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74話 光と闇、栄光と流血のオークション

 奴隷オークションが行われるまで約一か月、その間は買い物を楽しむことにした。

 サリオスは奴隷売買で発展した都市だが奴隷以外の商品も豊富だ。大通りを歩いているだけでも楽しい。石畳の通りの両脇にはカラフルな看板とガラス窓の店が並び、街角では大道芸人たちが火を噴く手品を披露し、鼻を澄ませば香辛料の臭いと甘い菓子の臭いが漂っているのが分かる。


 ララクマ帝国は侵略戦争で強引に領土を拡大した経緯から多種多様な文化が混ざっている国でもある。気分が向くままにサリオスの富裕層向けの店に足を運ぶと南方から運ばれたという瑠璃色の髪飾りを見つけた。非常に美しい。貴族のご婦人たちも色めいた声で物欲しそうにしていた。


(ねえねえレイ、人間ってああいう綺麗な石が欲しいの?)

(あれは石だけど綺麗だから宝石っていうんだよ。宝物のような石だね。シーは欲しい?)

(いらない)

(そっか。じゃあユニリンかリリア皇女に……いや、二つあるし、姫様たちにあげよう)


「その宝石くださいね」

「えっ……ええと、坊ちゃん、親御さんは近くにいらっしゃいますか?」

「金ならありますよ。この店は金で買えるものしか置いてないと聞いています」


 レイは懐のポーチから金貨と取り出すと、店員は驚いたような顔をして下がっていった。

 貴族は通常、買い物の際に自分から出向くことはない。御用聞きとでもいうべき専属の商人がいて、自宅まで欲しいものがないか聞きに来たり、またある時は最近流行の商品を紹介しにカタログを持ってくるからだ。

 しかし買い物することそのものを楽しむ人もいるため、貴族向けの商品を扱う店舗もある。今いる店もそうだ。ちゃんとした服装とマナーを備えているならば貴族でなく冒険者でも傭兵でもよく、金さえあれば買える。そういう店だ。


「またのご利用お待ちしております」

「どうも。ところで、この辺にマジックアイテムを売っている店はありますか?」

「近くに衣類やインテリアを取り扱う店がございます。その一部がマジックアイテムだったと記憶しています。招待状を書きますので少々お待ちを」


 ニコニコ笑顔の店主に見送られ、レイもお礼を言って店を後にした。次に訪れた店は富裕層向けのマジックアイテムを取り扱う店だ。温度を保つ恒温ティーカップに自己研磨する銀食器、それに月光羊の毛を使った月夜に輝く外套。術式を組み込んだマジックアイテムもあれば、そういう魔法生物の素材を使ったマジックアイテムもある。

 今回注目するのは値段だ。買い物は楽しいが楽しみすぎるとすぐに素寒貧になってしまう。簡単なマジックアイテムを売って資金を稼ぐのもいいかと企んでいるのだ。


 店を冷かしたあとは市場でご飯だ。焼きたての蜂蜜パンに香辛料入りの肉串。耳にシーが私も食べたいと欲しがる声が聞こえてくる。食べられないでしょ。

 数日買い物を楽しんだが、この街はいい街だ。治安がいいのも高評価。奴隷売買で大きくなった都市というと聞こえは悪いが、見方を変えれば貴族が買いに来るほどの高額商品を取り扱う商業都市でもある。警備の数や練度はレイが知る中でもトップクラスだろう。


 別の日には友人たちや同僚たちへのお土産も買いに行った。多分怒られるだろうがマシになるといいな。





 レイがサリオスに来てから一週間が経過した。今日は支配人との会食の日だ。


「これを買い取ってほしいんです。光る宝石ですけど、どのくらいの値段が付きます?」

「拝見します……これは、宝石の内部に術式を刻んでいるのですね」

「お見事、よくわかりましたね。昨日買った光を通しやすい宝石を加工したんです。ピカピカ光って綺麗でしょう?照明として使うにはだいぶ無駄がありますが、珍しいから観賞用として売れると思うんですねよ。売れます?」

「……これは、私では値段がつけられません。オークションにかけるべきですね」

「えっそんなにですか?」


 レイが取り出したのは指先に乗る程度の小さな宝石だ。分類すれば真珠に近く、ネックレスの一玉分の小さなもの。

 思うがままに買い物を楽しんでいたら懐が寂しくなったので金策をすることにした。宝石を買ってマジックアイテムに加工して売る、レイが持つ手札の中で最も金を作りやすい手の一つだ。

