29話 『記憶の継承者』
研究所・地下 深層部
濃霧の海が波打つ。
一歩踏み出すたびに、靴底が融けるような感覚があった。
セラの呼吸は荒く、ゴーグルの内側を曇らせていく。
防護服の表面が紫に染まり、装甲の一部が音を立てて剥がれ落ちた。
「……随分と厄介。」
霧の奥から、巨体が唸る。
破滅を纏う者が再び姿を現し、死したはずの肉をつなぎ合わせて動き出す。
何度も分断を試みているが、その肉塊が崩れ去る気配はない。
刃を振るうたびに、再生が追いつく。
死が意味を失い、理が通らない。
それはまるで、世界そのものが“享楽”に屈しているようだった。
疲労感が体に渡り始めたその時ーー
『セラ、待たせたな……』
ルドの声が低く響く。
『今から中層より、反射弾を撃ち込む。
片方を、通路中央へと誘導しろ。』
セラは呟く
「……無茶を言う。」
沈黙後……
『そうか……
セラが無茶だと言うのなら、誰にも出来そうに無いな。』
淡々としたルドの声には、少し悪戯みが含まれている。
「私じゃない。」
セラは静かに息を整える。
「無茶なのはカナンの方……。」
ルドは口角をニッと上げて宣言する。
『……何、心配はいらない。』
『――"カナン"は、必ず決める。』
セラの口元が、わずかに緩んだ。
「……そう。じゃあ、待ってる。」
霧の中で、鎌が淡く光を帯びる。
迫るコラプスたちを相手取るため、セラは破滅の象徴へ刃を振るう。
やつらの瞳が、脈動し震えた。
これから訪れる、閃光を映すように――。
――同時刻・地下 中層部。
『カナン、準備しろ。
反射の合図は数字で告げる。』
ルドからの通信は短く、けれど明確だった。
トルヴァはすぐ隣で、眉を寄せて問う。
「俺は……何をすれば?」
彼はカナンと一緒に中層へ来たものの、手持ち無沙汰の状態だった。
『カナンを守れ。――やつらから。』
そんな彼へと指示は与えられる。
背後の暗闇から、金属を引きずる音が響いた。
振り返ると、崩れたデブリが二体。
道中で倒したはずの個体が、歪に体を組み直して迫ってくる。
「……!!
カナン!早めに頼むぞ……!!!」
トルヴァは咄嗟に構え、デブリへと突撃していく。
その後ろで、彼は微動だにせず、
暗闇の奥をまっすぐ見据え、告げた。
「ルド、いつでも行ける……」
彼の声に、迷いはなかった。
汗が頬を伝い、指がゆっくりと引き金へと掛かる。
一拍の静寂。
そして、冷たい声が告げた。
『――0で撃て。カウントする。』
霧の向こう、セラは鎌を構え直す。
トルヴァは背後のデブリを押さえ込み、汗を飛ばす。
ルドの声が、淡々と空気を震わせた。
『3……』
銃口がわずかに下がり、空気が張り詰める。
『2……』
セラの足が一歩、霧を踏みしめる。
紫の霧が裂け、金属音が鳴る。
『1……』
トルヴァが息を呑む。
セラの瞳が細まり、カナンの指がわずかに動いた。
『――0』
轟音。
火線が迸り、弾丸が闇を裂く。
『壱。』
即座にルドの声が届く。
金属が跳ね、弾丸が最初の壁を反射する。
音が遅れて響き、火花が散った。
『弐。』
配管を掠め、角度を変える。
衝撃で周囲の霧が震え、紫の光が揺らめいた。
『参。』
天井の隙間を抜ける瞬間、カナンの指が再調整を入れる。
弾道は迷いなく軌跡を描き、一直線にーー
天井へと埋まった……。
高度を上げすぎた弾丸は、火花を散らしながら、速度を失って落下する。
反射の瞬間、霧が逆流し、弾道が、わずかに逸れた。
「……ッ!!!」
カナンが歯を食いしばり、通弾しなかった事実を認識する。
『カナン――構えろ。』
その悔しさを払うかのように、ルドの声が低く響く。
淡々としているが、その一言に全てが詰まっていた。
ー失敗ではない 「まだ」ー
再び狙いを定め、再装填をかける。
銃身が熱を帯び、火花が散る。
トルヴァが背後のデブリを蹴り飛ばしながら叫ぶ。
「早く! もう持たねぇ……!」
霧の奥で、セラはコラプスの攻撃をいなしながら、引き付けている。
鎌を構え、姿勢を崩さない。
だが確実に疲弊し始めている。
ルドの声が再び入る。
『3……。』
『2……』
『1……』
弾道を脳内で描く。
『――0。』
反射する――壱、弐……
参……!!
