1~10
※カクヨムに掲載している作品の1~10話までをまとめて掲載したものになります。
.1 破滅の未来から来た少年
「もう少しですよ、ルナリア様! この城門を抜ければ脱出できます……!」
俺――グレン・ブラスティはルナリア女王を連れて、城内を走っていた。
数えきれないほどの魔法砲撃を受けた城はボロボロで、あちこちから火の手が上がっている。
ここメルディア王国は、侵略者であるルーファス帝国軍と魔族部隊の連合軍に包囲され、陥落寸前だった。
王国最強と謳われた【六神将】も、俺を残してことごとく散った。
重臣たちは、そのほとんどが殺されてしまった。
俺は、かろうじて生き延びた女王のルナリア様とともに城からの脱出を目指しているところだ。
「グレン……もういいのです。あなたまで死んでしまうわ……」
ルナリア様の美しい顔は煤で汚れ、ひどくやつれていた。
「こうなれば、私も陛下や子どもたちの後を追って――」
「何を仰いますか」
俺は首を左右に振った。
「今は逃げ延びることだけを考えるのです。私が、この命に代えてもあなた様をお守りいたします……!」
15年前――まだ王女だったルナリア様と初めて出会ったあの日から今日まで、俺はずっと彼女を想い続けてきた。
もちろん、許されぬ恋だ。
この気持ちは俺の胸一つに秘めている。
「私が、必ずあなた様を――」
俺はルナリア様を見つめ、熱情を込めて語る。
と、そのときだった。
うおおおお……んっ!
炎の向こうから複数の魔物が姿を現した。
魔族。
侵略者であるルーファス帝国の妖術師が呼び出した、【闇】の眷属たちだった。
「魔族兵です。ルナリア様はお下がりください」
俺は前に出ると、両手持ちの斧槍を構えた。
相手は高速戦闘タイプの【マンティス】か。
名前の通りカマキリを人型サイズにしたような下級魔族である。
高速で動き回り、カマになった両手で必殺の一撃を見舞ってくる。
俺はスピードよりパワーや破壊力、そして耐久力で勝負する重騎士のため、こういう手合いとはあまり相性がよくない。
とはいえ、今は相性がどうとか言っている場合ではない。
どんな敵が立ちふさがろうと、これを薙ぎ払い、ルナリア様をお守りする――。
「ただ、それだけだ!」
俺は斧槍を手に突進する。
ボウッ……。
右手の甲に刻まれた牙の紋章が光を放つ。
今から十年前……二十歳の時に古竜の試練で得た【竜牙】の紋章。
その紋章によって発動するスキル――【剛力】。
「おおおおおおおおっ!」
俺はその【剛力】を発動させ、全身の筋力を爆発的に増大させた。
四方から押し寄せる【マンティス】の攻撃を食らいつつも、力任せに斧槍を振り回し、強引に押し返す。
文字通りの『力任せ』。
これが俺――王国六神将の一人、【剛力】のグレン・ブラスティの戦い方だ。
「ぐっ……」
多少のダメージを負うのは織り込み済みで、近くまで引きつけて次々に倒していく。
これが俺の戦い方だ。
我ながら不器用だとは思うが、スピードが致命的に足りない俺は、こうしてパワーと耐久力任せで敵を倒していくしかないのだった。
「はあ、はあ、はあ……」
やがて数十体の【マンティス】をすべて打ち倒すと、俺は大きく息をついた。
と――、
「ほう、あれだけの数の【マンティス】をすべて倒すとは。さすがは六神将の一人よ」
炎の向こうから現れた新手は、青い鎧を着た騎士だった。
「お前は――!」
俺は息を呑んだ。
胸の中央にある二本の剣の紋章は、帝国において彼だけに許された特別なもの。
「【剣帝】――アルゴス・ルーファス」
二十代半ばくらいの青年で、野性的な雰囲気ながらも整った顔立ちをしている。
ルーファス帝国最強の剣士にして若き皇帝――それが【剣帝】の称号を与えられた、目の前のこの男だ。
「いかにも」
アルゴスがニヤリとした。
「お前がいかに豪勇を誇ろうとも、相手が悪すぎたな。何人たりとも、この俺には勝てん――」
次の瞬間、すさまじい衝撃に俺は吹き飛ばされていた。
「が、がはっ!?」
見えない……!
太刀筋どころか、動きそのものが。
「ふん、鈍重な動きだ」
剣帝アルゴスが嘲笑する。
「この程度の斬撃すら躱せぬとは。俺はまだ本気を出しておらぬぞ」
そして、ふたたび嵐のような連続攻撃を仕掛けてきた。
攻撃も何も見えず、俺は一方的に打ちのめされる。
重装鎧を着ているため、かろうじて致命傷は避けられたものの、あっという間に全身傷だらけになった。
それでも俺は斧槍を支えにして、かろうじて立っていた。
「まだだ……俺は必ずこの国を……女王陛下をお守りする……!」
「無駄だ。お前の忠義も、この国も、全ては今日で終わる」
ふたたび剣帝が動く。
その速度は、さっきまでよりさらに上がっていた。
もはや残像すら見えない。
あまりにも速すぎる――!
「がはっ……」
胸元に熱い痛みが走った。
鎧もろとも斬り裂かれたようだ。
「うう……」
もはや立っていられず、俺はその場に崩れ落ちた。
血に染まっていく視界に、奴に捕らわれたルナリア様の姿が映った。
「っ……!」
「女王はもらい受けるぞ。評判通り、美しいな」
ニヤリと笑ったアルゴスが、ルナリア様を横抱きにする。
そして、その唇を奪おうと顔を寄せていく
「帝国に連れ帰り、側室の一人にでもしてやろう、くくく……光栄に思うがいい」
それを聞いた瞬間、全身の血が沸騰した。
「貴様あああああああああああ!」
俺は絶叫した。
動かないはずの体を無理やり動かし、立ち上がる。
「無駄だ」
ざんっ!
剣帝は容赦なく剣を繰り出し、俺の心臓を貫いた。
「あ……」」
激痛とともに意識が急激に薄れていく。
体中が冷えていく感覚とともに、目の前が暗くなっていく。
「ああ、ルナリア……様――」
守れなかった。
最後まで、守り切れなかった。
無念の思いを最後に、俺の意識は闇に落ちていった――。
.2 希望の未来へ続く道
目を覚ますと、俺は小さな部屋のベッドに横たわっていた。
「どこだ、ここは……?」
慌てて体を起こす。
見回すと、そこには見慣れた家具が並んでいた。
壁を飾る小物、本棚、木製の机。
そして、使い込まれた木剣。
「まさか、これは――」
そう、俺が少年時代に過ごしていた自分の部屋だ。
よく似た部屋とかじゃない。
十五年も過ごした部屋なんだから、見間違えたりしない。
「……い、いや、あり得ない……!」
俺の実家は数年前に帝国の侵攻で燃えてしまったはずだ。
混乱する頭を抱えながら、ふと机に置いてある鏡に目を向けた。
「えっ……!?」
そこに映っていたのは、当年とって30歳の俺の姿じゃなかった。
十代半ばくらいの、若い少年の顔だ。
「どうなってるんだ……!?」
ますます戸惑いながら視線を移すと、机の上に一枚の紙切れがあった。
ベッドから降りて、机に近づく。
見ると、王立騎士団の受験票のようだ。
「騎士団の受験日は一週間後になってるな……そうだ、ちょうど俺の15歳の誕生日だった」
じゃあ、今は――俺が15歳になる少し前の時間軸ということか?
