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83話 魔法使いギルドとの協定

 新交易国家レグディの樹立、賢神の試練を有し大魔境を異常な速さで開拓して作られた、いずれ六番目の五大国になることを期待された国の誕生は世界を震わせ……ることはまだなかった。

 なぜなら大運河を前提とした海運国家なのに、まだ運河が出来ていないからである。あくまで事前の承認、根回しの段階だ。国を作るという空虚な大言に既存の大国たちが重みをもたせてくれただけ。未来は強固になった。しかしまだ先の話である。引き続きエルナンド国を拠点にしながら北に向かって山を切り崩し、運河を作り、海水を引くための西の道も作る日々が続いた。


 開拓を始めてから約一年後、ついに半分の位置に到達した。


 今までの都市はレイが急増でそれっぽいものを作っていたが、今回は違う。賢神の試練で手に入れた設計図を基にレイが魔法で土台と骨組みを作り、それ以外の本格的な技術が必要な呼び寄せた箇所はアロス国の職人たちに作ってもらうのだ。資材も賢神の試練で創造し、本格的にスポンサーになってくれた五大国たちからも惜しみの無い支援物資と人材が届いている。移住者を載せる飛行船の建造も順調。おおよそ全てが順調といっていい。

 全てが順調、とは全ての項目で八十点以上が獲れているというだけではない。全ての計画がフォローできる想定の範囲内で進みかつ他の計画の手伝いや手助けも出来る、という意味だ。予算も資源も潤沢で使い道に困るくらい、この先どこかで大きく転んでも挽回できるほどの備えがあるのだ。


「ようこそ、アーモンさん。俺はレイといいます」

「初めまして、レイ殿。私は魔法使いギルド本部所属、【術理】のアーモンという。今回は招いていただいたこと、感謝します」


 なので今日の会議にもレイは緊張することなく参加した。

 交易国家レグィ建国予定地に作られた骨組みだけの都市、その中央に立つ塔の中の会議室にレイを始め重役たちの姿はあった。


「今回の議題は賢神の試練で見つかった魔導書についてと、レイ殿たちが誰にでも使っている魔法を使えるようにする魔法の改良、最後に魔法の新しい分類について、でよろしいですかな」

「はい。私たちはまだまだ歴史と経験が浅いですからね。長年に渡り魔法の研究をしている魔法使いギルドの方の意見を聞きたいと思っています」

(……ふんっ、クソガキめ。態度だけは礼儀正しいのが忌々しい)


 とんがりぼうしとローブを身に着けた老人は笑みを浮かべながら内心で悪態をつく。


 魔法使いギルドとは魔法の研究のみを目的とした研究機関だ。世界中に支部を作り魔法使い同士で繋がれるようにし、お互いの情報を共有し合う相互扶助のために存在している。所属している魔法使いたちも冒険者ギルドや傭兵ギルドに所属している魔法使いたちとは違い完全な研究職というもの特徴だ。

 今回のように国や貴族に呼ばれて意見を求められることはよくあることである。研究には資金や物資に危険地帯への侵入許可証などなど必要なものが多く権力者と繋がりはあればあるほどいいのだから。


 しかし、今回は話が別だ。新興国との繋がりは本来ならば発言力が増すため喜ばしいのだが、相手が格上の魔法使いというのが個人的に気に食わなかった。

 【魔法を使えるようにする魔法】。長い時間をかけた努力と勉強の果てに使えるようになる魔法を手軽なものに貶める、誰もが求める奇跡の一つ。それをまだ十一歳の少年少女が完成させ、実用化までこぎつけているというのは嫉妬に狂わないなど不可能だった。


「あとそうだ、魔法使いギルドにはもう魔法使いを止めたがっている人もそこそこいると聞いていますので紹介してもらえませんか?新しい職場にうちを推薦します。死蔵している秘術もあれば高く買い取ると伝えてください」

「――っ、そうですな。先祖代々魔法使いをやっていても、当代ではもう気力がないという人も居らっしゃる。しかしそういった者まだまだ役割があるのが魔法使いの社会というものです。一応声はかけておきますが、期待はしないでください」

「そうですか?なら本人たちの自主性を重んじましょうか」

「ええ、それがいい」


(こっそり引き抜くつもりだな!?くそっ、こちらが圧倒的に不利だな、どうする!?ここで表立って断れば実質的に五大国すべてが敵になるようなものだぞ!?)


