第7話 ギルドの受付嬢、馬鹿みたいな戦果に叫ぶ
ゴーレムの群を一掃し、俺たちはクルドの町の冒険者ギルドに帰ってきた。
魔力を山ほど吸収したので、俺はなんだか肌がつやつやしている。一方、フィオレは何やらげっそりしていた。
「あー、大丈夫か、フィオレ? その辺のベンチで少し休む?」
「気軽に言ってくれるわね……誰のせいだと思ってるのかしら?」
ギルドの入口からなかに入りつつ、ジト目で睨まれてしまった。
「もう大抵のことは驚かないつもりだったけれど……いくらなんでもあなたはやることが規格外過ぎるわ。B級モンスターに一人で挑むわ、その後に現れた群を一人で打倒するわ……私の常識じゃ処理しきれない。色んなことがいっぺんにあり過ぎて、頭がどうかしてしまいそうよ」
「いや、そんなに頭がパンクするようなことあったか? どれも『エナジー・ドレイン』があれば対処できることだったし、一応、俺としては理屈の通ることしかしてないつもりだぞ」
「ああ、無理だわ、まったく話が通じない。そう思うなら、これから起こることをよく見ていなさい。受付のあの子はきっと私と同じように頭を抱えるはずよ?」
「そうかなぁ……」
半信半疑で受付に到着する。
朝と同じ受付嬢が俺たちに気づいて顔を上げた。
ちなみに彼女の名前はアイラという。
アイラは俺の顔を見ると、明らかにほっとした表情になった。
「お帰りなさい、リオ様。良かったぁ……無事だったんですね」
「ただいま、アイラ。おかげさまで俺もフィオレも怪我一つないよ」
ちなみにフィオレのことは朝のうちに紹介してある。
まだ婚約者の身で相手方の家に来ているのは貴族としても異例のことなので、とりあえず『事情があってウォーリヴァー家に滞在している』と説明しておいた。
我ながら根掘り葉掘り聞きたくなるような説明の仕方だったが、アイラはとくに深く聞くこともなく、『あー、リオ様のまわりだったらそういうこともありますよね』とすんなり納得してくれた。ありがたい話だ。
「それでロックゴーレムの姿ぐらいは見れました?」
「ああ、見れたよ」
「えっ」
どうやらアイラは俺たちがゴーレムに遭遇できずに引き返してきた、と思ったらしい。予想外の返事をされて、目を見開いている。
「え、え、ロックゴーレムを見つけて……それでどうしたんですか? すぐに逃げたんですよね?」
「いや戦った」
「戦ったぁ!?」
素っ頓狂な声を上げられてしまった。
ちなみに俺の横ではフィオレがうんうんと何度もうなづいている。
「た、戦ったって……え、怪我は!? 潰されたり粉々にされたりしてませんよね!?」
「してないしてない。勝ったから」
「は? か、勝った?」
「ちなみにこれ、戦利品の素材。依頼書に証明として回収してくるように書いてあったから」
俺は革袋を受付のテーブルにドサッと置く。
中身はゴーレムが崩れた後に残った砂だ。
砂自体は大量にあったのだが、それを軽くかき分けると、キラキラした砂が少量出てきた。これはゴーレムサンドといい、魔道具に使ったり、薬の調合に使うことができる。依頼を成功させると報酬が出るが、それとは別にギルドではこうした副次品の素材を買い取ってくれる。
革袋の紐を緩めると、大量のゴーレムサンドがザラザラとこぼれた。たくさんの砂が光っていて、なかなかきれいだ。
「は? え? なにこれ……ちょっと待って下さい。これどう見てもロックゴーレム1体分の量じゃないんですけど……?」
「ああ、うん、1体倒したら群がわらわら現れて、ぜんぶで13体いたから」
「じゅーさんたいっ!?」
アイラの声が裏返った。
フィオレはさらに深くうんうんうんとうなづいている。
「それ、倒したんですか!? リオ様が!? ひとりで!?」
「うん。まさか淑女のフィオレや御者のトムにそんなことさせるわけにはいかないし」
「待って待って! ぜんぜんわかんない! ロックゴーレムを単騎で13体って、それもうA級冒険者クラスですよ!? 王都にいったら王族貴族から依頼殺到で、もう自分のギルドを開けるクラスです!」
アイラは発狂しそうな有様だった。
フィオレはうなづき過ぎて、もう首がもげそうになっている。
や、俺だって一応、この世界の常識は持っている。ロックゴーレムの群をひとりで倒せたのはすごいなぁ、とも思う。ただ俺には『エナジー・ドレイン』という確実な勝算があった。勝てると思って勝ったので、どうしてもフィオレやアイラとはテンションが違ってきてしまう。
「はぁ、本当に、本当にリオ様は……っ。のんきな顔した大物だとは思ってましたけど、まさかここまでとはあたしも思いませんでしたよ……」
「のんきな顔ってひどいな、おい」
そんなこと思ってたのか、アイラ。
俺も若干、傷つくぞ……?