「夢じゃない……ここは、本当に過去の世界なのか……!?」
俺は呆然とつぶやいた。
王都が攻め落とされたときの記憶。
剣帝に殺されたときの痛み。
ルナリア様の絶望的な顔。
すべてが鮮明によみがえってくる。
いずれも忌まわしい出来事だった。
これから15年後に、あれが起きるのかと思うと重苦しい気分になる。
「……いや、違う」
俺は強く拳を握り締めた。
これはチャンスなんだ。
神か、それとも悪魔か……誰が与えてくれたものかは分からないが、俺には『二度目』の機会が与えられた。
「もしも未来を変えられるなら――いや、変えるんだ、俺が」
今度こそ、俺は全てを守り抜く。
「王国を守り、ルナリア様をお救いする」
ならば、そのための力が必要だろう。
圧倒的な強さ。
誰にも負けない力が。
「じゃあ、そのためには……」
俺の頭の中で、思考が巡る。
これから先、俺がなすべきことを考え続ける――。
翌日の朝。
「グレン、朝ご飯いっぱい食べなさいね」
「もうすぐ騎士団の試験だろう? 体調を整えるんだぞ」
食卓に着くと、両親が優しい笑顔で声をかけてくれた。
この光景も懐かしい。
未来の世界では、帝国との戦乱によってすべて消えてしまった――俺の日常だった。
幸せな、日常だった。
失ってことで初めて実感した、かけがえのない日々だった。
「う……」
あ、駄目だ。
涙腺が緩んだと思ったら、涙がこぼれ落ちた。
生きてるんだ。
この世界では、父さんも母さんも。
「お、おい、どうした、グレン……!?」
「急に泣いたりして……」
両親は戸惑った様子だった。
「……なんでもないよ。それより騎士団の入団試験、俺頑張るからさ。絶対合格するから」
俺はにっこりと笑って答えた。
「ほう、頼もしいじゃないか」
父が驚いた顔をする。
確か当時の俺は、騎士団の入団試験前はかなりナーバスになっていた。
合格するのかどうか、不安でたまらなかったな。
実際には、中の下くらいの成績で合格できたんだが……。
「試験日まで、あと一週間だったわね」
と、母が言った。
「ああ。体調もいいし、大丈夫」
俺は元気に答えると、あっという間に食事を平らげた。
過去に転生したせいなのか、異様に腹が減っていたのだ。
「……俺、ちょっと出かけてくる」
「えっ、どこに?」
「ちょっと……ね。入団試験に備えて、秘密の訓練をするんだ」
と、悪戯っぽく笑う。
「もしかしたら、一日がかりになるかもしれないけど、夜には戻るから」
そう言って、家を出る。
のどかな田園風景が広がる、記憶のままの俺の故郷。
この世界は、まだ平和だ。
まだ――何も始まっていない。
けれど、もう間もなくその平和は終わり、多くのものが失われる。
それを阻止するために。
大切なもの全てを守るために。
未来を、変えるために。
俺の戦いが――今始まる。
村はずれの小高い丘に、その遺跡はあった。
未来において――俺が20歳になったとき、偶然立ち寄ったこの遺跡の最深部でエンシェントドラゴンと出会った。
そのエンシェントドラゴンから、俺は力を授けてもらった。
【竜牙】の紋章を。
そして、その紋章から発生するスキル【剛力】を。
【剛力】は、その名の通り常人をはるかに超えるパワーを得るスキルだ。
剣の才能に乏しかった俺だけど、このスキルのおかげで重騎士としての戦闘スタイルに開花した。
そこから頭角を現し、やがて王国最強の【六神将】の一人にまで上り詰めた。
今回、俺はその【剛力】を求めて、遺跡にやって来た。
20歳になってからじゃ遅い。
今すぐ力を得て、今から自分を鍛えて、未来の俺よりもっと強くなる――。
「やるぞ――!」
決意を胸に、俺は一歩を踏み出した。
遺跡の中は、ひんやりとした空気が漂っていた。
「記憶通りだ……」
俺が未来で死んだのは30歳のときだから、体感時間で言えば、ここを訪れるのは10年ぶりということになる。
懐かしい記憶がよみがえるのを感じながら、俺は通路を進んでいった。
10年経っていても、案外覚えているもので、途中でいくつかある分岐も大して迷わずに進んでいくことができた。
「ここらで魔物が出てくるんだったよな……」
開けた場所に出たところで、俺は足を止めた。
その記憶通り――、
がしゃ、がしゃ、がしゃ……。
金属音とともに魔物の一団が現れた。
黒い鎧を着た騎士のモンスター【シャドウブレイダー】だ。
未来でここを訪れた俺は、こいつらに大苦戦した。
頬に消えない傷が刻まれたのも、こいつらとの戦いが原因だった。
だけど今の俺は、あのころとは違う。
未来の知識と戦闘経験がある。
確かに【シャドウブレイダー】は強敵だけど、こいつらの動きの癖や弱点を、俺は知っている――。
黒い剣士たちが襲い掛かってきた。
「――こっちだ」
俺はいったん逃げて、狭い通路にやってくる。
開けた場所だと囲まれてしまう危険があるが、ここなら大丈夫だ。
一度に襲い掛かって来られる人数は、せいぜい二体まで。
それなら何とか対処できる。
うおおおおんっ。
不気味な咆哮を上げながら、先頭にいる黒い剣士が斬りかかってきた。
最初の一撃は高確率で【上段斬り】。
そのとき、一秒ほどだが胴体がガラ空きになる。
「そこだ!」
狙いすました一撃で胴を深々と切り裂き、最初の【シャドウブレイダー】を撃破する。
うろたえたように動きを止める、他の連中。
「仲間が倒されたとき、一瞬思考が停滞する――それもお前らの弱点だ!」
俺は追撃で二体をまとめて倒した。
いける――!
俺は手ごたえをつかんだ。
守勢に回らず、確実に一体ずつ仕留め、さらに隙を見て、追撃する。
この繰り返しで【シャドウブレイダー】の群れは全滅させられるはずだ。
.3 最強の力を得るための試練
首尾よく敵を全滅させた俺は、さらに先へ進んだ。
道中、何度かモンスターに出くわしたが、いずれも動きの習性や弱点などを俺は知っている。
だから、苦戦らしい苦戦をすることなく、最深部までたどり着くことができた。
そこには、未来で俺が会った古竜――【ザレリオス】が鎮座していた。
身長20メートルを超える巨体。
緑に輝く鱗。
禍々しい角や爪と長大な翼。
そして深い叡智をたたえた瞳――。
その瞳に見据えられ、俺は息がつまるような威圧感を覚える。
懐かしい、威圧感だ。
「ここを訪れる人間がいるとはな……実に500年ぶりか」
ザレリオスが俺を見て、興味深そうに言った。
「して、何用か? 探索者が迷い込んだのか。それとも我を討伐にでも来たか」
ここまですべてが未来のときと同じ台詞だった。
「どちらでもありません、古き竜よ」
俺は礼を失しないよう、恭しい態度で答えた。
「私の名はグレン・ブラスティ。この国に住む平民です」
まず名乗り、竜を見上げる。
「私がここに参った理由は、ただ一つ。あなたから力を授かりたいからです」
「ほう?」
ザレリオスが目を細める。
「力を授ける、か。我は確かに、気まぐれに人間の力を授けることもある。だが、最初からそれが叶うかのような物言いは――」
俺の全てを見透かすような目だった。
「お前には妙な気配がまとわりついているな。超古代文明の――なるほど、【魂の調律器】を使ったのか」
「えっ……?」
俺は驚いて竜を見上げる。
超古代文明?