 しかし値段がつけられないと言われるほどまで上がるとも思っていなかった。


「大して難しくありませんよ。宝石を傷つけないで中心だけに触り、内部に【光球】の術式を刻んだだけです」

「……レイ様にとって難しくないようでしたら、もういくつか作って売っていただけませんか?」

「いいですよ」


 ポーチから昨日買った宝石を取り出す。同じく真珠に近い。

 テーブルに置き、指先で触れる。するとするっと宝石を傷つけずに入り込み、指先の魔力で中心部に回路のような術式を刻んだ。


 指を抜き取り、最後に外から調整すれば完成だ。魔力を流し込むと強烈な光を放った。


「完成、光る宝石型のマジックアイテムです。宝石型、というか本当に宝石を使ってますが」

「……このような加工技術を私は見たことがありません。おそらく世界に唯一のもの。光る魔物の素材を使った類似品も見たことはありますが……ここまで強烈な光を放っているものは初めて見ました」

「おお!貴族向けなら宝石を加工すればいいだろうと考えましたが、当たっていましたか」

「……オークションにかけるか、この場で現金で売るか、いかがいたしますか?」

「現金でお願います。スケジュールに余裕が無くて、オークションで買いたいものを買ったらすぐ帰るので」

「かしこまりました」


 そう言って支配人は部下に現金を持ってこさせようとした。

 まだ話は終わっていないので慌てて止めた。


「あとは見せた通り簡単に作れるので、こういうものもあるんですが」

「……拝見します」


 昨日買った宝石はまだまだある。お土産のつもりだったがこの程度の加工で値段が十倍以上に跳ね上がるならこの場で売ってまた買えばいい。

 赤い宝石、青い宝石、色とりどりで形も様々。中には特殊な加工を施し、壁に移る影が星空のように見える宝石もある。


「そうだ、全部白い光に統一してますが、宝石の色に合わせて光も変えましょうか?あと光量も」

「…………そうですね。私が信用しているデザイナーを連れてきましょう。大至急。……おい」


 背後に控えている部下の人たちが大急ぎて駆け出した。大変そうだ。


「レイ様、私と契約する気はありませんか?私はこのサリオスの高額商品や大貴族を相手に商売をしている身、レイ様が作り出す奇跡の宝石を適正な価格で買い取らせていただきます」

「嬉しいお話ですね。専属とはまだ決めませんが、とりあえず手持ちのマジックアイテムは売りましょう」


 ポーチから次々と残りの宝石を取り出す。ここまで話がうまく進むならもっと買っておくべきだったか。


「……レイ様、加工職人としてレイ様の名前を出してもよろしいでしょうか。悪名……いえ、竜倒祭の優勝者として高名なレイ様の名前を使えばさらに値段と釣り上げることも可能でしょう。もちろん、レイ様にこの場で支払う買取価格も上げさせていただきます」

