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【二章/最終遊戯 開幕】アーカイヴ・レコーダー ◆-反逆の記録-◇  作者: しゃいんますかっと
第一章 監視者<オブザーバー>編

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1話 プロローグ『反逆者』



――あなたを待ってる。


誰だ……


懐かしい……


少女の呼び声が、どこか遠いところから落ちてくる。



「反逆者――」



その声に誘われるように、ゆっくりと目を開ける。



灰色に沈んだ世界が、ぼやけて視界に広がった。


「……ここは、どこだ」

掠れた声が自分のものかすら判別できない。

呼吸は浅く、身体は重い。

混濁する意識の中、青年は立ち上がり、辺りを見渡す。


壁も天井もない空間。

ただ、終わりのない無機質な沈黙だけが広がっている。


沈黙の中、自分の鼓動だけがやけに鮮明に響いていた。

踏み出しても――音がしない。

床があるはずなのに、そこには質感すらなかった。


不意に視界の端で何かが揺らいだ。


振り返ると、そこにあったのは、黒曜石でできた塔。

冷たく、光を拒み、ただ沈黙を保つ異質な存在。

何も無かった空間に突如現れたそれは、まるで“ここだけが別の世界”だと告げるように佇んでいた。


見とれていたその瞬間、耳元で声がした。


「――目覚めたか」


全身に冷水を浴びせられたような感覚。

反射的に肩が跳ね、青年は後ろへと飛び退いた。

足音は響かない。

ただ無音の中で、自分の荒い呼吸だけが残った。


振り返った先――

そこには、自分と同じ顔をした“影”が立っていた。

輪郭がゆらぎ、存在が定まらない。


けれど、直感でわかる。

――こいつは明らかに“異質”だ。


背筋を冷たいものが這い上がり、皮膚が粟立つ。

全身の細胞が一斉に危険を告げ、身体の芯まで恐怖が駆け抜けた。


声を出すつもりなどなかった。

だが喉の奥から、掠れた声が漏れる。


「……お前は、誰だ」


影はゆっくりと笑んだ。

その仕草だけで、圧が空間を支配する。


――こいつを敵に回せば、死ぬ。

考えるまでもない。

相対した瞬間に悟った。

目の前の存在が、自分よりはるかに上位にあることを。


それでも。

身体の奥底で、何かがかすかにざわめいた。

恐怖に押し潰されながらも、言葉を返さずにはいられなかったのだ。


影は揺らぐ輪郭のまま、一歩こちらへ踏み出す。

冷たい声が空間に響いた。


「――君に“正しさ”はあるか?」


低く沈んだ声が、空間全体を震わせた。


「……なんの事だ」

思わず口をついた言葉は、問い返すというより、掠れた呻きに近かった。


影は笑みを深める。

「何、ただの確認さ。

信念とは、時に人の限界を超えて、抗う力となる。」


輪郭の揺らぐその姿から放たれる声は、静かに、しかし逃げ場なく心臓を締めつける。


「君はそれを持ち合わせているのかな?」


「……」


(抗う信念……)


青年はその言葉を心の中で繰り返した。


――抗う、信念…!


思考の底に沈むように響いた瞬間、別の声が重なった。


『抗え――反逆者』


少女の声。

遠い森の奥から聞こえてくるような、けれど確かに自分の胸の内を震わせる響き。


二つの声が交錯する。

影の冷たい問いと、少女の温かくも抗いを促す囁き。


迷いが無かったわけじゃない。

確信があったわけでもない。

ただ、そうするべきだと――俺がそう思った。


気づけば、右手は腰の銃を掴んでいた。

冷たい金属の感触が、確かに存在を主張する。


「……名前も、記憶も、何もない」

掠れた声で呟く。

「けど――ここで膝を折るのは、間違ってる」


銃口を影へと向けた瞬間、胸の奥に熱が走った。

少女の声と、自分の意思がひとつに重なる。


「抗う。それが、俺の“正しさ”だ」


轟音。

銃口から放たれた閃光が、影の胸を貫いた。


輪郭は大きく揺らぎ、崩れ落ちる霧となって空間に散っていく。

だが、その顔には嘲笑めいた笑みが最後まで貼り付いていた。


「……世界はお前を理解する。

そして世界は、お前を排除する。

抗えーー反逆者……」

声はどこか楽しげだった。


残響だけを残し、影は完全に消えた。


けれど安堵の時間は一瞬だった。


ゴゴゴゴゴ……


黒曜石の塔が、不気味な轟音を立てて崩れ始める。

砕け散った破片が宙を舞い、足元へと亀裂が走った。

地鳴りのような揺れが広がり、立っている場所ごと崩壊していく。


「おいおい! マジかよ!!!」


床が裂け、足元から崩れ落ちる。

青年は咄嗟にバランスを取ろうとした。


だが――間に合わない。

身体は空中へと投げ出され、視界が反転する。


「くそっ……!」

体勢を立て直そうと必死に腕を伸ばすが、掴むものは何もない。


重力が全身を引きずり下ろし、心臓を鷲掴みにするような圧迫感が襲う。――それでも。


「……俺は……抗うんだ……!」


闇に呑まれながら吐き出したその言葉は、震えながらも確かに響いた。


熱が胸の奥で弾け、意識が白く滲んでいく。

落下の感覚も、恐怖も、すべてが遠のいていった。


そして、世界は途切れた……。


>>>>>>>>


ーー歯車は回り始める。

それは始まりを告げる音でも、祝福を告げる音でも無い。

世界は緩やかに停滞を呼び起こし、やがて全てが終息する。


-これは世界を記憶したほんの、1ページ-

けれど記憶これは、"誰か"にとって、決して忘れることのない物語。


何処か遠い森の中、少女は本を閉じ、窓の外を見上げた

「教えて、あなたはどんな道を歩んだの?」


最後まで読んでくださってありがとうございます。

この物語は、ちょっと不思議で、少しだけ重たい“反逆譚”です。

記憶を持たない青年が描くSF×ダークファンタジー

ぜひ応援ください!

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