表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/88

68話 竜倒祭

 ララクマ帝国は武力を重視する文化を持つ国である。

 強さとは人の魂の格であり、強さとは財産であり、強さとはカッコよさであり、強さとは美しさであり、強さとは魅力である。


 闘技祭はそんなララクマ帝国の情熱が最も発揮される祭りだ。年齢や性別、武装や腕前に関係なく申請すれば誰でも出場可能で拳をぶつけ合う。死傷者も大勢出るため出場するだけで一人前……出場してようやく一人前と認められる、そんな帝国中の土地に根付いたお祭りだ。

 そんな闘技祭の中でも【竜倒祭】は最大の規模を誇るお祭りだ。年に一度開かれ、優勝者は莫大な富と名声を得られる。参加する面々も高名な騎士に傭兵、冒険者と非常に豪華。武門十七衆のような立場のあるものは参加しないが……そういった天上の存在を除けばララクマ帝国最強を決める戦いである。


 伝説によると、元は人々を困らせる竜を倒す勇者を選出する大会がルーツであるらしい。優勝した初代ララクマ王が亡くなったあとも大会は文化として定着し、今でも優勝すれば最新のスターに成れるといっても過言ではないほどの注目を集めている。

 ちなみに優勝者は基本的に武門十七衆の弟子の誰かである。稀に在野の傭兵や冒険者が優勝するが、異国の人が優勝した記録はない。


「いいか?レイ、お前が名声を望むのは今度の新しいマジックアイテムの発表会で多くの人を集めるためだったか?それなら、もう十分だと思うんだ。悪名高い違法奴隷狩りの一団を壊滅させただろ?それすら聖領から魔物を呼び寄せて大規模討伐した実績の前では霞む。レイ、お前はもう勇者だ、英雄だ。だから無理して竜倒祭で優勝しなくてもいいと思うんだ。俺の言っていることは分かるな?」

「はい。しかし俺が名声を望むのはユニリンのためだけではなく――」

「分かっているならいいんだ!いやあ良かった!なら大会に出なくていいよな!な!?よし、今からでも辞退しに行こうじゃないか!な!?」

「アルヴァンさん、俺は留学生の代表でもあるんですよ?健闘の末負けるならいいですが、辞退なんて――」


「今さら常識的なことを言うんじゃない!!!!!」


 大声が闘技場の通路に響く。

 声の主はアルヴァン・アストラ。今はもうないアロス国の南を任されたアストラ公爵家の傍流で、今回のアロス国とララクマ帝国の交流ではアロス国の看板を背負った外交使節のリーダーだ。


「俺を恨んでいるんだろう!?そうなんだろう!?帝都から遠ざけて安心したと思ったら、どうしてアロス国とララクマ帝国の全てを、全てを巻き込む大騒動を起こすんだお前は!!!!」

「大げさな。ただ魔物をおびき寄せちゃう呪いの少女を背負って聖領と魔境の境目をウロウロしただけじゃないですか。おかげで俺のレベルももう30に到達しました。強そうなジョブにも付けました。今回の優勝は俺がもらいます」

「そうだろうな!目ぼしい参加者は全員あっちに派遣されてるからな!お前は国を亡ぼす気か!?ようやく終わった戦争を再開させたいのか!?」


「大げさな。大物の魔物は全員倒しました、俺が魔物相手ならかなり優位なことはご存じでしょう?アロス国のコンボロス公爵領とララクマ帝国の間にあった巨大な聖領と魔境から大量の魔物を間引いたんですから、むしろ人々の暮らしは安全になったはずです。それに俺の目から誰も逃げられません、ちゃんと全部雑魚一匹まで倒しましたし、取りこぼしはアルト姉さんが倒してくれました。

