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77話 鬼と龍の刃、前世からの愛

 この世界において個人が強くなる方法は大きく分けて三つ。経験値を稼いでレベルを上げること、修行してスキルを極めること、そしてより強い武器を使うことだ。


 レベルを上げるには経験値を稼げばいい。個人差はあるが魔物を倒せば経験値を入手でき、一定以上溜まればレベルが上がる。これが最も一般的な方法だ。

 レベルを上げると連動して能力値も上昇する。本人の適性や経験によって力の項目が上がるか、俊敏の項目が上がるか、魔力の項目が上がるかなどの違いはあるが、全ての数値を合計すれば同じくらいだ。数値の合計に個人差はほぼない。才能とはレベルが上がりやすいかどうかであり、同じ種族且つ同じレベルなら能力値もほぼ同じである。これに基礎鍛錬によるわずかな数値ボーナスやジョブによる補正が付く。


 もちろん問題点は多々ある。一番大きいのは死の危険性だろう。魔物は当然だが野生の獣もこちらを殺しに来るので殺されて人生が終わる人は非常に多い。最初の一体目を殺すのは心理的にハードルが高く、レベルが上がってくると魔物も強く多様になり敗北する可能性もまた上がる。

 しっかり鍛えればある程度……人間社会で一人前と呼ばれる領域に達することは出来る。しかしさらに上を目指すなら才能と幸運に恵まれる必要があるいうのが一般的な認識だ。



 スキルレベルも重要だ。人間には剣術や槍術といった技術がある。より効率的に体と魔力、闘気を動かし、より高度な技を発動する。スキルを持っているものと持っていないもの、スキルを持っていても低レベルと高レベルでは使用できる技に非常に大きな隔たりがある。

 武芸者は素人と達人では天と地ほどの差があるというのは当たり前の話だが、この世界ではさらに差が大きい。極めたものは天と地を砕く神の領域に到達したというのも事例もあるほどだ。そこまで到達できるものはあまりいないが、鍛えられる限りは鍛えた方がいい。


 定性的な計算だが、能力値とスキルレベルの積がダメージになると思えば重要だということは分かるだろう。



 最後は武器の性能だ。これは非常に大きく、そして手軽でもある。道具は人間が魔物よりも優位に立てる点の一つ。人には牙も鱗もないが道具を作るための手があるのだ。

 鍛えた武芸者は木剣で木を切断できる。さらに鍛えれば鉄も切れる。しかし鉄製の剣を装備すれば最初からある程度の攻撃力を有することが出来るのだ。使わない選択肢はない。


 それにこの世界における武器とは単純な切れ味や頑丈さだけが強みではない。武器に宿ったスキルも重要だ。

 魔物や魔導金属を素材にすれば最初からスキルがつくことがある。

 これらやダンジョン産の武具を人為的に再現したものが人類の武具製造の歴史の始まりだという説もあるほどだ。


 ゴブリンやコボルトのような低級の魔物ならスキルが付くことはまずないが、中級のワイバーンなら【鋭刃】やマッドベアなら【頑強】、【強度維持】が付くといった具合だ。

 また応用として、武具に魔力を流すことで魔物たちが生前に使っていた魔力回路に相乗りして身体を強化することができる。この効果が強力かつ重要だ。


 例外は魂の具現化である魔装だろうか。しかし魔装も身体強化の能力がない欠点を補って余りある特殊能力が極めて強力だ。発現すれば使用するものも多い。


 現代で一般的に製造される武器は低級、中級、上級、伝説級、神話級の区分の中で上級に区分されるものがせいぜいだという。

 極めて強力な魔物を素材にした武器のスキルは、人類はまだ再現できない。


 例えば、レイやアルトが下賜された剣や、灼熱鬼の心臓が伝説級に当たる。

 そして、この武器の同時使用数に制限はない。使い手の技量次第だ。


 レイが武闘祭で増やした土の指二十本全てにマジックアイテムの指輪を装備して全てのスキルを使用したように、理論上、灼熱鬼の心臓と赫灼緋龍の剣を同時に使用することも可能である。