肆ーー!!
最後の号令とともに、
弾丸は霧を裂き、広間の中心へ。
届かなかった……。
(クソッ! 最終通路の加速を意識しすぎて、四反射目をミスった……!)
またしても、最深部へは着弾しない。
カナンが苦い表情を浮かべる。
霧が流れ、銃身の熱が白く滲む。
無線の向こうで、わずかに沈黙。
数秒の静寂の後、ルドの低い声が響いた。
『……次で決めろ。』
短く、冷たい命令。
だがその裏に、焦りにも似た“信頼”が混じっていた。
『ここで仕留めなければ……
セラに撤退命令を出す。』
その言葉を聞いた瞬間、
カナンの眼が鋭く細まる。
「了解した……これで決める。」
彼は深く息を吸い込み、銃口を再び正面へ向けた。
照準の先――暗闇の奥で、確かに“鼓動”が脈打っている。
焼けた金属の匂いが肺を刺す。
霧の中で微かな風が流れ、髪の先を揺らした。
『3……』
もう、音も、匂いも、遠くに消えていた。
残っているのは、狙う線と、撃つ意志だけ。
『2……』
全長数百メートルの通路
障害物を避けながら加速させ、最深部へと弾丸を通すなど、常人では不可能に近い
『1……』
だが、記憶の管理者<アーカイヴ・レコーダー>の眷属、カナンは、二度の射撃で、その射線をーー
『――0。』
記録した。
ーー刹那
大鎌を振りかぶったセラの背で、
細かく分断された一体が霧散し
中央を撃ち抜かれたもう一体の肉塊が弾け飛ぶ。
紫の霧が光に焼かれ、弾けた血が蒸気のように散った。
音が遅れて届き、世界が一拍遅れて崩れ落ちる。
ーー静寂。
息遣い、射出の残音、情報分析の機械音
各部隊の中で、声以外の音が鳴り響く。
しばらくして、無線からルシェの声が流れる。
ジジ……。
『報告ーー
……対象、完全沈黙を確認。
これにて全作戦目標、達成致しました。』
「……!!!!」
次の瞬間、戦場に広がっていた咆哮が、嘘のように止む。
霧に包まれた廊下で、崩れかけたデブリたちが、
まるで糸の切れた人形のように、その場へと倒れ込んだ。
黒い体液が床に広がり、溶けるように消えていく。
残された逆奪者たちは、突然動きを止めたデブリたちを前に、立ち尽くし、困惑していた。
ただ誰もがいずれ攻撃を辞め、武器を納刀していく。
霧の奥で、崩れ落ちる音が、静かに反響していた。
ーー深層部、セラはゆっくりと鎌を下ろす。
ゴーグル越しに、小さく息を吐き、呟く。
「なんて威力……」
深層部の厚い壁ーー
そこには、弾痕とは思えないほどの“亀裂”が走っていた。
まるで、空間そのものが弾かれたように歪み、
霧の中に淡い光が滲んでいる。
反逆者の弾丸――
それは、破滅を纏う者を撃ち抜き、世界へ結果を、また一つ刻んだ。
任務完了
その言葉が頭をよぎった時、身体が全体に重みが重なった。
力が抜けない。
戦闘が終わったはずなのに、鼓膜がまだ震えていた。
遅れて戻る呼吸音、心臓の拍動。
今まで途切れていた“現実”が、音とともに押し寄せてくる。
セラはわずかに頭を振り、鉛の体を、鋼の意思で支えた。
『セラ、聞こえるか』
そんな彼女に、ルドから新たな指示が飛ぶ。
『霧の発生は収束したが、周辺の濃度数値は未だ高い。
急ぎその場から離脱しろ。』
「……了解した。」
セラは静かに頷き、大鎌を折りたたむ。
機構の駆動音が、狭い空間に木霊する。
『それともう一つ』
付け足したように、ルドの声が続く。
「まだ何か?」
セラは新たな異常に構え、耳を澄ませる。
短い沈黙。
通信の向こうで、わずかに息を整える音がした。
『……よくやった。』
それは命令でも、報告でもない、ただの一言。
けれど、それは、彼女の中へ浸透し、何かをほどいた。
セラは小さく笑い、出口へと歩き出す。
「全隊員へ告ぐ!!