「いいですよ」

「……感謝します」


 提供された食事を済ませ、やってきたデザイナーのアドバイスに従って宝石を加工する。


「おー本当だ。赤い宝石に赤い光でこんなに綺麗な赤が出来るんですね」

「一言で赤といっても明度や深度によって違いますからね……しかし、ここまで思うがままに物質をメイキング出来るなんて……」

「教えてあげたいところですけど、一応秘術の類なので……公表する機会が出来たら教えますね」

「光栄です」


 デザイナーのお姉さんを交えて支配人と価格を交渉し、こうして大量の現金をゲットした。


「俺もお金持ちですね。早速また買い物に行ってきます。いや、この金で奴隷を買ったほうがいいか……?」

「この街で使って下さるなら我々にとっても喜ばしいことです。よろしければ案内人を付けましょうか?」

「お願いします」


 こうして会食は終わった。

 退室する直前、誰かが飛び込んできた。


「サ、サリオス様!大変です!」

「何用ですか。お客様の前ですよ」


 静かに、しかし重い叱責が飛ぶ。支配人さんも少し怖い面があるようだ。


「構いませんよ。それだけ緊急事態なんでしょう」

「……お心遣い感謝します。彼は私の情報部の者ですね。それで、何用ですか」


「…………はっ、はい。――先日の旧皇帝派が起こした反乱が、皇帝陛下の手で直々に排除されました」

「なっ!?」

「おー」


 その後も情報部に所属しているらしい男性が紙を渡してきた。


「俺も見ていいですか?」

「……どうぞ」


 そこには重要な情報と、少々過激な絵が乗っていた。


 『ガロリアス皇、反乱を起こした旧皇帝派を殲滅、首魁のノゼロ・ララクマを含め全滅、スポーク領は血の海に』。そんな文言と、諜報員が見たのであろう首と血と死体の絵だ。


「情報が速いんですね。さすがです」

「少々特殊ですが、これでも商人ですからね。情報の大切さはよくわかっているつもりです。もちろん、帝国の情報部やアロス国の影の騎士団にとっては児戯でしょうか。……レイ様は、何かご存じですか?」

「いえ、以前伝えた通り今は個人的に買い物に来ているだけですし、諜報部から何も聞いてませんよ」

(それにしては全く動じていないではないか)


 皇帝陛下の出撃、不穏な動きを見せ続けていた旧皇帝派の全滅。大ニュースが二つも同時に飛び込んできたのに全く動じていないレイを支配人は内心で訝しむ。

 しかし、表に出すことなく自身の精神を制御する。目の前の子供の見掛けをした化け物は、罵声を浴びせられても心が波風を立てないと考えているからだ。


「……レイ様は、いかがお考えですか?普段は武門十七衆の誰かが対応するでしょうが、今回は皇帝陛下が直接出向くとは。それだけ旧皇帝派を警戒していたのでしょうか」

「暇だったんじゃないですか?」

「………………」


 支配人は絶句した。


「……ひ、暇だったんでしょうか?」

「私が旧皇帝派の人たちの反乱をつぶした時の感触からして大して脅威ではありませんよ。皇帝陛下も最近体がなまっているとおっしゃっていましたし。じゃあ、そろそろ私は行きますね」


 そう言ってレイは退室した。


 会議室に残った支配人は少し呆然とし、我に返る。


(やはり噂など当てにならんな、噂以上に恐ろしい子供だ……暇だったから殲滅?そんなわけあるか!というかそれで済ますな化け物め!)


「貴様は引き続き皇帝の見張りの任務に戻れ」

「はっ!」


 支配人はいつの間にかいていた冷や汗を拭いながら、手紙の続きを読む。諜報員の推察、旧皇帝派の戦力、各勢力の動向などなど。


(相変わらず陛下は行動が過激すぎる、その上行動原理も理解できないほどに独特。これは参ったな)


 従者たちの視線も気にせず、普段の穏やかな笑みを崩して眉を潜める。

 先代皇帝は分かりやすかった。金と暴力を好み、同時に尊ぶ主張をしていた。賄賂も受け取ってくれた。悪事と呼ばれることも出来た。敵対者に冤罪をかけることもあった。


 しかし今の皇帝は違う価値観で動いている。金と暴力といった力を尊んでいるのは同じだが、不正には厳しいのだ。平民の生まれだからか民の暮らしを重視し、各地の税がしっかり規定通りの運用をされているか確かめ、破るものは容赦なく斬り捨てる。

 ララクマ帝国の皇帝としては、先代と今代で違いはないのだろう。自分が良いと信じることをする。ただ、今代の皇帝の方針が支配人にとっては不都合が多いだけで。


 同時にレイも恐ろしい。あの恐ろしい皇帝を相手に平然としているのが、恐ろしい。

 奴隷都市サリオスの領主、モルダン・サリオスは非常に多くの実力者や英雄、化け物と接する機会が多い。大商人として英雄と、そして奴隷商として化け物と。奴隷の呪印を刻まれ首輪に繋がれてなお全く折れない怪物、そういうものが稀にいるのだ。

 

 彼らは何があろうと我が道を進み、その果てで死ぬまで止まらない。サリオスの支配人としてではなく、奴隷商人のモルダンとしてレイの能力ではなく人格面で怖さを感じ取っていた。