魂の調律器?
いったい、何の話だ――?
「お前は、この世界の……いや、この時代の人間ではないな?」
ザレリオスがたずねた。
その瞳は、俺が嘘をついたとしても、たやすく見抜いてしまいそうな知性に満ちている。
「……仰るとおりです。私は、今から十五年ほど未来から来ました」
俺は素直に真実を語ることにした。
三十歳のときに帝国の一大侵攻を受け、王都を攻め落とされたこと。
その際に女王のルナリア様を連れてにげていたが、途中で帝国の剣士に敗れ、殺されたこと。
気が付けば十五歳になる直前の自分に生まれ変わっていたこと。
「……ふむ」
俺の話を一通り聞いたザレリオスは、深くうなずいた。
「事情は分かった。状況からの推測だが、おそらく未来の世界のメルディア王城には超古代文明の秘宝――【魂の調律器】があるのだろう」
「ソウルチューナー……?」
「人の魂を抽出したり、移植したり……魂を様々な形に加工し、あるいは変質させることができる魔道具だ。今回は未来のお前の魂を、この時代のお前の肉体に移植したのだろう。おそらくな」
「未来から過去に――魂を移植……」
俺はザレリオスの言葉を繰り返した。
「一体、なぜそんなことが……?」
「そこまでは分からぬ。ただ【魂の調律器】に時空を超える力はない。だから、別の魔道具の能力か、あるいは何らかの術式が合わさって起きた現象ではないかと推測する」
と、ザレリオス。
「それを誰かが行ったのか、あるいは魔道具による偶発的な事故なのかは分からん。ただ、お前の魂が未来から過去へとさかのぼり、この時代のお前の肉体に宿ったことは確かだろう」
すべては謎のまま、か。
――いや、そのことは今はいい。
俺に今、必要なのは力を得ることだ。
「話を戻させていただきますが……私は力を欲しています」
俺はザレリオスに言った。
「未来の世界で、私の国メルディアはルーファス帝国によって王都を落とされました。私はその歴史を覆したい。この国を救いたいのです」
熱を込めて語る。
「……ふむ」
うなるザレリオス。
「そのためには力が要る。未来において、私は六神将と呼ばれる王国最高戦力の一人でした。ですが、それではまだ足りない」
俺は身を乗り出し、さらに熱弁した。
「もっと強大な力が要る。戦場において、一人で戦況を覆すほどの絶大な力が。たった一人で軍にも匹敵するような超戦士たる力が……!」
「お前が、それになりたいのか」
「はい!」
言って、俺はいったん口をつぐむ。
国を救いたい。
その気持ちは、もちろん本物だ。
けれど、俺の根底にあるのは、また別の気持ちだった。
「それとは別に、私個人の……私的な理由があります」
それを打ち明けることで、古竜がどう感じるか分からない。
大義のためではなく、個人の感情のために力を欲するのか、と呆れられるかもしれない。
それでも俺は素直に話そうと思った。
無条件で力を授かろうという虫のいい願いをしに来たのだ。
なら、正直にすべてを話すのは最低限の礼儀だと思ったのだった。
「――ふむ」
ザレリオスが興味深そうに目を細めた。
「申してみよ」
「未来の私には……想い人がおりました。メルディアの女王陛下ルナリア様……この時代では王女ですが、彼女を守りたい一心で戦っていたのです」
言いながら、俺は全身の震えが止まらなくなった。
未来で俺が殺される直前の記憶。
剣帝によって連れられ、『皇帝の側室にしてやる』などとうそぶいた奴の言葉。
おそらく未来の世界では、そのままの出来事が起きたのだろう。
ルナリア様はあの男に奪われ、無理やり側室にされ、あるいは子を産まされているかもしれない。
きっと悲嘆と絶望に打ちのめされていることだろう。
そんな未来は、絶対に阻止しなければならない。
「俺は、ルナリア様を守りたい……だから、強くなりたい。そして、この国を救い、あの方に幸せに過ごしてほしいのです……!」
「それがお前の真実か」
ザレリオスは大きく息を吐きだした。
沈黙が流れる。
古竜はしばらくの間、黙考していた。
俺はその答えが出るのを、微動だにせず待ち続けた。
やがて――永遠とも思える時間の後に、ザレリオスが口を開く。
「……よかろう。ならば、お前に力を授ける。【剛力】よりもさらに強大な力を」
.4 そして俺は超騎士になる
未来の俺が手に入れた【剛力】よりも、さらに強大な力――か。
それはつまり、未来の俺よりも強くなれるということを意味するはずだ。
俺が求める、圧倒的な力。
そこに近づくことができるなら、俺は――。
「力を得るためには、試練が必要なのでしょう? ザレリオス」
俺は古竜にたずねた。
未来で俺が【剛力】を授けてもらったときも、竜が出す試練を突破したのだ。
ならば、それを超える力を得るためには、おそらく【剛力】を得たときよりも厳しい試練があるのだろう。
「――どんな試練でもお授けください。私は、必ず乗り越えてみせます」
「決意は固そうだな」
ザレリオスが俺をジロリとにらんだ。
「言うまでもないが、命懸けだぞ?」
「無論、覚悟の上です」
俺は即答した。
互いの視線がぶつかり合う。
「よい目だ。この試練は数千年の間、乗り越えた者はおらんが――お前ならば、あるいは」
と、ザレリオス。
「では――試練を始めよう」
カッ!
ザレリオスの体が光を発し、その光が前方で収束していく。
やがて光が晴れ、ザレリオスによく似た竜の顔と翼、鱗、そして人の体を持つ異形――『竜人』が出現した。
「我の分身である『竜人』だ」
ザレリオスが説明した。
「お前には、この竜人と戦ってもらう。もし勝てたなら、お前が望む力を授けよう」
なるほど、シンプルだ。
「力ずくでねじ伏せろ、ということか」
「戦う前に――お前にはこれを授けよう」
ザレリオスが言うと、俺の体に燃えるような感覚が生じた。
「っ……!」
右手の甲に竜の牙を模したような紋章が浮かび上がる。
未来の俺が使っていた【竜牙】の紋章――【剛力】のスキルを秘めた紋章だ。
「これで未来のお前と同じ力を使うことができる。その力を、未来のお前以上に使いこなせたなら――『竜人』に勝つこともできよう」
と、ザレリオス。
「使いこなせなければ、死あるのみだ」
「――上等だ」
俺は小さくうなずいた。
「必ず、勝ってやる」
「ならば――始めるといい」
ザレリオスの言葉を合図に、
どんっ!
