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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

たからさがし

作者: 花織

「ねー、こんなこといつまでやるの?」


私はそれに答えずひたすら穴を掘る。


「ねぇってば!聞いてんの?」

「聞いてるよ。見つかるまでだよ。」

「そう言って何日経ったと思ってるの?」

「……。」


スコップを持つ手が痛む。

近くでうるさいのは私の仲間だ。今や仲間と呼べるかも怪しいくらいに亀裂が入っているけれど。


「わたしもう帰っていい?」

「まだ帰らないで。」

「そう言ったってどれだけ掘っても何もないじゃん。馬鹿じゃないの?」

「うるさい。貸しあるの忘れたの?」

「もう十分返してると思うけど?」

「もう少しだから。ちゃんと手動かして。」

「ほんとあんたに貸し作ったのが間違いだったよ。これ終わったら二度と話しかけないで。」

「別にいいから。手伝ってくれる約束でしょ?」

「はいはい。わかりましたよーだ。やればいいんでしょ。」


掘り始めて何日経ったかも忘れた。どこを探しても一向に見つからない。でもここのどこかにはあるはずなんだ。汗ばむ額を拭う。

そんな時、コツっと音がする。スコップが何かに当たった。私は急いでその周りを掘り進める。

とうとう見つけた。掘り当てたのは朽ちかけた木箱。これをずっと探していたのだ。


「あった。」

「あっそ。じゃあ帰っていい?」

「いいよ。中身要らないんならさっさと帰れば?」

「は?半分くれる約束でしょ?独り占めする気?」

「帰っていい?って言ったのはそっちでしょ。」

「半分さっさと渡してよ。そしたら帰るから。」

「……ほら。持っていけば?価値も分かんないくせに。」

「はいはい。」


そうしてそれを黙って鞄に詰め込む彼女の頭を背後からスコップで何度も殴りつける。そうして倒れた彼女を穴に埋めて野犬に掘られないようにしっかりとそこを踏みしめる。

これは私のものだ。それをさっさと鞄に詰め込む。ようやく掘り当てた埋蔵金。山の所有者でもない私たちがしていたことは盗掘でしかないのだけれど。だからこそさっさと帰る必要があった。

重たい鞄を車に積み込むとさっさと山をあとにする。こんなところ長居はしたくない。帰って汗を流したい、それだけだ。


私はいわゆる埋蔵金ハンターだ。

この国の行方不明者は年間3000人とも言われているけれどその中の数名は私が手に掛けた。いつも仲間を見つけては一緒に掘り続けて見つけ次第殺して埋蔵金の埋まってた場所に埋めてを繰り返している。

どいつもこいつも最後には殺されるなんて思いもせずにちょっとの貸しを作ってやればすぐいうことを聞く。人間なんて単純なもんだ。

でも流石に貸しを作れる知り合いも減ってきた。

流石に毎回殺していたんじゃ人も減るか。

だってみんな最初は乗り気なのに段々と面倒くさそうにし始めて最後には機嫌を悪くする自己中ばっかりだったから。そんな奴らを貸しも返してもらえず使わなきゃいけないなんて一番機嫌が悪いのは私の方だ。だから殺したっていいだろう?

どうせクソみたいな人間達なのだからお似合いの死に様だと思ってる。私のスコップが頑丈なのは掘るためじゃなくて確実に殺すためだ。

日常的には私は埋蔵金があるから何不自由なく暮らしている。海にもあるらしいが船を出すのも大変だし海で殺しても死体は砂浜にたどり着いてしまうから私は山専門だ。いつも行きは二人で帰りは一人。最初は見つかるんじゃないかってビクビクしていたがもう随分慣れた。