 その強化幅は、常軌を逸脱するほどに大きい。





「はぁぁあああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 天空に現れた第二の太陽からアルトの咆哮が聞こえる。

 暑さでも熱でもない。その神威とでも例えるべき力に、レイは太陽を幻視した。

 すぐに理解する。今のアルトは、理解できる範疇にいないのだと。


 歳はレイの一つ上だから十一だったか。年相応の可愛らしい笑顔を鬼の形相で塗りつぶし、破れて露出した柔らかな腕は溶岩のように角ばっている。茶色の髪は赤と光色に染まり、まるで人型の太陽だ。

 膨大な熱気は以前戦った灼熱鬼を上回るほど。この場にシーがいたらすぐに召喚したいほどだが、今はいないから出来ない。すぐに対応策を考えるために膨大な知識に検索をかけ、悉くで失敗する。レイの使える手札で対応できる手札が無い。


(これは無理だ。今すぐ裏空間に……いや)


 相対するあまりに強大な神威に頭が冷えた。

 しかし視界の端でエルミナの姿を捉えると、再び頭が燃え上がる。


 そう。後退も撤退もない。なぜなら今の自分たちは真実の愛を取り戻したのだから。いかなる逆境も覆せるはずだ。


「――――死、ねぇえええええ!!!!!」


 アルトが急降下する。すさまじい速度。二人は反応できない。


 赫灼緋龍の剣を使った肉体強化。赫灼緋龍に準ずるほどに高位の魔物、灼熱鬼の心臓を使った肉体強化。二重に自身を強化している。

 もとよりレイとアルトとエルミナの三人に大きな力の差はない。実戦経験の乏しさからエルミナが一歩劣るが、おおよそ同じくらいだ。


 二人は反射的に結界を張る。思考と同時に展開される結界。斥力結界と天雷結界。並外れた力を持つ二人が力を合わせて張る結界はとっさのものであってもその強度はすさまじく、アロス国の上級砦にも匹敵するだろう。

 しかし、今のアルトには意味をなさない。


 万物万象を焼く炎。龍と龍に匹敵する鬼の二重の身体強化。今のアルトは今までで一番強い。


 レイは強い。千年前の魔王の遺言を信じて、いずれ復活する魔王の依り代として品種改良を重ねられたが故に。

 エルミナも強い。前世で神に至りながら人として生きる道を選んだ転生者、そして魂の力を表に出しやすいエルフという種族のかみ合わせが記憶を失っていても余りあるほど非常に高い故に。


 しかし、誰の思惑もないが悪魔のような偶然で似たような条件を満たしたアルトも二人に匹敵するほど生き物として強大だ。


 いかにレイでも、恋人握りで片手を塞いだ状態で勝てるほど甘い相手では無い。


「【灼刀・鬼龍刃】!!!!」


 結界が一瞬で燃えて消えた。エルミナと繋がった腕が、右肩が切られる。斬撃は痛みを知覚するより早く、何の抵抗も出来ない。


「レ「死ね!!泥棒猫!!!!!!」ィ――!」


 アルトは体をコマのように回転させ、エルミナの顔面を灼熱の足裏で突き飛ばした。あれは酷い。おそらく顔面が焼き鏝で潰されたようになっているだろう。生きているだろうか。

 生きてはいるだろう。生きていないと困る。生きていないなら生き返らせないと。


 斬られた断面から伝わる痛みが異常だ。まるで魂を焼かれているかのよう。これほどの痛みは人生で初めてかもしれない。

 消えかける意識の中でエルミナに魔力の糸を伸ばす。右肩をバッサリと斬られたが、同時に右腕はエルミナがまだ握りしめている。肉体を分解して魔力を構築、自分なら遠隔でも回復魔法を行使できるはずだ。


