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第3話 エナジー・ドレインで人助けをしよう

「それじゃあ、早速試してみるか」


 フィオレから『エナジー・ドレイン』を剝奪した翌日。

 俺は屋敷の中庭にいた。

 目の前には庭師のじいさんが育てた、花々が咲いている。


「まずはステータスのチェック……っと」


 意識を集中し、手を軽く横に薙ぐ。

 すると視界のなかにいくつかの文字と数値が表示された。

 これはステータスといって、自身の状態を確認できる、スキルの補助能力だ。



――――――――――――――――――――

〇リオルード・ウォーリヴァー

  体力:300

  魔力:420

  攻撃:410

  防御:220

  敏捷:300


  スキル

   ・神冠の剥奪(クラウン・テイカー)――Lv2

   ・エナジー・ドレイン――Lv20

――――――――――――――――――――



 お、神冠の剥奪(クラウン・テイカー)のレベルが2になってるな。

 今まではまったく使ったことがなかったから普通にレベル1だったんだが、たぶん昨日、フィオレに使ったことでレベルアップしたんだろう。


 逆に『エナジー・ドレイン』がレベル20なのは、フィオレの持ってたレベルをそのまま引き継いだからだ。レベルごと剥奪できる辺り、我がスキルながら結構反則だと思う。


 ちなみに体力なんかの数値は一般人としては結構高い方だったりする。前世の記憶が蘇ってから色々と鍛錬しているので、その成果だ。といってもたぶん王都の一般騎士とどっこいどっこいぐらいだろう。その辺のゴロツキは難なく倒せるけど、高レベルモンスターには単独で挑めない、ぐらいの強さだ。


 ステータスを確認したので、次は実際のスキルを使ってみよう。

 俺は目の前で咲いている花に対して、手を突き出す。


「『エナジー・ドレイン』」


 魔力の光が舞い、見る見る花が枯れていく。

 逆に俺は少しだけ力が漲るのを感じた。


「うん、ちゃんと使えるな」


 間違いなく『エナジー・ドレイン』は俺のものになっている。

 さて、あんまり花を枯らすと庭師のじいさんに怒られるので、次の行動に移ろう。


 ……と思っていたら、屋敷の方からやたらと美しい淑女が小走りで駆けてきた。もちろんフィオレである。


「探したわよ、リオルード」

「おはよう、フィオレ。ちょうどいい。『エナジー・ドレイン』の確認をしてたんだ。見てくれ、これ」


 俺は枯れた花を指し示す。

 するとフィオレは小さく息を飲んだ。


「本当にあなたのものになったのね……」

「ああ、そうさ。君の方はどうだ? たとえば体に何か異変があったとか、そういう異常事態はない?」

「……ないわ。しいて言えば、ステータスからスキルの表記が消えたぐらい。あとは……そうね、半身をもがれたような喪失感がある。勝手な話よね? 自分から奪ってくれと言っておいて、こんな感慨に耽るなんて」


 俺に剥奪されたことによって、彼女はもう『エナジー・ドレイン』を使えない。だから半身をもがれたという感覚はたぶん間違っていないと思う。


「リオルード」


 彼女は静かに俺の名を呼んだ。

 そういえば、俺を探してたと言ってたな。

 何か用事があるのだろう。まあ、どんな用事かは察しがつくが。


「私の禍々しいスキルをあなたに押しつけたこと、正式に謝罪します。ごめんなさい」

「いいさ。俺自身、望んでやったことだ」

「こんなことを言える立場ではないけれど、あなたが『エナジー・ドレイン』を得たことは誰にも言わない方がいいわ。黙ってさえいれば、誰にも知られることはない。私が『破滅の魔女』と呼ばれたようにはならないでしょう」


 ……んー、それに関してはちょっと約束できない。

 俺にもやりたいことがあるからな。


 こちらが黙っていると、フィオレはドレスの胸に手を当てた。

 そして覚悟を決めた表情で口を開く。


「さあ、どうか私を殺して。そのために私はあなたに『エナジー・ドレイン』を奪ってもらったのだから」


 ま、そうだろうな。

 フィオレはそう言うだろう。


 彼女はずっと自身の死を望んでいた。しかし『エナジー・ドレイン』はフィオレが死に瀕すると、勝手に周囲から魔力を奪って、彼女を生存させてしまう。


 そこでフィオレは考えた。『エナジー・ドレイン』というスキルそのものを失えば、自らの死を阻むものはなくなると。そうして白羽の矢が立ったのが、俺というわけだ。

 すでに神冠の剥奪(クラウン・テイカー)によって、『エナジー・ドレイン』は俺に移っている。彼女はいつでも死ぬことができる。


 朝から俺を探していたのは自分を殺してもらうためだ。

 他ならぬ、『エナジー・ドレイン』の力によって死ぬことを彼女は望んでいる。


「決意は変わらないのか?」

「変わらないわ。私は『エナジー・ドレイン』なんて悪辣なスキルを持って生まれてきた。それはすなわ、私がスキルに相応しい悪辣な人間という証拠。生まれ持った罪は死をもって償うしかない」


