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11話 マジックアイテム

 王様に怒られた翌日、アロス国王立学園の学区の隅にある研究棟にレイはやって来た。


「ようこそ、ここが昔お母さんが使ってた研究棟だよ」

「結構大きいな」


 この前の物語形式で歴史を学ぶ講義で使った講義棟は三階建てだったがこちらは六階建て。敷地面積は十倍くらいは大きいあるだろう。まさに桁違いだ。

 ユニリンの母と言うことは公爵家の令嬢だと思うが、隅に追いやられたのはこれほど大きな研究棟を作るスペースの都合なのだろうか。


 レイが来るのを待っていたようで段取りよく案内される。 


「綺麗だな」

「えへへ、頑張った。十年くらい使ってなかったらしくて汚かったから大変だったんだよ」

「すごいなあ。とりあえず拠点にする部屋はどうしようか」

「お母さんが使ってた部屋があるからそこにしよう。こっちだよ。あ、荷物はそっちの部屋ね」


 使用人はいないのだろうか。そんな疑問を抱くが何となく聞かないほうが良い気がして聞かなかった。

 ベットがある宿直室の様な部屋に荷物を置くと、慣れた様子で通路を進み一階の工房に辿り着く。白い壁とよくわからない何かの素材が詰め込まれた棚に囲まれたテーブルが一つあるだけの小さな部屋だ。テーブルにはノートと参考書が置かれている。きっとユニリンのものだろう。


 引かれた椅子に座り向かう合う。子供の顔立ちながら真剣な表情だ。


「それでね、レイ、これを見てほしいの」

「どれどれ」


 見せられたのはテーブルと同じくらいの大きさの巨大な白紙。ユニリンは魔力のこもった粉を筆に着け、模様を描き始める。直線、曲線、止め、はらい、線の太さを変え、角度を変え、ニ十分ほどで手を止めた。完成したようだ。

 完成した模様に魔力をさらに流すと、紙の少し上に水が出現した。


 【水球】の魔術だ。


「教本通りに綺麗な術式だね。マジックアイテムが作れるなんてすごいじゃん」

「うん……でも、これ一つ作るにもお金がかかりすぎて、貴族が万が一のために護身用に持つくらいしか使えないじゃない」

「それは……まあそうだけど、仕方ないんじゃないかな。魔術を発動できるマジックアイテムを作るには専用の魔石や素材が必要で、何より大抵は使い捨てだし」

「そうなんだけど昨日レイに教えてもらってから思いついたことがあって……‥聞いても笑わない?」


 ユニリンは恥ずかしそうにこちらを見ている。これまでの関わりからして彼女は一般的に出回っている魔術の教本や通説はだいたい網羅しているのだろう。その上で、斬新な何かを思いついたようだ。

 思いついて、発表し、議論する。笑うようなことは何もない。


「笑わないよ、なに?」

「えっとね……杖ってあるじゃない?魔力を通すと何回も使えるやつ」

「魔術の発動を補助するやつじゃなくて、魔力を通すと込められた魔術が発動されるやつのことかな。火の杖なら十回くらい【火球】が使えるやつ」

「うん……ならさ、術式をね、体に刻んだら、何回も使えるんじゃないかな?」

「――」


 ユニリンの言葉に、レイは一瞬の理解を要した。

 そして理解した後に出たのは笑い……ではなく引き攣ったような笑みだった。


「………つまり、人間をマジックアイテムに改造するってこと?」

「そう!杖や巻物が使い捨てなのって道具が劣化するからだよね。なら私たち人間や動物なら、道具と違って何回でも使えるようになると思うの!」


 満面の笑みで自論を語るユニリン。

 対してレイは顔面蒼白だ。あまりにもグロテスクな話に内心で引いている。


(正気の発想じゃないぞ。それとも貴族ってこういう……いやいや俺の知る他の貴族は違うし、子供ゆえに柔軟な発想って言うべきなんだろう)


 道具だと刻んだ術式を起動するごとに劣化していずれは壊れてしまう。

 じゃあ怪我をしても治る人間に術式を刻もう。


 その発想は極めて論理的だ。倫理観が欠如している、という点を除けば。反対する理由が無い。レイは今、天才の閃きで世界が変わる転換点にいるのかもしれない。


「ど、どうかな?結構自信がある仮説なんだけど」

「……だぶん、出来る」


 レイのか細く、けれど確かな肯定の言葉に喜色満面だ。テーブルに登って興奮したように近寄ってくる。


「本当!?」

「ああ……俺がいつもやってるやつ……昨日俺がお前に教えたやつなら、たぶんいける。体内に強固な魔力の通り道を作って、魔力を流すだけでその魔術が発動できるように、出来る、と、思う……」

「やった!じゃあやろう!」


 ユニリンは飛び上がって喜んでいる。思いついた仮説が正しいかもしれない。なら実験しよう。研究者の卵として大変素晴らしい考えだ。

 しかしスラムとはいえ多少は社会人の経験があるレイは良い事だけでなく悪い事も考えてしまう。


「いや……でも副作用で、固定化した魔術以外は使えないくもなる、と、思う」

「えっ?……あ……あー……そう、かも……」

「それに専用の術式も必要になるだろうな。また解除する術式も。あとどのみち一つの魔術を刻むだけでもかなりの費用が掛かると思う。本人の魔術適性の問題もあるし、結局は今のまま巻物を購入したほうがいいって考えが主流になりそうかな」

「あー……んー…………つまり、無理、ってこと?」


 悲しそうに、半泣きでユニリンは縋る様に問いかける。

 

