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78話 出資者集め

 アロス国王立学園はアロス国で最高位の学術機関である。入学試験の難易度と学費の高さから生徒のほとんどが貴族の子弟であり卒業生はエリート間違いなし。通っているだけで人々の畏怖と憧れの対象だ。

 しかし数年前から場違いな身の上の子供たちが少し混ざっている。レイたちが組み込んだ特待生制度で入ってきた孤児たちだ。

 はじめは孤児ということで奇異な目で見られたが、学園長公認の特待生制度で入ってきたということもありみな優秀。育ってきた環境と培った常識の違いから仲が良いとは言えないが、お互いに同じ教室で講義を受け、意見が衝突しても深刻にならない程度には穏やかな関係を構築することが出来たようだ。


 そんな彼らは学食を食べながら噂話に興じていた。


「聞いた聞いた!?またレイが学校に来なくなるらしいよ」

「また!?じゃあ今度はどこが爆発するのかな」

「うーん、これまでの傾向から考えて半月は先じゃないかな」

「お姫様たちはまだ王都にいるの?ロベリア君は?」

「ユニリンさんの様子はどう?また怪しいマジックアイテムとか作ってない?」


 アロス王立学園には有名な生徒が何人かいる。


 代表的なのはローレンティア姉姫とアンリム妹姫だろう。上流階級の子弟が通う学校なのだから王族がいてもおかしくないが、この国では王族の数が少ないため同学年にいるのは珍しいことだ。加えて本人たちも文武共に非常に優秀。王族としての自負と責務をしっかり有し誰とでも分け隔てなく接するため人気も非常に高い。


 もう一人はロベリアだ。騎士爵家という貴族としては最下級の身分でありながら代々国礎十五柱第五席【天狼】を輩出している名家の長男。文武共に非常に優れ、この学園でトップクラスだ。

 まだ十歳でありながら戦場にも行った経験があり上級生を相手にして負けたことがない。子供の世界ではかけっこが速い子が尊敬されるというのは常識だが、加えて腕っぷしも強く勉強も出来て背も高いなら言うことなしだ。姫様たちと同じくらい有名で、教師たちからの評判も良く、人気という点なら上回っている可能性もある。


 加えてユニリンも有名だ。四大公爵家の中で唯一未だに王家と敵対中のオーレリユ公爵家の長女というだけでも目立つが、帝国に留学中に博覧会で人体のマジックアイテム化という狂気の研究を発表した点も非常に悪名高い。運動能力は赤点ぎりぎりだが筆記テストはいつも満点。普段は研究室に引きこもり薬草の臭いを漂わせている魔女らしい魔女だが、アヤメに連れ出されてどこかに出かけていたり、レイに無茶ぶりされて頭を抱えている姿も有名だ。


 しかし、この学園で最も有名なのはやはりレイだろう。貧民街の孤児でありながら姫様たちを誘拐犯から救出した功績で王家に取り入り、現在では王様から非常に厚遇されている。重要な仕事を任され、しかも最大評価を頂くほどの成果を見せている。

 戦場に行けば回復魔法で命を救い、帝国に行けば州を一つ滅ぼし、裏では王家に反抗的な貴族を暗殺しているという噂もあるほどだ。


 大人たちが言っているのだ。おそらく本当のことなのだろう。

 いくらなんても凄すぎるし荒唐無稽。話半分に聞くべきだ。


 正確な評価は定まらないが、しかしてまだ十歳前後の学生たちにとってはそういった噂以上に同じ学年の少年がふらりと一か月くらい学園に来なくなり、その間にどこかが爆破、炎上。戻ってきたと思えば定期テストで筆記、魔法、武術、歴史などの全ての科目で必ず満点を取りまた失踪。

 奇想天外で嵐のような生き方は話題性がかなり高い。軽薄だが何時も楽しそうに生きている姿に感化され生徒はおろか教師でさえも奇行に走るものが増えているのだとか。


 学園の正門前で暗殺者と戦ったという戦闘の痕はまだ『記念に』と残されていることからもレイの存在を知らないものはこの学園にいないだろう。


「レイくん、今は何やっているんだろうね。ロベリア君がいるなら騎士団関係じゃないだろうし、ユニリンさんもいるならマジックアイテム関係でもなさそう」

「姫様たちもいるなら外交でもないよな」

「あっ、そういえばレイにはお姉さんが――」


 直後。アロス国の北西部、エルフの里があるという伝説が残る森からすさまじい光が放たれた。アロス国のどこにいても観測できるほど強烈な光。その正体は雲を割り天へと昇る火炎の龍。

 まるで太陽がもう一つ現れたかのような異常な光景に、元孤児たちの心は一つに定まった。


「……レイ君かな」

「……そうじゃないなら、レイみたいのがもう一人いることになる。レイであってほしいね」


 そんな会話をした数日後、学園に開拓地への参加申請の張り紙が掲示された。





「なにっ!?レイがこの国から出ていくだとっ!?」

「室長、嬉しそうな顔をもう少し隠してください。滅んだ国を復興させに行くそうですよ」


 アロス国の王城にある一室、補筆室の室長が歓喜の声を上げていた。

 文政室というアロス王の補佐として内政を行う部署があるのだが、レイが現場判断という名の独断専行で暴れた後始末が非常に大変だったために分離して作られた、レイの尻拭い専門の部署だ。

