表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/121

Episode:98

『死者が出ていないのだから、構わんだろう。あとで相応の償いもする。だがその前に――』

 竜の言葉が途切れて、魔法が発動した。回復系だ。

 最初の竜の傷が、みるみる癒えてく。


 また咆哮が轟いて、若い方の竜が俺らに炎でも吐こうってんだろう、口を開けて――豪快に尻尾でぶん殴られた。

 子犬思わせる悲鳴あげて、若い竜がうなだれる。


『聞き分けの悪いやつだ。今痛い目に遭ったのに、まだ懲りんのか』

 呆れたふうに言ったあと、竜がこっちへ顔を向けた。


『済まぬな。ただこんな出来の悪い子供でも、長く生きるぶん数の少ない我らには貴重だ。分かって欲しい』

 人間にはちょっと分かりづらいこと言って、竜の頭が地面スレスレまで下がる。どうやら俺ら人間流に、謝ってるらしい。


「事情は分かるが、二度とないようにして欲しいものだな」

 答えたのは殿下だ。


「こちらとて、命が二つあるわけではない。覚悟はしてきているが、契約違反は論外だろう。そちらがその気なら、こちらもこの山、人の手を入れるぞ?」

『済まぬ』

 そいえばこの山、ふつうは立ち入り禁止だったの思い出す。


 竜はアヴァンの王家に力を貸して、代わりに棲家を得る。昔そんな取引が昔されたんだろう。単純に王家が自分たちの箔付けで聖域にしたんだと思ってたけど、そうじゃなかったってことだ。

 ホント世の中ってのは、何でも裏がありすぎる。

 それにすかさず取引材料にしちまってる殿下、けっこういい王になるかもしんない。


『ところで、そなたがメルヒオルの血を継ぐものでよいのか?』

「そうだ」

 竜の視線が、殿下に注がれた。


『確かに、髪と瞳の色などそっくりだな。他にもいろいろなところが、メルヒオルに似ている』

 竜が感慨深げに言った。俺らにとっては本に書かれた歴史でも、千年以上生きる竜にとっては懐かしい思い出なんだろう。


『あのころは良かった。我ら一族はたしかに変わり者かもしれないが、人間と上手くやれていた』

 大きな琥珀色の瞳が、どこか遠くを見る。


『人は信用ならんと言う者も多いが、我らはそうは思わない。少なくともメルヒオルは友人と呼ぶにふさわしかったし、お前たちメルヒオルの子らも、約束どおり谷と山とを守ってくれた』

「当たり前だ。信用を失っては王家は成り立たん」

 間髪入れず答える殿下。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