 レイは笑顔でアーモンも笑顔で話を進める。二人とも笑顔が上手だった。


「そう怒らないでください。今回の協力のお礼に賢神の試練で手に入れた新しい……いや、古代の魔導書の中身を共有するのですから。それに魔法を使えるようにする魔法の汎用的な術式内容もです。だよねユニリン」

「うん。先に渡しますね」

「こっ、これが!?……むうっ、失礼、拝見します」


 レイの隣に座っていたユニリンが分厚い本を渡す。【魔法を使えるようにする魔法】の使い方を手引書だ。

 内容は全部で四章構成になっている。


 魔法とは何か、魔法とは魔力というエネルギーを術式と呼ぶ変換機を通り現象になったもの。

 マジックアイテムとは何か、術式を道具に刻んだもの。

 人体に術式を刻むことは出来ないのか、可能である。

 他者の肉体に術式を刻む方法、付与と解除。


 シーが与えている精霊武技と双璧を成す重要な魔法でありながら異なる技術体系。見方によっては神の一種であるシーの加護に匹敵する奇跡の魔法。それを惜しげもなく公開するつもりだった。

 そんなレイとユニリンの態度に、同じ部屋で待機していた青年が眉を潜めて声をかけてくる。


「……何度聞いても正気とは思えないな、この魔法の有用性はエルナンド国の住民たちという実証結果で証明されているし、世界各国が目を血走らせて欲しがってもいる。金にしようと思えばいくらでも儲けられるでしょうに」

「ユニリンとの約束ですからね。人類を魔物に負けない生き物にするのは」

「そうです。これは譲れません。私がこの魔法を開発しようと思った理由ですから」

「……」


「不機嫌そうな顔をしないでください。この魔法の普及には魔法使いギルドの協力はもちろんですが、あなたたちザザラザ商業連邦の協力も欲しいと思っています。

 それにお金儲けも出来ますよ。この魔法は人体に術式を刻む魔法ですが、何の魔法を刻むのかは任意です。なので無料で広めるのは初級の魔法だけ、さらに強力な魔法は金銭と引き換えにしようと思っています。手伝ってくれますよね、ザザラザ商業連邦一銭家の跡取り、ミノーゾ・一銭さん」

「……もちろんです。金の扱いなら我々ザザラザ商業連邦が、その中でも一銭の座にいる我らがこの世界でも最も優れていると自負していますとも。慈善事業には興味はありませんが、金を稼ぐ気があるなら、我々はよいビジネスパートナーに成れると思っていますよ」


 口を挟んできた三十歳くらいの青年、ミノーゾ・一銭はザザラザ商業連邦の実質的な王子だ。ザザラザ商業連邦は金が権力につながる国、一銭から八銭まで家……というより役職があり、一年に一度、金を国庫に納めた額でそれぞれの役職に就く。一銭、とはザザラザ商業連邦の中で最も金持ちの家を表す称号だ。

 その地位と権力を使ってさらに自分たちに有利な商売をし更に金を増やす。ここ二百年は銭の役職は動いていない。


「……拝見した。賢神の試練で獲れた魔導書も素晴らしいが、こちらの【魔法が使えるようにする魔法】についてまとめた魔導書も素晴らしい、ユニリン君といったね、たしかオーレリユ家の長女の。どうだい?魔法使いギルドに入らないかい?」

