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71話 王国博覧会

 レイが竜倒祭で優勝してから約三か月、ララクマ帝国に来てから半年が過ぎた。

 いろいろなことがあった。皇帝に闘技祭に出場しろと言われ、リュミエールに弟子入りし、偶然見つけた呪われた獣人の子を拾い魔物狩りを行い、竜倒祭で優勝し、勧誘に寄ってきた貴族や軍人たちを外交使節団に丸投げし、最後の仕上げに取り掛かった。

 そう、今日はララクマ帝国に来た目的、アロス王国博覧会の日だ。


「緊張するね、ユニリン。忘れ物はない?俺が傍にいなくて大丈夫?」

「資料は昨日のうちに全部持って行ったし、完璧だよ。レイこそ、そっちの研究成果の発表はちゃんとしたものなの?皇帝陛下に無理を言ってねじ込んでもらったんでしょう?コケたらさすがにレイでも大事じゃない?」

「はっはっは。なに、この展示会は仮説の立証だけじゃなくて、研究途中のものでもいいんだ。将来の布石が撒ければ十分だよ」

「ふうん?」


 帝都の傍に作られた超超超巨大な特別展示場、そのまだ無人の通路を軽口を叩きながらレイとユニリンが歩いている。

 長年続いていた戦争が終わり、アロス国とララクマ帝国の友好の証として開催するイベント、展覧会。去年はアロス国でララクマ帝国の技術や文化を紹介したので、今年はララクマ帝国でアロス国の文化や技術を紹介するのだ。


 レイとユニリンがここにいるのもその一環だ。本来の趣旨とは少々離れているが、もとより展覧会で紹介する内容は厳格に決まっているわけではないのだ。現役の学生であり魔法の大家であるアロス国の北を守る公爵、オーレリユ公爵の長女が新しい魔法を開発したとなれば国が主導する展覧会のメインステージを使う資格は十分にある。

 ……まだ学生、それも八歳という初等部に通っている年齢を考えれば論外どころか候補に挙がることも本来はないが、竜倒祭で優勝した功績をもってすれば無理を通すことも出来るのだ。


「私も事前に目を通しましたが、人体にマジックアイテムのように術式を刻む、ですか。確かにこれは世界を変えるでしょうね」

「リリア皇女もそう思います?」

「ええ。貴族であっても魔法を習得できるものはそう多くありません。体面のために使えはする、という程度です。騎士たちも魔法が使えないために大勢います。……そう、魔法は習得にためには多大な時間と勉強が必要で、一部の者しか使えないのです。研究成果のマジックアイテムも使えるものがどれほどいるか。そんな中で、簡単に魔法が習得できるようになれば世界は……人類は大きく変わります。たとえ小さな火種や水でも使えるだけで死を大きく遠ざけることが出来るのですから。

 ……平民一人一人にまで行きわたるのが一体いつになるのかは、難しい問題ですが」

「そっかー」

「リリア様が前向きなのは俺たちにとっても非常にありがたい話です」

「そんな遠慮して、寂しいことを言わないで下さいな、私たちはお友達でしょう?」


 主催者の一人として同じく早めに会場に来ていつの間にかレイたちの傍にいたリリアも盛り上がっている。レイは多少しか、ユニリンは全く政治の話は分からないので丸投げするつもりのようだ。


「それよりレイ、本当に別の場所で独自の研究を発表するのですか?半分くらいは出資者だったそうですが、一応は共同研究だったのですから研究者として一緒に発表した方がいいのではなくて?お父様はもちろん武門十七衆、帝国中の有力者の前で発表できるんですよ?」

「いいのいいの。論文には俺の名前が載ってるし、ユニリンに任せておけば失敗はない。でしょ?」

「えへへ、責任重大だ。任せて」


「……まあ、あなたが良しというなら私が止める話でもありませんが」

「俺は俺で世界を変える研究成果を持ってきたからさ、暇があったら俺の展示スペースに見に来てよ」


 自信満々に壮大なことを言うレイ。

 その態度は軽薄ともいえる。けれど、研究内容を知らなくても、誇張ではなく事実なのだろうと今までの付き合いから二人とも理解していた。



 