竜人が地面を蹴って突っこんできた。
一瞬にして目の前まで迫る竜人。
「なっ……!?」
速い!
異常なほどのスピードに、俺は目を見開いた。
俺はパワータイプの重騎士だ。
スピードには自信がない。
実際、未来の俺も剣帝アルゴスのようなスピードタイプの敵には苦戦を強いられた。
「くっ……」
竜人が繰り出した爪の攻撃を、俺はかろうじて避ける。
いったん距離を取りたいが、竜人はそれをさせてくれず、連続攻撃を繰り出してくる。
たちまち俺は防戦一方になった。
竜人が爪を繰り出す。
俺はなんとか回避する。
その繰り返しで、反撃に移る余裕がない。
「どうした? 未来のお前も『速さ』を相手に、苦戦していたのではないか?」
ザレリオスが言った。
「……くっ」
図星だ。
俺の弱点――そう、このタイプの敵とは本当に相性が悪い。
対応できない速度で一方的に打ちのめされる、このシチュエーション。
それは、未来で剣帝アルゴスに追い込まれたときと、あまりにも似ていた。
『ふん、鈍重な動きだ』
奴の嘲笑が記憶によみがえる。
鎧ごと斬り裂かれ、心臓を貫かれた絶望的な感覚。
そして――。
奴に捕らえられ、絶望に染まったルナリア様の顔が脳裏に浮かんだ。
「守れなかった……」
この手で、守り切れなかった。
「俺は、また繰り返すのか――?」
この世界でも、俺はまた大切な人を守れずに終わるのか。
「……ふざけるな」
なんのために戻ってきたんだ、俺は。
せっかく与えられた好機を無駄にしてたまるか。
もう二度と繰り返さない。
繰り返させない。
「ルナリア様を守るため、王国を救うため――俺はもっと強くなる!」
どんな敵が相手だろうと、全てを打ち砕く圧倒的な力を手に入れる。
「そして――今度こそ大切な人を守るんだ!」
叫んだそのとき、全身から力があふれ出すのを感じた。
力は熱となり、胸元に収束していく。
そして、
ボウッ……!
胸の中心から光があふれた。
「これは――!」
そこに翼を模した紋章が浮かんでいた。
竜の、翼だ。
右手に牙、胸に翼――俺は二つの紋章を宿したことになる。
「第二の紋章に目覚めたか」
ザレリオスが言った。
「第二の……?」
「お前に授けたのは、【剛力】のスキルを持つ【竜牙】の紋章だけではない」
ザレリオスが説明する。
「【剛力】以外にも様々なスキルを持つ竜属性の紋章が存在する。その数は全部で七つ――お前の魂の成長に呼応し、それらの紋章は一つ一つ目覚めていくだろう」
「七つの、竜の紋章……!?」
俺は驚いて古竜を見た。
一つだけでも王国最強クラスに強くなれたっていうのに。
その数が七つとなれば――もはや無敵だ。
「ただし、全ての紋章を目覚めさせるのは並大抵のことではない。まして、それを使いこなせるのは――真に強大な魂を持つ者だけ」
ザレリオスが言った。
「お前に、使いこなせるか……人間よ」
「――やってみせます、古竜よ」
俺は言い返した。
「まず手始めに第二の紋章の力で、奴を倒す。【神速】発動――!」
どんっ!
地面を蹴って突進すると、まるで翼を得たようなすさまじい推進力が生じた。
「ぐっ……!」
あまりのスピードに全身が軋む。
【剛力】しか使えなかった未来の俺は、完全なパワータイプの戦い方をしていた。
スピードタイプの戦い方はできなかったし、敵にそのタイプがいるとうまく対応できない――俺の弱点といってよかった。
だが、これで『速度』は俺の弱点どころか、武器の一つへと昇華した。
竜人が迎撃の爪を繰り出すが、俺はそれを楽々と見切る。
推進力だけじゃない、反応速度も上がっている――!
「遅い!」
俺は奴の動きを見切り、避けながら、反撃を繰り出した。
【剛力】による超パワーの剣で、奴の腕を斬り飛ばす。
おおおお……んっ。
苦鳴を上げて動きが止まった竜人に対し、俺はさらに斬撃を繰り出した。
ざんっ!
一刀両断――。
俺の一撃で竜人は真っ二つになり、倒れた。
「す、すごい……!」
俺は呆然とした気持ちで両手の甲に輝く紋章を見つめる。
【剛力】に加えて、翼の紋章による【神速】、そして圧倒的な反応速度。
今の俺は、まさしく力と速度を備えた超騎士だ――。
.5 入団試験
一週間後、騎士団の入団試験当日。
俺は意気揚々と家を出た。
この日のために二つの紋章を制御する訓練を重ねてきた。
【剛力】スキルについては未来でずっと使っていたから問題ないけど、【神速】はこの時代で初めて身に付けたスキルだ。
だから【神速】の訓練にほとんどの時間を費やした。
超スピードに体を慣らすのはもちろん、超反応についても自分の感覚に馴染むよう、訓練を重ねた。
その甲斐あって、こっちのスキルについても習熟してきたつもりだ。
今なら、未来の俺よりも確実に強い。
それだけの自信がある。
過去に戻り、こうしてやり直す機会を得られたことに――その運命に、俺は感謝した。
今度こそルナリア様を、そしてこのメルディア王国を必ず守り抜いてみせる……!
そう、俺の新たな戦いが今、始まるんだ。
試験会場は、王城に併設された騎士団の訓練場だ。
ちなみに魔法師団の入団試験も同時に行われていて、そっちは騎士団の訓練場の隣にある魔法師団用の訓練場で行われているそうだ。
到着すると、会場は大勢の受験生がひしめき合っていた。
ざわめきと熱気に満ちた空間が、俺の気持ちをさらに高ぶらせた。
未来で俺は中の下くらいの成績で合格した。
だが、今の俺なら――首席合格だってあり得るだろう。
もちろん、油断はよくない。
まず大切なのは、確実に合格することだ。
そうして、俺はようやくスタートラインに立てるのだから。
「ん、あれは……?」
周囲を見合わすと、一人の少年の姿が目に留まった。
黒髪に紫色の瞳をした秀麗な顔立ちの少年。
「ミゲル……?」
未来において、俺と同じくメルディア六神将の一人であり、無二の親友でもあった男――【光剣】のミゲルだ。
確か、出会ったばかりのころ、彼は周囲に対して刺々しい態度を取っていた。
貴族出身が大半を占める騎士団の中で、ミゲルは平民出身だ。
しかも貴族に対して、あまりいい思い出がないため、貴族の子弟とはよく反目していた。
俺はその仲裁に追われていたんだ……懐かしいな。
彼も今日の試験を受け、俺と一緒に合格するはずだ。
――未来の歴史の通りなら。
と、
「おい、平民のくせに生意気なんだよ!」
「この試験は貴族様のものだ!」
「お前なんかに合格できるわけないだろうが!」
貴族の息子らしき少年とその取り巻きが、ミゲルを囲んで罵声を浴びせている。
「貴族なんて、みんなこんなものか」
ミゲルは何も言わず、冷たい目で彼らをにらんでいた。
「なんだその目は! おい、やっちまえ!」
貴族の取り巻きが木剣を構えた。
試験のため、木剣を持参している者も少なくない。
ちなみに、俺も実家から普段訓練に使っている木剣を持ってきていた。
「おらあああっ」
取り巻きたちが叫びながらミゲルに襲いかかる。
だが、ミゲルの動きはそれよりもはるかに速かった。
一瞬で距離を詰め、木剣を振るう。
がんっ!