そんな私に声をかけてきた奴がいた。名前も知らない奴。向こうは私のことを知っているようでどこで知ったのだと考えてみたが分からずじまいだった。


「埋蔵金ハンターの新城さんですよね?私埋蔵金について調べてる大学生の中原って言います!」

「……はぁ。」

「今度埋蔵金についての論文を書きたくって、ぜひお話聞かせて欲しいな〜なんて思って!」

「別にいいですけど。」

「よかった〜!断られたら単位危なくなるところでしたよ〜!」

「そりゃ大変ですね。」

「そうなんですよ〜!もう教授ったら酷くて〜」


よく喋る奴だなと思った。こいつを連れていってもいいけれど友達多そうだし殺すのはちょっと危ないかもしれない。でもどこで知ったんだ?私は別にテレビとかに出て埋蔵金を探してるわけでもなくただ一人でひっそりと埋蔵金を探しているだけの女なのに。何か怪しい。そっと探りを入れてみる。


「で、どこで私のことを?」

「教授から聞きました!」


ああ、私が大学生時代埋蔵金について調べていた時に世話になった教授か。殺しのことは気づかれてないみたいでよかった。


「で、聞きたいんですけれど埋蔵金探しはいつもお一人で?」

「……ええ、まあ。」

「すごい!埋蔵金探しなんて結構広範囲探さないとなのに!あの、良かったらですが私も連れていってくれませんか?体力には自信あるんで!」

「……いいですけど次の場所の目星はまだついてないですけど。」

「やった〜!私目星ついてるので是非一緒に探させてください!えーっと、あ、これだ!この史料によると矢向山のどこかにあるらしいんですよー!」


そこはこの前彼女を殺して埋めたところだ。


「そこはもう探した。」

「えっとじゃあこっちはどうですか?雲取山の麓の!」

「そこは道路から遠いけれど大丈夫?荷物とか重いよ?」

「大丈夫です!私山岳部なので!」


結局押し切られるような形で連れて行くことになってしまった。彼女は報酬は要らないのでと言っていたがいつも通り私の機嫌を損ねることがあれば殺そう。どうせ行方不明者で済まされる。


「いいですよ。今度の土曜日ここに来てください。スコップも用意しますし車は出すので。」

「ありがとうございます〜!よかった〜断られたらどうしようかと思いましたよ。早速みんなに言わなくちゃ!」

「待って。」

「え……?」

「他の人に言ったらどうせ報酬見せろとか言われるよ。」

「大丈夫です!写真だけ撮るので!」


まずい。一緒に登山して行方不明になったら真っ先に私が疑われる。彼女は止める暇もなくそそくさとグループLINEに報告してしまっていて、殺すわけにはいかなくなってしまった。


当日。私が車で待っていると登山用装備を整えた中原が現れた。中原は鞄を後部座席に置いて助手席に乗り込むとべちゃくちゃと世間話をし始めた。……うるさい。私は無口な方なので適当に相槌を打って車を走らせた。そうして登山口に着いた。登山となるとさすがの彼女も口数が減って代わりにはぁはぁと吐息が増えた。そして登山道から外れて山へ分け入っていく。当然埋蔵金なんてものが整備されきった登山道周辺にあるわけもなくコンパスで方向を確かめながら進む。

目的の場所に着くと私はスコップを渡しとにかく掘り進めてとだけ伝える。彼女は元気に掘り始めた。


「よいしょ!よいしょ!っと。なかなか見つかりませんね〜。」

「大体いつも何日かかかるから覚悟しといて。」

「いつもはキャンプとかするんですか?」

「毎日帰ってるよ。いつも家から向かって夕方まで掘って見つからなければまた明日来る。その繰り返し。何日かかるかわからないから。」

「へ〜!それは凄いですね〜!私も頑張らなくちゃ!えいっ、えいっ!」

「一週間探して見つからなければ場所を変えるから。」

「わかりました!どこまででも着いていきますね!」

「好きにして。」

「はーい!」


彼女の明るさが私は苦手だった。こんな作業でどう明るくなれるのか不思議だった。

そうして一日目は結局何も見つからずに終わった。いつものことだ。一日で見つけられるんなら他の人がとっくに見つけてる。帰りの車で彼女が近くの温泉に寄りたいと駄々をこねたので仕方なく寄り道をする。私もついでに入った。