 そういう怪物の中でもレイは輪にかけて我が道を行くタイプだ。支配人にはレイが人間には見えなかった。魔族を自称しているらしいが、それは真実かもしれない。


 しかし人間でないと捉えた上で、レイは人間に対して友好的だ。積極的に会話に応じてくれて、必要とあれば歩幅を揃えてくれる。

 つまり、稼げる、金になる。味方にしておして損はない。

 ならば媚を売り、好感度を上げなくては。


「警備の数を増やせ!あの悪魔の様な狂犬に喧嘩を売る馬鹿を先に殲滅するんだ!」


 この数日後、暗闘が絶えないサリオスの治安が目に見えてよくなったとか。





 街の路地裏と日暮れ後の暗闘を見送りながら遊んでいると、オークションの日がやってきた。

 オークション。サリオスでは基本的に奴隷のオークションだが、奴隷以外も販売している。


 宝珠も出品されるらしい。使用すればスキルを習得できるという非常にレアなアイテムだ。

 スキルと魔法では勝手が違うが、ユニリンが開発した『魔法を習得できる魔法』の改良にも使えるかもしれない。手に入れたいものの一つだ。

 魔導書も出品されるらしい。こちらはダンジョンで獲れるものではなく、魔導士たちが魔法について記した書物だ。魔法の習得方法や使い方が独自の視点から記されていて大変興味深い。こっちもユニリンへのお土産になるだろう。


 レイは見た目よりも中が広いポーチの中身をあさる。

 膨大な金貨。支配人との取引で増やした金だ。


 そして虚空庫にはもう一つのポーチがある。こちらは借金だ。支配人にマジックアイテムの宝石を売却することで手に入れた信頼を担保に借りたお金。

 これは切り札だ。出来れば使わずに乗り切りたい。


(レイ、今のうちに返したら?あったら使いたくなっちゃうでしょ?)

(それは違うよシー、俺は理性が強い人。欲しいものを欲しいから買うんだ。だからこれは必要な借金なの)

(……そうなの?レイが言うならそうなのかな?)


 準備は万端。オークションが始まれば司会が進行し、買いたいものがあれば番号札と金額を掲げる。

 ここは仮面などはつけていない、探ろうと思えば簡単に身元を調べられるためマナーが悪い手荒な客はいないだろうが油断は出来ない。レイ自身もそういう時は手段を選ばない者の一人であるがゆえに。


 今回のオークション会場は音楽のコンサートホールに近い。正面奥の壁が商品を見せる舞台で、手前の半円が客席。床に椅子を並べた一般席、中くらいの高さにある席、一番高く一番舞台が見やすい貴族向けの席。レイがいるのは一番上だ。正面だけが空いている半個室でふかふかの椅子に深く座りなおすと、背後に覚えがある気配が生じた。


「……ようやく見つけたわよ、レイ」

「アルト姉さん?どうしてここに?」

「学校をさぼって奴隷を買いに行った馬鹿を連れ戻しに来たのよ」


「書き置きしたでしょ?あとロベリアに伝言も」

「それだけで済むわけないでしょおバカ」


 アルトだった。

 怒って……はいないようだ。しかし呆れているようだ。


「せっかくの留学なのよ?前半は竜倒祭や博覧会もあったからしょうがないにしても、帝国側も苦情を……言ってこないでしょうけど、最後の一か月くらい大人しく出来なかったの?」

「心配してくれてありがとう。でも大丈夫、今回の取引と売買を課外活動として受理させて見せるから」

「……また変な方向に情熱を燃やして…………新しい友達も出来たでしょう?カーネリアン様とかシャインちゃんとか、みんなで一緒に居なくていいの?」

「死に別れたって繋いだ心は離れないんだ。違う場所にいるくらいなんだってんだ」


 アルトの不安をけらけらと笑い飛ばす。

 帝国の学園は実技が約六割、筆記が約四割、僅かに教員からの加点で成績が決まる。レイは当然実技筆記共に満点だ。教員の心証は分からないが、帝国は実力主義なためレイの年齢で既に大人に混ざって活動しているというのは好意的に受け止められるはずだ。