 しかし、これは致命的な隙だった。


「私の前で、その余裕、いい度胸ね」


 加速した思考と視界の中で、アルトが剣を逆手に持ち替えた。

 アルトの右肘と赫灼緋龍の剣から火炎が噴き出る。まるで推進機構のジェット噴射。全身が太陽のように輝くアルトの右腕がさらに輝く。


「死ななきゃ目が覚めないなら殺してあげるわ!!!この大馬鹿野郎!!!!!!!!!!!!」


 赫灼緋龍の剣を握る右手は親指だけで剣を抑え、親指以外を伸ばした抜き手になる。後方に噴き出る火炎は加速を助け、レイの腹部を穿つ。

 抜き手はレイの腹部の結界をすぐには貫けず、勢いのままに後方上空に飛んでいく。まるで発射に失敗したロケット。地から天に落ちる隕石。斜めに空に飛んでいく二人は、エルフの里の最も古い大樹にぶち当たった。


――ピシィ。


 空間に罅が入る音がした。シュリアーナの張った結界のおかげで今は何も傷つかないはずだが、傷がついた。


――ベキバキベキ。


 罅は大きくなる。レイがとっさに腹部に張った結界には全ての魔力を込めている。構築こそ甘いが、大海を思わせる膨大な魔力を込めている。一撃で破壊できるものなどこの世界にどれだけいるか。


――ベキベキベキベキベキベキ――――パキ。


 だというのに、ついに壊れた。抜き手は胴体を貫いた。背骨を砕き、心臓のやや下を貫通、穴をあけた。

 ついでに勢いのままエルフの里の最も古い大樹も破壊した。


「とどめよ!!【爆拳】!!」


 火魔法と風魔法の複合魔法に【爆発】という魔法がある。これを拳に乗せた武技、【爆拳】。

 つまりはレイの体内、腹部、胃の中で停止した拳を中心に爆発が起こった。いかにレイとは体内で爆発がこれば防ぎようがない。絶命を思わせるほどの甚大なダメージを受け、なすすべなく地上に落下した。


「――がっ!…………――」

「ぐっ……手間かけさてくれたわね。全く」


 既に高レベルのレイとて瀕死だ。落下の衝撃で両足が折れた。砕けたかもしれない。既に自分の状態する把握できない。

 アルトは何とか綺麗に着地したことは気配で分かった。しかし、もう反撃の手はない。


「ぜぇ……ぜぇ……どう?参った?」

「……ま、まだ……「ふん!!!!」がっ――」


 アルトは立ち上がろうとするレイの左手を踏みつけ、追い打ちをかけるように火炎を浴びせた。まる焼けだ。


「……まい……た……」

「……よろしい。この馬鹿、反省しなさい」


 ついに降参し焼死体のようになったレイを拾い、アルトは宿舎に帰還した。





「私の自慢の結界が、破られるなんて……」

「アルトちゃんも大したもんだな、以前仕事で一緒だった時よりはるかに強くなってる。シュリアーナさんの【幻の泉】を壊すなんて、攻撃力なら俺より上なんじゃないか? S級冒険者並みだなありゃあ」