作戦名
《エクスタシア回収作戦》及び
《コラプス殲滅作戦》
これにて終了!
各部隊は、負傷者の救助を最優先とし、戦場から離脱せよ!!!」
司令塔の声は、緊張と安堵の混ざった色を帯びていた。
だが――任務を果たした彼女の心には、
もう、あの慌ただしい鼓動はなかった。
セラはただ、崩れた通路の向こうへと歩を進める。
焦げた壁を照らす淡い光が、
その背中を静かに包み込んでいた。
ーーデブリが、目の前から消えていく
安堵と共に、死の恐怖を感じたトルヴァは、足の力が抜けたように、地面へ腰を付いた。
「はぁ……はぁ……消えたって事は……カナン……本当に、やったのか……?」
信じられないというように、彼は呟く。
そんなトルヴァの前に、
一歩、影が差した。
「……立てるか。」
カナンは彼へと、手を差し出す。
その掌は、焦げた薬莢の熱を帯び、
まだわずかに震えている。
トルヴァは一瞬、言葉を失い、
それでもその手をしっかりと掴んだ。
「……そうだよな。」
かすれた声で笑いながら、肩を揺らす。
「楽勝だった、なんてわけ……ないよな……」
二人は出口に向かい、肩を並べて歩き始める。
彼らはもう何も語らなかったが、その背中をお互いがを称えあっていた。
ーー地下入口付近では、ウォーレンスが接敵していた強化デブリも、崩れ始めていた。
崩壊しかけたそれは、壁にもたれかかるように沈んでいく。
もう動くことはない。
「……おしまいか。」
ウォーレンスは、拳を突き出し、崩れかけた死骸を灰に変えた。
やがて、彼の元へ足音が響き、拠点へ回収班を送り届けたリオンたち先導隊が、ウォーレンスの無事を確認すると共に援護に来た。
任務を果たした彼らと共に、ウォーレンスもまた、戦場を後にした。
ーー逆奪者の作戦は無事成功を収めた。
ーーノード・ナイト 司令室
「本作戦による、負傷者数は7名。
いずれも軽傷、死者は確認されてません。」
帰還したカナンたちは、ルシェによる報告へ耳を傾ける。
「当初予定していたサンプルは、目標の三倍量を確保しました。
また、霧の発生源«コラプス»の死骸についても、深層部の濃度が安定次第、回収班を派遣し、研究対象とします。」
電子端末に並ぶ波形データが、ゆっくりと沈静化していく。
冷たい光の中で、ルシェの声だけが淡々と響いた。
「そして補足。
現状、端的な結論となりますが、内部構造の一部から、生体同調反応と神経接続痕が確認されました。
このことから……
ーーコラプスは恐らく、享楽者本体の眼、つまり“霧発生器官”を移植された、デブリかと思われます。」
「………………!!!!!!」
司令室の空気は、音を失ったように凍りついた。
照明の白が、硬質な壁面に反射して淡く揺れる。
誰も言葉を発さない。
端末の冷たい駆動音と、通信機の微かなノイズだけが空間を支配していた。
数名のオペレーターが、視線を交わしかけては沈黙し、資料へ釘付けになる。
ルシェは動じず、報告を続ける。
「予測となりますが、享楽者の肉体機能を“半自動化”し、自律的に霧を生成・拡散させるための触媒として稼働していたと推測されます。」
端末に映る断面図には、歪に融合した肉と機械の結合部が浮かんでいる。
「本体とのリンクはすでに断たれていますが、
神経波形の一部が、未だに“応答待ち”のまま凍結していました。
以後、進展があり次第、情報をお伝えします。」
「以上
これにて、本作戦の報告は終了となります。
各部隊の隊長は、破損武器、及び装備をまとめ、修繕依頼を提出してください。」
