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49話 王都での日常

「お前たちも七歳になった。そろそろ全員がステータスを獲得するころだろう。今日はステータスとは何かについての講義を行う」


 アロス国の王都にある学園、子供たちが通う講義棟。大勢の子供たちの中にレイたちの姿もあった。その姿はいつもと変わらないもののどこか元気がないように見える。実際に灼熱鬼との闘いの後遺症で普段よりも出力できる力が多少は落ちているのだが、暇だったのでしかたない。

 まだ療養していても良いと言っている姫様たちを説き伏せて一緒に学園に着て講義を受けにきた。


「神話に曰く世界は亡び、賢神様がこの第三世界を再構築したという。ステータスとはその際に賢神様が新しく作った法則、加護の一種だそうだ。人々は様々な経験から経験値を稼ぎ、レベルというものを上げることが出来る。レベルは高くなるほど魔力や生命力、力や俊敏さが上昇するのは知っているな。騎士にならなくとも貴族もある程度は上げるものだから自然に理解するだろう。

 次にジョブ。習得したスキルや経験に応じて【剣士】や【騎士】、【魔術師】なんかに転職できる。ジョブには補正があり剣士なら剣に関係するスキルや能力値が上昇しやすくなる。教会の神官に頼んでやってもらうから、お前たちも親によく相談して決めるんだぞ。

 で、ステータスってのは具体的にはだいたいこんな感じだ」


 教壇に立つ講師が黒板に杖を向け、魔法を使ってステータスの一例を映す。まるでプロジェクターでも使っているかのようだ。

 先ほど言っていた項目に加え、名前に年齢、能力値なども書いてある。自分のステータスは初歩的な魔力操作が出来れば確認できるが、一般的に七歳の子供で使えるものは少ないので道具の助けを借りるらしい。この生徒数だと数が不足するから一例を出しているのだろう。


「明日にでも創星教会に行って神官に人間の儀とステータスの確認をしてもらう。保護者も同伴で緊張するだろうが、まだ卵でもいずれは騎士や魔術師、貴族に学者あたりになるのだから、その自覚をもって行動するように。

 いま言えるのはこのくらいだな。では次は――」


 ステータスは生まれたときは持っておらず、魂が肉体に定着すると発現するらしい。年齢は個人差はあるもののおおよそ七歳であり、伝統的にみんなで一緒に教会に行って確認するのだ。

 この際に極稀にユニークスキルや上級ジョブに最初からついているものもいる。スタート地点が高い彼らは最終的にも高い結果を残しやすく平民であっても多くの支援を受けられるため平民の夢の一つらしい。


 レイのステータスが発現したのはついこの前、寝込んでいる時だ。

 非常に悔しい。もし灼熱鬼との闘いの前に発現していれば、膨大な経験値を取得して一気にレベルも上がっただろうに。


 ステータスについての講義が終わると貴人として礼儀作法、振る舞いなどを座学で教わる。昼になるころには皆くたくたになっていた。


「疲れ……てないわ。本当よ?お姉ちゃんというものはこの程度では疲れないの」

「そうですね、お姉さま」

「そうですね、ローレンティア様」


 講義が終わるとローレンティアは机にペタンと突っ伏しそうになるが、慌てて姿勢を治して言い訳する。アンリムもレイも見なかったふりをするのは慣れたものだ。


(お姉ちゃん?)


 ローレンティアはアンリムの姉だが、レイの姉ではない。なぜレイにも話すときに一人称をお姉ちゃんと言ったのだろうか。

 そう思ってアンリムを見ると、察したように頷いた。


「ええ、お姉さまの言う通り。常人ならば疲れるような難解な講義でもお姉ちゃんというものは疲れずしゃんとしているものなのですよ」

「アンリムもわかってきたようね。その調子よ」

「……そうなのかな?そうなんだ。頼りになるね」


(俺はいつのまに王家の子供の三番目になったんだ?違うよな。姫様たちが勝手なことを言っているだけだよな?

 ……そういえな、アルト姉さんも変な理屈で俺の姉を名乗りだしたな。そういうものなのか?)


 言動に疑問を持ったが、思い返してみるとアルトも似たような変な理屈だった気がする。このくらいの歳の子供は年長者ぶりたがるものなのだろうか。

 楽しそうにしている姫様たちに、レイは良く分からないがまあいいかと疑問を飲み込んだ。





 昼の休憩が終わると講義が再開する。

 まだ子供である彼らが受ける講義に高度かつ論理的な内容はない。遊びながら学び、大人の模倣をさせ、将来に必要な素養を育てるのが主だ。例えるならばごっこ遊びに近い。お茶会ごっこ、社交界ごっこ。同年代で集まり、大人の監督の下で紳士淑女になりきって遊ぶ。


 これは学園の生徒が基本的には貴族の子弟だが、ごく少数は平民の特待生が混ざっているのも関係しているだろう。まだ子供の内は上手く出来なくても許されるため今のうちに学ばせるのだ。