「あ、あの、あれし、死ん……」

「……レイ君はあのくらいじゃ死にませんよ。それより、早く消火しましょう」

「治療班も。早く。エルミナさんの方は少し危ないな」

「は、はい!行きますよみんな!」


 宿舎で半ば諦めがちに見守っていたガレアたちが動き出した。


「ぐっ……わ、私も、レイの尻拭いを……」

「アルトちゃんは十分頑張ったから、ちょっと寝ててね。【落識】」

「ぐうっ」


 シュリアーナに捕縛され、レイたちはしばらくの眠りについた。





 レイたちが激戦を繰り広げた翌日、エルフの里の焼け落ちた女王の大樹の中で、アロス国側とエルフの里側の話し合いが地獄のように重い空気で行われていた。


「…………うちの騎士が大変迷惑を」

「…………いえいえ、私の娘が大変なご迷惑を」


 具体的には、お互いの代表者たちが最大限の配慮の下で落としどころを探っていた。

 アロス国側からは代表者のガレア、協力者のシュリアーナ。エルフの里側からは女王ティリアーナ。あとはお互いに騎士団の幹部やエルフの里の長老たち。


 政治的な交渉とはお互いに非がある時でも一部を間接的に認める程度に留めるべきだ。隙を作らずに自分たちの陣営に有利な結果を引き寄せるのが鉄則である。


 しかし、場合によってはひたすら頭を下げるべき時もあるのだ。

 それこそ、今回のように刃傷沙汰が起きて人やモノに尋常じゃない被害を出してしまった時だ。


(どうするか……これはもう平和的な関係は無理か?あのクソガキめ……いや、相手にも失態があるのは事実。なんとか次回の会談も出来るくらいには良好な関係を維持できれば……!)

(どうしましょう……これはもう平和的な関係は無理なのででしょうか。あの子が恋に浮かれて人族の男の子を誑かすだなんて……いいえ、相手にも里を壊したという非があるのは事実。なんとか有利な条件で……二十年後を目安にまた会談を開ける程度には良好な関係を構築したいですね)


 お互いに目を合わせないように会話をしながら、お互いに何とか平和的に軟着陸させようと頭を働かせていた。

 今回は友好的な関係を築きに来たのだ。これはアロス国側にもエストールの森のエルフの里にも利益のある話である。


 しかし実のところ、両者ともにあまり政治的な話は得意ではなかった。


 ガレアは国礎十五柱第四席という五大国の一つの上から四番目の強者だ。この説明には欺瞞があるが、圧倒的に強者なのは間違いない。能力は武力を特化しており政治的な交渉は武力と寛容さをうまく使うことが多い。部下たちもみな一流の騎士たちだ。

 今回のように部下の不始末の規模が大きすぎる場合は初めてである。どうしたものかと内心では頭を抱えていた。


 ティリアーナ女王も似たようなものだ。もとよりエルフの里は排他的かつ閉鎖的。代々里長の家に生まれた者が里長の地位を継承するが、その役目は里の長老たちの意見を纏め、緩衝することにある。

 外交の経験はない。ティリアーナに限らず、この里の誰にも。


(破られたということは私の結界にもまだまだ成長の余地があるということ。早く研究室に戻りたい、久々に研究欲求が滾るものですね!)


 二人の内心に察しがついているシュリアーナは特に焦ることなく自分のことを考えていた。

 アロス国王立学園の学園長の椅子に座ってからはや百年。楽しい日々だがここまで心が燃え上がることはなかった。魔法を探求する学者として血がうずいていた。


 各々が隠し切れないほどの引け目を感じながらもなんとか属する組織のために成果を獲得しようと死んだ空気の中でもがいていると、部屋の扉が開き伝令が入ってきた。


「……なに!?レイたちが起きたのか!?」

「三人とも無事!?よかったぁ!」


 ガレアとティリアーナが歓喜の声を上げる。

 好機だ。シュリアーナが畳みかける。


「ティリアーナ様、相談が。昨日の喧嘩の事は忘れて、そろそろ未来に向けた建設的な話をしませんか?」

「えっ、喧嘩?」

「はい。祭りで燃え上がってしまった若者たちが少々派手に喧嘩をし、家を壊してしまいました。これは確かに問題ですが、大事にするほどの事でもないでしょう。本人たちに後遺症はなく、壊れた建物も何らかの方法で補填する。長引かせる話でもありませんし、このあたりが落としどころではないでしょうか。ね、ガレアさんも」


「そう、だな。レイとアルトが暴れたのは俺の監視不足だったのも事実だ。そちらの娘さんを巻き込んでしまったことも悪いと思っている。本人たちにも反省するように言っておこう」