 ……まあ授業を受けないなら何のための留学なのか、教員を侮辱していると怒られることもあるが、……なんにせよ不安になるように成績はしていない。


 それに友人関係も不安はない。友情とは毎日一緒に寝食を共にする相手という意味には限らないのだから。


「別に今後一生帝国に来ないってわけでもないんだし、アルト姉は真面目すぎだよ。それよりこれあげる。アルト姉さんへのお土産のつもりで買った髪飾り」

「あらありがと。……またずいぶん高そうね。この宝石かなり大きいんじゃない?」

「がんばった」


 ポーチから取り出したのは極めて大きな宝石が付いた髪飾りだ。宝石は大人の握りこぶしよりも大きく、アクセントの域を超えて大きく派手だが、ここまで大きいくとかえって下品さもない。現在この街で買える中で最も巨大な宝石を付けた物。

 サリオスはアロス国を含めてもトップといっていいほどの商業都市。十年、二十年後でも貴族のパーティーに出席する際に着けていても見劣りしないほども逸品だ。


「……今日は騙されてあげるわ」

「ありがとう。そろそろ競売が始まるから姉さんも見てなよ」


 一応置いてあって椅子を追加して、アルトが座る。


 オークションが開始した。司会が淡々と進行する。想像よりも厳かだ。

 沢山のアイテムの目録が読み上げられる。宝珠、魔導書、武具、様々だ。出来ることなら全部ほしい。もしかしてレイは購買欲求が強いのだろうか。


『この【光魔法】の宝珠は迷宮都市ロイドウの木漏れ日迷宮二十層の階層主を倒した時の宝箱から発掘された品で――』


「また高いやつを……それ必要なの?」

「魔導書はユニリンに、宝珠は……誰かにあげるんだよ」

「また甘やかして……どうなっても知らないわよ?」


『この片刃の直剣は遥か東方の――』


 財布の中身と睨めっこしながら楽しんでいると、舞台に奴隷が出てきた。

 人族だ。見た目では分からないが上等な衣服を身に纏っている。この特徴の無さからして事務仕事用なのだろうか。


『続きまして奴隷の番です。最初は南の国が滅んだ騒動で身を崩し、身売りをした青年です。彼はエルナンド国の王宮に――』


 誰かが落札した。レイも何人か買う。

 次は獣人の番だ。こっちでも何人か買うか。


「あの猿人族の男の子を買うの?」

「うん、レアスキル持ってるから」

「ふーん……?」

(……さすがこの世界でも最上級の奴隷オークション、人材の宝庫すぎるな)


 聖眼をフルに使いながら奴隷たちを見る。魔力の大きさやステータス、魂の大きさ、身体機能の健康さなどなど。さすがは奴隷売買の本場だ。

 レイは今までさまざまな場所で人材のお宝がいないかと探すことがあるが、そういうときの一万人に一人のレベルの才能の塊がゴロゴロ出品されている。思わず何人か買ってしまった。


 買い物の楽しさに浸っていると、巨人の奴隷の番が来た。

 ここに来た目的なのだ。必ず買う。


『続きまして巨人族です。遥か西方にある境界山脈の向こうには魔境が広がっていることは皆さんご存じでしょうが、そのどこかに巨人族の里があり、稀に人間界にやってくるのはあまり知られていません。彼女もそうしてやってきた者の一人です。レフロート聖王国とザザラザ商業連邦の間で紛争が起こった際、彼女も奴隷になりました。その大きな肉体を生かしてどのような建築作業も馬百匹分以上の働きをしてくれるでしょう。それでは入札を始めます』


 巨人族はレイも事前に聞いていた通り大きかった。

 十メートル近い巨体、顔つきから考えて成人しているのだろうか。


「飛行船の整備用に買うのね……それはいいけど、巨人にそんなことできるの?」

「巨人族はドワーフの次に手先が器用らしいから多分大丈夫だよ。それに一番の目当ては背丈、人族じゃ足を踏み外して落下した死ぬ高さでも、巨人族なら死なないからね。技術は後で教えればいいよ」


 当初の予定通り、全員購入した。もし予定通りにいかなくてもこの世かから土木工事がなくなることはないんだし、元は取れるだろう。


 大きな金額の動きに会場に熱気が籠り始める。全員買うのは敵意を持たれる行為だっただろうか。

 まあいいか。買い物は買いたいからするのだ。


『続いてはこちら、今回の目玉の一つ。天族と竜族の少女です!!皆さんご存じの通り、神話に曰く、賢神様は魔王との戦いで荒廃したこの世界を癒すために世界を再構築したと言われています。その際、私たち人族が暮らすこの世界を中心に五つの異世界を作りました。現在では距離も遠く、天界への扉は天空の島、幻獣界への扉は秘境の奥地、精霊界への扉はエルフの里などにある、という噂ばかりで実在を信じがたいという方も多いでしょう。しかし、極まれに召喚魔法を使用できる魔法使いにより通常のルートを無視して召喚されることがあります。この少女たちもその一例、召喚したもののかなり凶暴で手に負えず手放し、この奴隷都市サリオスに回ってきました。