「午前に賢神様の話はしたな。その繋がりで今回のテーマも英雄神さまたちにしよう。聖典の一説から好きなものを選ぶといい」


 学園の講義は将来のための準備だが、中には文化面を学ぶ時間もある。例えば歌や踊り、楽器、詩に神話と歴史、そして工芸。

 今回は絵画だ。


「さあレイ、私の筆さばきをよく見ておきなさい!」

「武術も魔術も苦手ですけど、こっちは負けません」


 神話の英雄の話を聞いて、その光景を想像で補って描きだす授業だ。

 英雄神とはかつて世界を滅ぼした暴虐竜と戦った英雄たち五人が神格化された存在だ。子供たちの間では特にリーダーの勇者と一番強かった剣神が人気であり、勇者の演説で人々を再起させたシーンか、剣神の勢いのまま星すら切り裂いたという暴虐竜を切り捨てた最後の一撃が人気だ。


 ちなみに賢神の世界の創造は大人の芸術家たちの間では人気だが子供はあまり興味を示さない。スケールが大きすぎて想像できないのが主な理由だろう。


「上等です。負けませんよ」


 挑発してくる姫様たちに対してレイもやる気満々だ。戦うことが好きだが戦うこと以外が嫌いなわけではないのだ。特に絵画は修道院にいたころにも良く描かされいい息抜きになったものである。その技量も既に大人の目から見てもそこそこの水準だと自負している。

 センスや独自性という面では、あまり自信はないが。


 この日は絵画の授業が最後であり、日が暮れると絵の具で汚れた服を隠しながら三人で城に帰っていった。

 ちなみにこの講義は描くことそのもの目的であるため誰が勝った負けたは特になかった。





 別の日、レイはユニリンと共に植物園に来ていた。


「いろんな魔草があるのね。うちの実家にも引けを取らないわ」

「学園とそのバックにいる王家が作った植物園だからね。ユニリンが欲しいのとあると思うよ。たぶん」


 王都の学園区画には学び舎だけでなく多くの研究施設も存在する。

 というよりも、元は研究区画だったのだ。多くの研究者が日夜研究に励んでいるうちに弟子を取り、後継者を育成し始めたが学園の始まりと言われている。ユニリンの母が使っていた研究棟もその一つだ。


 研究施設には魔物園や魔法関係の施設など多種多様だが、その中でも植物園は重要度が高い。魔草、魔力を含んだ植物は特殊な効能を持ち、ポーションと呼ばれる飲めば魔力や生命力を回復する便利なアイテムの素材について研究しているからだ。

 回復魔法を使えるものは数が少ないためポーションの効果の上昇と生産量は国力にも直結する。他の研究施設と比べて多くの予算と人手が割り振られるため成果の種類も多くなるのだ。


 もう暖かいため生地の薄くゆったりとした服をたなびかせながら二人をケースが飾られた回廊を進む。ここは植物園の研究区画。栽培室から採集してきたサンプルをケースに入れて展示してある。希望すれば分けてもらえるそうだ。


「うーん、どの魔草がいいかなぁ。継続的な回復効果を発揮するには、どれがいいのやら……」

「そういうのは俺の目でも分かんないから、適当に調合すればいいんじゃない?もし失敗して毒になっても俺なら死なないし」

「……そういうわけにはいかないでしょ。アルトさんにすっごい怒られたし」

「どーせばれないと思うけどなぁ」


 ユニリンの研究テーマである人体のマジックアイテム化は一応は成果を出している。直接人体に術式を刻むもの、飲むと全身に術式が染み込む薬などだ。

 しかしどれも副作用が強すぎるという欠点がある。灼熱鬼との戦いで服用したものは心臓が十秒ごとに破裂するほどの負荷がかかった。レイでなければ死んでいただろう。


 そのため欠点を解決するために負荷を打ち消し続ける回復ポーションの製作が現在の目標になった。


「レイの回復魔法が再現できればいいんだけど、無理だからね」

「権能は特殊だからね。というか、そもそも負荷がかからないようにするのは出来ないの?普通の身体強化魔法は負荷とかかからないよね?」

「理論上は出来ると思うわ。でもまだ出来ないわ。私の腕が悪いのか、材料に問題があるのかも分からないもの。うーん……もっとデータを集めないと」

「やっぱり俺で試す?俺なら即死しない限り回復魔法が間に合うし、俺の目は狂いなくデータを取れるよ」

「こら、アルトさんにあんなに怒られたんだから、そういうことはしないって約束でしょ」

「……むぅ」

「自分を大切にしないのはレイの良くないとこよ。いくらと治るといってもダメなの」

「…………むぅ」

「私も理論上の安全が確保できるまではレイで試さないってアルトさんと約束したの」

「……分かった。じゃあ今回は事前に聞いていたものを回収して終わりにするか」

「そうしましょう。ポーションのことはポーションの研究家に任せるのが一番ね」


 レイはまだ不満そうな顔をしながらも、アルトの激怒した顔を思い出して大人しく安全に道を選ぶことにしたのだった。

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