取り巻きの一人があっという間に叩きのめされ、地面に転がる。
「ぐっ……な、なんだこいつ……!?」
「遅いんだよ。あくびが出そうだ」
他の取り巻きも次々にミゲルに倒されていく。
パワー偏重だった未来の俺とは対照的に、ミゲルの戦闘スタイルは速度重視だ。
その才能は、すでに十分な片鱗を見せていた。
あっという間に取り巻きをすべて打ち倒したミゲルは、最後に残った貴族の息子に木剣を突きつける。
「ひ、ひぃっ……参った、参ったから許してくれ……!」
貴族の息子は青ざめた顔で後ずさる。
だが、ミゲルは木剣を下ろさなかった。
「僕の父は貴族に殺された」
ミゲルが貴族の息子を見据える。
その目には、憎悪が宿っている。
「次は僕の番だよな? ええ?」
木剣の先端を貴族の目の前に突きつける。
まずいぞ。
このままでは、ミゲルはあいつを殺してしまいかねない。
未来の歴史ではそんな事件は起こっていないけど、この世界が、俺が経験してきた未来とまったく同じ道をたどるという保証はないからな。
「そこまでだ!」
俺はミゲルと貴族の息子の間に割って入った。
「……なんだお前」
ミゲルが俺をにらむ。
「それ以上は死んでしまう」
俺はミゲルの目をまっすぐに見詰めた。
「邪魔をするなら、お前も叩きのめす」
ミゲルは俺に木剣の切っ先を向け直す。
「――なら、力で止めさせてもらう」
俺は木剣を抜いて構えた。
.6 【剛力】VS【光剣】
未来のミゲルは、俺と無二の親友だった。
だからこそ、ここで絶対に止めなければならない。
こんな公衆の面前で貴族殺しなんてしでかしたら、ミゲルの人生は終わりだ。
だけど……そんなことはおかまいなしに、木剣で貴族の息子を叩き殺しかねない危うさが、今のミゲルにはあった。
だから、俺が止める。
「お前は平民みたいだけど、この貴族の味方ってわけか」
ミゲルが吐き捨てるように言った。
「貴族様に尻尾を振る情けない奴め!」
「俺は誰の味方でもない」
俺は首を左右に振った。
「ただ、お前を見ていられないだけだ」
「……なんだと?」
ミゲルの表情がこわばる。
「こんなところで問題を起こしても、なんの益もないだろう」
「益だと? それがどうした!」
ミゲルが吠えた。
「僕の人生は貴族のせいでめちゃくちゃになった。貴族はすべて僕の敵だ!」
周囲がシンと静まり返った。
「貴族は傲慢で汚らしくて罪深い存在だ! 貴族は僕の父を殺した! 平和な家庭を壊された! こんな奴ら、全員消えてしまえばいい!」
「……!」
さっきの貴族の息子がバツが悪そうな顔でうつむく。
「お前の境遇には同情する」
俺はミゲルを諭した。
実際、家族を失う苦しみや痛みは、俺も未来の世界で味わっている。
俺は戦乱で、ミゲルは貴族によって――理由は違うが、痛みは同じだ。
「だけどお前は憎しみに染まって、視野が狭くなりすぎている」
「貴様、僕に説教する気か!」
ミゲルが怒りの表情を浮かべた。
「いや――どのみちお前は言葉では止まらないんだろう? だから」
俺は木剣を構えた。
「こいつで止める」
「止められるものなら止めてみろ!」
吠えて突進するミゲル。
速い――!
速すぎて動きがブレて残像が生じていた。
まだまだ粗削りとはいえ、未来で【光剣】と称される片鱗をすでに見せている。
「はああああっ!」
高速の突進で距離を詰め、その勢いに乗ったままミゲルが斬撃を繰り出した。
さながら閃光のように速く鋭い剣技。
それが【光剣】の二つ名の由来だ。
いくら俺が二つの紋章に目覚めたとはいえ、油断していい相手ではない。
「どうした? 棒立ちだぞ!」
ミゲルの残像が三つに増え、そいつらが三方向から同時に打ちかかった。
後に彼が【残影殺】と名付ける幻惑の剣技だ。
「だけど、まだ甘い――」
未来のお前は、その残像を七つ作っていた。
俺は【竜翼】による超反応速度を全開にして、それらの攻撃を避けながら、反撃の隙を伺う。
「ちょこまか避けやがって!」
ミゲルの攻撃がさらに加速した。
末恐ろしいとは、まさにこのことだろう。
現時点でも、ミゲルの実力はこの国の上級騎士に引けを取らない。
「だけど――だからこそ、上には上がいることを知るべきだ」
それがお前の成長につながるはずだから。
そう、いずれ俺にとってかけがえのない相棒になる、お前の。
未来を変えるための戦いにおいて、不可欠の存在となるお前の。
「成長してもらうために、俺は――」
三方向から迫る剣をことごとくかいくぐり、避け、俺はミゲルに肉薄した。
【竜牙】のパワーと【竜翼】のスピードを併せ持つ今の俺は、もはや速度を弱点とはしない。
「ば、馬鹿な――」
驚くミゲルに対し、俺は渾身の突きを見舞った。
そして、奴の眼前で木剣を止める。
「っ……!」
ミゲルの動きが止まった。
からん、と木剣を取り落とすミゲル。
「……参った」
一瞬の後、ミゲルは悔しげにうなった。
「この僕が……しかも速さ勝負で負けた……」
ミゲルはまだ信じられないといった表情だ。
「お前は強い。だけど、まだ完全じゃない」
俺はミゲルに言って、手を差し伸べた。
「そして、それは俺も同じだ。一緒にここで、さらなる強さを目指そう」
「お前……」
「グレン・ブラスティだ」
俺はニヤリと笑い、名乗った。
「――ミゲル・ラース」
ミゲルは名乗り返し、俺の手を握った。
「いずれお前に勝つ男の名前だ。覚えておけ」
「ああ、俺だって負けない」
俺は力強くうなずいた。
この出会いは、きっと掛け替えのない友情の始まりになるはずだ。
未来の俺たちがそうであったように――。
.7 実技試験で無双する
騎士団の入団試験は、午前中に学術試験が行われ、午後に実技試験という流れで進んでいく。
学術試験に関しては、俺は未来の知識があったから楽勝だった。
歴史に地理、文化、芸術、さらには戦術や法規、魔物の知識まで――解答用紙をあっという間に埋めていく。
十五歳当時の俺は、確かこの試験で中の下くらいの成績だったはずだ。
でも今の俺は違う。
長年騎士として勤めてきた中で学んだ知識や、十五年に歳月で身に付けた知識――それらを合わせれば、こんな試験は子どもの遊びのようだった。
やがて試験が終わり、昼食休憩を挟んで結果発表になった。。
「これより学術試験の結果を発表する! 合格者のみ、午後からの実技試験に進むことができる――では、今から合格者の名前を読み上げていく」
そう言って、試験官は学術試験に合格した者の名前を、一人一人読んでいった。
俺は当然のように合格だったし、ミゲルも通っていた。
「では、ここで特別に、今回の試験の満点者と次点者を発表する」
試験官が最後に言った。
ああ、そういえば成績優秀者として一番と二番の名前が呼ばれるんだっけ。
「満点者は受験番号75番、グレン・ブラスティ」
「おおおお!」
「すごいじゃないか、あいつ!」
「平民なのに満点かよ……!」
周りの受験生たちが驚きと称賛の声を上げた。
「次点者は受験番号32番、ミゲル・ラース」