 見た目の美しさも見事ながら、その戦闘能力はまだ幼いながら非常に高く、A級冒険者でようやく生け捕りに出来て、奴隷の呪印を刻まれてなおC級冒険者でなければ取り押さえるのが困難なほど、さあ!一千万ジェリーからスタートです!!!』


 その後もオークションは熱狂しながら進行していく。人族に獣人族、エルフにドワーフはそれなりによく見るが、魔族に分類される吸血鬼、あらゆる面で優れている天族、武力最強と名高い竜族まで出品されているとは思わなかった。

 全員買った。想像よりも値段が上がらなかったのだが、管理出来ないと判断されたのだろうか。将来性を考量すれば買って損にはならないと断言できるのだが。


「吸血鬼に竜族、それに天族?危なくない?」

「俺よりは危なくはないでしょ」

「……それもそうね」


「魅力的な奴隷が多すぎるな。あの奴隷も欲しい」

「……みんな綺麗ね。可愛いしスラっとしてるしおっぱい大きい人も多い……レイ、手を出しちゃダメよ」

「?……ああ、えっちなことしちゃダメってこと?分かってる。俺はマラルドさんやピャリャードさんみたいなダメな大人にはならないよ」

「……ならいいんだけど…………」


 奴隷を買うたびにいちいち小言をはさんでくるアルト、流石に不審に思う。

 

「姉さん、俺が奴隷を買うの反対なの?」

「そういうわけじゃないわ。部下を雇うのと対して変わらないもの。でも……分かるでしょ?」

「分からんない。借金してまで買ってるのが不満なの?」

「そうじゃな……えっ何してるのよ」


 波乱なくオークションは終了し、なぜか不満げなアルトを連れて会場を出た。


 なお、借りた金五十億ジェリーも全部使った。どうやって返そうかな。





 引き渡しは会場をいったん出て違う入り口から入れる屋内運動場のような部屋で行われた。

 レイが購入したアイテムと奴隷が約百人がずらりと並んでいる。壮観だ。


「これほどお買い物していただいたのは久々ですよ」

「俺もいい買い物が出来ました。お金はそのうち返します」

「はっはっは。信用していますからお急ぎでなくても構いませんよ。他のお客様も買えない不満よりも珍しいものを見たと満足そうでしたから。そうだ、またお金を貸しましょうか?お帰りの馬車も手配させていただきます」

「助かります。帰りの路銀もなくて歩いて帰ろうと思っていたので」

「えっ……そ、そうですか。破天荒ですね」


 支配人と別れ帰路につく。

 奴隷を所有したときに一番警戒することは奴隷の反乱と脱走だ。奴隷の呪印を刻めば奴隷たちの行動を縛ることが出来るが、抜け道は多くある上、肉体と精神への負担が大きい。働いて貰おうというのに能力の低下は困る。


 都市の外に出るまでゾロゾロと団体で移動しているせいで周囲の人からはパレードでも見る様な目を向けてくる。天族も竜族も人型なら大体人族と同じくらいの背丈だから馬車に入れば目立たないが、巨人族は無理だ。どうしても目立つ。

 レイはいつでも目立つから気にならないが、奴隷たちは気になるようだ。しかしすぐ終わるのでそのまま突っ切って出て行った。


 都市の外を少し進み、レイは馬車から降りる。続けて奴隷たちも下車するように指示した。


「さて、いろいろ言いたいこと、聞きたいことはあるだろうけど、最初に一つだけ言っておく。俺は君たちに仕事と研究の手伝いを命じる。死や怪我の危険はないし、生活と給料の面倒は俺が見るから安心するように。ただ忘れないでほしいのは、俺が君たちを必要としているから高額を出したということ。そう簡単には手放さないからそのつもりでいてね」


