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39話 星辰

 魔装、それは魔力を物質化させた特殊な武装であり、己の魂の具現化とも意志の発露ともいわれ、一度発現できれば特殊能力も使えるようになるためユニークスキルの一種ともされる特別な力。魔装は持ち主とともに成長するため使い手の分身ともいわれる。


「うーんやっぱうまくいかないな」

「気にしなくていいんじゃないか?レイは無くても強いだろ。権能?とかいうのも使えるし。そもそも魔法使いで魔装も使える人なんてあんまりいないらしいじゃないか」

「そうだけど、やっぱ魔装は貴族の象徴だからな。使えるに越したことはない」


 レイにとってはまだ習得できない未知の技能だ。

 使えるだけで尊敬される特別な力。大変魅力的だ。理論上はこの世の全ての生き物が習得でき、唯一無二の力を使えるようになるならば習得に挑まない理由はない。間違いなく何らからの特別なことが出来るようになるし、損になることはない。


 特に強力な魔装の使い手は特別な訓練をしていなくても軍隊を撃退したという逸話もあるほどだ。今のレイは無くても強いが、将来を考えると使える力は多いほうがいい。


「魔装が貴族の象徴?確かにその通りだけど……君ってそういうの気にするやつだっけ?」

「……俺は気にしてないけど、この前サロンに連れていかれたとき、ある貴族に『王家の者の部下が平民など品位が下がる』と言われてさー。まあ俺は気にしてないけどー、突かれる隙は減らしたいんだよ」


 魔装は大きく成長するとまれに担い手の死後も現世の残り、子孫がその力を引き継げる性質があるため貴族の証ともされている。実際、有力な貴族は先祖の魔装が残っている。その中でも特に強力なものが王家と四大公爵家が保有する神器とも呼ばれる魔装だ。


 最も、あくまで先祖から引き継いだものであり新しく魔装を残せたものは非常に少ないのだが……魔装を使えることが新しい貴族の最低条件ともいわれているため、逆説的に魔装が使えるようになれば品位が下がるなどとは言われないだろう。


 レイの説明を聞いたロベリアは感心したような顔をした。


「そうか……私が言うのもなんだが、平民というのは大変なんだな。でも、私は君が努力家だと知っている。わがまま姫たちに我慢できなくなったらいつでもいうといい。アヤメ様に取り次いであげよう」

「……それ、姫様たちの前でいうのよ?お前を殴らなくちゃいけなくなるから」


 困ったように笑う。

 この歳にして気を使うべき相手と場面というものを理解してきていた。





 兵法の授業に魔装の自主訓練などをこなしていると、いつの間にか一日が終わった。もう空が赤い、少し遅くなってしまった。

 使用人の棟に戻る前に、厨房に向かう。


 いつものように裏口を開けると、年の近い少年が出迎えてくれた。

 丁稚だ。料理で有名な家の三男らしい。


「レイ、飯だ、やる。牛の揚げ物、俺が作った」

「ありがと」

「あと、軟膏が切れた。やけどの」

「オッケー、明日持ってくるよ。……あれ、怪我したのは君?」


 少年は頷く。よく見ると手が赤く、皮膚が固まり開きにくそうだ。

 レイが指を当てると小さくも神々しい強力な光が迸った。


「ありがとう」

「こちらこそご飯をありがとう。親方さんにもよろしくね」


 運動をしてきた少年が満足する量の弁当を持って自室に戻る。

 王宮で働く人向けに作っている賄いと同じ食材を使っているので味は最高だ。出来立てだしよりおいしいだろう。一人なのは寂しいが、姫様たちもユニリンたちもレイを最優先に生きているわけではないので、こうして誰ともスケジュールが合わない日もあるだろう。


 リリア皇女とアヤメの世話をユニリンに押し付けずレイもやればいいのだが、レイも忙しいのだ。しょうがないのだ。魔法陣とマジックアイテムの開発に忙しそうだが楽しそうだし許してほしい。


 そんな益体もないことを考えながら鍵を開け、部屋に入ると手紙が置いてあった。


「……」


 部屋の鍵は確かに閉まっていた。合鍵はない。

 だが確かに、朝にはなかった手紙が置いてある。


「なんだ、また指令か」


 慎重に開くと、送り主は知っている人だった。

 今のレイには主な命令系統が二つある。一つは陛下と姫様たち、もう一つはフアナやコンボロス公、カイガキといった軍の人間だ。実はこれらの上下関係は分からないのだが、なんらかの力が働いて命令が被ることはないので問題になったことはない。


 今回はフアナ達から。夏休みの大乱闘が終わってからたびたびこういった指令が来るのだ。

 ある時は治療師として軍に同行し魔物の討伐、ある時はサロンへの参加、ある時は創星教会への助力。レイの公の身分の時の行動の指針になっている。


「さて今回は…………は?孤児院の世話?」





 翌日、学院が休みなので朝食をとる前にスラムに足を運ぶ。


(俺が一日だけいたあの孤児院か……、世話をするのはいいけど、なんでだろうな)


 レイは様々な技能を詰め込まれ、様々な肩書がある。

 そのうちの一つが神官だ。


 以前いたレムレスティ修道院は創星教会という宗教組織に分類上は属しており、そこで一通りの技能を収めておる。聖典の完全暗記しているし宗教儀式の全ても行える。他者のステータスの開示とジョブチェンジもできるし、経験値を解放しレベルアップもできる。

 実際にやった経験はないが。


 しかしレイの身分は平民で王家に居候していて職業は従者だ。半年ほど前は対帝国軍の臨時総指揮官の役職にいたが、今はもういない。学生らしくしていなさいと王都から出ることもあまりない。

 技能を身に着けているのでステータスの表示されるジョブ【神官】にはなれるが、職業としての神官ではない。


 フアナ達は師匠であり先生であり恩師たちだが、別に絶対的な命令系統の上位にいるわけではない。あくまで仕事の関係で命令を聞く間柄だ。そのためこのような意味の分からない命令に従う理由はない。

 ……しかし、断る理由もないので言われたとおりに孤児院に向かっている。


 フアナ達にレイを貶める理由はないし、利用されたとしてもレイを思ってのことだと理解している。そも、命令の理由が分からないことはいつものことだ。

 なので孤児院に……行く前にもう一つの目的地に向かった。


「爺さん、いる?」

「……レイか。こんな爺のとこに何の用だ」

「今更だけど、お礼を言いに来ました。半年くらい前に、岩投げの時期のことを教えてくれなかったらうまく事を運べなかっただろうから」


 半年ぶりに訪れた馴染みの個人商店、その実は天気屋だ。スラムにいながら王都で最も腕の良い気象予報士で毎日の天気を知らせている。

 そしてなぜか遠く離れた場所の岩投げのことも教えてくれた人物でもある。


「そうか。ではもう帰れ。今日の仕事がある」

「待った。何かお礼がしたいのですが――」

「言葉だけで十分だ。今日は配達も足りている」


 言葉だけでは足りないと思っているのだが、本人に言われていはお礼を押し付けることもできない。

 困っていると、店主は口を開いた。


「……そうだ。機会があれば、帝国との国境にある平原を見てきてくれ?」

「あんな何もないとこを?」

「ああ、天脈に見たことのない星が出ている。もし行く機会があって、覚えていれば調べてきてくれ」

「……わかりました。じゃあそのうち」

「それでいい。ほら、話は終わりだ。さっさと孤児院に行きな」


 店主に見送られてレイは孤児院に向かった。

 しかしどうして店主がレイの目的地を知っていたのかは、店主を信用しているレイには思い至らなかった。

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