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#7 『見えないモノ』

「今の上坂なら信じてくれそうだし、話す事にするよ。私が、誰とも目を合わせない理由」


 ファミレスの店内で、隼人の真向かいに座る上野結衣はアイスコーヒーを一口飲んだ後、そう言った。

 隼人自身が置かれている状況、それが上野結衣が誰とも目を合わせない理由と繋がるらしい。


「で、どんな理由だ?」

「小学生の時の話。小学生の私は今みたいに故意に人を避けるような性格じゃなかった。どっちかって言ったら一人でいるよりかは、皆といる方が多かったと思う」

「……今とは真反対だな」


 話を聞く限り、今の上野結衣と比較してみて隼人はそう感じた。

 仲良くなる前の上野結衣の印象は根暗その物。

 教室で誰かと話しているのを見た事無いし、昼休みは必ず教室から消え、誰も居ない図書室で黙々と本を読んでいる。

 それが、上野結衣という人間。

 同級生からは"図書室の番人"という厨二心を擽るあだ名を付けられていた。

 今思い返せば、上坂隼人が上野結衣と初めて出会ったのも図書館。

 高校一年生の夏休み、冬葵 梨花と休みの用事が合わずに退屈していた隼人は、何となく暇潰しで訪れた市立の図書館で上野結衣とばったり出会い、珍しくまだ友人ではない人間と挨拶程度に話した結果、学校でも話す仲になった。一年生の時は結衣ともまだ同じクラスだったのでそれもあるが。


「私には、悠未ちゃんっていう幼馴染が居た。家も隣で、毎日会う仲。上坂とその幼馴染みたいな感じ」

「腐れ縁って奴だな」

「腐れ縁ではないけど……」

「で、その悠未って奴が目を合わせない理由か?なんだよ、喧嘩でもしたのか」

「まぁ、間接的な理由ではあるかもね。……だって」


 突然、結衣が下を向いて俯く。

 その様からして、話の結末が禄でも事なのは察しの悪い隼人でも充分に分かった。


「……別にいいんだぞ、無理に話さなくたって」

「……大丈夫。それで、ある日悠未ちゃんの頭上に数字が浮かぶようになった。最初は何の数字か分からなかったけど、日が経つにつれて、頭上の数字が減っていって……」


 ここまで話を聞いて、隼人には結末が何となく想像出来た。それに、()()()()()()()()()()()()()も。

 悠未の頭上に浮かんでいた数字、それは。


「数字が一になった次の日、悠未ちゃんは車に撥ねられて亡くなった。それで、理解した。悠未ちゃんの頭上に浮かんでいた数字の正体。それは」

()()()()()()()()()()か。」

「うん。それ以来、私は人と目を合わせるだけでその人に残された時間が見える様になった。」


 これが、結衣が誰とも目を合わせない理由。

 同時に隼人は納得をした。こんなものが見えたら、嫌でも人を避ける様になると。


『目を合わせただけで、その人に残された時間が見える』


 正直持ってても嬉しくない力だ。幽霊を見える方が一億倍マシに感じる。大体、知らなくても良い事実を知ってしまう程辛いことは無いのだから。


「……上坂は私の話を信じる?」

「信じるも何も、僕も幽霊見えてるからな。これでお互い、"見えない物が見える"同盟だろ。で、この話を他の奴にした事は?」

「あるよ、もう一人の幼馴染に。男は上坂が初かも」

「結衣の初めてになれたみたいで嬉しいよ」

「ねぇ上坂」

「なんだ?」

「次そんなキモイ事言ったら殴るから」

「……冗談だって」


 正直少し冗談では無かったが、右手に握られていた小説が飛んでくる気がして、冗談だと言うことにしておいた。


「まぁ、上坂のは実害ないから良いんじゃない」

「確かに。結衣に比べたらな」


 今の所、幽霊が見えていて困った事は無い。

 綺麗なお姉さんとお近付きにはなれたし、寧ろ良い事だ。

 となると、特段気にする事でも無さそうだ。

 悩みから解放され、隼人の心は少し軽くなった。


「さて、帰ろうかね」

「うん」


 二人が席から立ち上がった時、ヒラヒラと、結衣の小説から栞が床へと落ちた。

 落ちた場所が隼人の足元だったので、親切心でそれを拾い、結衣へと手渡す。


「ほら」

「ありがとう」


 礼を言いながら、結衣は栞を受け取る。

 それは何気ないただの会話でしかない、気を張ることも無い。

 だけど、気を抜きすぎた故に一つ過ちを犯した。


「「あっ」」


 栞を手渡した隼人は、それを受け取った結衣と視線が合う。

 一年間の付き合いで遂に結衣と目が合った。しかしそれは、見えなくてもいい物が見える合図でもある。

 直後、結衣の瞳孔が開いたように見えた。

 信じられない物でも見るような、そんな瞳。目は口ほどに物を言う と言うが、まさにその通りだ。


「……な」

「え?」


 聞き取れない程小さい結衣の声に、隼人は聞き返す。


「……ない」

「なんだよ、何がないんだ」


 隼人の背中に、嫌な汗が伝う感覚がした。

 ない。

 何が無いのかは分からないが、ここまでの流れを汲むに、まさか残された時間が……?


「……見えない」

「そっち!?」

「上坂の時間だけ、見えない」

「普通は見れるのか?」

「……うん、目を合わせれば日数で浮かぶ。だけど、上坂のだけ見えない……」

「とんでもなく長いのか、もしくはとんでもなく短いか…… 後者なら困るぞ僕は」

「こんなの初めてだから……私にも分からないよ」

「まぁ、だろうな。 また見えたら教えてくれ」


 見えないのなら、それはそれで隼人は構わない。

 知らなくても良い事は、知らないままで居ることに越した事は無いのだ。

 

 店を出ると、結衣とはファミレスの前で別れ、隼人は一人で帰路につく。

 まだ空は明るいとは言え、時刻は間もなく十七時になるところ。結衣を家まで送っていこうとしたが、普通に断られてしまった。余程家の場所を知られたくないらしい。

 街灯が光り出した道を歩きながら、考えに耽る。

 頭を過ぎるのは春奈の事。どうも、引っかかる事が幾つかある。

 一番引っかかるのは、初対面だと思っていたのに名前を知られていた事。記憶を辿っていっても【春奈】なんて名前の知り合いは居ない。幼い頃に会ったことがある年齢の近い親戚が居るが、全員男だったはずだ。考えられるとしたら、物心つくよりも前に出会っているか、もしくは病院内の知らない所で上坂隼人という名前が知れ渡っているかの二択。後者だとしたら恐らく由希経由だろうか。


「まぁ、母さんとかに聞いてみるか」


 この件は一旦考える事を辞め、隼人は今晩の夕食について考える事にした。

大事なのは、覚えているかも分からない過去よりも未来なのだから。








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