「こちらも同じ気持ちです。エルミナは昔から外の世界に憧れていたので、レイ君の話に惹かれ暴走してしまったのでしょう。よく言い聞かせておきます」

「じゃ、この話はここまでですね。では次にアロス国に応援に来てくれるメンバーを――」


 平和的に軟着陸できそうだ。

 両陣営ともに内心でほっと安堵の息をついた。





「では!偉くなったらエルミナとの結婚を認めてくれるのですか!?」

「はい。もとより我らエストールの氏族はアロス国と友好的な関係を結ぶつもりでいます。当人たちも愛しあっているのなら、私たちに反対するつもりはありません。ただし、今のように曖昧な地位ではなく、しっかりと自分の立ち位置を見つけてからです」

「ありがとうございます!!!」


 目を覚ましたレイたちの元に女王がやってきて、告げてきた内容にレイは歓喜した。

 隣で見張るように寝ていたアルトが起きてしまった。不機嫌そうな顔だが後で何とかしよう。


「あと、今回のように駆け落ちをされるのは困りますので、今回の訪問ではもうあの子に合わせることは出来ません。分かりますね?」

「……はい。初めての恋に舞い上がってしまいました。反省しています。次回……一年、いや二年を目安に出世して、偉いくなって、エルミナを迎えに来ます!」

「に、二年?ですか。人族の時間間隔はずいぶんと早いのですね。まあいいでしょう。その言葉を信じます」


 まだ十歳だが、今までの人生で最も声に気力が乗っている。目には炎が灯り足は今には走り出しそうだ。


「ガレアさんも、それでよろしいですか!?」

「……俺にその辺の話を決める権限はない。持って帰って陛下に聞いてくれ。

 それより、今回はもう帰るぞ。お互いに仕切りなおす時間が必要だ。ティリアーナ様もお元気で」

「ええ、また」


 こうしてレイたちは逃げるように帰国した。





「迷惑かけてしまった。確かにエルミナとずっと一緒にいたいと言っても駆け落ちするのは間違っているよな。ちゃんと手順を踏まないと」

「…………そうよ。分かればいいの」


 森の中を走って帰国している最中、レイはアルトに謝罪していた。

 本当に申し訳なさそうに顔を歪めており、嘘偽りない気持ちが現れていた。


「でもそれだけじゃ足りないわ、レイ。もっと謝りなさい」

「……そうだね、みんなにも謝らないと。皆さん、ご迷惑をおかけしたことを謝罪します。申し訳ありませんでした。この失態は働きで返します」


「気にするな、お前にも人間みたいな一面があったんだと知れてうれしいよ」

「恋するのはいいが暴走は良くないことだ。ちゃんと自制するんだぞ」

「終わってみれば俺たちが何かしなきゃいけなかったわけでもない。気にしすぎるな」

「私は怒ってませんよ。でも陛下と姫様たちにも正直に伝えるんですよ」


「……はい。ありがとうございます」


 走りながらガレアたち陽光騎士団の面々やシュリアーナに近づき、頭を下げた。

 皆あまり怒っていないらしい。悔やむ気持ちでいっぱいだ。心を自制するのは大切だと分かっていたはずなのに。



(陛下から万が一の時は殴り飛ばしてでも連れて帰れと密命を受けていたが、まさか本人が自発的に逃げようとするとはな。……俺の番に事が起こるとは)


 そんな中でガレアは内心で自分の運の無さを嘆いていた。

 レイは知らないことだが、山投げの戦場のカイガキ、コンボロス公爵領に出向いた時のレグルス、皇帝を秘かに護衛したときのギルバート、王都で騒ぎが起きた時のペペセルトなど、レイを指導しながら見張っている者は大勢いた。