 呪われた少女を見つけた時に思いついた策ですが、我ながら完璧だと――」

「馬鹿野郎!お前の目の特別性なんてみんな知らなんだよ隠しているんだから!!!!もう、もう両国ともに大パニックになって大量の騎士と冒険者を派遣しているんだぞ!?」

「ちゃんと倒したから無駄骨ですね。分かりました。俺が倒した魔物をお金に換えて、両国に寄付します。希少な魔物や強力な魔物も倒したから補填には十分なはずです」


「ぐっ!!!ぐ、ぐぐぐぐぐ……き、貴様、レイ。お前は反省という言葉を、だな!?事前に連絡することは非常に大切なことで、な!?」

「分かっています。しかし闘技祭まで時間がなかったので」

「――――――ッ!!!!!!!!!!!!」


 顔が真っ赤になっている。おそらく怒っているのだろう。

 いや、困っているのかもしれない。


 三か月前に会った時に砕けていた両膝まだ治っていない。頬がこけ目の下には大きなクマ、痩せて……やつれている。

 なんだか申し訳ない。目的を達成するためになかなかいい手を打ってしかも成功したのだが、そのしわ寄せが彼に行ってしまったのだろう。


「アルヴァンさん、なにか欲しいものはありますか?感謝の証に何か差し入れしますよ」

「やめろ!やめてくれ!お前ならそれを口実に騒ぎを起こすはずだ!そうだろう!?」

「いえいえ、そんなことは」

「いいか!?お前はもう十分な名声と悪名を――」


「はいはい話が一巡しました。アルヴァン様、戻りましょう」

「レイ殿、優勝、お願いしますよ。応援してます」

「任せてください」

「んっー!んーっ!」


 走って追いかけてきた外交使節団のメンバーに拘束され連れ戻される姿を見送り、闘技場の通路を進む。

 闘技祭の内容は大きく分けて二つ。大勢が一斉に戦うバトルロワイアルと、一対一のトーナメント方式。竜倒祭ほどの規模になると必ず参加希望者が溢れるためふるい落としは必ず行う。


 今回はレイが聖領を突っついて強力な魔物を大量におびき寄せたため、今は貴族や政府がパニックになり緊急で大量の騎士や冒険者を動員したので参加人数が激減している。それでもまだ溢れているが、例年と比べれば極めて速く進行しているだろう。

 今回の闘技祭で最も懸念事項だったのは……いや、いつでも不安なのはレイの事前の調査網でも引っかからない、かつ想定以上の強者の存在だ。スラム街にレイが転がっていたように在野にレイ以上の強敵がうっかり混ざっているかもしれない。そんな恐怖がいつもある。


 しかし、レイが起こした騒ぎのおかげで冒険者たちが大量によそに行ってくれた。魔物は全滅させたから調査に無駄骨になるだろうし、レイとしても貴族や領主たちへの補填で魔物を狩りつくした稼ぎは全部消えるが……まあいいだろう。

 例年よりは少々寂しい大会になるだろうが、優勝の可能性は極めて上がった。最低でも上位四人には間違いなく入れる。優勝したいが、出来なくとも最低限の成果にはなるだろう。


 通路を抜け、闘技場に入る。観客席は満席だ。

 高いところにある専用の観客席にはユニリンやアヤメ、ロベリアの姿が見える。同じ部屋には留学生のみんなもいる。気合が入るというものだ。


『おーっとぉ!!??いま超話題の若き勇者、【大嵐】のレイがついに入場だぁあ!!!!!』


 闘技場の端にいる司会の女性が場を盛り上げるように身振り手振りを交え芝居がかったようにレイを紹介する。

 レイも応じて、この日のために縫った真っ赤のマントをはためかせる。超派手だ。


 しまった。ポーズは考えていない。適当に剣を上空に掲げればいいのだろうか。


 考えていたら向かいにいる二十半ばほどの男性が声をかけてきた。


「遅かったじゃないか!【大嵐】のレイ!噂は聞いている、この栄誉ある竜倒祭の直前まで魔境で魔物を狩っていたそうじゃないか。大した勇猛さだ。君と戦えて誇りに思うよ!」

「こちらこそ、【豪槍】のババラス殿。武門十七衆第一席の弟子と戦えるとは光栄です。しかし、勝つのは俺です」

「ほう!いうじゃないか!お互い全力で出し合おう!」


 闘技場の舞台の上、コロシアムの反対側にいる対戦相手と言葉を交わす。

 闘技祭の戦いは名誉と名声、お互いの武勇を競い合うものだが、同時に興行でもあるのだ。出来るだけなんかしゃべりなさい、それが伝統だからとアヤメからしっかり教わっている。もう少ししゃべるべきか。


「俺はこの三か月、リュミエール様の元で剣を教わりました。不足していたレベルも魔物を倒してあげました。準備は万端、あとは優勝するだけです!俺の伝説の一歩を刻んであげましょう!」

「はっはっはっはっは!!!!!威勢がいいな、小僧!ララクマ帝国が誇る精鋭部隊、武門十七衆、その弟子たちの層の厚さを知るがいい!!!!!」


 強者二人の掛け合いに観客のボルテージも急上昇。ちらりと司会に合図を送ると、彼女も察したように再び拡声器を起動させた。


『盛り上がってるなぁ~~!!言葉を十分、後は戦いで語るのみ!さぁ、試合……開始!!!!』


 闘技場の周りにいる音楽隊が大きく音が出る楽器で一斉に演奏を始めた。

 竜倒祭の始まりだ。


 レイは即座に距離を詰め、剣……ではなく拳を胴体に向けて振り抜いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