 展示会が始まった。まず入ってくるのは貴族たち。ビップと言い換えてもいい。アロス国でもそうだったが平民が入れるの後日、最初は貴族や有力者を優先して空いている館内をゆったり回るのだ。

 三人も早々に分かれた。ユニリンは自分の発表スペースに、リリアは皇女兼主催者としての責務は果たす場所に。そしてレイも自分の発表スペースに。


「ますたー。じゅんびできてる」

「ありがとう。ミルカ」


 先に発表スペースにいたのは白い獣人の女の子。リュミエールに言われてダンジョンを攻略する修行中、偶然見つけた人攫いの村で助けた魔物を引き寄せる呪いを持った少女だ。

 助けた子供たちのうち人族たちは近場に故郷があったため送り返せたが獣人やエルフ、ドワーフたちは故郷が分からず返せなかった。話し合いの末、しばらくはレイが引き取ることにしたのだ。ちょうど他と繋がりがない人手が欲しかったので好都合である。


 事前に持ち込んだ資料を整理しながら自分が発表する時間まで準備していると、予想外の人物がやってきた。


「よっ」

「…………ご機嫌麗しゅう、皇帝陛下」

「そう固くなるな。楽にしな。今日は挨拶に来ただけだよ」


 ララクマ帝国の皇帝。ガロリアス・ララクマ。この国で一番偉くて、一番強い人物。

 来るとは聞いていたが何時とは聞いていなかったのでさすがに驚いた。


「まずはありがとうな、レイ。伝える機会が遅れたが竜倒祭で優勝してくれてありがとう。おかげでぐちぐち不満を言っている奴らが静かになった」

「私も勝ちたかったから勝ったのです。それにリュミエールさんに鍛えてもらわなかったらどうなっていたことか。しかしお礼の言葉ありがたく頂戴いたします」


 立ったまま礼儀作法に乗っ取ってお辞儀をする。対応にミスはないはずだ。


「それにこの国はあまり文化的なイベントが少なく人気もないんだ。武勇に優れたうえで頭もいい奴はあまりいない。お前がこの博覧会の事を宣伝してくれなかったらもっと参加者が少なかっただろう。その点も感謝しているよ」

「……ありがたきお言葉です。しかし、私としてもあまり褒められると面映ゆい思いです。最近は私のせいで忙しそうでしたし」

「気にするな。闘技際に魔族が入り込んでいたせいで検問の見直しに忙しかったが、これは俺の役目だから。それより、お前が魔族って本当なのか?人間と違いが分からん」

「俺もそう思いますが、俺の両親は魔族だし、ステータスにも魔族と表記されていますよ。隠してません。なんでか信じてくれない人ばかりですが」


 レイは不思議そうに首をかしげる。

 レイは魔族だ。両親がそうなのだから間違いない。もっと言えば腹にいた時から意識と記憶が連続しているから確信できる。

 レイの両親は立派な人で殺される前にレイを川に流して助けてくれた。当時はまだ三歳で自我も希薄だったので話たことはないが、尊敬しているし、今でも胸を張って自分の親の話が出来る。


 だから自分が魔族であると誇りを持って言えるのだ。

 どうして自分が人族そっくりの見た目なのかは、自分でも分からないが。


「……そうか。まあ、アロス王が保証しているし、これまでの実績もある。信じよう。

 そうだ。それでお前が今日は発表する内容だが、本当なのか?さすがに俺も半信半疑なんだが……」

「もちろん本当ですよ。ふふふふふ、そろそろ発表の時間なのでもう少々お待ちください。ほら、ミルカ、それ持って来て」

「はっ、はい!」


 皇帝を追い返して準備を再開する。

 ルンルンと楽しそうに準備する。まるでびっくり箱を仕込んでいるようだ。


 時間が来た。発表スペースの裏で軽く派手な服に着替え、皆の前に立つ。

 レイのスペースはメインステージよりは小さい。外れにあるし客は少ないと思っていたが。

 しかし百の席は埋まっているし、立ち見の客間でいる。顔ぶれも貴族はもちろん軍人に宗教関係者までいる。ザルダリア州の州長、アイリも来ていた。


 これは気合が入るというものだ。


「お集りの皆様、お待たせいたしました。これより私の研究成果を発表します。既に御存知かとは思いますが、私は特殊な目を持っています。皆様が想像できないほどの深度でこの世界を見て、皆様が想像できないこの世界の理を目で知ることが出来ます。最近はたくさんレベルアップする機会に恵まれたので、その理を知り、研究しました。一定の成果が出たので今回はこのイベントの一角をお借りした次第です」


