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72話 怒りの旧皇帝派と経験値ポーション

 ララクマ帝国は侵略戦争で発展した軍事国家である。皇帝を中心にピラミッド型の社会が構成されており、頂点に皇帝、次に武門十七衆、次に役人や貴族たちと続く。侵略され組み込まれた国、降伏勧告に従い傘下に入った国も沢山あり、一等低い扱いや重税に苦しんでいる。

 今回反乱を起こした州もそんな元国の一つだ。ザルダリア州の元州長が呼びかけ、様子見をしているうちにレイが反乱を鎮圧したせいで何もなさずに、結果多少の罰で済んだ小さな州。


 そこに入り込んだ旧皇帝派が首謀者である。


「素晴らしい。長角三本に短角二十本も揃えるとは……それだけ本気ということか」

「武門十七衆が二人来ても返り討ちに出来るほどの戦力だ。これなら、今回は成功するだろう」


 州長が住む城の奥、厳重に結界が張られた部屋の中で重鎮たちが机の上に並べられた角型のマジックアイテムを見て微笑んでいた。


『油断するな。あくまで数字上は勝てるというだけだ。武門十七衆は全員が英雄と呼ぶにふさわしい力と経験を備えている。まず勝てる戦いでもひっくり返される恐れは常にあると心得なさい』

「し、失礼しました。皇子」


 机を囲むように十の椅子が並び、その中でも最も上座に座る黒いローブ……が持つ水晶から窘める声が聞こえてくる。重鎮たちも不敬を恐れるように姿勢を正した。


『浮足立つ気持ちはわかるさ。長角は中級魔族を、短角は下級魔族を作れるのだ。魔族は同じレベルでも人族より能力値が高いことを考えれば勝てる可能性の方が高いのも間違っていない。しかし我らは戦いは専門外なのだ。専門家の意見を優先的に考えた方がいい。私が経験豊富な諸君らの意見を聞くようにな。

 それで、武門十七衆と騎士団の動向はどうなっている』

「はっ。こちらが砦を三つ落とした時点で帝都に知らせが届いたようです。続いて一番近くにいた武門十七衆第十六席【支配領域】のドミニオン配下の騎士たちがこちらに近づいてきています。他の武門十七衆は今のところ動きはありません」

『そうか。予想通り【支配領域】が釣れてくれたか。あいつは自分の領土なら強いがそうでないなら武門十七衆では弱いほうだ。それに配下は精強だがその分育成に力を入れているため、補充に時間がかかる、一番勝ち目のある相手だ。上手くいっているな』


 皇子と呼ばれた声に重鎮たちは安心したように息を吐いた。

 旧皇帝派は現在の皇帝に不満を抱くもの全ての受け皿になっているため非常に勢力として大きい。旧皇帝は慕われていなかったが、それでも長く数えれば千年続く名家の当主でもあったのだ。正面から殺害し玉座を簒奪した現皇帝を裏では指示していないものも多い。

 配下が強く、本人も強いため総合的に見れば不利なのは旧皇帝派の方なのだが。


 第一段階はクリア。その事実にひとまず安堵するのも当然だろう。


『それで、あの狂犬……レイはどうだ』


 しかし、続く皇子の言葉に全員が冷や水をかけられたように背筋を正し厳しい顔つきになった。


「……不明です。アロス国大使館で外交使節団のリーダーであるアルヴァン・アストラと会話していたという話はあります。反乱の鎮圧はララクマ帝国の戦力に任せるべきだと提案し、本人は承諾した、と。しかし……」

『分かりやすい攪乱だな。あの狂犬が戦場に来ないはずがない』


 皇子の言葉に報告者を含めたその場の全員が頷いた。


「その通りでしょうな。あのアロス王家が飼っている狂犬は六歳という幼さで戦場に赴き、A級冒険者並みの戦力……武門十七衆に匹敵する猛者七名が守るリリア皇女を単独で誘拐しに来るほどの異常者だ」

「アストラ公爵を暗殺したという話も、首謀者はアロス王ではなくあの狂犬だという噂もあります。さすがに自分を大きく見せるための作り話だとは思いますが……同時期にコンボロス公爵領を襲った岩投げの戦場で、レベル70の魔物を相手に単独で勝負を挑んだという報告もあります。戦狂い、戦闘狂の類と見て間違いないでしょう」

『前回のザルダリア州で起こした反乱も奴のせいで失敗した。だからこそ、今回はあの狂犬が入り込むことを想定し、確実に返り討ちに出来るだけの策と人材を揃えたのだ。もう好きにはさせん』