ルシェの言葉が途切れると、
司令室にはしばしの静寂が落ちた。
誰もが椅子の背にもたれ、長い戦いの終わりを噛みしめている。
そんな中、ルドがゆっくりと息を吐き、手元の端末を閉じた。
そして、静かに無線を開く。
「各員……」
低く落ち着いた声が、部隊全員のチャンネルに流れ込む。
息を吸い、ルドは話し始めた。
「長くは語らない……
この度は本作戦の遂行、ご苦労だった。
各自、休息をしっかり取りたまえ。
以上、解散。」
数秒の沈黙。
次いで、壁を超え、幾つもの安堵の息と、短い笑い声が重なった。
戦いの終わりを告げるその音が、
長い緊張の糸をゆっくりと解いていく。
司令室では、誰も拍手も歓声も上げない。
ただ、それぞれが無言のまま、
“生きて帰れた”という現実を噛みしめていた。
「カナン、セラ。見事だった。」
ルドは無線を切り、二人へ語りかける。
その声音には、先ほどまでの冷徹な響きはもうない。
戦場の緊張が解け、わずかな温かさが滲んでいた。
「ったく、無茶な指示しやがって……
上手く行かなかったら、セラが死んでたぞ。」
カナンは安堵を交えた愚痴をこぼす。
「防護服も、もう少し耐久性能をあげた方がいいかも……」
セラは、死線を超えたとは思えない程、落ち着いた表情で、技術者として分析していた。
「無論、次の策は用意しておった。
お前が失敗した場合、無駄に掲げた“正しさ”とやらは――それまでだったというだけだ。」
ルドは悪びれもせずに返す。
「成功させただろうがよ!」
カナンは反射的に言い返し、肩をすくめる。
「にしても……よくあんな“人間じみた技”を成功させれたね。」
トルヴァは、まだ信じられないといった顔で呟いた。
「あー、それに関しては……」
カナンは視線を横へやる。
記憶の力を酷使したイヴは、椅子にもたれたまま眠っていた。
静かな寝息が、ようやく訪れた平穏を告げている。
「……まぁ、俺の腕が良かったってことにしとくか。」
カナンは苦笑し、銃を軽く持ち上げた。
「……どちらにせよ、任務は成功だ。
作戦に尽力してくれたこと、改めて感謝する。」
ルドの横で、ルシェも軽くお辞儀をする。
「我々はこれから、研究所内の解析があるので一度ノード・ルークへ帰還する。
機会があれば――また頼むぞ。」
そう言い残し、ルドとルシェは背を向けた。
足音が遠ざかり、静寂が戻る。
残された者たちの間に、わずかな達成感と、拭えぬ不安だけが漂っていた。
「ひとまず、終わったみたいだね。」
二人を見送った後、リオンが声をかけてくる。
「おぅ、お前も無事そうで何よりだ。
ちゃんとあいつに一撃入れたか?」
カナンは、ウォーレンスを見ながら、期待の目を向けた。
「入れるわけないだろ……!?
そもそも攻撃を当てられる気がしないよ。
カナンも見ただろ、ウォーレンスさん、めちゃくちゃ強いんだよ。
地下突入時のデブリは、ほとんどあの人が倒して行ったんだ。」
リオンも、ウォーレンスを見つめ、尊敬の眼差しを向けた。
二人視線に気づいたのか、ウォーレンスはこちらを睨む。
「なんだ、平民
たかだかまぐれを起こしただけで調子に乗ってるのか。」
その声には、皮肉でも怒りでもなく、
“本気で相手にしていない”という圧もあった。
カナンは舌打ちを一つ。
「……相変わらず、口"だけ"は一流だな。」
「実力で語れ。
お前の“記憶”とやらで、俺の拳を止められるか?」
ウォーレンスは籠手を鳴らし、わざとらしく拳を握る。
リオンが慌てて間に割って入り、制止する。
「辞めとけカナン!
