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25話 アストラ公爵と計略合戦

 コンボロス公爵領の空を巨大な影が覆う。金属で出来た砦が浮かんでいる様、人々はこの世界では極めて珍しい光景に言葉を失い、黙って空を見上げている。


「あれが飛空艇ですか。噂に聞いていましたが、かなりの大きさですね」

「うむ。アストラ公爵家が所有するマジックアイテムだ。ダンジョンで取れたらしいな」

「分解して調べたいです」

「はっはっは。なら、君もダンジョンに潜ってポイントを稼ぐしかないな。アストラ公爵家は二百年かかったらしいが、やれるだけやってみるといい。自分で交換したならもし壊してしまっても問題はないだろう」


 コンボロス公爵と門の前で駄弁っていると飛空艇は郊外に着陸し、梯子を降ろしたのが見えた。

 初めに階段から降りて来たのはコンボロス公爵と同い年くらいで五十路の男性。続いて傍を固めているのは青年二人、老人一人。そして多数の兵士と従者たち。


「アストラ公爵家当主、シヨン・アストラ公爵。護衛の二人はアストラ公爵軍最高司令官の【知将】のドミニツと元B級冒険者で第一騎士団団長の【静謐】のヤバー二。そしてあの老人は…………?」

「先代に仕えたザオプ殿だな。隠居する前は従者を束ねる立場にあったと聞く。すぐに動かせる人員の中で出せる限りだが、アストラ公爵家で最も優れた面々だな」

「気合が入ります」


 瞳が燃える。闘志を燃やすレイは罠にかかった獲物を見る目で飛空艇から降りて来る面々を見つめた。


「ところでせっかく他の耳がないので質問なのですが、アストラ公爵家はコンボロス公爵家より頭がいいという話は本当ですか?」

「……だいぶ失礼な質問だな。まあ、その歳ならその程度の理解でも構わん。大枠は捉えている。アロス国を支える四つの公爵家の力はどれも似たようなものだ。我が家は軍事力に最も秀でているが、その分、軍事力以外には弱い。アストラ公爵家は軍事力にも貿易にも乏しいが、その分、陰謀を巡らし他者を貶め口先だけでその場を凌ぐことを得意としている。

 君が何を企んでいるのかは分からないが、相手は強いぞ。私も協力しない」

「勝つのは俺ですよ。何かをしてもらおうとは思っていません。ただアルル殿を治療したことにお礼を考えているなら、俺の邪魔はしないでください」

「ほう、そんなことでいいのかね。この件は陛下の王命だったはずだが。王家へのお礼はそんなことで」

「問題ありません。辻褄は他で合わせますよ」


 そういって、レイは不敵に微笑んだ。

 対するコンボロス公爵は訝しむ。レイの行動は非常に不気味だ。公爵家への貸しを自分への協力で相殺するなど、明らかに釣り合っていない。陛下がそのような判断を下すとは考えずらい。

 ならば今回の目の前の少年の行動は独断なのだろうか。王家に伝われば死罪になるような勝手な行動をしているということだろうか。これほどまで堂々と。それもまた考えられない。


 ならば今回の件は目の前の少年に一任されているのか?まだ生まれてから六年ほどしか経っていない、幼い少年に?


(問題ないわけがないと思うが……まあいい。どのみち私では今回のハプニングをうまく利用できない。場を貸すだけで十分だ)


 しばらく待っているとアストラ公爵家の面々が街に入り、屋敷にやって来た。


「久しいですな、アストラ公爵。まさかこのような奇天烈なことが起きるとは、やはり人生とは面白い。それともまたあなたの陰謀ですかな?」

「はっはっは。これはこれは人聞きが悪い。ただの偶然、ただの至らなさゆえですよ。不詳の息子が迷惑をおかけしてしまった。それで……そちらの少年が?一年半ほど前の姫様誘拐事件の時に遠目に見たことがありましたが、大きくなりましたね」

「レイと申します」


 余計なことは言わずに一礼。圧倒的な身分差があるのだ。余計なことは言わないほうがいい。


「うちのバカ息子が迷惑をかけたね。娘の治療は取りやめていい。すぐに連れて帰ろう」

「いいえ、それには及びません。どのみち王命を受けこの地にいる私が正式に依頼を受領したのです。治療は既に半ばまで進んでいるので中断は出来ません。御足労頂き恐縮ですが、もうしばらくお待ちください」