 前回のザルダリア州での反乱は旧皇帝派が打った策の中でも非常に重要なものだった。帝国への恨みが大きく、長年に渡り増長させ、州としてもそこそこ大きく、かつての名声もいまだそれなりに知られている。そんな重要な州をそそのかして反乱を起こし、他の州も続く……はずだったのだ。

 帝国に負けるとは想定していた。しかし秘かに入り込み、己の命を顧みず魔族化した戦士たちを相手に一歩も引かずに戦い、勝利を掴まれるとは想定していなかった。


 旧皇帝派にとっていまやレイは一級の警戒対象である。レイと戦うことを想定し、倒せるだけの戦力を揃えた。

 必ず勝てる。今度は成功する。


 こうして「今回はいいや」と来ないレイの襲撃に旧皇帝派たちは警戒し続けるのだった。





 ララクマ帝国は侵略戦争で発展した軍事国家である。

 侵略戦争。この世界ではそうでない戦争はまずないが、基本的に戦争には略奪が付き物である。なにせどれだけ与えても上官の頭も懐も痛まない。買ってしまう恨みも大抵は国家に向くので安心だ。騎士、兵士、傭兵、冒険者。細かい職業を問わず戦争で負けたものは奪われ、勝ったものは奪う。

 例えば食料、家畜、家財、貨幣に宝石、家具に絵画、武具に資材など多岐に渡り、その一つが人である。


 人、つまりは奴隷だ。たいていの場合、その人物ではなく奴隷という商品を確保するのが目的だ。略奪者たちが欲しいものは金銭である。家畜や宝石、絵画などと同じく街に連れて行き金銭に変える。奴隷の能力や容姿が高水準だと喜ぶのはその方が高値が付くからだ。

 金に換えるには買う人がいて、買う人がたくさんいる市場であればなお喜ばしい。


 そんな需要を満たす様に生まれたのがララクマ帝国南部にある奴隷都市サリオスである。


 都市全てが奴隷市場であり世界中から奴隷が集まっている。金銀財宝と同じく獲得した奴隷に値段を付ける時は大帝は揉める、ならば誰の目利きなら信用できるのか、この人なら、この商会なら、この街ならと、信用される都市。この奴隷都市サリオスならば付けられる値札に文句を言うものはいない。


「小汚い風景を想像していたけど、結構きれいだな」


 奴隷都市サリオスの大通りを歩く小さな人影、レイは思わずといった調子でつぶやいた。

 反乱の影響と帰国準備のせいで忙しいアロス国外交使節団の面々に書置きを残して一人で奴隷を買いに来たのである。


 目当ては巨人族。目的は飛行船の整備である。


 アストラ公爵から奪った飛行船は非常に希少であり価値があるものだが、同時に使い道があまりないのも事実。既に馬車を始めとした交易路があるため一つの飛行船では介入が難しく、かといって貴族も商人も空は怖いと寄り付かない。

 もっと言えば、レイが自分以外だとユニリンにしか飛行船を使う権利を与えず、使用申請を全部突っぱねているからうまく使いこなせていないのだ。


 かといって飛行船を手放したくはない。小型ならともかくあれほど大きい飛行船は他になく、確実に強力なカードなのだ。ならばメンテナンスを欠かすことは出来ず、そして巨大な飛行船を整備するのに小さい人族では困難すぎる。整備の足場すらレイの手が回らないのだから。

 信用できる部下がいればいいのだが、いないので個人として有能な巨人族の整備士を求めているのだった。


(飛行船の整備は俺が教えればいいとして、出来るだけ優秀なのがいいな。金ならあるし)


 腰に下げた袋に手を伸ばす。中身は金貨だ。

 レイはまだ幼いが高給取りである。最近はやれていないが姫様たちの従者であり世話係という官職に対する給与、反乱を鎮圧したという功績に対する報酬、全てを属性の魔法を使用でき武術にも長け命令があれば出陣する能力に対する報酬、最近はやっていないが暗殺や諜報といった裏の騎士団としての危険な任務への手当、聖眼を始めとした希少かつ有用な能力に対する首輪として金銭。

 中でも一番大きいのは、レイがアロス国の顔だからだろう。平民どころか孤児、貧民の身でありながら今では国で一番の学術機関で好成績を収め武勇でも功績をあげている。一番の出世頭だ。これに対し多大金銭を与えられ、浪費することで他の民衆たちにも上を目指す意欲を掻き立てるのだと以前陛下が話していた。


 そんなわけで金銭の不安はない。いざというときは、この金貨を入れている内部が通常よりも広いポーチを売ればいい。

 サリオスは奴隷売買の市場として大きくなった経緯から今でも奴隷都市と呼ばれているが、行き来する超膨大な金銭を目当てに奴隷以外の売買も盛んな商業都市でもある。略奪した金銀財宝や魔導書、歴史ある絵画に銅像、そういったものを買いに来た人向けのサービスもあるため商業的にはララクマ帝国でも三指に入るほどの有力な経済都市なのだ。マジックアイテムの買い取りもやっている。

