プロローグ 第1話『反逆者』
初投稿となります。
自分の思い描く世界をお届けできると嬉しいです。
ーー歯車は回り始めた
それは始まりを告げる音でも、祝福を告げる音でも無かった。
世界は緩やかに停滞を呼び起こし、やがて全てが終息する。
世界の記憶はその1ページを
また、刻み始めた。
「反逆者――」
どこからともなく響いた声が、俺をそう呼んだ。
その声は何処か懐かしく感じた。
けれど、何も思い出せはしなかった。
先が見えない部屋の中、記憶を持たない青年は一人、自分が何者かを探していた。
閉ざされた部屋の中央に、黒曜石でできた塔がひとつ。
それは生命を拒むかのように冷たく、異質で、ただ沈黙を保っていた。
俺には名前も過去もない。
けれど、不思議と胸の奥では確かにわかっていた。
――俺は抗うためにここにいる。
深呼吸をした彼の前に、黒い影が揺らぎ始めた。
やがて影は形を結び、己自身と同じ顔をした幻影がこちらを向いた。
その影は嘲笑うように、問いかける。
「お前の正しさは本物か?」
低い声が空気を揺らす。
正しさ?俺は何も覚えていない。ただの空っぽな器だ。
名前すらなく、過去もなく、ここにいる意味すら曖昧なまま。
「自分を忘れた貴様など、世界から捨てられたがらくたに過ぎない。」
「そこには意思も信念も、正義もない」
幻影は嘲る。
「空虚な人形に正しさなどあるものか。」
胸がざわつく。
ーーだが、そのざわめきは決して迷いでは無かった。
むしろ彼にとって、それは迷いではなく、確実な意思であった。
言葉にすれば脆いかもしれない、それでも抗う意思だけは。
「記憶なんざどうでもいい」
腰に携えられた片手持ちの銃は彼に呼応するように存在を示した。
その銃を右手で構え、吐き捨てるように言った。
「正しさは俺の中にある。誰かに与えられるもんでも、決められるもんでもねぇ」
引き金を引いた瞬間、轟音が響く
「ならばお前は今から世界の敵だ」
幻影は捨て台詞を残しながら霧散した。
その表情には何故か笑みが零れた気がしていた。
黒曜石の塔は崩壊し、それと共に足場も崩れ落ちる。
光の波に包まれ、この世界で俺は
ーー反逆の道を歩み始めた。
-これは世界に刻まれた記憶のほんの1ページ-
けれどそれは、誰かにとっては決して忘れることのない物語となる。
何処か遠い森の中、少女は本を閉じ、窓の外を見上げた
「教えて、あなたはどんな道を歩んだの?」
最後まで読んでくださってありがとうございます。
今回はプロローグということで、主人公である記憶を失った青年が世界に降り立つシーンとなりました。
まだまだ設定上書けていない事が多いのでこれからも執筆が楽しみです。