「おや、そうなのかい?あれでも可愛い娘でね、病気が悪化するのは避けたい。本当に大丈夫なのかい?」

「はい。失敗は絶対にありません。これは王命を受けこの地にいる私からの正式な言葉として受け取っていただいて構いません」

「……ほう、つまり陛下の言葉として受け取って欲しいと。大した自信じゃないか。ならば任せよう。

 ところでジュリファーはどちらに?」


「病室です。ルヒナ殿の傍を離れたくないと」

「後ほど案内しよう。それより、まずは休まれてはどうかね。飛空艇もさほど乗り心地は良くないと聞く」

「はっはっは。私たちが手紙を返すだけでもいいのに勝手に、かつ急に来たのでお気遣いなく……と言いたいが、確かに疲れているのは本当だ。お言葉に甘えさせてもらおう」


 アストラ公爵家の面々は客室に向かい、レイも一時的に病棟に戻った。





「面倒なことになったな」


 時は過ぎ昼過ぎ。アストラ公爵家の面々は与えられた一室でぼやく。レイたちに向けていた好々爺とした顔を止め厳しい顔を突き合わせていた。

 従者長のザオプはジュリファーの見張りにつけ、今は公爵と信用する護衛の若者二人だ。


「あの少年はどうだった?」

「では私から。【鑑定の魔眼】を使いましたが、ステータスは見えませんでした。見えなさ加減から考えて偽装や隠蔽ではなく、恐らく本当にまだ六歳で魂が肉体に定着していないのでしょう」

「……本当に見た目通りの歳なのか。てっきり妖精の血でも混ざっているのかと思った。ここ十年で一番の驚きだ」

「同感です。それから……おそらくは何らかの加護を受けています。私の【眼】には植物の蔦の様なものが絡みつき、葉や木の実が生い茂っている様がはっきりと見えました。眼は塞がっていないので洗脳されているわけではないでしょうが、おそらくはあれが力の秘密の一端です」

「なるほどな。捨て子だというし生まれつき魔神の加護でも受けているのだろう。構わないさ。あれは陛下の抱える手ごまの一つだ。気にするのはそれだけでいい」


 【知将】と呼ばれるほどに頭脳派で名をはせ【鑑定の魔眼】で多くのものを見て来たドミニツの報告に疑うことはどない。アストラ公爵は冷静に受け止める。


「それと……何か企んでいるように見えますね。ジュリファー様の行動は予想外のことでしょうが、これを利用して何かをするつもりなのでしょう」

「だろうな。だが思い通りにはいかせないさ。ヤバーニ、お前はどう感じた?」


「将来有望な真面目な少年だと感じました。あの立ち振る舞いは中々、武術系スキルを最低でもレベル3で納めているでしょう。フアナ様の鍛え方がうまいとは聞きませんし、宝玉で習得した者特有の不自然さも無い。本人の努力の賜物かと。うちの息子にも見習ってほしいくらいです」

「なんと、治癒の術を高レベルで習得していると聞いていてが、武術もか」

「ええ。それから……少年の巨大な自信が気になりますね。王命を受けたものはすなわち王の代理にも等しいですが、だからと言って自分の言葉を陛下の言葉を思えとは……仮に陛下の意に沿うものだとしても、多用するべきではありません。これがスラムで育った者特有の愚かさを矯正出来ていないだけなのか、それとも意図的なのかは、私には読み解けませんでした」

「私も同意見だ。陛下が派遣した以上は考えなしではないだろうが……やはり読み切れないな」


 会議を続けていると、ドアから音が響いた。


「アストラ公爵様、レイ殿が参りました。話がしたいとのことです。いかがなさいますか?」

「早かったな。案内しろ」


 事前に連絡はなかったが予想していたアストラ公爵は動じることなく迎え入れた。


「失礼します。事前の連絡もない急な訪問をお許し下さい」

「構わないよ。私がこの屋敷にいること自体が急なことなのだ、手が回らないこともあるだろう。それより、この度はうちのバカ息子が済まなかったね」

「それには及びません。私にとっては大した病気ではありませんから」

「ほう!高位の神官でなければ治療できないと聞いているが」

「はい、私にとっては、大した病気ではありません。これでも姫様たちの専属の治療師ですから」


(若さゆえの傲慢……いや、傲慢になれるだけの腕前なのは確かだ)


 表情では笑顔を作りつつ内心では素直に感嘆する。陰の魔力に触れ続けたことで発症する魔力酔いは初期なら風邪や二日酔に似た症状しか起きず凡庸な神官でも治療できるが、放置し続け魔力汚染と呼ばれるほど進行すると動けなくなるほど体調が悪化し体が末端から壊死するほどに危険な病気だ。重度なら高位の神官でなければ治せず、喜捨というなの膨大な料金がかかるため大抵の人間は頼めない。