二日目、平日なので一週間空けて三日目と収穫はなく諦めかけた四日目、ついにスコップがコツっと木箱に当たる音がした。見つけたのだ。周囲を掘り進め慎重に取り出す。その時彼女が写真を撮り始めた。


「お〜!ついに見つけたんですね〜!やりましたね!」

「……うん。これ空けてみて。たまに入ってないことあるから。」

「……そうやっていつも殺してたんですか?」

「!?……なんのこと?」

「こんなの一人で見つけられるはずないですもん。誰かと一緒に探しに来てたんですよね。だからスコップも使い古しのが2本あって。新城さんのスコップについてるそれ、血痕ですよね?おそらく半分分けるとか言って相手が箱を覗いた時に襲ったんじゃないですか?」

「……だとしたら?私を警察に突き出す気?」

「いえ。秘密は守りますよ。でも私のことを殺したら間違いなくあなたは捕まります。あなたと二人でここに来ること、友達にも家族にも教授にも話してあるんで。」

「……何が望みなの?」

「これからも埋蔵金探索に連れていってください。あと半分とは言いませんが少しは分けてもらいます。どうですか?一緒に探してくれた人を殺し尽くして人手が足りないあなたには悪くない話だと思いますが。」

「……わかった。」


能天気そうにいつも馬鹿話ばかりしているような彼女に気づかれているとはつゆほども思わなかった。とんだ失態だ。分け前も減ってしまうしいつ彼女の気が変わって通報されるかもわからない。

スコップを持つ手が震えていた。

殺さなきゃという思いでいっぱいになる。でも今日はダメだ。ここまで用意周到な彼女のことだから今後も保険はかけておくだろう。何か方法はないか。いっそ事故を装って助手席の彼女だけ死ぬように車をぶつけるか。そうすればなんとか誤魔化せる……そんな時


「事故を装おうとしても無駄ですよ。あなたの運転はうまいから事故なんて起きるはずがないこともみんなわかってます。それにあなたゴールド免許ですもんね。」

「!?……どこでそれを……?」

「温泉に行った時荷物は一通り調べさせてもらいた。写真もクラウドに上がってるので私の携帯を壊しても無駄ですよ。」


ダメだ。完全に彼女の掌のうえで踊らされてる。

なんで気が付かなかったんだろう。今まで完璧だった私の計画がボロボロと崩れ落ちていく音がした。


「じゃあ埋蔵金の写真撮らせてもらいますね〜!あ、もちろんあなたの写真も撮ってありますんで。」


今更何をしても口は塞げないということなのだろう。退路を塞がれ呆然とする私をよそに彼女は最初の能天気な態度に戻っていた。

帰りの車も生きた心地がしなかった。彼女を送り届けると彼女からLINEが来た。


[今日は楽しかったですね!またよろしくお願いしますね、先輩。]


楽しいわけがない。私は動揺を隠せなくって帰りにスピード違反で切符を切られた。

家に着いても心が休まらない。全部あの中原という女のせいだ。私は彼女のことを全く知らない。もしかしたらブラフという可能性も、と考え久々に教授と連絡を取ったが伝えていたというのは本当らしいとわかって余計に彼女が怖くなった。

次がないことを願うしかない。でもそんな願いも虚しく数日後また彼女から連絡が来た。


[またありそうな場所見つけたんで宜しくお願いしますね、先輩。]


私がなかなか返せないでいると


[あれ無視ですか?この前のこと言っちゃってもいいんですよ?私口軽いんで。あ〜どうしようかな〜?]


