62話 闘技祭と奴隷狩り
ララクマ帝国に到着したアロス国の一団は帝国城に案内された。
大人たちはそのまま帝国側の文官たちと真面目そうな顔で奥の部屋に案内された。真面目な会話があるのだろう。
一方でレイやアルト、リリア皇女のような子供たちは別室に案内された。
今回の集団は大きく分けて大人と子供、使節団組と留学生組の二つのグループに分かれているのだ。
今の両国の間では融和のために様々な策が行使されている。帝国で開くアロス国展覧会もその一つで、成功させるためにララクマ帝国展覧会の功労者であるリリア皇女に協力を要請した。いくらかの反対意見もあったが帝国を立てつつアロス国側の意見も出しやすいということで採用された。
提案には帝国側も賛同。ご意見番という形で口出し出来る点を評価したようだ。
これに乗じて追加で打たれた策が学生たちの留学だ。両国の未来のためにはお互いの理解が重要であり学生が若いうちに相手の文化を学ぶのは良い手であろう。
今回の留学ではレイやアルト、ユニリン、そしていくらかのアロス王立学園の成績上位者たちが送り込まれている。友好的な未来のために沢山勉強し、沢山の知識を持ち帰ってくることを期待されている。子供ながらみな重要な責任を感じ緊張した形相を浮かべていた。
そんな中で、レイたちは平然とギャーギャー騒いでいた。
「レイ、本当に一人で平気なの?お姉ちゃんが付いていこうか?」
「心配しすぎだよ」
「アルトさん、どの道同行は出来ないようですから……」
「そうですよ。皇帝陛下は騙し討ちなどしません」
「そうじゃなくて、変な提案をされてホイホイ飲んじゃうんじゃないかって不安なのよ。皇女様とユニリンさんも分かるでしょう?」
「「……」」
「失礼な。俺も俺なりに考えているぞ。
じゃ、行ってくる」
軽い調子で別れを告げ、使用人に先導されて城の奥へ向かう。
帝国の首都にある城、通称帝国城は帝国の実力主義で質実剛健な気質を表しているかのように実用性を重視し芸術性や華美さは排除している。汚れ一つない通路は使用人たちの勤勉さと表し、花瓶や絵画が一つもない壁は寂しさを感じさせる。
しばらく無言で歩くと、空気が重くなったような気がする。
気のせいのはずだ。物理的、物質的には何かが変化したわけではない。ただ、気配やオーラというべきものが視界の向かうから伝わってくるのだ。
「何の用でしゅうね、皇帝陛下」
「陛下は人に強く期待を寄せるお方だ。無茶なことを言われるだろうが、頑張って達成して見せてくれ」
独り言に返ってきた返事の主の方を向く。
通路の側面の扉から出てきたのは銀色に輝く髪と剣が目を引く長身の女性だった。腰の剣は細身ながら強烈な魔力を感じさせ、鎧も何らかのマジックアイテムだろう。その身から発せられる圧力はアロス国の国礎十五柱の面々にも近いものを感じさせる。
なにより、皇帝陛下が近くにいるのに武装が許可されている事実が彼女の立場を表していた。
「……武門十七衆第七席、リュミエール・ララクマ」
「正解だ。よく勉強しているな」
頭をポンポンと叩いてくる。少し痛い。
悪意を感じないし、撫でているの一種なのだろうか。
手が少し大きい気がする。それに固い。
まだ二十代後半らしいが、今のレイと同じくらいの歳から剣を振っていたというのは本当なのだろう。
「ここからは私が案内しよう。お前たちは下がっていいぞ」
「よろしくお願いします」
再び先導されて通路を進む。少し喉が渇いた気がする。自分は緊張しているのだろうか。
ララクマ帝国は非常に物騒な国として有名だ。同盟よりも決闘で上下を決め、侵略戦争で領土を広げた軍事力に非常に秀でた国家。当全兵士や民間の傭兵や冒険者だけでなく、騎士や将軍たちも略奪や暴力などを平然と行っていると聞く。
もし、この場でリュミエールが切りかかってきたら、レイは殺されるだろう。裏空間に逃げるよりも、彼女の剣速の方が速いからだ。
政治的に考えればありえない。だが、評判を考慮すれば突然切りかかってくる可能性を否定できないのだ。
(緊張するなぁ。はやくレベルも上げないと)
レベルとは神の加護の一種であり、様々な試練を乗り越えると経験値なるものが溜まり、一定以上になれば上昇する。レベルが上がれば腕力や生命力、魔力も上昇し、総じていえば強くなるのだ。
