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第8話「重なる地図」

蓮もまた同じ場所に辿り着いていた。

古文書が示す『常世の門』と、現代の地図に記された『ネクサス・コア』。二つの地点は寸分の狂いもなく重なっていた。


「玄心様。全ての異変はこの場所に繋がっているようです」


奥の間で蓮は師に報告した。玄心は静かに目を閉じてその言葉を聞いていた。


「『ネクサス・コア』……。人のごうの新たな集積地というわけか」

「業、でございますか?」

「うむ。かつて人の想いや念は山や川、巨石といった自然のものに宿った。やがて寺社や仏像がその受け皿となった。そして現代……その受け皿は無機質なサーバーラックに取って代わったのやもしれんな」


玄心はそっと目を開けた。その瞳には憐れみとも諦めともつかない深い色が湛えられている。


「蓮よ。お前が戦うべき相手はAIではない。土地にそして人の記憶に刻まれた千年分の“悲しみ”そのものじゃ。それはお前一人の手に余る」

「ですが行かねばなりません。彼らの声が私を呼んでおります」


蓮の瞳には迷いはなかった。前の供養では力負けした。だがそれは敵の正体を知らなかったからだ。今なら分かる。彼らが求めているのは破壊ではない。ただ忘れられたくない。その痛みを誰かに分かってほしいだけなのだ。


「供養とは相手を打ち負かすことではない。ただ寄り添いその苦しみを我がこととして受け止めることじゃ」

「はい」

「忘れるな。お前は一人ではない。仏がそしてお前を信じる者たちが常にお前の側におる」


玄心の言葉を胸に蓮は立ち上がった。黒の作務衣に輪袈裟をかける。手には錫杖しゃくじょう。それは仏道修行者が山野を行脚する際に用いる古の法具だ。


「行ってまいります」


深く一礼し蓮は寺を後にした。目指すは東京湾岸。科学技術の粋を集めて作られた現代のバベルの塔。そこに巣食う古の悲しみを鎮めるために。


蓮が乗ったリニアモーターカーの窓の外を近未来的なビル群が猛スピードで流れていく。だが彼の目にはこの煌びやかな都市の足元に横たわる巨大な影が見えているような気がした。

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