 宣言に動揺の声が上がる。レイが言った内容は奴隷たちにとってはかなり都合がいい話だ。確かに崩落の危険性が高い鉱山や使い捨て前提の魔物への囮として使われる奴隷は最底辺だけであり、大半は辛いけど死にはしない大規模農場や工場で働かされることが多い。

 ここにいる奴隷たちは俗にいう高級奴隷。家庭教師や貴族の子弟の世話、騎士の従者、戦闘奴隷や職人奴隷などなど。人としては扱われずとも車やパソコン、重機などくらいには大切に扱われる。下手をすれば貧困な人間よりも大切にされる。岩を素手で持ち上げてくれる巨人族は分かりやすい例だろう。


 しかしだからと言って宣言する主は希少だ。


「俺は鑑定系のスキルを持っている。自覚がない人もいるようだけど、君たちもレアなスキルを持っている。俺が求めるものだ。もし俺の見込み違いでもその時は暮らしやすいとこに途中で捨てる気はないから、安心してね」


 レイは優しそうな顔を作って優しそうな声色が歩み寄るようなことをしている。


 大体の奴隷は困惑の視線を向けてくる。レイが子供だからだろう。レイはまだ八歳。客観的に見てどこかの金持ちのお坊ちゃんにしか見えない。説得力に欠ける、というのも事実だ。それは仕方がない。

 しかし、一部は可哀想なくらい怖がっている。自分の境遇を哀れでいるのかと思ったが、違う様だ。


「よろしくね」

「ひっ……」


 天族の少女……レイと同い年くらいだろうか。親しみやすさのアピールに握手でもしようと一歩近づくと、怯えたように下がって尻餅をついた。


「な、なんなの、あなた……地獄界の悪魔……?どうして人間界にいるの……?」

「……失礼な。俺は魔族だよ。いや悪魔の力も使えるけど。天眼?ってスキルも持っているのにみたいだけど、まだ使いこなせてないの?」

「ひぃぃぃ……」


 実態のある翼があるのに、まるで溺れるように地面を這うにように逃げられてしまった。

 一緒に買った竜族の少女に背後庇われる。仲が良くて結構なことだ


「怖がらせちゃったかな?まあ仲良くしようよ。じゃ、日が暮れるまで進もうか。また乗って」


 御者に命じて馬車を進ませる。

 今のうちに同じ馬車に乗っているアルトに頼み込む。


「姉さん、見張りをお願いしてもいい?ちょっとやりたいことがあるんだけど、手が足りなくて」

「……もうちょっと考えて生きなさいよ。いいけど」

「ありがと、大好き」

「ん……」


 不満げだが満更でもなさそうだ。レイには分かる。


「あっちのは」

「俺が追い払うよ」


 さっきから誰かが追いかけてきている。道ではなく森を進んでいる時点で曲者だろう。帝都まで連れてきたら叱られるから今のうちに排除しておかないと。





 その日の夜、野営地でレイは一人の奴隷を部屋に呼んだ。

 ナランナ・エルナンド。金銭を払うことなく手に入れることが出来た王女だ。シー曰く、シーが受肉するために必要らしい。


 ナランナはテントに入ってくると頭を下げてきた。


「私を奴隷から解放してほしいのです」

「?はあ、まあいずれはいいけど……すぐには無理だよ」


 美しい金髪と鋭い視線が特徴的な顔を苦渋に染め、無茶なことをいう。

 奴隷。いろいろ経緯はあるが、戦争に負けて捕虜になり奴隷落ちというのはこの世界でも野生の奴隷狩り以上によくある話だ。そこから解放されることはなく死ぬというのも良くある話。