「とりあえず、このゴーレムサンドは買い取らせて頂きますね。結構な量があるので銀貨数枚にはなりますよ……って、あれ? えっ!?」
革袋を引き取ろうとしていたアイラが突然、目を見開いた。
どうしたのかと思っていたら、砂のなかの一部を手ですくい、彼女は声を荒らげる。
「ちょ、これ……ゴールドゴーレムの砂ですけどぉ!?」
アイラの手に載っていたのは、キラキラした他の砂とは違う、金色に輝く砂だった。
「あー、そういえば群のなかになんかゴールドな感じのゴーレムがいたな」
「……っ!!」
アイラは喉を引きつらせて硬直。
数秒スタンした後、ゼンマイ仕掛けの人形のように動きだして大声で叫ぶ。
「それゴールドゴーレム! B級モンスターのロックゴーレムの比じゃありません! 滅多に現れない、超レアのS級モンスターですよ!!」
「へ、S級? あれってそんな珍しいモンスターだったのか?」
「そうです! ゴールドゴーレムはスキルの経験値が山ほど獲得できますし、素材の砂もめちゃくちゃ価値があります!」
アイラ曰く、ゴールドゴーレムサンドは黄金と同じぐらいの価値があるらしい。装飾品としても人気があるし、魔力を通してくれるので魔道具の素材にも適しているとのこと。
ただ、俺としてはスキルの経験値を山ほど獲得できる、ということが気になった。言われてみれば、金色のゴーレムを倒してからさらに全身に力が漲ったような気がする。『エナジー・ドレイン』で魔力を吸うと、体力や攻撃力の基礎数値も上がるので、一気に強くなれたのだろう。
もちろん『エナジー・ドレイン』自体のレベルも上がっているはずだ。
うーむ、これは早くステータスを確認したいな……。
「わかった。アイラ、依頼も達成したし、今日はもう帰るよ。ありがとう」
「えっ!? ちょっと待って下さい。さすがにゴールドゴーレムの素材の換金には時間が掛かっちゃいますから……っ」
「あー、いらないいらない。それ、あげる」
「あげるぅ!?」
白目を剥いて叫ぶ、アイラ。
「もらえませんよ、こんなの! よく聞いて下さいってば! 一財産になりますよ、これ! たぶんプール付きの御屋敷とか建てられちゃうレベルです!」
「うん、だから別にいらない。御屋敷もプールもあるし。俺、領主代行だし」
「そうだったー! この人、この土地一番のお偉いさんだったーっ!」
「アイラが受け取れないなら、このギルドへの寄付にしてくれ。……あっ、そうだ。先生んとこの診療所と折半で受け取ってくれたら嬉しい。瘴気わずらいの解決法が見つかって、これから患者が減っちゃうはずだから、その寄付で補填するように先生に言っといてくれ」
「あっ、ちょっと本当に!? 本当に寄付しちゃっていいんですか、リオ様ってば!?」
アイラがテーブルから身を乗り出して動揺しているが、俺は逃げるようにその場から立ち去る。とにかく今はステータスを確認したかった。
「フィオレ、行こう! お金の面倒事に巻き込まれる前にここから逃げるんだっ」
「本当、あなたって人は……」
頭痛がしてきたわ、と頭を抱えるフィオレを連れて、俺はギルドの玄関を飛び出した。さあて、ステータスがどれくらい上がってるか、楽しみだ。
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