 アロス王からも「自分で作ったものは好きにしていい。ただ最初の一つと作り方は報告しろ」という言葉をもらっているからいざというときは売っても文句はないだろう。


(経験値ポーションは上手くやれなかったからな……根回しが足りなかったか。爺共め。やっぱ販路から製造まで全部自分で作ってやる)


 嫌なことを思い出しレイの顔が微かに歪む。

 経験値ポーション。飲むだけで経験値が入り、レベルが上がる夢のポーション。半年前の王国博覧会で発表したものだ。


 結論から言えば、あれは失敗だった。製品ではなく、発表の仕方が、だ。

 まだ試作品だが、製品は十分に完成していた。レイの聖眼はこの世界を最小の単位で目視する顕微鏡など比ではない、神の領域に属する奇跡の如きユニークスキル。アロス国とララクマ帝国を問わず出会った宮廷魔導士たち全員からから「戦闘職ではなく研究職を目指しなさい。協力するから」と言われるほどに研究の時の方が有用性を発揮できる。

 修行の過程でレベリングをした時、聖眼で自分がレベルアップする際に自分の魂に流れ込む「何か」を目視し、どうすればその「何か」を捕まえられるのかを試行錯誤し、実用化させた。


 自分で言うのもなんだが歴史に残る天才的な所業であると思ったのだが、そもそも原理と成果がレイにしか見えない、という点がウケが悪かった理由らしい。それに経験値ポーションも数十本も飲まないとレベルが1から2にすら上がらない点でケチがつけられた。


 確かにレイが開発したのは経験値ポーションだ。確かに飲むだけで経験値が獲得できるポーションではある。

 しかし超特急で論文を書き上げたためレイの主観が多く、精査も甘かったため長らく帝国で功績をあげている年嵩の宮廷魔導士たちに信憑性が薄いと公衆の面前で言われてしまったのだ。

 加えて、もし本当に経験値システムに干渉出来たならば、人類が歴史上延々と挑んでは失敗してきた研究を若造が成功させたということなので、いつもの勘違いだろうと結論づけられてしまった。


 もし論理を完全に伏せ、経験値ポーションという製品だけを発表すれば、もしかしたら認められたのかもしれないが。


(見ていろよ糞爺共め……寿命が尽きる前に吠え面かかせてやる)


 失敗の理由はやはり根回しの少なさ……いや、全くしなかったことだろう。

 もし理論と研究課程、完成品を皇帝や宮廷魔導士たちに配布し、賛同を得られていたら拍手喝采で終えられたのかもしれない。


 しかしそれには時間がなかった。他にもやることがあったのだ。一か月で研究を始め、データを集め、論文を書き、製品を作るというのは無理があった。

 仕方ないのだ。大きい発表の場は他にもあるが、ユニリンの発表と合わせたかったのだから。

 失敗したが。


 振り返るとレイが失敗するべくして失敗したような気もするが、頭の固い爺共に嘲笑されたのは悔しいのでレイは腹の中で怒りを滾らせていた。


(レイ!レイ!あれ!あれ見て!)

(ん?シー?灼熱鬼と戦ってもらった時の傷は癒えたのか?)

(いいからあれ!見て!)


 頭に懐かしい声が響く。

 シー。レイが死の淵を彷徨った時にどこかからか連れ帰った少女。灼熱鬼との闘いの時に頑張ってもらったが、無理をさせたようで寝込んでいたのだ。

 そんなシーが久々に話しかけてきたと思ったら、レイにだけ見える幻覚で指をさしている。そちらの道には大きさ馬車で見世物のように奴隷を見せびらかしている。今度のオークションでの商品らしい。


 その中の一人に、美しい奴隷がいた。


 美しい少女の奴隷はたくさんいるが、その奴隷は衣服を着ていて、しかも非常に上等。これは元は貴族などの高貴な身分だった証だ。高額な値が付くらしい。

 しかし、ほとんど幽霊であるシーが注目する理由は分からない。


(よく見て!すごい能力があるよ!)

(ん……ほんとだ。なんかあるね。魔装かな?能力までは分からないけど……あの子が、というかあの子の能力が欲しいの?)

(うん!)


 シーは満面の笑みを浮かべて頷いた。


(あの子の能力を使えば、私、受肉できると思うの!)

(……まじか)


 レイはシーの言葉に耳を疑い、奴隷の少女と手持ちの金貨を確認しだした。

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