。


その中央で、セラとイヴが、これまで戦いを共にしてきた"カナンの相棒"を囲んでいた。


「……おい、それは優しく扱うもんだぞ!?」


叫ぶカナンの声を無視して、

セラがスイッチを押す。


――ガシャァン!!


分厚い防音壁が降り、

〈使用中〉の赤いランプが点灯した。


「ちょ、待っ……! 開けろっ!!!」

カナンが壁を叩くも、返事はない。


代わりに中から、電動工具の音と、

楽しげな声が響いた。


「イヴーーー!!!

セラーーー!!!」


壁越しに響く絶叫。


けれど、叫び声は機械音に掻き消され、二人へは届かなかった。


カナンは膝をつき、天を仰いだ。

「――さよなら、俺の相棒……。」



ーーリオンのもとへ戻り、

ため息をつきながら再び腰を下ろす。


隣ではリオンが苦笑いを浮かべて、同情の視線を向けてくる。


「……災難だったな。」


「言うな……本当に辛いのはこれからだよ……。」


短くぼやくと、

リオンはふと思い出したように問いかけた。


「そういえばさ、カナンのあの銃……どこで拾ったものなんだい?」


「……人を盗賊みたいに言うな。」

カナンは半眼で睨み返す。


その後真剣な眼差しで話を続けた。


「……最初から持ってたんだよ。

目が覚めた時から、手元にあった。」


「……最初から?」

リオンが首を傾げる。


「そう。名前も、出所も分からない。

でも、確かに“これが俺のだ”って思ったのは、覚えてる。」


カナンは軽く笑うが、

その眼にはわずかに影が落ちていた。


リオンはその表情を見て、

それ以上は何も聞かなかった。


酷く慣れ親しんだ武器。

それは、記憶の持たない彼が過去、"血溜まり"を歩んでいた事を表す指標だった。



彼らの会話に一段落が入った時。

前方から、軽やかな足音が響いた。


セラとイヴが、白衣の裾を揺らしながら戻ってくる。


「俺の銃……!」


カナンは駆け足で近寄り、"それ"を受け取る。


形に違和感はない。

重量も、質感も、手に馴染む。

……だが。


リアサイト付近……。

そこに――見覚えのない、小さなスイッチが付いていた。



「……おい。これはなんだ。」

低い声で問うが、イヴは黙ってニコっと笑ったままだった。


「…………。」

嫌な予感がする。

そう分かりながらも、視線に押されるように、カナンはスイッチへ手を伸ばす。


イヴのジェスチャーを真似するように


右手で軽くトリガーを押し込み、残る左手で、リアサイトのすぐ後ろにある小さな窪みに触れる。




《Mode:Dominion》


唐突な電子音声と共に、手元の銃が低く唸った。

リアサイトのスイッチが光を帯び、内部機構が可動する音が鳴る。


銃口の先端がわずかに開き、そこから黒の刃が展開された。

グリップは90°回転し、片手持ちの剣となる。

金属が擦れる高音とともに、冷たい風が吹き抜ける。


銃から剣へ――

形態が変わる瞬間、手の中に伝わる“重み”さえも変わった。

それはただの武器ではなく、“意志”を持つかのように。


「……………」


変わり果てた、形状に目をやる。

共に死地をくぐり抜けて来た愛銃は、刃を展開させる機構を付けられて、銃剣へと、改造されていた。


イヴたちの喜ぶ姿を横目にカナンは

ただ呟いた。


「ーーさよなら俺の相棒」

カナンの新しい武器-理応変換機構〈レベリアン〉-は黒刀形態の追加された旧名«リベリオン»です。

※実は本編には旧名登場してない。


理応変換機構〈レベリアン〉

――“反逆の徒”の意味を込められた黒銃剣。


シンプルな黒のメタリックボディ。

銃身とグリップに銀色の細装飾が控えめに刻まれている。


カナンの元相棒«リベリオン»がイヴとセラの手によって改造手術されたもの。


Mode:Reactor(銃形態)

・反射弾射出機構を持つ。


・発射した先に弾丸以外に当たらない反射壁を展開する事で、銃弾を反射させる。


・反射した弾丸は、基本威力が上がっていくが、反射壁の材質変更によって速度を変速させることが出来る。


・通常時はこの形態を携行。


Mode:Dominion(黒刀形態)

・リアサイト後方スイッチ+トリガー軽保持で銃形態から変形。


・銃口より黒刃を展開し、グリップが90°回転

片手剣のような形状となる。


・刃は黒色の《エクスタシア》結晶体を核に形成され、光を吸収し理層を“操作”する特性を持つ。


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