 彼女はドレスの胸元に手を当てる。


「あなたに手を汚させてしまうことは本当に申し訳なく思ってる。でも……私は『エナジー・ドレイン』によって死ぬべきなの」

「それが1番きれいな終わり方だから?」

「ええ」


 フィオレは神妙な顔でうなづいた。


「もちろん迷惑を掛ける分の報酬は用意してあるわ。私がシャーレイ家から与えられている土地をすべてあなたに譲るという書面を残してある。あなたとの婚姻が成立して初めて有効になるものだけど、私の18歳の誕生日まで死を隠し通してもらえれば、問題なく受領できるはずよ。シャーレイ家はもともと私を厄介者扱いしているから、決して文句は言ってこない。それに昨日も言ったけれど、王都の貴族たちは皆、あなたのことを英雄扱いするわ。決して悪いようにはならない」

「……なるほどな」


 まあ、言いたいことはわからなくもない。

 しかしその望みは叶えてやれない。

 誰が好き好んで婚約者を殺すもんか。


「じゃあ、とりあえず出かけようか。執事に馬車を用意させてあるんだ。君も一緒にきてくれ」

「は? ……え、馬車?」

「そう、馬車」


 彼女をエスコートするように先だって歩きだし、俺は肩越しに振り向く。


「デートしよう」

「なんですって?」

「デートさ。せっかく婚約してるんだから、死ぬ前にデートの一つぐらいしてくれてもいいだろう?」

「…………」


 俺の軽口に対し、彼女はなんとも言えない顔で眉を寄せた。



              ◇ ◆ ◆ ◇



 屋敷を出て、馬車を走らせること十数分。

 俺は領内の診療所にやってきた。

 御者には路肩で待つように言い、いぶかしげなフィオレを連れて、俺は診療所へ入っていく。


「おや、リオ様? 領主様がこんなところへ、どうなさったのです? 体調がお悪いなら屋敷へ伺いますぞ」


 俺たちに気づいてそう言ったのは、70代ぐらいの白髪の医者。

 ウチの屋敷にも出入りしてくれている、領内一番の名医だ。


「こんにちは、先生。今日は風邪でもなんでもないから安心してくれ。あと俺は領主じゃなくて領主代行な?」

「ほっほっほ、そうでしたな。それで風邪はないとしたらどういったご用件で?」


 そう訊ねた直後、先生は俺の後ろのフィオレに気づいたようだ。

 小さな丸メガネを押し上げ、目を見開く。


「ご懐妊ですかな?」

「違う違う違う!」

「……っ」


 慌てて否定する俺。

 フィオレも言葉に詰まった様子で押し黙っている。ちょっと頬が赤い。おー、照れるとそんな顔になるんだな。ちょっと可愛いかもしれない。


 ……なんて思いつつ、俺は本題を切り出す。


「ここには瘴気わずらいの子供たちが入院してるだろ? ちょっと会わせてもらっていいかな?」

「瘴気わずらいの……? ええ、確かにおりますが。こちらです」


 生きとし生ける者には魔力が宿っている。

 それは自然の摂理なのだが、まだ成長途中の幼い子供などは自身の魔力に当てられてしまうことがある。


 これが瘴気わずらいという病だ。

 症状としては発熱や嘔吐、また倦怠感を伴い、時には命を落としてしまうこともある。


 残念ながら根本的な治療法は確立されていない。

 原因が本人の魔力なので、子供自身が成長して魔力に耐えられるようになるしかない、というのがその理由だ。入院中の子供たちにしてやれるのも薬草やポーションを集中的に与えて体力を補助してやることぐらいである。