 加えて貴族や金持ちなら今度は大金を払ってしまえば教会との関係が深まってしまうので頼みにくいという事情もあり、重度の魔力汚染は実質的に助からないというのが一般的な常識だ。それをまだ六歳という幼さで治せるのだから、天狗になるのも無理はないだろう。


「それでは、なにかお礼がしたい。あのバカ息子の暴走を言えども我が家の名前で依頼を出したのだからな」

「では一つ聞きたいことが」

「なんだね」

「姫様たちを攫ったのは貴方ですか?」

「そうだ」


 一瞬硬直。端的かつ軽い言葉に脳が停止する。


「そんなことでいいのかね?聞くくらいなら証拠がないだけで分かっていただろう。他に何かあれば応えよう」

「では――」


 相手は余裕の表情。

 レイも即座に立ち直り、言葉を返す。


「――亡命を希望します」





「あまり長居しても怪しまれるでしょうから、本日はこれにて失礼します」


 言葉を飲み込めず硬直したアストラ公爵を無視して、レイは退室の言葉と共に消えていった。


「どう、思う、お前たち」


 集まる三人。困惑しながらも我らは必死に頭を回す。


「……分かりません。王族の専属治療師というのは、一般的に人生のゴールにするには十分すぎるほどの収入と社会的地位があります。これを手放して我が家に来たいというのは、それに相応しい理由が思いつきません」

「亡命、というからには何らかの王家側には居られない理由があるのでしょうが…………伝え聞く限りでは、陛下からの覚えも良く、不遇な扱いを受けていないはずです。恐らく先ほどの質問で我が家が王家と敵対的だという確信を得た上での亡命希望でしょうから……なにか知ってはいけない何かを知ってしまった、の、でしょうか……?」

「うむ……私もそのあたり思いついたが……今回の偶然を利用しているなら、もともと以前から亡命を考えていたのだろう。理由は…………だめだ、分からん。あの小僧が王家から我がアストラ公爵家に移りたい理由が全く思いつかない。誰かによからぬことでも吹き込まれたのか?」


 三者三様に考察するが、進展がない。

 しかしそれも仕方のない事だ。公爵家はこの国を支える四つの柱の一つであり、黒い噂の付きまとうアストラ公爵家であったも所属できるならば大変名誉なことだ。それはこの場にいる全員と、大抵の国民が同意するだろう。


 しかし王家に所属しているものだけは別だ。明確に公爵家よりも上位の集団に属していながら、下位の集団に移りたい理由がない。

 収入や待遇に不満があるとしても、亡命というのは異常な行動だ。公爵家と関わったことが無いのならばなおさらだ。


「……今思いついたのですが、論理的な理由はない、ということは考えられませんか?」

「?どういうことだ?」

「彼がまだ六歳の子供である、という事です。誰もが理解できる論理的な理由で亡命を希望しているのではなく、その幼さ故に――」

「――幼稚な考えと狭い視野による思い込みで、拙い手を打っている、ということか」


 ヤバーニの言葉にアストラ公爵は得心したように大きくうなずく。確かに納得のいく考え方だ。分からないものと分からないものの辻褄を合わせているだけなのことを除けば、これを応えにしてもいいだろう。


「待たれよ、ヤバーニ殿。その考えは危うい。確かに生まれてから六年しか立っていない幼子なのは事実だろうが、世の中には幼さに見合わないほど利発で大人びた考えをし、特殊なスキルを生まれ持つ者も極稀に表れる。あの少年もその可能性がある」

「転生者というものですか?確かにその可能性は否定できませんが、否定する根拠がないだけでしょう。あなたらしくも無い」

「相手を甘く見ては危険だと言っているのだ。ましてやあの少年は陛下より王命を受けこの地にいる。能力を高く見積もったほうが無難だ」

「それは蜥蜴の尾を見て竜を畏れるようなものです」


 ヤバーニとドミニツの話し合いが白熱する中、アストラ公爵がひとまずの結論を出した。


「やはり分からんな。捨て子かつスラム育ちの野生児、フアナ様に鍛えられた武力と信仰心、最近ではマジックアイテムと術式の解析にも手を付けているとも聞く。生粋の貴族である我々には分からない尺度で生きているのかもしれん。

 これは解けない問題だ。棚上げしよう。どのみち、今日明日で結論を出す話ではない。また何度か話をする。その時に聞けばいい。おそらくあの小僧も私たちを話をするため治療を引き延ばすのだろう」

「ひとまずは受け入れる方針で行くのですか?」

「ああ。王妃様が亡くなられてから陛下は異常なまで王権の強化に邁進している。その訳が一つでも分かるやもしれん」

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