ウォーレンスさんにボコされるぞ!!」
……いつの間にか、リオンが向こう側になっていた。
「そうだ、リオン
お前も、ノード・クイーンでやっている戦闘訓練に参加する気はないか?」
ウォーレンスは、カナンを無視して、リオンと話し始める。
「戦闘訓練……ですか?」
リオンもカナンを無視して、疑問を投げる。
「お前の素質は悪くない。剣筋も正確だ。
だが、騎士としては出来ていても、戦士としては未熟だ。
……ノード・クイーンの訓練場で、実戦の勘を磨け。」
リオンは不意に差し向けられた誘いに目を瞬かせた。
「いや、でも俺なんかじゃ……」
「遠慮はいらん。
俺が直々に見てやる。」
ウォーレンスの声は冷たく、それでいて確信に満ちている。
「強くなりたいんだろ……?」
ウォーレンスの言葉に心が動く。
「……!」
その言葉は核心を得ていた。
「おい、何勝手にリオンを連れ出そうとしてやがる。」
カナンが割って入ると、ウォーレンスはちらりと視線だけを向けた。
「お前は口で戦うタイプだろう。
訓練より座談会の方がお似合いだ。」
「はぁ!? 言ってくれるじゃねぇか……!」
リオンは慌てて二人の間に手を伸ばす。
「ま、待て待て!
もう戦いは終わったんだ!
落ち着け落ち着け!」
カナンを押さえ込みつつ、リオンは返答する。
「……訓練……そうだな、俺も参加させて貰おうと思います。ウォーレンスさん。」
ウォーレンスは満足げに頷き、踵を返す。
「戦闘訓練は明後日、午前十時から開始だ。
ノード・クイーンで待っているぞ。」
ウォーレンスはそのまま、司令室を後にした。
「あの野郎、散々馬鹿にしやがって……!!」
カナンの怒声が響き、リオンは額を押さえてため息をついた。
戦場は終わったというのに、
この小競り合いだけは、まだしばらく続きそうだ。
ーー会話を終えた彼らに、セラとトルヴァが近寄る。
「カナン、リオン、用が無ければ、出発しよう。」
セラは、相変わらず表情を動かさず話す。
「……俺はいいんだが、回収班と、トルヴァの部隊はいいのかよ?」
セラの隣に立つトルヴァを見て、カナンは疑問を告げる。
脳筋王子の指示とはいえ、一度入ったグループだ。
勝手に抜けていいのだろうか。
「私は防護服の損傷が激しい。
回収班には合流しない。
それに、やりたい事もある。
貴方に関してはーー」
セラは隣に立つトルヴァをちらっと見る。
「あぁ、僕たちも緊急召集以外だと、戦闘訓練まで何も無いから大丈夫。
カナンは連れて行ってもらっていいよ。」
共に戦地を駆け抜けたはずの仲間に、物扱いされた気分がした。
「との事……」
セラは気にせずに続ける。
「準備して……」
忙しない戦場は終わった筈なのに、何故か圧を向けられているようだった。
ーーノード・ナイトでの戦闘を終え、セラ、カナン、リオン、イヴは再び四人で歩き出す。
「イヴ、寝ぼけてたら転けるぞ」
「んーーー」
カナンが起こそうとするも、イヴはまだ夢うつつだ。
寝起きのイヴを連れた一行は、セラの後へ続く。
「一度、ミネさんの元に帰るんですかね?」
リオンは確認のように質問をする。
「いや。」
けれどセラは短く否定し、視線を前へ向けた。
「――組織の“裏切り者”……」
その声は、ぬるんだ空気を断ち切るように冷たかった。
一瞬で場の温度が下がる。
セラは歩を進めながら、淡々と告げる。
「今から向かうのは、ノード・ビショップ。
そこで――
裏切り者を暴くための、装備を作る。」