「くっ、知力でも負けた……」
ミゲルが悔しげにうなった。
――当時の彼は、俺よりはるかに優秀だった。
実技では圧倒的にミゲルの方が強かったし、学術試験でも彼の方が良い成績だったはずだ。
このころの俺は、ミゲルに憧れの念を抱いていたんだ――。
懐かしい気持ちになりながら、俺はミゲルに声をかけた。
「二番なら十分じゃないか」
「うるさい! お前に負けたら意味がないだろ!」
ミゲルは俺をにらみつけた。
「はは、これから切磋琢磨していくんだからいいじゃないか」
「……見てろよ、次の実技試験は僕が勝つ。僕は――誰にも負けない最強の騎士になるんだ」
ミゲルの瞳が燃えていた。
ああ、そうだ。
いつだって情熱的で、ストイックで、上だけを目指して。
お前はそういう奴だったよな、ミゲル――。
「……? なんだよ、僕の顔をジロジロ見て」
ミゲルは不審そうに俺を見ていた。
「いや……変わってないなと思ってさ」
「はあ? 初対面だろ、僕らは」
「おっと……そうだったな」
俺は慌ててごまかす。
「ったく、適当なこと言いやがって……」
ミゲルはまだ悔しそうだ。
そんな彼の姿を見て、俺は笑ってしまう。
「午後からの実技もがんばろう」
「……ふん。僕とお前なら不合格になりようがないだろ」
ミゲルは相変わらず刺々しい口調だ。
「油断していると足元をすくわれるぞ」
「ふん」
ミゲルはますます不機嫌そうな顔になった。
やがて、午後の実技試験が始まった。
実技試験は、受験生同士で試合形式で戦うというものだ。
騎士団の教官たちが審判を務める中、俺の試合が始まった。
相手はかなり体格がよく、俺より縦にも横にも一回り大きかった。
「へっ、学術試験は満点だったそうだが、実技は別だからな!」
少年が木剣を振りかぶった。
「おおらああっ!」
そのまま渾身の一撃を繰り出してくる。
「――遅い」
が、その前に俺の木剣が彼の目の前に突きつけられていた。
「あ……は、速い……」
少年はその場に崩れ落ちた。
「速すぎる――」
仮にパワー勝負でも負けるつもりはない。
が、今は新たに身に付けたこの『速度』二、自分の体を慣れさせたい。
そう、俺はこの実技試験に関しては、パワーは封印してスピードですべての対戦相手を圧倒するつもりだった。
そして――その後も、俺は勝ち続けた。
ミゲルも当然のごとく連戦連勝だ。
「な、なんか……あいつら二人だけ異常に強くないか?」
「俺たちとはレベルが違いすぎる……」
「あんなの勝てっこねーよ……」
「バケモンだぜ、二人とも……」
他の受験生たちは戦慄している様子だった。
と、そのとき、隣の訓練場からひときわ大きな歓声が上がった。
確か、向こうでは魔法師団の入団試験が行われているはずだ。
「……そうか。あいつも今日受験しているんだったな」
俺は当時の記憶をたぐりよせ、ニヤリとする。
視線を向けると、そこには一人の少女の姿があった。
金色の髪をツインテールにした勝ち気そうな美少女だ。
ばちっ、ばちいぃっ!
その全身から青白いスパークが飛び散っている。
サーラ・ゼルシャータ。
未来において【天雷】の二つ名を持ち、六神将の一人に名を連ねる王国最強の魔術師だ――。
.8 【天雷】のサーラ
「あ、危なかった……直撃したらやられてたぜ……」
サーラの対戦相手の少年が青ざめた顔をしている。
彼女の魔力量は圧倒的だ。
おそらくこの時点で、国内でも三本の指に入るほどだろう。
ただし――、
「あー、もうっ! なんでこんなに上手くいかないのよ!」
サーラは悔しげに叫んだ。
「今度こそ! 【サンダーブラスト】!」
と、雷撃魔法を放つ。
が、十数条の稲妻はいずれも対戦相手から全く離れた方向へと飛んでいき、空中で爆発を起こした。
「はは、どこ狙ってるんだよ」
少年が笑う。
そう、彼女は圧倒的な魔力を誇るものの、その制御能力が未熟なのだ。
未来においては、その弱点を克服して最強の魔術師になるのだが、それはまだまだ先の話。
今の彼女は魔力こそ高いものの、まともに攻撃魔法を命中させられない、まさに宝の持ち腐れ状態だった。
――その後もサーラは対戦相手にまともに攻撃を当てられず、逆に反撃を受けて、あえなく敗北した。
「うう、また負けたぁ……次負けたら、さすがに終わりかなぁ……」
試合後、サーラは地面にへたり込んで落ちこんでいた。
俺は実技試験の次の順番まで時間があったので、彼女の元に歩み寄った。
「……サーラ」
「何、あんた? なんであたしの名前を知ってるのよ」
サーラが顔を上げ、俺をにらんだ。
まるで俺が彼女を口説きに来たのではないかと警戒しているような表情だ。
――しまった。
俺は心の中で頭を抱えた。
未来の俺とサーラは、騎士団と魔法師団という立場の違いはあれど、良き戦友であり、互いに認め合う仲だった。
しかも彼女は、いつからか俺に想いを寄せてくれていたらしい。
入団して二年目くらいに、彼女から恋の告白を受けたことがある。
俺はルナリア様一筋だったので、その告白は断ってしまったが……。
とはいえ、初対面の状態でサーラが俺にそんな感情を抱くわけもなく、
「悪いけど、あたし……試験に集中したいから」
サーラは俺に冷たい視線を向けて、その場を去っていった。
「うーん……最初からつまずいてしまった」
俺はため息をついた。
と、
「……おい、グレン」
そんな俺の隣に、ミゲルが立っていた。
いつの間に現れたんだろう。
「なんだ、ミゲル」
「さっきの子、知り合いか? めちゃくちゃ可愛いじゃないか」
ミゲルの視線の先にはサーラの姿があった。
「惚れた、かも」
「えっ……」
俺は驚いた。
未来のミゲルは俺と同じく騎士一筋で、恋愛にはまったく興味がなかったはずだ。
だから、こうしてミゲルがサーラに一目惚れするような歴史はなかった。
俺が過去に転生したことで、未来が少しずつ変わり始めているのかもしれない。
まあ、それは悪いことじゃないだろう。
俺としてはミゲルにも幸せになってほしいし、な。
「なんだよ、ニヤニヤして。気持ち悪い」
「いや、なんでもないさ」
俺は笑いながら、ミゲルの肩を叩いた。
「……俺はさっきの彼女に伝えなきゃいけないことがあるんだ。一緒に来てくれないか、ミゲル」
「伝えたいこと?」
ミゲルがジト目になった。
「お前もあの子を狙ってるのか?」
「違う」
今度は俺がジト目になった。
俺はミゲルと一緒にサーラの元まで歩いて行った。
「……あんた、さっきの」
サーラは俺を見て、警戒心を露わにする。
「さっきは悪かった。君の名前は……その、他の受験生に呼ばれているのを聞いて、分かっただけなんだ」
俺はそう断りを入れ、
「君はまだ本来の力を出し切れていないよな」
「……どういう意味よ」
サーラが俺をにらんだ。
まだ嫌われてるかもしれないな。
けど、これは彼女にとって大事なことだし、ちゃんと伝えなければ――。
「君の魔力は、君自身の感情に大きく左右されている。苛立ちや焦りが、魔力の制御を邪魔しているんだ」