 基本的には暇なのだがレイが不定期に暴れるせいで油断はできない。大変だがその反面給料も高い、ある意味英雄視されている部署である。


 もっとも、最初に作られた報告書を後から専門家が加筆・修正し体裁を整えるというのは良くある話なので、尻拭いというのは皮肉なのだが。


「これを喜ばずにいられるか!あいつが暴れ続けたせいでどれだけ他の仕事にしわ寄せが来たと思っている!?この部署自体が陛下の贔屓の結果だろう!!あのクソガキがいなくなるなんて……今日はもう仕事を終わりにして飲みに行きたくなるほど喜ばしいではないか!」

「うーんご迷惑をおかけしました。飲み行くならお金出しましょう」

「――……!?」


 背後にレイがいた。


 困ったような、申し訳ないような。見ているだけでこっちまで罪悪感が湧いてくるような悲しそうな顔だ。

 しかし補筆室の室長として何年も働いている彼には分かっていた。この表情は本心だが、だからと言ってレイは行動を変えることはないと。


「話は聞いているようで安心しました。エルナンド国を復興するのですが、私一人では出来ないこと、手が回らないことが非常に多くあるので、皆さんも一緒に来てもらいます」

「断る!私は最近三人目の子供が生まれんだ!離れたくない!!!!」

「陛下からの許可証もありますよ。それにいっぱい稼げますから。金銭は一月当たり五倍、いや十倍。滅んだ国を復興させたという名声も確実です。早ければ二年で帰ってこれます。愛する家族に豊かな暮らしをさせたいでしょう?」

「うわああああああああああああ!!!!!!!!!!!!


 室長の男性は悲鳴を上げている。

 レイが動くということは、アロス王の許可が必ずついてくる。能力を評価され文官になったが、平民に過ぎない彼には抗う力はない。


 レイはきっと、アロス王の隠し子なのだろう。そんな噂も耳に入っている彼は、否定できなくなっていた。逆らうことは出来ない。


(陛下には世話になるなぁ。『北のオーレリユ公爵家の動きも不穏だ。盤面を引っ掻き回されなく無い。しばらく遠くにいてくれ』と言っていたけど、どこまで読まれていたんだろう)


 隠し子というのはデマなのだが、我が子同然に贔屓されているのはレイも自覚していた。

 しかし王侯貴族を相手に腹芸で勝つような腕前はレイにはない。せいぜい利用されながらも利用するだけだ。


「レイ君、室長は私たちが慰めておこう。あと飲み代はいいから、代わりに贅牛亭への招待状を書いてもらってもいいかい?最後の晩餐は豪華にしたいんだ」

「お安い御用です」


 特に抵抗なく転勤を受け入れた文官たちに紹介状を書き、レイは次の交渉相手の館に向かった。





「というわけで、エルナンド国を復興します。暫定的な目標期間は二年。既にアイビー公爵やミルホルン伯爵家の協力は取りつけています。ぜひアロス国屈指の大商人として名高いアレブガ男爵家の前当主であるオンスロー殿にも資金や物資の援助をお願いしたく思います」

「……また急ですな」


 レイは王権を盾に様々な相手に協力を取りつけ、アレブガ男爵家にたどり着いた。

 アレブガ男爵家は西のアイビー公爵家派閥の貴族。レイに暗殺者を放ち王都を混乱をもたらした通称王都動乱事件でアイビー公爵家がレイの傘下に入ったことで多くのアイビー公爵家派閥の貴族たちが力を失っていく中、力を失うことなく、それどころか他家の失った力を取り込むように急拡大している家だ。貴族でありながら商人でもある。


 また現当主は病床に臥せっており、前当主であるオンスローが当主代理として活動している。一族全員が優秀。特に孫娘のノーナは飛び抜けて優秀で転生者なのではないかという噂もあるほどだ。

 取り込めれば非常に強力なカードになるだろう。


「急なのは認めましょう。しかしチンタラしていては勝機を逃すのは道理。陛下からも許可を頂いています。ご協力願えますね?」

「……まあまあ、待ちたまえ。確かに巧遅は拙速に如かずとも言うが、それでも急ぎすぎているのではないかと私は思うのだ。まずは具体的に、現在の時点でどの程度の物資と資金があるのかね。動かせる人員は?復興したとして、どのような制度を敷くのかね。支配者は誰で税や法はどうやって決めるのだ?移民を募ると聞いているが何人くらいを想定し、その食料と生活基盤は?エルナンド国をこのグレイアス大陸の南部にあるため私も詳しくは知らないのだが地理と風土は?我々が復興して周辺国との間に必ず起こる摩擦についての考えは?