もし相手の方が剣術の腕がはるかに高く為す術もなく切られてもレベル1なら死んでもレベル20なら生き残るという事例もあるのだ。レベルが高いに越したことはない。
「ふふっ、緊張を顔に出さないようにしているようだが、そのせいで過剰に力んでいるな。それでは動きが鈍ってしまうぞ。約束通り帝国にいる間は鍛えてやろう」
「えっ」
「ほら、ついたぞ。ここからは一人だ」
身に覚えのない約束とやらに動揺しているが、状況はレイの思考速度に合わせずに進んでいく。
気が付けば目の前には巨大な扉がある。魔力は感じないが、非常に分厚く、非常に重そうだ。
「ふっ」
リュミエールが軽く息を吐いてから押すとギギギと音を立てながら扉が開いた。
この先に皇帝がいるのだろう。レイは一礼してから入室した。
「よう。さっきぶりだな」
「お目に書かれて光栄です。ガロリアス陛下」
「そうかしこまるな。ああ、頭も下げなくていい」
たどり着いた部屋は予想に反して非常に簡素だ。白い……おそらくは素材のままであろう壁に床。机と棚があるだけ。おそらくは重要人物との密談に使う部屋といったところ。
質実剛健という評判は聞いていたが、元平民が大国の君主の椅子に座っているのだから何かしら隠してあるかもしれないと微かに考えていたが……無意味な勘繰りだったようだ。
おそらくはララクマ帝国でトップクラスに柔らかいのであろう椅子に座りながら、フランクに手を振っている。全身に気力が満ちていて年齢が読みにくい。比べることではないのだろうが、実年齢が同じくらいのアロスのゲオルグ王よりも若く……若々しく見える。
促されるままにこちらも座っていいのだろうか。……座った方がいいのだろう。たぶん。
「何か飲むか?普段この部屋には酒しかないが、特別にジュースも持ってきたぞ。この国で獲れる甘い果物を使っているやつだ」
「……では、それを」
皇帝は棚からグラスを取り出しジュースを注ぎ始めた。
(……給仕の人がいないのか?…………いや、いないはずはない………………いやでも皇帝が身の回りのことは自分でやってるとか………………んー)
今までの常識と照らし合わせて、情報がかみ合わずに脳内の動きが減速してしまう。
この世界では高貴な身分の人は身の回りのことは従者にやらせるのが一般的だ。これは軍人であっても変わらない。家事に武具の手入れの時間も、全て鍛錬や軍事会議に充てるためだ。
高貴な身分の頂点に位置する国家君主ならば当然身の回りのことは使用人に全て任せている。アロスの王はそうだし、アロスの姫様たちもそうだ。女性ならば貴族の侍女になる道もあるためエプロンを身に着ける人もかなりの数いるが、目の前の皇帝はそういった事例に当てはまらない。
疑問が深まる。元平民の皇帝なんて前代未聞だし、特殊な事例と飲み込むべきことなのだろうか。
(……なんにせよ、相手からは悪感情が感じられない。あるのは楽の感情のみ。俺たちは好意的な関係を築くためにこの国に来たのだし、都合が悪いことは起こっていないから、よしとしよう)
気を取り直して座りなおす。
「おっ、顔から緊張が消えているな。そんなにジュースが楽しみなのか?」
「はい。ララクマ帝国の頂点がくれるものなら、きっとこの国で一番おいしいのでしょうし」
「いや俺が子供のころから好きなやつだよ。そういう高いのはパーティーの時にな。ほい」
「……」
なんだか出鼻をくじかれた気分だ。
飲んでみる。
おいしい。
半分ほど飲んだあたりでガロリアスが口を開く。
「よし、お互い忙しいし、さっそく本題に入ろう。三か月後に開かれる【竜倒祭】は知っているか?」
「はい、ララクマ帝国は武力を重視にする文化があるため闘技祭を各地で頻繁に開催しており、その中でも最大のものが竜倒祭、という風に聞いています」
「合ってるよ。優勝者はいずれ竜すら倒すまでに成長するってう伝説はそっちの国にも届いているだろう。前半は大人数で行う乱闘、後半はトーナメント形式で、最後の方になると一番デカい闘技場で観客たちが見守る中戦い、優勝者は皇帝に願いを伝える権利を得る」
こちらに視線を寄こしてきたので、頷いて答える。事前に学んでいた範囲内だ。