ときた。完全に詰んだと思った。

もはや彼女のいうとおりにし続けるしかない。でないと今まで殺した数からして捕まりでもしたら一発で死刑だ。要は彼女に私の全てを握られているのだ。添付された画像を見ると私の免許証だった。ブラフなんかじゃない。本気なのだと思わされた。怖い。何人も殺してきた私が悪いのはわかっているけれど今は彼女が怖くてたまらなかった。


次もその次も彼女は埋蔵金を見つけると半分持っていった。私が殺せないことをわかっているのだ。完全に手玉に取られている。殺し屋でもいればいいのにと何度思ったことか。あいにくそんな伝はない。犯行がうまくいっていた理由こそが私が孤独であることなのだから。毎日彼女からの連絡に怯えながら生活する。出会ってしまったのが間違いだったのだ。あの時断ってさえいれば……。馬鹿な自分を恨んだ。


「ねえ、先輩?私たちっていいパートナーだと思いません?」

「……そうかもね。」

「先輩暗いなぁ。そんなに私のこと怖いですか?」

「……!」


穴を掘る手が止まる。


「大丈夫ですよ。先輩が私に手を出さなきゃいいだけじゃないですか。簡単でしょ?」

「もうやめて……。お願い。」

「あれ、先輩忘れちゃいました?私のお願い。」

「もう十分でしょ……?」

「私はまだ足りないです。貸しはちゃんと返してくれないと貸しのままですよ?」

「わかった、わかったから。」

「これからもずーっとお願いしますね、先輩!」


彼女が休みの休日にはただがむしゃらに穴を掘る日々。しばらく続いた日々に転機が訪れた。彼女は無事大学を卒業して運転免許を取ったのだと聞いた。

いつか殺される、そう思った。

でも私が従順でい続ければ許してくれるかもしれない。そんな望みに賭けるしかなかった。

そしてある時。


「先輩は私がまだ怖いですか?殺人には時効ないですもんね〜。」

「……怖い……です……。」

「先輩可愛いなぁ……。私のものにしたくなっちゃいます。」

「どういうこと?」

「知ってますか?好きな人を殺して永遠に自分だけのものにする話。私好きなんですよね〜。」

「!?なんでもするから殺さないで!」

「じゃあその止まってる手動かしてくださいよ。じゃないと次は先輩の番かもしれないですよ?」

「……次って?」

「私も先輩に習って試してみたんです。そしたら楽しくなっちゃって!人を殺すのってこんなに楽しいんですね〜!あはは!」


狂ってる。彼女は私と違って金のためじゃなくて快楽のために人を殺したんだ。でも殺されても因果応報か。私もたくさんの人を手にかけてきたから周りまわって私の番なのか。それでもどうか神様助けてください……。一心不乱に穴を掘る。こんなに怖い思いは初めてだった。


「ちゃんと見つけられて偉いですね〜!今日もお疲れ様でした、先輩。」


その先輩というのは大学の先輩という意味なのか人殺しの先輩という意味なのかもう分からなかった。

私のせいでこうなったんだったら私が終わらせないと。こんなところで殺されるくらいなら自首す……

そこで意識は途切れた。


---


先輩を殺した時の快感は一生忘れられそうにない。

最後まで従順だった子犬のような先輩。

たくさん殺してきたくせに被害者ヅラしてる先輩。

どうせ今日帰したら自首してましたよね。ね、先輩?

私は後頭部から血を流し続け意識のない先輩に語りかける。


「先輩に出会えて本当に良かったと思ってるんですよ?だってこんなに楽しいことを知れたし、先輩の可愛いところいっぱい見れたし、そんな先輩を私だけのものにできたんだから。大好きですよ、先輩!」


亡骸となった先輩に口付けをする。

瞳孔が開いてもはやなんの反応もない先輩。

私だけの先輩。これで永遠に私だけのものだ。

ずっとこの時を待っていた。

そして携帯を取り出すと先輩の写真をたくさん撮る。服を脱がしてまた撮る。持ってきた衣装を着せてまた撮る。今までの怯えながら穴を掘る先輩を撮った写真もあるしこれで先輩のコレクションが完成した。早く帰って部屋に飾らなきゃ。

死後硬直が始まる前に先輩を持ってきた箱にしまって先輩のための穴を掘る。

そして埋めた後にちゃんと自家製の墓石を置く。完璧だ。

また会いにきますからね。大好きです、先輩。

二人で乗ってきた車に新城の私物を載せて乗って一人で山を後にした。

後には歪な墓石のみが残されていた。

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