 先生に案内してもらい、子供たちの入院している部屋に入ると、俺は顔見知りの子供のベッドへ近づく。


「あれ? リオ様……?」

「よお、ミア。久しぶりだな」

「どうしたの? 領主さまのお仕事は……?」

「今日は休み。だからミアのお見舞いにきたんだ」


 普段、俺はちょこちょこ時間を作って、領内の町や村に顔を出すようにしている。今、ベッドに寝ている女の子――ミアもそうして知り合った子のひとりだ。


 俺の背後ではフィオレが不思議そうな声でつぶやく。


「領主代行が町の子供と知り合いなの……?」

「リオ様は散歩気分で町や村に顔を出しますからな。それに領民のなかには入院費用に苦心する家庭もあります。リオ様はそうした家へ援助もしているのですよ」

「……珍しい統治者ね。王都にはいないタイプだわ」


 先生に説明され、フィオレは難しい顔をしている。

 ま、この世界の領主や領主代行なんてのは屋敷でふんぞり返って、税を徴収するのが一番の仕事だからな。変わり者だとはよく言われる。


「苦しいか、ミア?」

「……うん。体中痛いし、息も苦しいの。リオ様、早くおウチに帰りたい……」


 ミアの頬は紅潮し、息も荒い。

 体内で魔力が暴走して、高熱の状態が続いているのだ。

 そんな少女へ、俺は右手を差し向ける。


「大丈夫だ。今、楽にしてやる」


 スキルを発動した。

 手のひらに光が集い、俺は力ある言葉を紡ぐ。


「『エナジー・ドレイン』」

「――っ! リオルード、あなた何をしているの!?」


 顔を真っ青にし、フィオレが駆け寄ってきた。


「子供に『エナジー・ドレイン』を使うだなんて! やめて! この子が死んでしまう……っ! 私はそんなことのためにスキルを手離したんじゃ――」

「大丈夫だ」


 掴みかからんばかりのフィオレを左手で制し、俺は言う。


「見てくれ。ミアの様子を」

「……ふぁ、暖かい。それに……なんか苦しくなくなってきた」

「えっ!?」


 驚くフィオレの前で、ミアが勢いよく上半身を起こす。

 頬の赤みは消え、表情も嘘みたいに明るい。


「体痛くない。息も苦しくない。……すごい! 治った! ミア、治ったよーっ!」

「な……っ」


 ゴーストでも見たかのようにフィオレは絶句している。

 先生も「き、奇跡じゃ……っ」とベッドの横で腰を抜かしていた。

 俺はミアの頭をよしよしと撫で、頬を緩める。


「よーし、上手くいった。狙い通りだ」

「狙い通り……? リオルード、一体何をしたの!?」

「見たまんまさ。『エナジー・ドレイン』でミアの瘴気わずらいを治したんだよ」

「な、治したってそんな……っ」


 その一言でフィオレは固まってしまった。

 無理もない。『エナジー・ドレイン』は彼女が悪辣だと吐き捨てたスキルだ。

 それが子供の病を治したなんて、すぐには受け止められないだろう。

 だから俺はもう少し言葉を付け足す。


「瘴気わずらいは魔力の暴走が引き起こすものだからな。だからミアのなかの余分な魔力を『エナジー・ドレイン』で吸い上げたんだ。過剰な魔力を除去してやれば、暴走は収まる。簡単な話さ」

「か、簡単な話なんかじゃないわ……っ。『エナジー・ドレイン』にそんな繊細な制御はできない! 一度発動したら相手が昏倒するまで魔力を吸い続ける――そういう力なんだから!」


「確かにこれはそういう力だった。だから調整させてもらった」

「ちょ、調整……?」

「俺の神冠の剥奪(クラウン・テイカー)の能力さ。奪ったスキルは俺が使いやすいように調整できるんだ」


 スキルとは神が与えた冠だ。

 しかしせっかく奪っても、冠のサイズが合わなきゃ被ることはできない。

 だから俺の神冠の剥奪(クラウン・テイカー)は奪ったスキルを俺用に調整することができる。


 フィオレの『エナジー・ドレイン』は対象の魔力を吸い尽くすような暴れ馬だった。それを神冠の剥奪(クラウン・テイカー)で調整し、吸い上げる量を微細にコントロールできるようにしたわけだ。


 俺もまともにスキルを使ってこなかったので調整には一晩掛かったが、その甲斐あって上手くいった。


「フィオレ、君は『エナジー・ドレイン』を悪辣なスキルだと言ったな? それを与えられた自分は悪辣で、死ぬべき人間だとも言ってたな?」


 真剣な目で俺は彼女を見つめる。

 窓から春風が吹き、白いカーテンを波立たせる。


「『エナジー・ドレイン』は人を救える。俺がそう変えた」

「……っ」

「だから君も人を救える。そんな人間になれるはずだよ」

「――っ!」


 彼女は両目を見開き、絶句した。

 その胸にどんな感情が去来しているのかはわからない。

 俺はただ行動で示すだけだ。


「先生、他の子にも同じ処置をしていく。手伝ってくれ」

「お、おお……承知しました! いやはや、なんという奇跡か……っ。やはりリオ様は我々ウォーリヴァーの民の救世主ですな!」

「あー、あー、やめてくれ、そういう言い方は。領民を助けるのは領主代行として当たり前のことだよ。――さあ、みんな! すぐに元気にしてやるぞ!」


 俺は子供たちに宣言し、『エナジー・ドレイン』による処置を施していく。

 その様子をフィオレは呆気に取られた様子で見つめ続けていた。

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