「加えて権威も相当高い。この祭りはララクマ帝国の昔の皇帝が、反乱ばかりを起こす地方の貴族たちの不満を鎮めるために始めたという。『俺は逃げも隠れもしない、不満があるやつは堂々とかかってこい。負ければ首をやろう』、ってな。伝統的に、願いを伝える権利で皇帝との闘いを望む者も多い。
レイ、出場して優勝してくれ」
「なんと」
突然の命令に驚くレイ。
出場したいなーとか考えていたが、まさかあちらから要請されるとか。
「ちなみに、なぜですか?」
「お前の名声のためだ」
簡潔に答えるガロリアス。その言葉に迷いはない。事前に考えていたのだろうか。
それとも文官が協力して考えたのだろうか。
なんとなく前者の気がする。
「お前たちの目的はアロス国とララクマ帝国の友好的な関係の構築を実現することだろう?俺は賛成だが、臣民たちには反感を持つ者も多いんだ。直接的な行動に移してくれれば処罰できるが、たいていは法に触れないギリギリを陰湿に攻めるだろうな。
そこでだ、お前が竜倒祭で優勝して名声を獲得し、改めてアロス国とララクマ帝国の友好を宣言してくれ。竜倒祭はこの国で最も人気の闘技祭、優勝者は国民の人気者だ。その冠を持った奴の言葉は心に響くだろう」
「なるほど。確かに私の仕事も果たせますね」
話を聞いた限り不審な点はない。両国は長らく戦争状態にあったのだから国民感情として仲良く出来ない。しかし感情とは道理でないものの力で動くのだ。人気者になってから訴えれば影響は大きくなるだろう。
「それに、半年後には博覧会もあるだろう?なんでもお前の友人も出品するとか。お前が名声を得ておけばその時の集客力も上げる」
「……なるほど、確かに、私には良いことしかありませんね」
「とはいえ、優勝は結構大変だ。もし優勝出来たら、俺の娘をやろう!どうだ?」
「…………どうというか、仮にも皇帝の娘なら相手の家にも相応の家格というものが必要でしょう。御冗談を」
とっさの無茶苦茶な言葉を受け流す。
我ながらいい受け流しだと思ったのだが、ガロリアスは少し真面目な顔だ。
「冗談ではないさ。アロスの文化は知らないが、ララクマでは強者は自由だ。誰しもが何をしてもいいし、何をされても抵抗する権利がある。例えば前の皇帝は気まぐれに既婚女性に手を出すことも、決闘を挑んできた夫の方の公衆の面前で叩きのめすこともよくあった。俺は妻を愛しているからやらないが、俺にもそういうことをする権利はある。
俺の娘も同じだ。どのように生きるのかはあいつが決めていいし、俺が全力で応援するとも」
「それは……私個人としては、楽しそう文化だと思います」
「だろう?この国はそういう国だ。欲しいなら他国に攻め込むし、負けて奪われることもある。俺が帝位についてからは少し変わったけどな」
はははと笑うガロリアスに、レイも全力で言葉を選びながら応戦する。
偉い人の相手は疲れるものだ。
「陛下のご意思は理解しましたが、ならばなおさらリリア皇女と共に生きる未来はないでしょう。俺とリリア皇女は、あまり仲が良くないので」
「えっ?」
「本当ですよ。ここは一年で一緒に遊んだのは、たしかアロス国で開かれた帝国博覧会の時くらいですから」
レイは普段は自己鍛錬や研究、親しい人と遊んだり周囲の人たちと調整してり降りてきた仕事をこなしたりしている。
リリア皇女はアロス国とララクマ帝国という違う集団に属しているため、かかわる機会がほぼないのだ。博覧会の時くらいしか覚えがない。
その時に友好的な仲になったのかというと、否定はしないが結婚したいという気持ちは全くない。
単にレイがまだ八歳の子供だからかもしれないが。
「あれ、聞いていた話と違うな……まあ、そっちはひとまず置いておこう。何はともあれ、俺もアロスの健国王に仕えた騎士の剣というものを見てみたいんだ。出場してくれ」
「分かりました。もとより出場する気だったので、喜んで」
「それは良かった。だがこっちから頼んでいるんだ。何か欲しいものはあるか?言ってみろ」
「では、迷宮や魔境への入場許可をいただきたく思います」
「そんなことでいいのか?たいていの迷宮も魔境も制限はないが……」
「もっと言えば帝国で自由に行動する権利が欲しいのです。私は、我ながら無軌道に動くことが多いので、そのたびに周囲と調整するのは面倒です」