 だから解放されたい、というのは理解できる心理だが、同時に彼女は姫、王族、十分な教養があるはずだ。


「いずれでは遅いのです!こうしている間には、我が国は魔物と悪意に蹂躙されて……っ!そもそも隣国が宣戦布告も無しに――」

「無理、敗者の末路だと思って諦めて。国はもう滅んでるでしょ」

「いいえっ!まだ私が残って――」


 少し面倒になって睨む。

 レイとて悲しみに暮れる人は無理のない範囲で助けたいが、大魔境をはさんだ南部、もう滅んだ国を助けてくれとかいくら何でも無理である。


「……分かりました。ですが、私は諦めません。何年後であっても、一人でも多くの国民を助けます。……誠意の証として、我が国の秘密をお教えしましょう」

「秘密?」

「はい、それは――」


 もったいぶったようにナランナは一拍、いや二拍ほど声をとどめる。まるでこの期に及んで手札を伏せておけると思っているようだ。

 しかし、レイの急かすような視線に耐え切れず言葉を出す。


「……我が国は、大魔境で手つかずの『賢神の試練』を発見しています」

「なっ!?」


 大したもんじゃないだろう。そう思っていたが、衝撃的な内容に絶句し思わず立ち上がりかけてしまう。


 『賢神の試練』は名前の通り賢神がこの世界から旅立つ前、人類への試練と贈り物を残したという伝説……神話がある。その中でもレフロート聖王国が陣取っているかつて賢神が暮らした宮殿の跡地にある『賢神の試練』がSSS級認定されている最高難易度のダンジョンだが、それには劣るにしても、かなりの難易度と報酬が約束されている宝箱、それが『賢神の試練』と呼ばれるダンジョンだ。

 冒険者たちが既存のダンジョンに籠らず未知の魔境を開拓しているのはこういった未発見の『賢神の試練』を見つけるためでもある。


 『賢神の試練』はサンプルの数が少なく、分かっているものでも基本的に情報が世に出回らないため内部は予想が出来ない。そのため冒険者ギルドは攻略を目標にするにはS級、すなわち数の暴力が通用しない世界だと発表している。

 しかしその分報酬は極めて大きい。千年前の魔王との闘いによる衰退期、人類の文明が大幅に後退したが、現在の姿にまで復興できたのはレフロート聖王国が『賢神の試練』を部分的に攻略し技術や知識を含む莫大な財産を手に入れたからだという意見もある。これは正しい。


 亡国にあるという手つかずの『賢神の試練』。もし事実なら、今すぐ向かうのも十分ありだろう。今回稼ぎも含めて全財産を使いつくしたが、その百倍を……いや、単純な収益だけなら百万倍稼ぐことも出来るのだから。

 もし、事実なら。


「………………まあ覚えておくよ」

「なっ!?なんですその顔は!?私の言葉を疑っているのですか!?」

「君はまだ幼いだろう。本当にそんな情報に触れられるとは思えない」

「私はもう十五です!わが国では第二の成人の儀も済ませ、少し前にお父様に教えてもらったんです。連れて行ってもらいましたし、門の封印の解き方も分かります!わが国の先祖がまだ手に負えないと判断し、厳重にかけた封印は私たち王家の者にしか解けませんよ!?それに、お兄様が生きているなら、既に他の国にもばれているかもしれません!」


 理解してもらえないことを嘆くように詰め寄ってくるナランナ。

 一応は理屈は通っているが、あんまり信用できない。

 というかお姫様の言葉はあんまり信用していない。アロスの王女とララクマの皇女はかなり頭がいいが、ザルダリア州のアイリの自信満々に適当なことを言っていたから基本的には疑ってかかることにしたのだ。


「情報源として信用できなさすぎる。それより俺が興味あるのは君の魔装だ」

「ぐぬぬぬぬ……」


 犬のように唸っている王女の相手をせず、本題に入った。


「君の魔装は植物の精霊を呼び出して力を借りるものだとカタログに書いてあったが事実か?ああ、余計な嘘をつくなよ」

「……大体あってます。正確には、精霊や魂を認識し、同意を得られれば魂を同化させる魔装です」

「そうか」

(やった!)


 狙い通りの魔装だ。シーも喜んでいる。


(レイ、もらっていい!?)

(ん……いや、まだだめ。『賢神の試練』の話が本当ならこの人の力も借りたいから、出来れば死んでほしくない。だからもうちょっと待って、シーが憑りついても死なないか確証が持てるまで)

(えー……分かった……できれば早くがいいな。私、自分の体が欲しいの)


 シーが不貞腐れた声を脳内で上げる。しかしその声は非常に弾んでいた。よほど自由に動き回れるのが嬉しいのだろう。

 今はレイの魂の傍に。昔もよく分からない牢獄に閉じ込められていたし。


 レイと奴隷を載せた馬車は轍を刻み、ララクマ国に帰還した。

これにて7章は完結

幼少期編は次の章でラストです

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