俺は、未来のサーラが苦労の末に編み出した魔力制御法を語った。
それは、メンタルのコントロール方法だが、ちょっとしたコツがある。
「焦ったときこそ、自分を客観的に見つめるもう一人の自分をイメージするんだ。精神論じゃなく、精神を制御する技術として、それを身に付けろ」
「技術……ね」
サーラがうなずく。
「……なるほど、そういう考え方はしたことがなかった」
「感情の起伏を抑えられれば、後は君本来の実力を発揮できる。そして君の本来の実力なら、他の魔術師なんて敵じゃない」
俺はにっこりと笑った。
「サーラは無敵だからな」
「無敵か……いいね、それ」
サーラが微笑んだ。
お、やっと笑ってくれた。
「ん。ありがと。なんか緊張がほぐれてきた」
「お役に立ててなら何よりだ……ぐほっ!?」
「おい、さっきから二人っきりでしゃべって、僕は蚊帳の外かよ」
ミゲルが俺をめちゃくちゃにらんでいた。
「わ、悪い……ちょっと大切な話だったから」
俺は苦笑交じりに謝り、
「こっちは俺の親友のミゲルだ。よろしく」
「いや、親友じゃないし。っていうか、友だちですらないし」
「いや、友だちだろ!?」
俺は抗議した。
「いつ友だちになったんだよ……いいか、お前は僕にとって倒すべき敵だ。忘れるなよ」
ミゲルが俺をにらむ。
なんだか、サーラにもミゲルにもにらまれてばっかりだな……。
未来じゃ二人とも無二の親友だったのに。
「そ、その……よろしく」
ミゲルはサーラに向き直って挨拶をする。
顔が真っ赤だった。
こんな初心なミゲル、初めて見たぞ。
「どうも」
一方のサーラは仏頂面だ。
もしかしたら、初対面の男には厳しいんだろうか?
「彼はあたしに助言をくれたけど、あんたは? 何の用?」
「いや、その、だから……えっと……」
ミゲルはしどろもどろだった。
普段の強気な態度はどこへ行ったんだ?
「……おい、なんか助け舟を出してくれ」
ミゲルが俺に耳打ちする。
心の底から困ったような顔をしている彼を見て、俺は噴き出してしまった。
こんな一面を見ることができるとは。
「えっと……つまり、俺たちは騎士、君は魔術師、この国を守る力になる人材だ。だからお互いに切磋琢磨するために刺激を受けたいと思ったのさ」
俺は適当な理由をでっちあげた。
「刺激……ねぇ。強いの、その人」
「ああ。ミゲルは強い」
俺は胸を張った。
「……なんで、あんたが偉そうなのよ」
「友だちだからな。ミゲルの強さは、俺にとっても誇りだ」
これは本音だった。
「……ふうん」
サーラは俺を見て、かすかに笑った。
「なんかいいね、そういう関係」
「そうか」
「ん。ちょっと刺激になったかもしれない」
サーラは言って、手を差し出した。
「じゃあ、よろしくね……って、あんたの名前を聞いてなかったね」
「グレン・ブラスティだ」
「サーラ・ゼルシャータよ。よろしく」
俺たち三人は固い握手を交わした。
その後、サーラは見事に魔力制御を成功させ、魔法師団の入団試験に合格した。
もちろん、俺とミゲルも実技試験を突破し、騎士団の入団試験に首席と次席で合格することができた。
そして――俺たちの新しい戦いが始まる。
未来を変え、未来を勝ち取るための戦いが。
.9 波乱の入団式
王立騎士団に首席合格して二週間後――。
その日、俺は騎士団の入団式に出席するため、出立するところだった。
王立騎士団員は基本的に寮生活だから、実家で暮らすことはできない。
この家を出ていくのは名残惜しかった。
未来の世界では、すでに故郷自体が滅ぼされている。
だから、転生してからのわずか三週間ほどの実家暮らしは本当に懐かしく、幸せな日々だった。
「グレン、がんばってこい」
「お前が首席合格なんて、夢みたいだよ」
父と母は誇らしそうだ。
ただ、その表情には寂しさがにじんでいた。
俺だって……本音を言えば、もう少し実家で過ごしたい。
だけど――、
「俺、そろそろ行くよ」
気持ちを振り切り、俺は両親に告げた。
「休暇には帰ってこられるから。心配しないで」
寂しさを隠し、にっこりと笑顔を作って、俺は別れを告げた。
入団式の会場はメルディア王城の中庭だ。
到着すると多くの新人騎士や、合同で入団式が行われる魔法師団の新人魔術師がいた。
その中に見慣れた顔を見つける。
「よう、ミゲル」
「……お前か」
ミゲルは仏頂面で俺をにらんだ。
あいかわらずツンケンしてるなぁ。
「おい、あいつら――」
「首席のグレンと次席のミゲルか」
「あんまり強そうじゃないけど……やっぱり強いのか?」
「馬鹿、お前、実技試験を見てなかったのかよ? 二人ともバケモンだったぞ」
などと、周囲から声が聞こえる。
そんなざわめきの中、一人の男が俺たちの前にやって来た。
「お前らが首席と次席合格だそうだな。二人とも思ったより優男じゃないか」
王立騎士団、副団長のゴードンだ。
未来の世界では、嫌味な性格の上に無能で、多くの団員から嫌われていた。
しかも、新人いびりが大好きと来ている。
未来の歴史では、首席合格は別の騎士だったが、彼女はゴードンのいびりに耐え切れず、短期間で騎士団を辞めてしまった。
ちなみに、その彼女――ナターシャは俺とミゲルに次ぐ第三位の成績で合格している。
おそらく会場のどこかにいるだろう。
「……おい、聞いてるのか?」
ゴードンが俺をにらんだ。
「副団長の言葉を聞き逃すなど、もってのほかだ。騎士団では年功序列が絶対だぞ」
「はい。失礼いたしました、ゴードン副団長閣下」
俺は素直に返事をした。
「……ふん、気に入らんな」
ゴードンは俺の態度がお気に召さなかったらしい。
まあ、どんな態度を取ろうと、彼が俺に好感を持つことはないだろう。
「お前の態度には俺を軽く見ているような節がある。首席であることを鼻にかけてるんじゃないか? いい気になるなよ」
言いつつ、ノーモーションでいきなり拳を放ってくる。
完全な不意打ち――。
だけど、俺には【竜翼】の超反応がある。
俺はゴードンの一撃をやすやすと避けてみせた。
「なっ!?」
驚くゴードンに対し、俺は即座に木剣を抜いて、その先端を彼の喉元に着きつける。
「今の不意打ちは実戦訓練の一環でしょうか? さっそくのご指導ありがとうございます、ゴードン閣下」
俺はニヤリとした。
「ぐっ、貴様――」
ゴードンは悔しそうにうめいた。
「すごい……!」
「副団長の一撃をあっさりと……!」
「それに、あのカウンターもなんて鋭さだ……!」
周囲の新人騎士たちがざわめく。
「お、おのれ……」
新人たちの前で面子を潰された格好になったゴードンは、顔を真っ赤にしていた。
正直、こいつは騎士団にとっては害悪だ。
新人いびりや部下たちに対する横暴な態度……それらは新人の健全な育成には邪魔になるし、ひいては騎士団全体の成長を阻害する。
だから、早いうちに排除した方がいい。
未来を、守るために――。
そこまで考えるのは極端だろうか?