「そういうことか。いいぞ」
ガロリアスは机の引き出しから何やら書類を取り出し、サインと印鑑を押した。
「ほら、皇帝直筆サイン入りの許可証だ。民間のやつらだと縁が無さすぎて知らないやつもいるだろうが、貴族が相手で知らないという奴がいたら殺していいぞ」
「うわ……あ、ありがたく頂戴いします」
思った以上ものがもらえて内心では少し引いている。悪用されたらと想定しないのだろうか。
……悪用したら、両国の友好的な関係が破綻するから、するわけないが。
「そうだ、最後にこれをやろう。奴隷商への紹介状だ」
「奴隷商ですか?」
この世界には奴隷がいる。戦争捕虜や借金の形、犯罪者への懲罰など様々な経緯でなるらしい。
彼らは売買され、炭鉱労働の農場の人で、果ては傭兵団の雑用から貴族の家庭教師までさまざまな用途で使用される。
「お前たちはこの国にいる間、人材や人手が足りないことも多々あるだろう。俺が助けてやってもいいが、全員帝国のひも付きだと重要な仕事は回せないだろ?だから自分で育てるといい」
「……なるほど。ご厚意に感謝します。では、またいつか会いましょう」
「ああ、またな」
一礼して退室する。近寄ってきた使用人たちを気にしないようにしながら、手元の紹介状を見つめ、考えを巡らせる。
(よく分からないな。確かに人手は足りないし、重要な仕事を任せるには帝国の人に手伝わせるのは不安。ならば奴隷に任せるのは一理あるけど……時間がかかりすぎるって。
……いやそうか。時間をかけさせるのが目的か!)
帝国にやってきた外交使節団は半年後の展覧会を成功させるのが最大の目的であるが、それまでに帝国に根を張り、展覧会が終わった後も大使館のような役割も担うことが決まっている。
その際には必ず今以上に大量の人材が必要だ。それに、大使館が求められる期間は半永久的に続く。ことは今年や来年の話にとどまらず、十年後二十年後、五十年後百年後といったスケールで考えなければならない。
レイは周囲への許可や根回しを重要な所への最低限のまま爆速で突き進み、周囲からは正気を疑われるほどせっかちだ。
それこそ暴れすぎて「一年だけだから!」とこうして帝国に追放されるくらいには。おそらく皇帝は事前に相当レイの事を調べていて、先手を打ってきたのだろう。
(人材の育成とかやったことないな。孤児院のあいつらの時とは事情が全然違うし。かといって皇帝陛下からの厚意に逆らうのは得策じゃない。……使節団のリーダーに丸投げするか?いやでも俺に言われたし、何よりここで手柄を立てておけば後々にやらかしても帳尻が合う。……せめて元貴族とか元商家の奴隷売っているといいな)
内心で考えを纏めながらみんながいる部屋に戻ると、何やら騒がしかった。
何人かの姿が見えない。リリア皇女とアルトの姿ない。アヤメとユニリンしか親しい人がいない。
「レイ、大変よ!」
「アヤメ?何かあったの?」
「反乱がおきたって!帝国の東の方で!半日前に!」
「えっ?」
予想外だ。確かに帝国は軍事的な侵略で領土を広げたため反感を抱いていたる元他国の領土はたくさんあるし、反乱はそれなりの頻度で起きている。しかし彼らは軍事的に負けたから帝国に組み込まれたので、反乱を起こすなら勝ち目がある時のはずだ。
今は帝国の軍事力が低下しているわけでも、よそに注力しているわけでもない。タイミングが悪いはずだ。
というかどうしてアヤメは知っているんだ。
「昔侵略された国が武力蜂起したって――」
「そうだ!!!!!!!!!!!!!」
「きゃ!」
その時、レイの頭に天啓が下りてきた気がした。
「今すぐ鎮圧に行くぞ!」
「そ、それはいいけど……ほぼほぼ無関係とはいえ、友好国だし、手が空いてるし、救援要請は出てないけど、参加するのは私も賛成――」
「そうじゃなくて」
全てがつながった気がした。
ピンチはチャンス。困っているときに救いの手が降ってくる。そんなことが本当に起きるだなんて。
「反乱ってことは、全員犯罪者だよな」
「は?……まあ、そうね」
「じゃあ全員奴隷にしていいよな」
「は?」
「頭がいい奴隷が大量に必要だったんだ。ここで一気に調達しよう!」
「は?」
「レイ、私は手伝えることないよ?」