 こっちも悲しくなるから泣かないで欲しい。


「いや、無理とは言わないよ。十分に実現できる可能性はあるし、将来性のあるテーマだと思う。俺たちで研究しよう」

「本当?……ありがとう!実はちょっとだけ自信が無かったの」

「ユニリン、お前は天才だよ。自信をもって。確かにこの方法ならいずれは全人類が魔術を使える日が来るかもしれない」

「もう、褒めすぎだよ!えへへ、でもこれなら人が魔物に負けない世界が作れるかも。よーし、やるぞー!!」


 ユニリンはやる気に燃え上がり拳を天に掲げる。今の人類は魔物は対して劣勢で田舎に行けば魔物に大切な人を殺された話や討伐に行ってそのまま返り討ちに合うなんて話も沢山ある。ゴブリンの様な最下層の魔物でも複数いればさすがに一般人が素手で勝つことは出来ない。

 けれど誰もが基礎的なものでも魔術を使えるようになればこの状況は一変するだろう。【火球】を使えば最下層の魔物にも致命傷を与えられ、【創水】を使えば旅の飲み水に困らず、【風打】を使えば安全な距離から攻撃が出来て、【土動】を使えば簡単に休める場所が作れる。


 実現できれば魔物による被害は大きく減るだろう。

 もちろんこれは技術が確立して、その上で開発者の想定する場面でのみ使用される場合だが。


(人類のために研究したいようだけど、ぶっちゃけ軍事利用したほうが効果は絶大だな。俺なら敵国の捕虜に【自爆】を覚えさせて返してから遠隔で発動させる。そっち方面は考えてなさそうだけど……どうする、陛下に報告するか?いやでもなー…………そんなスパイみたいなことは俺の仕事に任されてないし、いいか!)


 純粋に輝かしい未来を夢見て心を躍らせているユニリンには申し訳なく思うが、レイは同意することが出来ない。まだ幼いながらも今日までに培った経験が彼女の未来予想図を一笑してしまう。

 しかしこれは失礼なことだ。伝えるわけにはいかない。心を整理する必要がある。

 した。


「そういやユニリン、研究費用はどうするの?魔石を買うにもお金かかるけど、実家から援助でもあるの」

「へ?」


 キョトンとした顔。レイの脳は急速に計算を始める。


「……来年、七歳に成ったら冒険者に成れるし、今年度は既存の魔術書をたくさん読んで勉強するのはどうだろう。仮説の実証は来年度以降ってことで」

「そう……だね…………ぐすん。ごめんね考えなしで」

「いやいやいやいや、ユニリンは立派な人だよ。自分を責めないで。お金の当てが出来たら言うから」


 今度こそ泣き出してしまったが、こればかりはどうしようもないのでレイはそっと目を逸らした。


(やっぱ陛下に報告して資金援助してもらうか?いやでも俺たちに何の実績も無いからさすがに無理だろうな。俺の給料だけじゃ研究費用には全然足りないし、保留しかない……いやまてよ、王様に飼われている俺が王家と不仲のオーレリユ家の長女と共同で研究するって方向なら、いけるか?)


 レイは我ながらいい考えだと思ったが、二人で研究するなら一人で結論を出さないほうがいいと考え、伝えることにした


「ユニリン、実家の方からお金は持ってこれないんだよな」

「うん……お母様は応援してくれると思うけど、お父様は……」

「そっか。なら、陛下にお願いしてみない?」

「え”」


 嫌そうだ。だが彼女は正しい理屈には説得されてくれるはず。


「俺なら陛下に直接話を持っていける。今書けるまでの範囲で論文を提出して説得できれば、来年を待たずにすぐにでも研究できると思う。どう?」


 ユニリンは嫌そうにしながらも最終的には頷いてくれた。


「やる」

「よし。じゃあまずは現状の問題点と理想的な目標、それに対する案を纏めよう」


 もしかしたらこの閃きは千年後の世界を変える第一歩かもしれないが、まだ六歳の子供たちはお金を持っておらず、研究できない。

 二人は一旦研究室に背を向けお金のために論文を書き始めた。





 時は流れ、論文が認められ多少の金銭を引き出すことに成功し実験を開始したが、それはそれとしてお姫様たちの従者という本業がなくなったわけではない。レイは今日もローレンティアたちを起こして朝食だ。


「ふむふむ、それで最近はユニリンさんと一緒にいたんですね」

「はい、今日まで報告できず申し訳ありません」

「構いませんよ。お父様がそう命じたならば私たちが覆すことは出来ません。でも、困った時は私にも声をかけてくださいね。多少は助けてあげられますから」

「そのお言葉、大変嬉しく思います」


 アンリムと談笑しながらレイはフォークでローレンティアの肉を何とか奪えないかと集中している。本人はくれると言っているのだがサラサが「好き嫌いしては大きくなれませんよ」とうるさく言ってくるから堂々とくれなくなってしまったのだ。

 サラサは使用人に過ぎないが、お姫様たちの寝室に入れるほどの信頼を勝ち取った上級使用人。うるさいのだ。


「そうだ、レイ、もうすぐテストでしょ。明日から休みでいいわ」

「え?助かりますが、朝起きられますか?」

「馬鹿にしているのかしら?私たちの従者が下手な点を取ったら承知しないわよ」

「かしこまりました。では全部のテストで満点を目指します」

「よろしい。その意気よ」


 夏の手前、定期テストの準備期間にレイはお休みを貰った。

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