 他にも聞きたいことは山ほどあるが……そうだ、何日に出発する予定なのかね。このあたりの疑問を詰めてからでないと協力はできない」


 オンスローは畳みかけるように質問を投げかける。質問の内容も非常に最もだ。金と物を出すのだから、ちゃんとリターンがあるのか。計画は信頼に値するのか。聞くのは当然だ。

 レイも焦ることなく言葉を返す。


「全てに回答できますが……とりあえず、重大な思い違いがあります」

「……なんだね?」


 思い違い。その言葉にオンスローは非常に動悸が激しくなった。

 オンスロー・アレブガ前男爵は非常に優秀だ。男爵家という貴族の中で下から二番目の低い爵位にもかかわらず、いやだからこそ、貪欲に力と金を求め、当時バラバラだった傘下の御用商人たちをまとめ上げ、貴族家が商人たちのトップに立つという前代未聞の方針を取り、成功した。

 当時は高貴な家柄でありながら平民のような仕事をするなど何事だ、目上の家柄への反逆に等しいと非難されたものだが、現在では他の家と違って没落していないのだから自分が正しかったのだと胸を張って言える。


 家督を譲った息子が病床に臥せ当主の座に戻った今でも常にアンテナを張り巡らせ、レイの事も調べていた。アストラ公爵が暗殺されたときも会議には孫娘を送りこんで自分は独自の情報網でレイの事を調べていた。卑劣な陰謀家と罵られても、それが家を存続させるためになると信じて。

 三日前のエルフの里の方で上がった火炎もおおよその察しはついている。それほどまでに彼の情報収集は高い。

 その全ての経験が告げていた。既に自分は術中、相手のペースに飲まれていると。


 レイも全てを理解し告げる。


「第一陣はすぐにでも出発します。これに乗るか、それとも次に参加するかを聞いているのです」


 ありえない言葉が聞こえた。

 今までの人生六十年の経験が通用しない怪物が目の前にいる。


「……なっ、なんじゃと!?すぐに!?い、いつだ!?」

「今日です」

「今日!!??何を馬鹿なことを!?」


「先ほど言ったとおりです。チンタラしていては()機を逃す。行動は早ければ早いほどいい。既に出発の準備は終わりつつあります。今はお昼時ですが、夕方には出発します。この話に乗るか、乗らないか、どうしますか?

 もちろんアレブガ商会ほどの大物ならば第二陣からの参加でも歓迎しますが」


 早くなった動悸がさらに加速する。頬を冷や汗が伝い手足が痙攣する。目の前の少年が、得体のしれない化け物に見えてきた。


 結論が出せない。いや、考える猶予もない。

 レイは異常だ。この話に乗るべきではない。レイは万に一つ、そのさらに万に一つの勝ち筋を一万回連続で引き当てているだけだ。栄光の裏には非常に多くの失敗の可能性があり、いつ道を踏み間違えてもおかしくないのだ。


 しかし、今日までのレイは失敗しながらもなんとかリカバリーをして栄光の道を歩み続けているのも事実だ。

 いつか失敗するという確信がある。しかし、それは今回ではないかもしれない。今回は、まだ成功するかもしれない。今回は話に乗ってもいいかもしれない。これは勝ち馬かもしれない。実績というの足跡が、甘い予感となり判断を鈍らせる。


(くそっ。これほど大規模な計画……いつから考えていたんだ?エルナンド国の奴隷王女を買ったという一年前?いや帝国への留学自体がこのためか布石だったのか?いやなんにしても、この一年そんな様子はなかった!くそ!なんと言う情報隠滅能力!!)


 歴戦の貴族にして商人であるオンスローは常識と異常の狭間で悩み、泥舟に乗る判断を下す。


「既に賛同者は大勢いますが――」

「……うちの孫たちを同行させよう!」

「おお。協力に感謝します」


 悪魔の誘惑だ。しかし、勢力同士の関係において立場とは相対的なもの。他家の強さが上がり、自分たちの強さに変化がないならば、それは弱くなると言っても過言ではない。

 このビックウェーブに乗るものが大勢いるならば、一枚も噛まないというのはありえない。


 部屋の隅に控えていた従者たちが忙しそうに動き回り、アレブガ男爵家の孫たちがやってきた。


「お祖父様、お呼びと聞いて参上いたし……ひっ!だ、【大悪童】のレイ……なぜここにっ」

「失礼なことをいうな!ジャイト、レイ殿は新しい国を作りに新天地に行くらしい。同行しなさい」

「そっ、そんな!?そうだ、私が任される案件が――」

「私が全て引き受ける!お前は行くんだ!」

「はっ、はい!」


「ノーナ、お前もだ」

「……かしこまりました。それほどの大事なのですね」

「ああ。当家の未来を左右するほどだ。お前たちを信用する」


「では、後ほど補筆室の人が来ますので、詳しい話は彼らとして下さい。私は次に行きます」


 こうしてレイは出資者を増やし、旅立った。

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