 ガレアにそのことを知ってはいたが、レイは今までなんだかんだ独断専行しながらも任務からは外れていなかったため油断していた。まさか自分の番で爆弾が爆発するとは、と。


 レイが一人一人に頭を下げて回っていると、ガレアの前に来たのでが踏み込んでことを聞いて来た。


「ところでレイ、どうしてあんなに好きになったんだ?エルミナって子、確かに可愛かったが姫様たちやアヤメちゃんも負けてないだろ?そんなに好みだったのか?」

「うーん……よく分からないけど一緒にいたくなったんですよ、こう、魂が震えるような感覚があって。向こうも同じだったみたいで」

「?つまり一目惚れか。若いねぇ」

「多分そうなんでしょう」


 ガレアはよく分からないと言いたげだが、レイ自身にもよく分からないのだ。

 一目見た瞬間、不思議と懐かしいという感覚に襲われた。真実の愛に落ちたというより、真実の愛を取り戻したというのが正しい、そんな不思議な感覚だ。


 しかし見覚えはない。この世に生まれてから全てを完璧に覚えていると自負しているレイだが、どこにも会った記憶がないのだ。

 もしかして以前会ったというの、現世じゃないんだろうか。


「違うでしょ」

「ん?」

「私に謝りなさい。会ったその日のうちに股を開くバカ女に惚れたことを謝りなさいって言ってんの」

「……いや、それは違うだろ、姉さん。俺とエルミナの間にあるのは真実の愛。時間は関係ない」

「まだそんなアホなことを言って!!!」


 皆はもう……というか最初から大して怒っていないようだが、アルトは怒っているようだ。


「アルト姉さん、俺は手順を間違えたこととみんなに迷惑をかけたことは悪いことをしたと思っているけど、エルミナを好きになったことは全く悪いとは思っていないよ。それ以上は姉さんが相手でも怒るよ」

「わ、私はレイのためを思って言っているのよ!?姫様たちといい仲なんでしょ!?王位を継ぐのはお姉さんの方だし、妹さんの方は十分に狙える、陛下も近い考えのはずよ!それにユニリンちゃんとアヤメちゃんも。あの子たちはいい子たちだから結婚するならあっちにしなさい!その場のノリと勢いで重大な決断をしちゃダメだっていつも言ってるでしょ!?」

「俺の人生だろ!?なんで姉さんの言うことを聞かなくちゃいけないんだよ!」

「家族だからよ!いつもいつも心配かけて!」


 勢いのままレイとアルトは胸倉をつかみ合い、頭突きをして喧嘩を始めた。拳が頬を突き、膝が腹部を穿ち、肘が背中を叩く。

 森の中を走りながらも道端の石ころを蹴飛ばすように人体が吹き飛び、ガレアたちは我関せずと巻き込まれないように離れていた。


 もうすぐ森を抜ける。二人の喧嘩は大人しくなってきた。もとより激戦からあまり時間が経っておらず疲れが取れていないのだろう。

 様子を見計らってガレアが声をかけてきた。


「それで、偉くなってエルミナちゃんを迎えに行くと言っていたが、具体的にどうするんだ?レイ。最近オーレリユ公爵家と本格的に小競り合いが起き始めているけど、そっちで功績を立てるか?」

「いや、そっちじゃなくて……」


 一拍。言っていいかなと考える。

 まあ言っていいかと結論付けた。


「アロス国で出世するのはやめて、国を作ることにしました」

「……は?」

「レ、レイ?私、聞いてないわよ?」


 ガレアは聞き間違えかと聞き返し、アルトも動揺したように詰め寄ってくる。

 視界の端で陽光騎士団の面々は関わりたくなさそうに距離を取り、シュリアーナはどうしようかとおたおたしている。


「実は去年買った俺の奴隷に亡国の姫がいるので、そこを復興します。前々から作りたいと考えていた俺の理想の国も、アロス国で重鎮になって形を整えるより、滅んだ国を復興して最初から理想の国を作る方が現実的かなって。偉くなるというのも出世より王様の方が明確ですしね」


 ガレアもアルトもみんなも、愕然とする。

 言っている内容に。そして、本気で言っている態度に。


(……やはり恐ろしいガキだな。本気で言っているし、本当にやるつもりだ)


 ガレアは再び吹き荒れる大嵐の予感に、嫌そうな顔を浮かべた。

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