「ユニリンたちは学校に行ってて!いずれ手伝ってもらうから!時間があれば剣幽童のマジックアイテムの解析勧めといて!」
レイは脳内で即座に今後の計画を立てる。反乱は国家に反逆する重罪であり、一族郎党皆殺しが普通だ。
しかし国家単位という超大規模な反乱の時は処刑されるのは指導者層だけで、大量の兵士たちは奴隷に落ちる。その中には元貴族や元商家の者もいるだろう。
反乱の鎮圧の最大の功労者になれば、購入する権利も優先的に回ってくるはずだ。出資者も募れる。名声も高まる。一般的に義務のないものが命を懸けて戦うことは尊いことなのだから。
それに規模の大きさも魅力的だ。内情は全く分からないが、全員が反乱に賛同しているとも限らない。今降伏すればアロス側が引き取ると囁けば分断も狙えるだろう。
闘技祭に向けてレベル上げは必須だ。
しかし元貴族や元知識階級の奴隷を大量に獲得する機会は今しかない。
「各地の騎士団も戦闘を始めるにはまだまだ時間がかかるだろう。移動時間だって基本は徒歩だからな。でも俺たちが全力で走れば明日の朝には着く。速攻で鎮圧して奴隷を総取りだ!」
「よく分からないけど話は分かったわ!レイなら今すぐ行くってね!はいみんなの物資」
「さすが姉さんだ!大好き!」
「あーこれを取るために飛行船に向かったのね」
戻ってきたアルトはとても大きいカバンを持っていた。
アヤメも当然のようについてくるようだ。
こうしてレイたちは帝国に到着したその日のうちに反乱鎮圧に勝手に……自主的に参加することになった。
「反乱とは大変ですな。どうです?我々アロスもお手伝いしましょう」
「いやいや、我ら帝国の兵士たちはみな優秀、いざとなれば騎士たちもいますから、心配は無用ですよ」
「おやおや、それは失礼。では各地で暮らす民たちのためにも、一刻も早く事態が収まることを祈るとしましょう」
帝国城の奥、アロス国使節団とララクマ帝国の文官たちが顔を突き合わせていた。歴戦の政治家である彼らは突然の反乱報告にも動じることなく会話を続けている。
彼らにとって大切なことは自分たちの陣営の利益であり、また戦闘は自分たちの領分ではないと理解しているから。
「もう少し話をしたいところですが、これほどの事態では人手が足りない部署も出てくるでしょう。大変残念ですが、いったん今回の会談は切り上げさせていただきたい」
「それがいいでしょうな。しかし、我々は今度友好的な関係を築く中、我らアロスは協力を惜しみません。手が足りないときは、どうかご遠慮くなく申し出ていただきたい」
「それは……いえ、その通りですな。では――」
「たっ!大変です!」
ララクマ帝国側の文官が、壁際にいる、使節団に混ざってやってきた国礎十五柱の一人に視線を向けたとき、突如して文官の一人が扉を蹴り破って入室してきた。
「何事か。今は客人が――」
「レイ殿たちが反乱の鎮圧に向かってしまいました!み、三日でケリを付けると!」
「「は?」」
報告の内容の異常性に両国の面々のどちらもがあっけにとられる。
ごん!と大きな音を立ててアロスの文官たちは膝から崩れ落ちた。
「だ、大丈夫ですかな。膝の皿が砕けたような音がしましたが」
「……心配無用です。この程度、事前に陛下から、『レイはこういうことをするかもしれない』と聞いております故」
立ち上がりかけ、力が入らずもう一度崩れた。
「私が連れ戻してきましょうか?」
「…………いや、あのクソガキの行動は最大限尊重しろと、陛下が……陛下が……ちくしょう……ッ!!」
同行してきた国礎十五柱の一人の提案を、使節団のリーダーは血の涙を流しているかのような形相で何とか拒絶する。
半分茫然自失している彼を退けて他の面々が口を開いた。
「帝国側に問題が無ければ、我々は静観します。というか、あの小僧は他に何か言っていませんでしたか?」
「え、ええと……奴隷を持ってくるから、受け入れの体制を整えてくれ、とも……」
「奴隷……?ああ、事務処理が出来る奴隷を確保しに行ったのだな。理解した。帝国からは大きな屋敷か、大勢が寝泊まりできる場所をお借りしても?物資もお借りできればなおよろしい」
「わ、分かりました」
レイたちが全速力で反乱の場所に向かっている間、使節団の面々は、自分たちの真の敵が誰かを考え始めていた。