 長めの前置き。観客たちが急かすような顔をする。

 レイもにやりと笑いながら、事前に一部の人間には教えておいた研究成果を発表する。


「これが俺の研究成果、レベルアップポーションです」


 世界は大きく変わる。変わったならば始まりはいつなのか。

 その一つを今日だと主張する、その理由が日の目を浴びた。





 冬が終わり春が来る季節。一年に及ぶ激動のララクマ帝国留学生活も終わりが見えてきた。

 留学生の学生たちも、外交使節団としてやってきた役人たちも予想していなかった激動の一年だったがそれも終わりだ。振り返れば忙しかったのは前半の半年だけだったかもしれない。レイが後半は学生らしく帝国の学校で勉強にいそしんでくれたために、まるで慢性的な頭痛と胃痛の種が消えたような面持ちで役人たちは仕事をしていた。

 あと少しで国に帰れる。新しくなった大使館に残るものもいるが、大半は帰る。もうすぐだ。もう少しだから、何も起こらないでくれ。そんな祈りの満ちた穏やかな日々だ。


「レイ君、落ち着いて聞いてほしい。反乱が起きた。なんでも旧皇帝派の過激派が首謀者らしい。それで――」

「分かりました。鎮圧すればいいんですね」

「違う!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 学生らしくユニリンやロベリアと勉強していたレイは急に呼び出され、アロス国の外交使節団のリーダー、アルヴァンがいる大使館でまた怒鳴られてしまった。


「何も、何もしないでくれ!いいか!?ララクマ帝国で起きた事件はララクマ帝国が解決する、これは国を統治する資格を示すという意味でも非常に大切なことなんだ!君なら分かるよな!?」

「分かりますよ。分かり――」

「確かに、確かに!前回は上手くいったな!?ザルダリア州が起こした反乱、裏にいた旧皇帝派の陰謀、謎の魔族化するというマジックアイテム、大事にならなかったのはレイ君のおかげだと皇帝陛下も褒めていたな!しかし、結果論だ!!次もうまくいく保証はない!ザルダリア州からの支援を引き出せるようになっただけで十分だ!これ以上は多すぎる!」

「だから分かりまし――」

「何より!私たちはもう帰国するのだ!今から介入するなら期日までに間違いなく間に合わない!するとどうなる!?そう、きっと陛下も不満に思うだろう!いいか?これは命令だ!アロス国使節団のリーダーである私から、一構成員である君への命令だ!私は君に命令する権利がある!分かるな!?だから、どうか頼む!!!!」

「はい、分かりました」

「……えっ」


 平然と答えるレイの顔を、呆然とアルヴァンは見つめる。


「分かって、くれるのか?」

「はい。もう一番の目的だった王国博覧会は終わりました。功績はあればあるほどいいですか、ありすぎると重荷や妬みの対象になると思いますし。今回は見送ります」

「――ありがとう!やった!よし、今日はパーティーだ!皆にも伝えて来る!」


 ひゃっほうと叫びながら退室していったアルヴァンと入れ替わるように、一緒についてきてくれたロベリアが入室した。


「すごいテンションだったな、あの人……」

「愉快な人だよね。いつも迷惑をかけちゃって、頭が上がらないよ」

「そうか、それで、本当にいいのか?行きたがると思ってたけど」

「いいのいいの。今はそれよりも、アロス国に帰る前に行きたいとこがあるから」

「行きたいところ?」

「うん。奴隷市場」


 レイは上着のポケットから封筒を取りだす。


「最近遥か南の国が滅んで、奴隷になった人たちが帝国に来ただろう?その影響で奴隷市場が活発になっているらしいんだよ。せっかく皇帝陛下からもらった招待状もあるし、飛行船の整備が出来る巨人族の奴隷とかいないかなって見てくるわ」


 その手には以前皇帝にもらった紹介状が握られていた。

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