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第4話 悪役令嬢と冒険者ギルドへいこう

 診療所で子供たちを治した、翌日。

 俺は馬車に揺られつつ、ステータスをチェックする。


「さてさて、どうなってるかなっと」



――――――――――――――――――――

〇リオルード・ウォーリヴァー

  体力:320

  魔力:455

  攻撃:430

  防御:225

  敏捷:310

  スキル

   ・神冠の剥奪(クラウン・テイカー)――Lv2

   ・エナジー・ドレイン――Lv23

――――――――――――――――――――



 ……なるほどなぁ。

 体力などの基礎数値が微増している。

 また『エナジー・ドレイン』自体はレベル20から23に上がっていた。

 瘴気わずらいの子供たちから魔力を吸った結果だろう。


 使うほどにレベルが上がるのは他のスキルにもよくあることだが、どうやら魔力を吸った分、基礎数値も上がるらしい。

 魔力を吸って魔力が上がるのは感覚的にもわかりやすいが、体力や攻撃力なんかも上がるなんて、便利なスキルだな。


 ファンタジー小説のなかで悪役のフィオレが領民すべてから魔力を吸い上げようとしたのも頷ける話だった。


 ちなみに診療所にいた子供たちは皆、元気になって無事に退院した。

 今後、また瘴気わずらいの子供がきたら、ウチの屋敷に連絡してくれるように先生に頼んでおいたので、苦しむ子供は確実に減らせるだろう。


 ウォーリヴァー領は辺境に位置し、それほど広くない。むしろ狭い。瘴気わずらいの子供が出た際、すぐに俺のところへ連れてくる仕組みを作れれば、領内から瘴気わずらいの病を駆逐できるかもしれない。領主代行として近いうちにその辺の仕事にも取り掛かろうと思っている。


「あとはそうだな……」


 ステータスを眺めつつ、俺は思考を巡らせる。『エナジー・ドレイン』について、ちょっと思うところがあった。


「魔力を吸うことで基礎数値を上げることができる。でもそれだけか? 『エナジー・ドレイン』は超レアのS級スキルだし、だったらもっと他にも……」


 考えつつ、目の前の空間に浮かんでいる文字に何気なく触れる。すると頭のなかに声が響いてきた。


『スキル・エンチャントまであとレベル7が必要です』

「――! ……ははーん、そういうことか」


 今の声はステータスに付与されている補助音声だ。

 思った通りだ、と俺は頬を緩ませる。

 すると向かいの席でフィオレが口を開いた。


「何を一人で笑っているのよ? 気持ち悪い」

「気持ち悪いとは失礼な。今日のデートの内容を決めるために必死にあれこれ考えてたんだよ」


 まあ、ステータスの表示は本人にしか見えないからな。

 フィオレからすれば、確かに脈略なく笑いだしたように見えただろう。


「初デートが病人だらけの診療所だったことを考えると、今日のデートも期待はできそうにないわね」

「そうかな? フィオレは結構楽しんでたように見えたけど?」

「驚いたわ。私の婚約者の目は節穴だったみたいね」

「あれ? 節穴かな?」


 ちょっとからかい口調で、俺は首をかしげる。


「ミアたちに懐かれて、満更でもなさそうに見えたけど?」


 子供たちは俺に魔力を吸われて元気になると、一緒にきていたフィオレに注目した。ウォーリヴァー領にはいない、あか抜けた美女を前にして、田舎の子供たちが放っておくはずがない。


 普段、俺と気楽に話しているせいで貴族への抵抗感がないらしく、ミアたちは『王都ってどんなところ?』『お城に行ったことある?』などとフィオレを質問攻めにしていた。


 一方、フィオレは子供の扱い方がわからないらしく、まるで大人に接するようにやたらと丁寧に子供たちの質問に答えていた。だが彼女自身、慣れないながらに楽しんでいるように俺には見えた。


「フィオレってわりと子供好きなんじゃないか?」

「……何を勘違いしているのか知らないけれど、私は無知な民に知識を授けていただけよ。ノブリス・オブリージュの精神でね」


「でも俺がミアに『エナジー・ドレイン』を使おうとした時、慌てて止めようとしてきたじゃないか」

「あれは当然でしょう! あなたが私のスキルで子供を傷つけようとしているのかと思ったのだから!」


「なるほど、君は子供が傷つけられようとしていたら止めるんだな?」

「何かおかしいかしら? まさかあなた、私を侮辱しているの?」

「いや、ただ『破滅の魔女』らしからぬ言葉だな、と思っただけさ」

「…………」


 俺の一言に対し、彼女は押し黙る。

 表示したままだったステータスを消し、俺は馬車の座席に深く背中を預ける。


 事前の情報では彼女は多くの貴族や令嬢や騎士をスキルで昏倒させた、危険人物だと目されていた。前世で読んだファンタジー小説でもフィオレ・L・シャーレイはウォーリヴァー領の領民たちの命を根こそぎ奪おうとするような悪役そのものだった。