「結構です。レイが支えてくれるので」

「……そうかい」


 アーモンはしょぼくれた顔で猫背になる。そうしていると普通の老人に見える。


「失礼、時間を取らせてしまったね。それで、この魔導書の内容からして【魔法が使えるようにする魔法】の改良とは、もしやステータスの閲覧と紐つけるのかね?」

「おおっ!お見事、その通りです。賢神の試練で獲れた魔導書にはステータスを閲覧する術式が乗っていました。なのでこれと組み合わせて、スタータス画面の次のページ(・・・・・)に魔法発動のボタンを置きたいのです。これなら突然魔法が使えるようになってもうっかり発動してしまう危険性を減らすことが出来ます。

 可能ですか?俺、モノマネと簡略化は得意だけど開発を苦手なんですよ。専門家の方から見てどうですか?実現出来そうですか?」

「……出来る。おそらく、だが」

「本当ですか!?じゃあユニリン、任せたよ」

「もちろん!レイも頑張ってね」


 レイとユニリンはテンションが上がってハイタッチをした。そうと決まれば善は急げとユニリンは部屋を飛び出し工房に向かった。


「そうだ。それと魔法の新しい分類を作りたいんですよ」

「……ああ、そうだったそうだった。それもありましたな。しかし必要なのですかな?」

「はい、初級魔法、中級魔法、上級魔法、最上級魔法という分類では幅が大きすぎますから。今後は数字を使って分類するつもりです」

「うーん、気持ちは分からない分けでもありませんが、しかしこれは千年近く前から使っている由緒ある分類法で……お待ちを、分類する、つもりです、と、おっしゃいましたかな?」


「はい、決定事項です。魔法使いギルドの方でも協力してくれると物差しが統一出来て便利ですね」

「………………そ、そうですか。まあ、似たような訴えはたまに上がる話ですから、当面は既存の分類の脇に添える形で浸透させましょうか。具体的にどの魔法がどの階梯に分類されるのかは、また後日詰めるということで」


 こうして今日の会議を境に魔法の歴史が一歩進んだ。

 魔法とは火であり、水であり、風であり、土であり、氷、雷、光、闇、生命、空間時間術理などなどと、この世界の全てである。初級だろうと全人類が魔法を使えるということは、人類全体のレベルが上がるということ。奇跡といって差し支えない。


 とりあえずはレイの傘下いるエルナンド国の民たちに施す。運河に水を引ける日も近いだろう。


 そんなことを考えていると、退室寸前でミノーゾがにやりと笑い声をかけてきた。


「思い出した、些細なことなのだが、レイ殿、南部の国々がエルナンド国に攻め込んできそうという情報を掴んでいるのだが、知っていたかね?」

「…………?そういえば、そんな報告がありましたね。それが何か?」

「お節介かもしれないが、何か備えをしている気配がなくて気になってね。噂によると魔法や武技を埋め込まれた住人たちが戦力という話もある。しかし集まった兵は南部の総戦力全て、数にして百万に届くらしいじゃないか。さすがに厳しいだろう。そのあたり、君の意見を聞きたくてね。侵略などという横やりで事業が遅延するのも困る。良ければ武器やこちらの戦力を融通しようか?」

「んー」


 饒舌になったミノーゾ。どこか得意げだ。ザザラザ商業連邦の全ての住民は商人でもあるという。自分の得意分野だから得意げなのだろうか。確かに戦いというのは武具や物資を含めて準備が全てという考えもある。そしてエルナンド国に常備軍のようなものは作っていない。レイ個人が有する戦力や冒険者などはいるが、大魔境で戦うという役目があるので使う気はない。南部の国々が侵略に来たら備えがないせいで負けてしまうという考えも的外れではない。

 しかし、彼は一銭家の跡取りであって当主ではない。まだ若く経験不足だから、このような的外れなことを言うのだろう。


「全く心配いりません。百万の軍勢程度、陛下にお借りした【魔道旅団】一人で事足ります。

 それより今は魔法の開発と商売の話ですよ」


 レイは自信満々に言い切った。

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