だけど、俺はこの国の王都がルーファス帝国によって陥落する――正確には陥落する寸前までしか分からないが――未来を知っている。
それを阻止するためには、騎士団を未来の世界よりも強くしなければならない。
いや、絶対に強くしてみせる。
「俺はただ自分の身を守っただけです、副団長」
俺はゴードンを正面から見据えた。
「それに――ご自身の勝手な認識だけで、いきなり暴力を振るおうとするのは、いささか理不尽ではありませんか? 副団長としての資質が疑われる行為です」
「お、おい、グレン……」
ミゲルがさすがに慌てたような顔で俺の腕を引く。
「やりすぎだ」
「俺はそう思わない」
「……お前って、けっこう過激な奴なんだな」
ミゲルがジト目になった。
と、そのとき――。
「一体、何事だね?」
一人の男が歩いてきた。
振り返ると、そこには四十過ぎくらいの、口ひげを生やしたスマートな男が立っていた。
彼のことも、よく知っている。
未来において歴戦の英雄として、そしてルナリア女王の忠臣として活躍した男――王立騎士団の団長エドウィンだ。
.10 再会と誓い
「ゴードン副団長、なんの騒ぎだ」
エドウィン団長が問いかける。
「だ、団長閣下……! これは、その……し、新兵の訓練に、少しばかり熱が入りすぎてしまいまして……」」
ゴードンはすっかりうろたえている。
さっきまでの威圧的な態度は完全になりをひそめていた。
典型的な『上には弱く、下には強い』タイプなのだ。
「訓練だと? 入団式の日に、わざわざ?」
エドウィンの視線は冷たかった。
「君の新人いびりは私の耳にも届いているぞ。是正するように再三申し付けたはずだが?」
「うう……」
「騎士団の品位を落とす行為は慎んでもらいたい」
「も、申し訳ありません……!」
ゴードンは深々と頭を下げた。
その光景を見ながら、俺は未来の出来事を思い出していた。
エドウィンは有能で、誰からも慕われる偉大な騎士団長だった。
けれど、彼は不慮の事故で命を落とすことになる。
そして、その後釜に座ったのが、無能な二代目団長だった。
つまり団長と副団長に無能がそろった格好だ。
結果、彼やゴードンのせいで騎士団は弱体化し、帝国との決戦ではロクに役に立たなかった。
それどころか、味方の足を引っ張って無様に戦死する始末だ。
もし、エドウィン団長が生きていてくれたなら……。
帝国との戦争で彼が騎士団を率いてくれていたなら、未来は大きく変わっていたはずだ。
――未来を変えるためには、エドウィン団長に死なれては困る。
彼を守ることも、俺の使命の一つだ。
決意を固めた、そのときだった。
「エドウィン団長。ゴードン副団長。そちらは新人の方々でしょうか? みなさま、ごきげんよう」
鈴を転がすように可愛らしい声が近づいてきた。
美しい銀色の髪を足元まで伸ばし、紫色の瞳は慈愛に満ちている。
まだ幼さを残しながらも、気品とカリスマ性を感じさせるたたずまいに、俺たち全員が息を呑んだ。
「ルナリア王女殿下!」
エドウィンもゴードンも恭しく一礼した。
俺とミゲルもそれにならい、深々と頭を下げる。
ルナリア・メルディア――この国の第三王女だ。
そして――未来において、俺が命を懸けて守ろうとした女王陛下。
ああ、ルナリア様……!
未来の記憶が鮮明によみがえる。
この時点では、彼女はまだ第三王女に過ぎず、王位継承権は低い。
けれど今から五年後、メルディア王家はお家騒動に見舞われる。
野心あふれる王子や王女、そして腹黒い貴族たちの思惑が渦巻く、熾烈な政争が繰り広げられるのだ。
その中で、他の王族たちは次々に失脚し、最終的にルナリア様が次期女王の座に就くことになる。
彼女はその可憐な見た目とは裏腹に、強い意志と優れた知略を秘めている方だった。
そんな彼女のカリスマに惹かれ、多くの有能な人材が集まり、彼女の治世を支えることになる――。
が、それはもう少し先の話だ。
それに……この世界が、俺が体験してきた未来の歴史通りに進むとも限らないからな。
「騒ぎになっているのが聞こえましたが、ほどほどになさってくださいね。今日は新人騎士たちにとって晴れの日なのですから」
ルナリア様が穏やかに微笑んだ。
その笑顔には、人の心を自然と惹きつける不思議な魅力が宿っていた。
やがて、その魅力は女王として多くの臣下を魅了するカリスマへと成長していくはずだ。
「エドウィン団長。今年の新人たちはいかがですか?」
「はっ。例年になく粒ぞろいかと」
エドウィンが俺とミゲルの方を振り返った。
「こちらは首席のグレン・ブラスティと次席のミゲル・ラース。いずれも将来が有望な逸材です」
どうやら彼は既に俺とミゲルの顔と名前を覚えていてくれたらしい。
「まあ、首席と次席なのですか」
ルナリアの瞳がまっすぐに俺とミゲルに向けられた。
――どくん。
心臓が痛いほど跳ねるのを意識する。
俺は十五年間、ずっと彼女を想い続けてきた。
王女と平民の騎士から、やがて女王と六神将へと。
関係性は変わっても、決して許されぬ恋だということに変わりはなかった。
だから、ずっと――自分の胸一つに秘めてきた想いだった。
その想い人が今、俺の前にいる。
初めて出会った、あの日の姿で。
「グレン、ミゲル、あなた方の活躍を期待していますよ」
「もったいなきお言葉……!」
俺は深く頭を下げた。
未来で彼女を守れなかった悔しさがよみがえる。
剣帝アルゴスに捕らえられたときの、彼女の絶望に満ちた顔。
『帝国に連れ帰り、側室の一人にでもしてやろう』
あの下卑た言葉が脳裏で反響した。
ふざけるな……!
全身の血が沸騰するような怒りを感じた。
もう二度と、彼女にあんな顔はさせない。
――今度こそ、必ずお守りします、ルナリア様。
俺は心の中で強く誓った。
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