 でも実際の彼女に会って、そうした先入観は無意味だったと俺は気づいた。


「フィオレ。君、結構いい奴なんじゃないか?」

「……何を言っているの?」


 小さなため息。

 彼女は複雑そうな視線を向けてくる。


「そう言うあなたは希代のお人好しだわ。もちろん悪い意味でね。貴族らしからぬ領民たちへの接し方もそう、私のような魔女に変に肩入れしようとする態度もそう……過度な善意は自身の身を滅ぼすわよ?」


「褒め言葉として受け取っておくよ」

「悪い意味だと言っているでしょう? 人の忠告は聞きなさい」

「心配してくれてるのか? ほら、やっぱり君は良い奴じゃないか」

「ああもう! どうしてそうなるのよ……っ」


 苛立ったように彼女は言葉を乱す。

 しかしそうして怒った顔が妙に可愛らしかった。


 普段、芸術品のように整った容姿をしているせいだろうか。もしくはいつも気持ちを押し殺すような雰囲気を彼女がまとっているせいかもしれない。フィオレの怒った顔が俺は嫌いじゃない。


「あなたのせいで苛立っているのに、何を笑っているの?」

「え、俺、今笑ってた?」

「手鏡を貸してあげましょうか? イヤらしくニヤついた顔が見られるわよ」

「あー、イヤらしいのはなんか嫌だなぁ……」


 さすがに紳士としてあるまじき表情だろう。

 顔に手を当てて、俺は表情を切り替える。


 するとフィオレはまた吐息をはき、視線を逸らすように馬車の窓の方を向く。そこからはウォーリヴァー領の豊かな牧草地帯が広がっているのが見える。


「あなたに聞きたいことがあるの」

「いいよ。なんなりとどうぞ」

「あなたは何者なの?」

「えっ」


 前世の記憶を持った転生者です、とは言えない。

 100パーセントの確率で頭がお花畑なヤバい奴だと思われてしまう。


「私の『エナジー・ドレイン』で子供を救えるなんて……考えたこともなかった。神殿の神官や王都の学者たちだって同じはずよ。あんな発想、余人では思いつかない。なのにどうしてあなたは……」


 ああ、そういうことか。

 俺が『エナジー・ドレイン』で瘴気わずらいを治せるだろうと思ったのは前世の記憶のおかげだ。スキルや魔術が出てくる本なんて腐るほど読んだからな。その応用方法も自然と思いつく。


 ファンタジー小説の『ファラウェル王国物語』を読んでいた時も思ってたんだ。この『エナジー・ドレイン』ってもっと別の使い方ができるんじゃないかって。今回はそれを実践したに過ぎない。


 でもまさかフィオレにまんま伝えるわけにもいかない。

 だから申し訳ないけど、ここはちょっと誤魔化そうと思う。


「勘さ」

「勘……?」

「そ。直感。なんかできそうな気がして、『エナジー・ドレイン』を色々調整してみた。そしたらできた。すべては直感さ」

「天才……だということ?」


 いやそう言われると、なんか背中が痒くなるな。

 さすがに誤魔化し方が適当過ぎたかもしれない。


「と、とにかく今は今日のデートのことを考えよう。あ、ちょうど曲り道だ。御者にどこに向かうか伝えないと!」


 やや強引に話題を変え、俺は背後の小窓を開いて、御者に進路を伝える。

 実は馬車に乗った時点では行き先は決めてなかった。一応、候補はいくつか考えていたんだが、さっきステータスを見てようやく『ここにしよう』と絞り込めた。


「そういえば聞いてなかったわね。リオルード、これからどこへいくの?」

「ギルドさ」

「ギル……ド?」

「そう、冒険者ギルド」


 およそ領主代行がいくには似つかわしくない場所だ。

 あとはデートという体裁でいくにも似つかわしくない。

 そう言うかな、と思ったが案の定、フィオレは眉を寄せてこう言った。


「あなた……正気?」


 さすがにごもっともだとは思った。

 でもぜひ付き合ってもらいたい。

 馬車は町の冒険者ギルドへと向かっていく――。

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